遥か上空から地上に戻ってきた僕達は捕縛した連中を引き渡して指令室に向かった。未だ京君はあの要塞に残っているはず。
「おかえり二人とも」
「ただいま戻りました。要塞の軌道は?」
「依然太平洋に向かってるよ」
予測軌道パターンと時間を確認すると先に自爆することがわかる。さっき聞いた時は残り十五分と言っていたがここに戻ってくるのに十分はかかってしまった。残りの時間もちゃんと把握しているのだろうか。
「鳴海君の反応がない……?」
「どういうことだよ」
「錠前の反応がないんだ。ここからなら上空でもわかるはずなんだが一切の反応を示さない」
「じゃあもしかして」
「君のように煙幕に使ったか、最悪のパターンだね」
前者であることを信じたい。彼ならどんな状況でも帰ってこれると信じたい。
「今からでも間に合わないのかよ」
「無理だ、速度を増してるから追い付くのに少なくとも七分はかかる」
「新一さんのブースターは!?」
「さっきので役目を終えたみたい。元々急造でリペアリングして無理矢理動かしたから」
「くっそ、このまま見てるだけか!」
再びモニターを見上げるとドアが開かれる音がする。橋本さんが入って忠義を示すように膝をつく。
「報告に参りました。園崎の兵は現在撤退を開始、人間は八割を捕縛。こちらの被害は三割の死傷者、うち一割は重傷です」
「遊撃隊は用意せず防衛体勢へ。医療班はトリアージを行い少しでも他者に治療できるものは動員してください」
「はっ」
指示を出すとすぐさまインカムで連絡を取る。おそらく捕虜も治療を受けているはずだ。今はすぐに戻ってくる可能性を踏まえて尋問などはさせないようにする。タブレットを取り出し現在問題ないメンバーを選出して捜索班を作り出す。念のためだ、彼は問題なく脱出してくるはずだが万が一にも連絡が取れなければこちらから探すしかない。
「新一さん……」
「布石は打つべし。可能性に対して用意をすれば確率は上がる」
「そうっすね、俺も今のうちに休んですぐ出られるように」
快斗君が言葉を言いきる前だった。部屋は揺れないものの爆発音が聞こえてくる。数秒間硬直した僕達はすぐにモニターを確認すると空に浮かんでいたはずの要塞が煙に包まれていた。
「誰か攻撃したのか!?」
「違う、自爆したんだ」
よく見ると煙の中から破片らしきものが落ちていっている。時折大きい部品も落ちていることから崩壊したことは確実だ。
「脱出したのか……?」
分からない、とは言えなかった。それが事実だとしても不安を煽るだけだと理解していたからだ。
落ちていく要塞を見て一つ浮かび上がる。
「プロフェッサー、スカルメモリかロストドライバーの反応は!?」
「分かっているさ。だがそれも反応を示さない」
「なん、で」
「あれだけの兵器を積んでいたんだ。電波妨害出来るものがあっても仕方ないだろう。そのせいで快斗が向こうにいる間軌道予測を伝えられなかったんだから」
そうなれば京君を探す方法はもう自力で探すしかなかった。そのどうしようもない現実に下唇を噛みながらモニターを見ているとやがて要塞は全て海に落ちた。
数時間後、要塞が落ちた場所および周辺一帯の捜査が行われたが京君は見つかることはなかった。
それから一週間して僕と快斗君は書類の始末をしていた。要塞に入り込んだ中でここにいるのは僕と彼しかいないため何があったかをレポートにしていたのだ。
「いつになってもコレ書くのイヤなんすよね」
「楽しくはないけどあったことそのまま書けばよくない?」
「言葉のまとめ方っつーか日記みたいに書いたらダメじゃないっすか」
「まぁそうかもね」
「それがめんどいんすよ」
「多少は日記みたいにしても良いと思うよ」
「ほんとっすか?でも俺が書くとこうなりますよ」
「どれどれ」
内容を読むと「要塞の中は敵だらけで迷路みたいだった。コントロールパネルも複雑だから考えるのがめんどかった」とそのまま書いてあった。
「もっと何かなかったの?」
「ちょーつよい奴がいました」
「じゃあこれ含めてだけどどんな感じだったかってのを少し掘り下げてみたら?」
「掘り下げる?」
