妹をバイクに乗せて町の中を駆ける。こんな日が来るとは思いもしなかった。それもこんな形で成るとは誰が想像できただろうか。
背中からしっかりと捕まる希璃乃の手は震えていた。無理もない、一人だった希璃乃を支えてきた唯一の心の支えが亡くなったのだ。
「大丈夫だよ」
「……?」
「今度こそ、守ってみせる」
これくらいの声しかかけられないと思いながら自分自身に刃をたてるように決意した。
とりあえず一度家に戻ろうと走らせていると黒い影が現れる。まだ昼間だというのにそこだけが異常に暗く靄がかかっているように見えた。ファンガイアやドーパントなら錠前が反応するはずだがアラームが鳴らないどころか標的反応すらしなかった。ついに鳴ったかと思うと快斗君からの着信だった。何も動かない物体を警戒ながら応答する。
「どうしたの?」
『錠前センサーに示さない敵が出たんすよ』
「へぇ…」
『本部のセンサーを使っててわかったんすけど錠前も故障じゃないみたいで』
「それって僕達の場所も示してるの?」
『そうっすけど……って新一さんの前にいる!?』
「反応はどっち?」
『ドーパントっす!』
大方予想はしてたがやはりドーパントだった。だとしても様子がおかしい、今の僕達は格好の獲物だというのに攻撃してこないどころか気配すらない。戦闘の意思がないのかそれとも観察されているということだろうか?
『俺もすぐに向かいますんで気をつけてください!』
「了解。希璃乃、少し離れてて」
「っ」
「はっ、はい!」
名前を出した瞬間、ほんの一瞬だったが動揺した様子が見られた。相手の組織を考えたら名前を出すべきではなかっただろう。
イクサナックルを装填して変身する。未知数の敵だと構えてセーブモードを選ぶ。徒手空拳の構えを取ると何を考えたのかドーパントは煙幕を投げつけた。煙を薙いでもそこに姿はなく辺りを探しても見つかることはなかった。急いで希璃乃の元に行くと怪我などはしておらず無事であることがわかる。
「大丈夫だった?」
「私はなんともありません」
「良かった」
錠前を起動しても反応は示さない。今回のは思っているよりも厄介な相手かもしれない。向かっている快斗君に連絡を取ると情報共有をすることになった。
それまでに希璃乃の件をどうにかしなければとある人に連絡を取った。その人はすぐに会えることになり羽沢珈琲店にて集合になった。そのまま次の人に電話して条件を伝えて許可を取る。どちらも終えた後約束の場所へとバイクを走らせる。
「お兄様、聞いてもよろしいでしょうか?」
「なにかな」
「先程から出てくる怪物はなんなのですか?人を襲ったりするので危険なのはわかるのですが」
「あれはファンガイアとドーパント。見分けの仕方はステンドグラスみたいな模様が入っているかどうか。ドーパントの方は人間が変身しているんだ」
「あれが人間ですか!?」
「そう、だけど倒せば中の人は助けられるからどちらも倒すしかない。そしてその役割を担っているのが僕達仮面ライダーと言われる者」
「仮面、ライダー……どうしてお兄様はそれになられたのですか」
「話せば長いよ」
それでも聞きたいというので運転の傍ら今まであったことを話した。どうして名護家にいないのか、どうして執事をやっているのか、その契約とは別に仮面ライダーをやっていること全て話した。話していくほどに僕に捕まる希璃乃の手は強くなる。
「そういうわけで今はこうして執事をやりながら妹の保護をしているってわけ」
「大体はわかりました……お兄様はどこへ行っても戦いから逃げられない運命なのですね……」
その一言を聞いて納得する自分がいた。言っていることは確かだ。名護家にいた時も、執事になってからも結局僕の居場所は戦場になっている。それでも皆の居場所を守れるならそれでいいとも思えるが。
そう考え込んでいると約束の場所に辿り着く。希璃乃と降りて後ろに隠れるように着いてくるよう指示を出して店の中に入ると既に約束の人物は席について待っていてくれた隣にはあの人の妻も連れている。
「お待たせしました一条さん。すみません急に呼び出したりして」
「構いませんが妻も連れて来て欲しいとはどういうことでしょうか」
