青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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しれっとですが新章に入ってます。


第二光 束の間の光

 試験をクリアしたその日の放課後も同じように買い物していた。もっとも買いに来たのは調味料だが切れたと気付けば買いに来るのは必然だろう。

 

「シンさん!ここであったが百年目です!」

「恨みを買った人に言うんだよそれ」

「そうなのですか!?」

 

 大体それ斬りかかったり鍔競り合ってるときに言った方が効率的だよね、と言いかけたが近くに怖いお姉さんがいたので黙っておいた。

 

「もう、イヴちゃんたら……こんにちは名護君」

「こんにちは白鷺さん。今日はオフの日ですか?」

「はい。そちらは?」

「お買い物に来ただけです」

 

 そのまま通りかかったアイドル達と商店街で買い物をしているとメモを持った快斗君に出会う。彼はおつかいを頼まれてきたらしい。そのまま皆で他愛のない話をしているとこの間のストリートピアノを見つける。

 

「まだあったんだね」

「例のピアノっすか?」

「そうそう、この間新一が弾いたら人だかりが出来ちゃって」

「シンさんピアノも弾けるんですか?」

「ちょっとだけね」

 

 興味を持ったのかすごくキラキラした眼差しで僕の方を見つめる北欧のブシドーアイドル。本当に純粋でわかりやすい子だなこの子。

 

「新一弾かないの?」

「もういいよ、あの時はちょっと練習したかっただけだから」

「ワタシもシンさんのピアノ聴きたいです!」

「イヴちゃんがこう言っているわけだけどあなたはそれに応えないのかしら」

「先輩その言い方は怖いっすよ」

「何か言ったかしら」

「イヴェ、マリモ!」」

 

 またの機会ということで今日は弾かずに帰ることになった。その後も快斗君は僕の背中に隠れて白鷺さんから身を守っていた。京君もそうだったがメモリ組はどうして白鷺さんに恐怖を抱いているのだろうか。言ってしまっては悪いが怯えた犬のように震えている快斗君が可哀想で仕方ない。

 

「今日の夜ご飯は何かしら」

「ハンバーグか豆乳鍋の予定です」

「健康的ね」

「暖かくなってくるからこそ適応できるようにするのです。それにまだ夜は寒いですからね」

「寒ければあなたの部屋に行けばいいじゃない」

 

 冷たい目線が突き刺さる。

 

「友希那ちゃんは普段からそうしているのかしら」

「そのようなことは」

「たまに行っているわ」

 

 場が凍りつく気配がした。苦笑いをするものが一名、理解していない者が二名、顔を赤らめる者が一名、微笑みの鉄仮面が一名、主人の発言に顔が青ざめていく感覚がしている者が一名。

 

「高校生という自覚はあるのかしら?」

「あるわ」

「男女七歳にして」

「白鷺様、お嬢様はそのように難しい言葉は分かりませぬゆえもう少し(言葉を)砕き願いたい」

「それは言葉を噛み砕くのかしら。それともあなたの頭蓋骨を砕くのかしら」

 

 恐れ入った。言葉が足りなかったと後悔するよりも先に死の恐怖を感じてしまった。何故かわからないがこの人からは逃げることは出来ない気がする。これが二人が感じていた恐怖か。

 

「何をそんなに驚いているの?」

「あなたね、夜遅くに男の部屋に入って何をしているの?」

「ま、待ってよ、友希那のことだから変なことはしていないはず」

 

 それもそうだ。この人はそういうことに興味はないはずだ。それに部屋に入ってくるのも僕が寝たと思ったぐらいの時間なのだろう。実際部屋に侵入してきた時は目が覚めるがお嬢様だと確認できると寝たふりをして過ごしている。起きて話を聞こうとすると無理に寝ろと言ってくる。何もしないでおくと勝手に布団の中に入ってきていつの間にか寝ているくらいだ。手を出していないから無傷も同然。正直に話してくれお嬢様。

 