「例えば強かった人の特徴をあげてこんなところが強いと感じられた、逆にこれが弱点だと気付いた、みたいな」
「うぇっ、超わかりやすいっす!やってみます!」
先程よりもカタカタと音が早く聞こえるようになった。きっと同じように教えられたと思うのだがそれは言わない約束。弦巻家のデータベースでまとめていたため資料は引っ張り出しやすかった。それを見ている中今回捕縛した捕虜達の尋問内容の記載があった。見る許可は降りているため遠慮なく見させて貰う。一番気になった人のページを見ると出生などの記録があるだけで尋問内容は記載されていなかった。
「ナーニ見てるんだい」
「プロフェッサー……この人、聞き出せてないんですか?」
「この人?ああ、なんでも君と話をしたいの一点張りでね。暫くしたら口を割るだろうと思っていたが思ったより粘ってくれてる」
「なら行きましょうか」
「おや、いいのかい?」
「この人に関しては僕が原因みたいなところですから」
立ち上がって弦巻家の捕虜がいる施設に足を運ぶ。面会室に入るとすでに彼は待っていたように座っていた。
「一週間ぶりですね」
「そうだな」
「話してくれませんか?色々と」
「その前に聞きたいことがある」
手足を拘束されているのにも関わらず放ってくるプレッシャーは不屈にも感じた。
「どうぞ」
「少年、貴様何故俺を殺さなかった」
「何故?」
「完全なる勝利を手放したのは何故だ!」
激情をぶつけられるのは覚悟の上だった。だからこそ冷静に流す。
「勝って殺せば誰かが救われるのですか」
「救われるなどではない!純粋なる勝負を」
「貴方の力はただ人を殺すためにあるのですか?」
「何?」
「僕は、貴方には正しく力を使って欲しいと思ってます。例え己を鍛えるために、強くするために培った力でも今のように使ってしまえばただの暴力です。だけどそれを明日を、誰かが生きるために振るうのであればきっと正しき力へとなるはずです」
「正しき力?」
訝しげな顔をして疑問を返す彼は言葉の真意をわかっていないようだった。
「貴方が僕の言っていることを理解してくれることを切に願いっています」
立ち上がって部屋を出て行こうとするも彼は止めることはなかった。部屋を出るとプロフェッサーに聞き出せたかと聞かれるがあの様子だと知らないだろうと勝手に解釈して何も知らないらしいと伝えた。だが他からある程度園崎についての情報を得ているためこれから色々と情報を整理するらしい。部屋に戻ると快斗君は気持ちよく伸びていた。
「終わったの?」
「今ちょうど終わったところっす」
「それは良かった。USBを届けたら何か食べに行こうか」
「いいっすね、どこ行きます?」
ラーメンなんかどうだろうかと話しながら提出しに行き、弦巻家を出ようとすると遠くから快斗君目掛けて声がかかる。すごいスピードで走って来る正体はここのご令嬢だった。
「かーいとー!」
「おーおーどうしたこころ」
「お仕事は終わったの?」
「たった今な」
「じゃあ遊びに行きましょう!」
「えっ」
「最近一緒に遊べていなかったもの、行きましょう!」
「でも新一さんと」
「僕のことはいいから行って来なよ。また今度行こう」
「あ、ありがとうございます」
こころさんに抱きつかれながら歩いていく快斗君はどことなく歩きずらそうだった。こういう時彼がいればなんて言うか、などと考えてしまうのだがもう一週間も経っているのに完全に思考が抜けなかった。
結局、京君はMIAという処分を受けた。僕ら自身でも探したが一向に見つかることはなかった。実はひょっこり生きていたり、なんてことも考えるがそれにしては長すぎるとその考えを否定する。
「随分と難しい顔をしているわね」
「おやお嬢様、一体どうしてここに?」
「あなたのことを迎えにきたのよ。そろそろお昼ご飯の時間だし」
「それはご足労ありがとうございます。お外で昼食をとりましょうか」
「そうね、ジョイサンにしましょうか」
イクサリオンにまたがってバイクを起動させお嬢様を後ろに乗せる。いつもよりも僕を掴む力は強くまるで逃さないようにしているように思えた。
「そんなことをしても逃げませんよ」