「お願いしたいことについてソニア様のご協力も必要でして」
「私の、ですか?」
「はい」
「それほどまでとは一体何があったのですか……いえ、その前に後ろに隠している方を見せてもらえませんか?」
「はい。出ておいで」
背中から希璃乃を出すと一条さんの表情が変わる。驚きを隠せないようにしながらも首を横に振るように動かしている。一方でソニア様は誰だか分からないといった様子を見せていたが動揺を隠せない旦那の姿を見てすぐに正気に戻そうとしていた。
「お久しぶりです、一条さん」
「新一様、この方は」
「はい、僕の妹、希璃乃です」
「希璃乃様が生きていらっしゃった……?夢ではないのですよね?」
「紛れもなく現実です。希璃乃は生きていました!」
一条さんはふらつきながらも妹に近寄り手を握ると確かに生きていることを確認したのか涙を流しながら膝から崩れ落ちた。良かった、良かったと溢しながら手を握り続けていた。その様子に希璃乃は動揺していた。ここまで喜んでくれるとは思いもしなかったのだろう。実際僕も感上げていなかったところだ。だがこの人は他人の家族だというのにここまで喜んでくれる。そのことに対して感謝するしかなかった。
「すみません、取り乱してしまいました」
「仕方ありませんよ。しかし一条さんがあそこまで泣いてくださるとは」
「そ、その件は後にしてください。それで本題というのは」
「僕が学校に行っている間、希璃乃を預かって欲しいのです」
平日はお嬢様が学校に行かれるとなると執事として着いていくことは必然となる。その間希璃乃を家に一人にすることになる。留守番をさせるのには心配のない年齢だがファンガイアの件はともかくドーパントのことが気になる。もしかしたら僕がいない間に奇襲をかけられることになるかもしれない。勿論名護家に預けたいのは山々だがそこで何をされるのかも分からない故に一番と言っていいほど信頼出来る人に預けることにした。
「なるほど、そういうことでしたら喜んで引き受けましょう。良い、かな?」
「よいも何もあなたの大切な方の願いですもの。私も喜んで引き受けますわ」
「ソニア様もありがとうございます。一条さんに関しては仕事の方は気になさらなくて大丈夫ですよ。先ほど現当主に連絡したところ休みを取らなさすぎて困っていたので休みを与えたいと仰っていたので」
「そうでしたっけ……?」
「出勤の扱いにはするが来るなとのことです。ですので僕の依頼をお願いします」
「そのような命令が出ているのであればそうしましょう」
一条さんは一瞬目を逸らしたが仕事の内容が決まるとすぐに切り替えた。一方希璃乃の様子を見ると少し戸惑っているようだった。
「どうしたの希璃乃?」
「いえ、その、お兄様がまた離れてしまうのかと」
「大丈夫、平日のお昼の間だけだから。休日は一緒にいられるようお嬢様に掛け合ってみる」
「はい!それと、一条さんは結婚なされてたんですね」
「ええ、つい最近のことですけど」
一条さんは聞かれるがままに今までの経緯や結婚生活について話していたがその隣でソニア様がソワソワしていた。気恥ずかしいのだろうか、それでも一条さんは話すのを止めることはなかったがソニア様に袖を引っ張られると話を遮られる。
「どうしました?」
「あ、あなた、そろそろ良いかしら?」
「何がです?」
「もう、我慢できませんの」
一体なんの話だと思い一条さんを見るがとうの本人もわかっていないようでソニア様を見ると頑張って堪えているようだったが耐えきれなくなったのか希璃乃の隣に来て抱きついた。全員その光景に驚き声が出なくなった。
「もう〜可愛い〜!何このお人形さんみたいな可愛さ!肌も白くて髪も綺麗で本当に人間なの!?どうやったらこんなふうに育つのかしらもう本当可愛い〜!」
「お、お兄様」
「こらソニアやめなさい!希璃乃様が困っていらっしゃるでしょう!」
「ソニア様ってこんな感じの人だったんだ……」
「申し訳ありません希璃乃様、新一様、すぐに妻を離しますので」
「何をするんですかあなた!もう少し触らせてくださいまし!」
「それでも元御令嬢ですか!」
「その前に私は一人の女ですわ!」
「ぐっ!」
