青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第三光 久々にあった家族の様子はどこかおかしいようで

 新一が食事の準備をするため私と新一の妹──希璃乃がリビングで二人きりになった。この子もあの人と同じように笑顔を崩さないが張り付けたようには感じなかった。でももしかしたら新一と初めてあったころは同じように考えてたかもしれないと思うと少し疑えてくる。

 

「そんなに私の顔を見てどうかしましたか?」

「なんでもないわ」

 

 こちらが観察していることに対する洞察力もある。流石新一の妹と言ったところかしら。

 

「あなた、本当に新一の妹なの?」

「ええその通りですが。何か問題でもありますか?」

「そんなことはないわ、むしろ良かったのよ」

「よかった?」

「あれを見なさい。新一がいつも以上に嬉しそうにしている。きっと貴女にまた会えたからなのよ」

 

 キッチンの新一を見るといつも以上の笑顔が見られる。あそこに立つだけでは考えられない、何かいいことがあったときに見られる顔だ。それでもいつもより生き生きしてるように見える。

 

「……そうですか」

「どうかしたの?」

「聞きたいのですが湊さんは家事とか出来るんですか?」

「ッ!?」

 

 そっけない返事から返ってきたのは予想外の質問だった。

 

「いえ、何故お兄様に家事をさせているのだろうかと思いまして。そういえば執事でしたっけ。ですが主人が出来ないなどということはありませんよね?」

「………」

「出来ないんですか?」

「……出来ないわ」

 

 この妹、急に敵意を示してきた。最近は少しずつ出来るようになってきたけどまだ一人で出来るわけじゃない。

 

「……お兄様、私に手伝い…いえ、私にやらせてください」

「え、でも希璃乃料理とかって」

「お兄様を驚かせるために鍛えてきたんです。しばらくお待ちください」

 

 疑問符を頭に浮かべながら希璃乃と交代した新一はソファに座った。

 

「新一、あなたの妹って攻撃型なの?」

「なんのことですか?妹はおとなしい性格のはずですけど………確かにあの頃の希璃乃とは大違いですね」

 

 性格が変わっている、何年もあっていなければ変わるのは当然のことなのだろうか?

 新一が洗濯物を畳んでいるのを見て手伝っていると彼の分はすぐに終わっていた。一つ一つ畳むのに時間がかかっている私をフォローしてくれる。

 

「時間よりも丁寧さが大事たと思いますよ。無理矢理早くするより時間をかけて綺麗に畳まれた方が気持ちもよいかと」

「そうかしら」

「はい。こういった早さなんて後からついてくるものですよ」

 

 畳まれた服を持っていく新一を隠すように扉は閉じられた。キッチンの希璃乃を見ると順調に料理を作っている様子だった。彼の妹だ、きっとそつなくこなしてしまうのだろう。

 

「湊さんは兄が何でもすぐにこなせるとお思いですか?」

「…元々の才能と実験によって後付けされた才能のせいだとは思っているわ」

「そうですか。ですが兄は出来ないことは本当に苦手でしたよ」

「どういう意味?」

「ここまで教えたんです。それくらい主人ならわかるように頑張ってください」

「ちょっと、それじゃあわからないわ」

「何の話をしているんですか?」

「お兄様!」

 

 新一が戻ってきたせいか希璃乃は満面の笑みを浮かべて彼の元へ駆け寄っていく。変わり身が早すぎる。さっきまで私を見ていた冷たい目がまるで嘘のようだ。

 

「出来上がりましたのであとはテーブルに運ぶだけです」

「手際が良かったんだね。予想より少し早いよ」

「それほどでもありません」

「それじゃあテーブルに運ぼうか」

 

 キッチンから持ってきたのは普段は二人で使っている土鍋だ。今日は三人だからか量は増えている。蓋を開ければ白い湯気と豆乳鍋が姿を見せる。子の妹、まさか買ってきたものから予測して作り上げたというの!?

 

「よく豆乳鍋だってわかったね」

「材料を見ればすぐにわかります。どうしたんですか湊さん」

「い、いえ、あなた、すごいのね」

「お褒めに預かり光栄です」

 

 根拠はないが絶対嘘だという直感が働いていた。席に着くと全員分が装われていくが何か入っているのではないかというのを疑ってしまう。だが装われたお椀を見るとそんなものが入っていないかのようにちゃんと出来ているのがわかる。

 

「それでは」

「「「いただきます」」」

 

 そうよ、見た目は良くても味がきちんとしていなければ話にならないわ。そう勢いをつけて具を口に運ぶと美味しさが口の中に広がった。私じゃ絶対ここまで作れない。新一に及ばずとも普通の人並み以上の料理の腕を持っているように思える。

 

「美味しいよ希璃乃」

「ありがとうございます」

「まさかこれほど美味しいとは思わなかった。料理のプロにでもなるの?」

「それも悪くありませんが流石に褒めすぎですよお兄様」

 

 照れるように顔を隠したかと思ったがこちらに顔を向けてドヤ顔をしてくる。私も誉めようとしたのにその態度をされると腹が立ってくる。

 この妹、可愛くない!