「落ちないように念の為よ」
「ではしっかり捕まってください」
アクセルを徐々に効かせてバイクは走り出す。運転中に交わす言葉はなかった。といってもいつも通りなので気には止めないが。ジョイサンにつくと席は空いていたので座ってメニューを開く。
「お先にお選びください」
「いつものにするわ」
「追加はいかがなさいます?」
「なし」
「かしこまりました」
すぐに店員を呼んで注文する。すでに二月に突入している空は曇りを見せながら肌寒さを感じさせた。
「浮かない顔ね」
「そう見えますか」
「言わなくてもわかるわ」
流石のお嬢様も状況を察してくれているらしい。京君がいなくなって一週間が経ち事情を知っている者は極僅かしない。お嬢様もその一人だ。
「あなたがそこまで落ち込むとは思っていなかったけど」
「そうですね……三ヶ月前、魔姫ちゃんがいなくなった時はきっと大丈夫だと言い聞かせることができました。名護家では遭難時の訓練も緊急脱出の訓練も受けてますから。でも彼は一般の出なのでそれが出来るとは思えないのです」
「それでずっと考えているのね」
「申し訳ありません」
「謝ることはないわ。それにあなただって出来ることは尽くしたのでしょう?なら信じなさい」
「そう、ですね……」
運ばれてきたコーヒーに砂糖とミルクをドバドバ入れるお嬢様は僕よりも落ち着いている。まさかそういうところで見習いたいと思う日が来ることがあろうとは。僕も同じようにコーヒーを飲もうとすると声をかけられる。
「あれ、友希那さんに名護さんじゃないですか」
「大和さん、こんなところで珍しいわね」
「今日のお昼はここにしようかなって思って」
「なるほど」
「あ、そうだ名護さん。京さん知りませんか?」
「京君がどうかしたの?」
大和さんは少し悲しそうな顔をしながら答える。
「実はこの間、次のライブは絶対見にいくって言ってくれたんです。いつも探偵の仕事が被るから来れないのに今回だけは行くって。けど結局今回も来てくれてなくて。連絡も繋がらないしどうしたんだろうって」
「そっか……」
「何か知らないっすか?もし入院とかなら」
「そんなことないわ」
僕よりも先にお嬢様が答えた。でもそれ以上は出てこないようでどうしようという視線を僕に向けてくる。ここは無理に心配させないようにしたかったのだろうという意思を汲み取って言葉を繋げる。
「実はつい先日から京君は警察の人を手伝わなくてはいけないらしくて遠くの街に行っているみたいなんです。なんでも急を要するとかで」
「そんな、だったら一言言ってくれてもよかったのに」
「京君なりに気を遣ったんじゃない?あれだけ言ったのになって思ったり」
「そうっすかね…いや、そうですよね。京さんも大変ですもんね」
「…あなたの嘘は優しいのね」
納得したのかお礼だけ言って違うテーブルへと行ってしまった。お嬢様はお手洗いに行くと言って席を離れていく。
全く、あの人は──と思いかけた時だった。スマホから着信音が聞こえ画面を表示するとチャットアプリに京君からメッセージが届いていた。すぐに開くと一つの音声ファイルが入っていた。それを耳に当てて再生する。
『よぉ、新一。これを聞いてるってことは俺は生還出来なかったってことだな。このメッセージは自動で一週間後に送るように設定しておいた。俺が生還すれば消去出来る、抜かりなしってことだな。だがそれも叶わなかったわけだ。だが心配するな、生憎悪運は強い方だと自負してる。連絡が取れなくてもどこかでのそのそ生きているかもしれん。あと麻弥に言っておいてくれ。ライブに行けなくてごめんなって。それとお前らは自分達のことを責めるなよ?残るって決めたのは俺だからな。男のケジメだ、余計な詮索は無しだぜ。ま、俺が戻るまでの間二人でどうにか頑張ってくれ。それじゃアデュー』
プツッと音が切れるとそこでボイスメッセージは終わっていた。
──全て計算されていたのかもしれない。だからこんなメッセージを残してまで彼はあの要塞に残ったんだ。彼の思いを否定することはしない。でも一事だけ言わざるを得なかった。
「なんでこんなもの残したんだよ。あの馬鹿探偵……」