ぐっじゃないと思う。でも一条さんはこういうのに弱いんだろうなぁ。たまに話を聞いてはいたけど奥様と上手く付き合っているのは良いものの奥様の暴走を止めるのには一苦労しているようだし。二人で協力してなんとか希璃乃からソニア様を離すと夫婦揃って頭を下げられる。希璃乃は驚いただけで声をかけてくれればそれでいいと言っていた。そんな二人を店の外まで送り会計を済ませて店を出た。すると車に乗った一条さんが僕達の前に停まり窓を開けた。
「そういえばですが話に出ていたドーパントの件、今までと様子が違うように思えます」
「やはりですか」
「十分にお気をつけください。名護家の方でも調査してもらえるよう頼んでおきます」
「ご協力感謝します」
車が走り去って行くのを見て僕達もバイクを止めてある場所へと向かう。その間も希璃乃はピッタリくっつくように歩いていた。まるで離れていた時間を埋めるように物理的な距離も埋めていた。バイクの移動もサークルへの道も同じだった。サークルのエントランスに入るとようやく離れる。
「ちょうどのようね」
「練習を終えたんですね。何事もありませんでしたか?」
「ええ、平和だったわ」
Roseliaも同じタイミングでエントランスに入ってくる。まりなさんに声をかけると支払いと次の予約の確認をされる。これからどうするかも考えながらやることを終わらせて皆の元へと行く。
「それで名護さんは昔から完璧だったと」
「そうです。お兄様に敵うものなどいませんでした」
「となると私は負けてしまうかもしれませんね」
「一体何の話をしているんですか」
溶け込むのに時間が掛かるかと思いきやいきなり変な話をして意見がまとまっていた。内容は誰に聞いても教えてもらえなかったが楽しそうであればそれで良いかと結論づけて聞くのを諦めた。
「では改めまして、妹です」
「名護希璃乃です。いつも兄がお世話になっています」
「えっ、新兄の妹って確か」
「死んでいた、はずですがすれ違いからそういうふうになっていました。今こうして生きているので問題はないかと」
「そういうことじゃないと思いますが……何はともあれ良かったですね」
「はい。それで皆さんにお願いがあるのですが」
事の経緯を説明して今後のRoseliaの練習の時間妹も同行して良いかを確認すると皆気軽にいいと言ってくれた。これなら少しでも一緒の時間を増やせるだろう喜ぶ希璃乃の頭を撫でるとおとなしい子猫のように喜ぶ。だがそれをよしとしないような視線も感じた。
「友希那、あれは兄弟だから許されるんだよ」
「私は何も言ってないわよ?むしろリサの方が動揺しているようだけど」
「えっ、いや、そんな事ないよっ!?」
「燐子もどうしたの?」
「いえ、なんでもないです……」
あれれ〜と思いつつ次の練習予定日と時間を伝えて解散しようとすると紗夜さんに腕を引っ張られて物陰に連れていかれる。練習の件かと聞いたらそうではないと言われジェスチャーでイクサの変身ポーズを取ったのを見て察する。
「まさか訓練の話ですか?」
「はい、話を聞いていざとなった時私も戦えるようにしなければなりません」
「そうならないようにするために僕が戦うのですが」
「本当にいざという時のためです」
悩みはしたが本人の強い意志を見て否定することが難しく感じた。だがそう簡単に受け入れるわけにはいくまいとと少しばかり重荷を乗せることにした。
「基礎が着いているとはいえどんな敵がいるかはわかりません。なので多少厳しくても文句は言えませんよ」
「構いません。むしろ厳しくお願いします」
「わかりました。次の練習がない日の放課後にできるようにしておきます」
「よろしくお願いします。それとですね、もし訓練の内容を厳しくするのでしたらぜひより厳しくお願いします。生半可な訓練では己を鍛え上げることはできませんしむしろそれくらいしてもらわないといざとなった時対応できないかもしれません。勿論できていなところがあれば容赦なく教えてください。深次の時のように厳しくしてくださって構いませんむしろ深次を出さないのであれば名護さんであれば私のことを叩いたりして容赦なくヤッてしまっても」
「紗夜さんごめんなさいやっぱりさっきの話無しにして良いですか?」