「新一と寝ているわ」

「ピキッ」

 

 違うそうじゃないもっと言葉を足してくれそれは正直すぎる。

 微笑みの鉄仮面から感じる恐怖が度合いを増していく。これ僕が弁明出来るレベルなのかが怪しいレベルだ。快斗君はいつの間にか消えているし流石は暗殺者と言ったところかと感心している場合ではない。

 

「友希那もしかして新一と」

「何」

「新一と夜何かしてるの?」

 

 リサなりに言葉を出そうとフォローしたのだろうけど直球すぎる。こういうのにリサは慣れていない方だからフォローの仕方を知らないのか。

 

「何もしてないわよ」

「じゃあ何で名護君の布団に潜り込むのかしら」

「それは、私の部屋の暖房が壊れているからよ」

「……はぁ?」

 

 暖房が壊れているのは事実だ。一緒に寝るのも夜が特に寒い日でお嬢様は何も言わずに寝るものだから問題ないのかと思っていたが気温が低い日にこっそり布団に忍び込んでくる。そもそも最初からそう言えばよかったのではないかと思ったが僕が言ってもどうしようもなかった、いやむしろ状況は悪化しただろう。だからこのタイミングである意味正解なのかもしれない。

 

「だったら最初からそう言いなさいよ……」

「お騒がせしました」

「本当よ…言っておくけど名護君、間違っても変な気は起こしちゃダメよ」

「それは重々承知しております。まず持って手を出しでもしたら首が切り落とされるでしょう」

 

 その前に僕が自決するけど。

 

「それくらいわかっていたのね…疑ってしまってごめんなさい」

「こちらこそ言葉選びを誤ってしまいました」

 

 何とか誤解を解いた白鷺さんとイヴちゃんと別れて帰路につこうとすると電柱の影に人影が見える。綺麗な黒髪のロング。そして隠れているつもりなのだろうけど隠れきれていない。

 

「燐子何してるの〜?」

「いっ、今井さん……」

「バレバレだよ」

「何してたの?」

「たまたま近くを通ったら皆がいたので……」

 

 どうやら白鷺さん達の件については見られていたらしい。さっきの話は本当かと疑われたが事実だと認めると落ち着いてくれた。この後の予定を聞くとただ帰るだけとのことで途中まで一緒に行くことになった。Roseliaの練習の話などをしていると少しの間だけでも平和が戻ってきた気がした。

 

「どうしたの新一」

「何でもないよ」

「嘘だ〜ゼッタイ何か考えてたでしょ」

「どうかな」

「今晩のご飯についてでしょ」

「ご名答、と言いたいところ」

「違うの…?」

「それすらどうかな、なんちゃって」

 

 たまにはこんな風にからかってみるのも大丈夫だろう。僕もこの少しの休暇に羽を伸ばそうとした時だった。

 

「お兄様」

 

 遠くから僕を呼ぶような声が聞こえてきた。いやまさかと辺りを見ると僕達以外は誰もいなかった。

 

「リサ、なんか言った?」

「いいや、何も。てか、そのパターンでアタシに聞くのなんか固定されてない?」

「そんなことはないっ……よ?」

 

 突然走ってくる音に気づけず背中から誰かの体重が乗ってくる。周りにいる三人じゃない。それにわざと音を消していたのか?それくらい気づくことはなかった。今日の買い物はプラスチックボトルのものばかりで助かったと思いながら背中にぶつかってきた人に手を伸ばす。

 

「アイタタタ……っと、大丈夫?」

「お兄様、会いたかったです!」

 

 顔を見ると見慣れない顔があった。でもどこかに懐かしさを感じ、お兄様と言ってきた少女の顔はかつて僕を庇って死んだ()にそっくりだった。

 

「…………な、んで……」

「お兄様?」

「何で、希璃乃が…目の前に………だって、あの時…………」

 

 死んだはずだった。確かに僕を庇って心臓を貫かれたはずだ。燃え上がる炎の中何度も呼びかけても目を覚さなかった希璃乃を抱き寄せた記憶がある。

 