 

「どうですお嬢様、希璃乃の料理は」

「……まぁまぁね」

「お気に召しませんでしたか?」

「ええ(あなたの態度が)」

「ならば認めてもらえるよう精進します」

 

 言葉遣いは新一と同じようなものを感じられる。それから会話を重ねながら食事をしていたがやはり同じ環境で育った兄妹なのだと伝わってくる。どれだけ長い間離れていようとこの人たちは兄妹である。会話の特徴や言葉遣い、驚いた時の反応など似ているところは多々あった。

 

「そういえば学校はどうしてるの?」

「……行ってませんね」

「どうして?」

「今の私は、いわば名無し(ネームレス)です」

 

 ネームレス?どういうことだろうか。聞きなれない言葉に新一が耳打ちして教えてくれる。どうやら戸籍がない人のことを指すらしく死んだという扱いを受けたのに実は生きていたケースや類いまれに出生届が出されていないと起きてしまうケースらしい。希璃乃は数年前に亡くなったことから今は戸籍がない人ということになる。

 

「戸籍がない以上学校に行くことはできません。ですから普段は家事を手伝ってました」

「そうだったのね、ごめんなさい」

「謝ることではありません。それに生きていたおかげでこうしてまた兄に会うことができました」

 

 笑ってみせるその顔はどこか悲しげにも思えた。

 

「今日は泊められるけど明日以降はどうするの?」

「一度家に帰ります。その後病院に行って様子を見てこようかと」

「そっか。良くなってるといいね」

 

 

 その後も食事を続けたが別段どこかおかしい様子はなかった。二人は仲の良い兄妹に思えた。食事を終え洗い物も済ませた新一は希璃乃に自分の部屋を渡してリビングで寝ることを提案した。

 

「希璃乃はベットの方がよく寝れるでしょ」

「よく覚えてましたね」

「まぁね。寝巻きは大きいかもしれないけど僕のでいい?」

「私のを貸すわ」

「お気になさらなくて大丈夫です。私はこのままでも」

「そうはいかないでしょ。遠慮しなくていいわ」

 

 部屋に予備のパジャマを取りに行くと入ってすぐに立ち止まる。

 彼には、本当はあんな生活があったのだろうとふと考えてしまった。疎外感、というわけではないが少し寂しく思えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと二人になれましたね」

 

 お嬢様がリビングからいなくなると突然変なことを言い出した。敵意は感じない、けれどどこか様子がおかしい。

 

「そうだね。内緒の話かな?」

「お話というわけではありませんわ」

「それじゃあ何かな」

 

 警戒しながらも話を聞くと力が抜けたように僕に体を預けてきた。胸に顔を埋めるように体を抱き寄せられる。

 

「本当に、お兄様なんですよね」

「……うん、僕は希璃乃のお兄ちゃんだよ」

「良かったです。本当に、会えて、生きてて良かった」

 

 力が強くなっているのを感じて泣くのを我慢しているのを察した。きっと希璃乃は泣くまいと一生懸命頑張っていたのだろう。頭を撫でると啜り泣くような声が聞こえる。

 

「あの日から、お兄様がいなくなって、私はずっと一人だと思ってました」

「……うん」

「引き取って下さった方にはもちろん感謝しています。それでもずっと、一人だと思い込んでいました。きっと二度と会うこともないだろうと」

 

 それは僕も同じだった。目の前で全てを失って取り戻すことなど出来ないと感じたあの日から僕は復讐を誓った。そして戦いの日々を過ごしてきた。

 

「ようやく、出会う事が出来ました」

「…長かったかい?」

「それはもう、とても長かったです。ですがやっと、報われた気がします」

「そっか」

 

 安心して身を預けてくる希璃乃の頭を撫でながら宥める。夢にまで見た時間、永遠に訪れることのないはずの時間だった。全てが奪われる前も後も、きっとこんな風に家族と触れ合う時間などあるはずがないと諦めていた。きっとコラが夢だとしても今くらいは許してくれるだろう。

 しばらくすると希璃乃は離れて頭を軽く下げる。もう満足したらしい。

 