「…仕方ないですよね、あの時死んでもおかしくなかったんですから。だけど希璃乃は生きています!!」

 

 病院で聞いた時も死んだと言われ、遺体まで確認したはずだ。ではこれは映像か何かではないだろうか。顔に触れてみると人と変わらない肌の感触がそこにあった。それどころか僕の手を握り脈を確認させてくる。あたたかくトクントクンと指先から伝わってくる。

 

「どっ、どうしたんですかお兄様!?」

 

 溢れ出してきた涙に気付いたのは声をかけられてからだった。

 ──この希璃乃は生きている。僕の目の前にいる彼女は間違いなく生きていた。それを知れば涙が出てくるのも不思議じゃない。

 

「だって、生きててくれて……嬉しくて……」

「あの………」

「あ、ごめんなさい。紹介が遅れました。こちら、僕の妹の名護希璃乃(きりの)です」

 

 戸惑っている三人に妹を紹介する。かつて亡くなったはずの妹を紹介するとなると少しむず痒かった。

 

「初めまして皆様、兄がお世話になってます。名護希璃乃です。今は…一応16歳です」

「一応じゃないでしょ」

「そうですね」

「確かに驚いたけど………希璃乃ちゃんだっけ、新一にもかわいい妹がいるんだね〜。新一と同じで優秀そうだね〜」

「お兄様は見た目も中身も優秀なのは当たり前です。むしろ気づかない方がどうかと」

 

 褒められたことについて誇らしげにしているが僕のことを自慢している場合ではない。

 

「希璃乃、それは言い過ぎだよ。それに僕はそんなに優秀じゃない」       

「いえ、お兄様は完璧です。…ですがそれを言うって事は変わっていないんですね」

「そう、なのかな?」

「ええ、全く」

 

 やれやれと呆れた顔をしているが正直僕は理解できていない。あの頃よりかは幾許か変わったと思ったのだけど数年ぶりに再開した妹からすると変わっていない兄らしい。そんな中りんりん信じられないものを見る目で希璃乃を見ている。

 

「本当に………希璃乃ちゃん……?」

「もしかして燐子お姉さんですか?」

「うん……覚えてくれてたんだね」

「お久しぶりです。お元気そうで」

「希璃乃ちゃんも………」

 

 この二人も十数年ぶりに会うことになる。小さい頃は三人でよく遊んだものだ。わんぱくだった希璃乃を二人で見ながら公園によく行っていた、そんな記憶が蘇る。

 

「ところでお兄様」

「?どうかしたの?」

「どなたがお兄様と付き合ってる方なんですか?」

「ッ!?」

「何言ってるのさ希璃乃、失礼でしょう。謝って」

 

 突然何を言い出すのかと思えば想定外のことだった。これは良くない。僕に許されたことそうではないこと以前に三人に失礼だ。

 

「申し訳ございませんでした。ですが、お兄様がかわいそうです。私でしたら絶対の話にして置かないのですが…」

「ハハ、希璃乃は世辞が上手だね」

「ふふ」

「そういえば今はどこに住んでるの?」

「それがですね………」

 

 話を聞くと今は一人で暮らしているらしい。数日前まで遠い親戚の家に預けられていたがここに引っ越してきて急に入院することになって今はその家に一人で暮らしているらしい。

 

「じゃあ今は保護者がいないってこと?」

「はい、ですからお兄様の家に止めさせていただけませんか?」

「お嬢様、どうでしょうか」

「構わないわ」

 

 今まで黙っていたお嬢様は少し考え込む様子を見せながら許可を出してくれる。これなら今晩くらいは希璃乃も凌ぐことをできるだろう。もっともこの子のことだから一人暮らしくらい問題ないかもしれないが。湊家に連れていくと丁寧にお辞儀して家に入る。そしてお嬢様に対して挨拶をした。

 

「ではこれからよろしくお願いします、湊さん」

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