「ありがとうございますお兄様」

「いいよ、久しぶりだったんだから」

「……話は変わるのですが、本当にお兄様はあの人に仕えているのですか?」

 

 髪の毛をくるくるといじりながら質問してくる。今更だが念のための確認だろうか。その通りだと答えると不服そうな顔をする。

 

「どうかしたの?」

「いえ、あの人、何もわかっていないんだなと」

「何が?」

「あの人はお兄様の偉大さをわかっていません!お兄様の実力を考えればそもそもこんな仕事などつくはずもないのに」

「それについては説明しただろう?ここの家の人に救われたから僕は今この家の執事になったんだって」

「それはわかっています。ですが家事を全てやらせるなど」

「そういう仕事なのだから仕方ないだろう。執事としてもだが家政婦の仕事も兼任してんだから」

「ですがですが、お兄様に全て任せっきりというのはどうなんです!?納得できません!」

 

 希璃乃は多少僕の事を過大評価しているようだ。昔からそうだが僕が何かをこなすと必ずと言っていいほどすごいすごいと褒めてくれたものだ。

 

「大体これくらいのことも出来ないなんてお兄様があの人に尽くす価値なんて」

「希璃乃」

 

 たった一声名前を呼ぶと口を閉じてこちらを見る。どうやら自覚はあるみたいだ。

 

「言い過ぎだよ。それに僕が臨んでやっていることだから希璃乃が気に止むことじゃない」

「で、でも」

「でもじゃありません。それに何もわかっていないわけじゃないと思うよ。僕がやりたいことはやらせてくれるし最近は手伝ってくれるんだ。申し訳ない気持ちもあるけどね」

「本当でしょうか?」

「少なくとも僕はそう信じている。この数日間お嬢様のことを見ていればきっとわかってもらえると思う」

「お兄様がそう言うなら……」

 

 渋々といった様子を見せながら納得したらしい。しかしそう言う風に見られてしまうこともあるのだと改めて理解した。別段お嬢様は危害を加えてくるわけじゃない。夕方のように言葉足らずな発言をすることは多々みられるがそれ以外を見ればきっとわかってくれるだろう。

 扉が開く音がすると着替えを持ってきたお嬢様が入ってきた。

 

「着替えを持ってきたわ、脱衣所で着替えてきなさい」

「ありがとうございます」

 

 希璃乃は受け取るとすぐにリビングを出ていった。お嬢様がソファに座るのを見てすぐに温かい飲み物を用意した。

 

「あなたは本当に気が利くわね」

「当然のことをしたまでです。それでお嬢様、お部屋のエアコンですが近日中に業者に依頼しましょうか」

「どうして?」

「今日のような発言をなくすためです」

「そう、直しても変わらないと思うわよ」

「何故そうお考えになるのですか?」

「エアコンを使わなければあなたの部屋に行けるじゃない」

 

 なるほど確かにと考えたがすぐにその考えを否定した。それはあっていいことじゃない。ただでさえ白鷺さんに関係を疑われたのだ。呪いのこともあってか好きでいろと言われそのように意識しているがそれ以上のことを起こしてはならない。もしそのようなことがあれば僕は旦那様に首を差し出さなければならないだろう。

 

「お嬢様は僕をどうしたいのですか?」

「それはもちろん主従以上の関係にするつもりよ」

「その前にお嬢様が僕を殺しそうですよ?」

「そんなことしないわよ」

 

 だめだきっとこの人自覚ないんだこれ。

 

「別にお父さんなんて関係ないじゃない」

「そういう話……ではあるんですけどね?もう少し節度を考えてほしいというか」

「別にいいじゃない。それと、妹を自分の部屋に寝かせてあなただけここで寝るの?」

「そうですね。寝るのなら一人の方がいいと思いますし僕自身はどこでも寝れますので」

「なら私の部屋で寝なさい」

「人の話聞いてました?」

「ちょっと待ってください!」

 

 部屋の外からか聞きつけたのか希璃乃が勢いよく扉を開けて入ってくる。服装を見ると普段のお嬢様の寝巻きと同じ姿をしていたことからちゃんと着替えてきたことがわかる。

 

「だったらお兄様は私と一緒に寝ます!」

「そうじゃないじゃん」

「いつも私と寝ているから問題ないわ」

「もしかしてお兄様の体が目的なのですか!?なんて卑猥な」

「ああもう!だから言葉足らずなんですって!」

 

 お嬢様と希璃乃がしばらく二人で言い合うと何故か勢いをつけて握手をして場は収まった。しかしなぜか三人揃ってリビングで川の字で寝る羽目になった。この状況に理解が追いつかなかったが睡眠は取ることができたのでとりあえずよしとしよう。

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