青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第七光 暗く寒いあの時に

「さて、そろそろ私たちもテスト期間ですね」

「年度末なのでいつもより難しい傾向になりますね」

「皆さん大丈夫そうですか?」

 

 二年生の僕達は三学期には期末試験しかないが年度末ということもあって年間のまとめのようになっている。お嬢様は平均を越えられるようにしているが数学に関してはわりとギリギリだ。しかし本人はあまり気にしていないのかいつもと表情は変わらない。

 

「バンド練習も時間を減らして学業を優先しなければなりません」

「そうだよね~」

「勿論補講なんてことにはならないようにしてくださいね」

「そんなことにはならないわ」

「お嬢様、自信がついてこられたのですね」

「任せたわよ、新一」

 

 そこはせめて当たり前だとか任せなさいって言って欲しかった。まぁ、いつも通りで安心する気もするけど。

 

「見積もって来週で一度全体練習を休みにしなければいけませんね」

「それが……いいと思います……」

「なら来週までに課題を見つけられるようにしましょう」

 

 全員が納得して今日の練習が終わった。あこちゃんは受験が終わったから大丈夫~と言っていたが紗夜さんが目を光らせていたためそんなことは許されなかった。

 次の予約をいれて会計を済ませるとりんりんが手招きしてくる。

 

「どうしたの?」

「その、久しぶりに……セッションしたくて……」

「僕と?」

 

 りんりんは黙って頷いた。ベースかヴァイオリンかと聞くと後者の方を選んだ。となるとクラシックの曲だろう。

 

「曲名は?」

「ふ、冬……」

「ヴィヴァルディの『冬』、であってる?」

 

 すごい勢いで頷くりんりんを落ち着かせる。季節的にはピッタリだがかなり激しめの音が使われている。少し復習する時間が欲しいと言うと今回の練習最終日でいいと言ってくれた。期日はまではあと5日、それだけの時間があればどうにかなるだろう。

 

「何を話てらしたんですかお兄様」

「今度、りんりんがセッションしようって」

「セッションですか……二人きりで話すとは意味深にも感じてしまいますね」

「隠語ではないと思うんだけど」

「そ、そうですよね。燐子さんに限ってそんなことはないですよね」

 

 でもたまに目が怖い時があるからなんとも言えない。しかし今回は純粋な目をしていた(と思いたい)から問題はないだろう。実際そんなことしたこともないしね。

 

「何をすることになったんですか?」

「ヴィヴァルディの『冬』だよ」

「良いですね。私は好きですよ」

「良い曲なんだけどそれだけ難しいんだよね」

「そうですね、いつ練習しましょうか」

「それなら夜練習出来るわよ」

 

 話を聞いていたのかお嬢様も入ってくる。確かにあの家には防音室がある。旦那様が使われていた部屋だから許可を取る必要があるのではないかと聞くといつでも使って良いと言われているらしく僕も使わせて貰えることになった。

 早速今晩から使おうとドアノブに手を掛けると後ろから二人の気配を感じる。振り向けばそこには寝巻き姿のお嬢様と妹の姿がある。

 

「何か御用でしょうか?」

「練習を見に来たのよ」

「今回に関しては忘れているかもしれないのであまり見られたくないのですが…」

「私は気にしないわ」

「というより以前僕の部屋で普通に弾いちゃいましたけど大丈夫だったんでしょうか」

「話を逸らそうとしても無駄よ」

 

 作戦が失敗した。どちらにせよこれから入れなければ問題はないから一度お嬢様のことは置いておこう。

 

「希璃乃は?」

「私もお兄様の練習姿を見に来ました」

「見せものじゃないって」

「少しでもお兄様と一緒にいたいのです」

 

 そう言われると弱ってしまう。今までの時間を埋めたいという気持ち分からないでもない。

 

「私だって新一と一緒にいたいわ」

 

 貴女はほとんどいつも一緒にいるでしょう。

 

「湊さんは学校でも一緒じゃないですか!」

「それとこれは別でしょう?」

「別じゃありません!お兄様、希璃乃乃わがままを聞いてもらえませんか?」

「聴きたいのは山々だけど」

「なんで主人である私のわがままは聞いてもらえないのかしら?シスコンだからかしら?」

 

 おっと、お嬢様?それは少し口が過ぎておりますれば。そして僕はシスコンではありません。シンプルに断ろうとしているのを察して欲しいんですが。

 

「お兄様は私のことが大好きですので」

 

 君も誤解を生むような発言をするんじゃありません。そういうことを言ってると今度は君がブラコンだと疑われるよ?

 

「私はお兄様のことが大好きですので問題ありません」

「勝手に人の思考読むのやめようか。少なくとも日常だけはやめておきなさい」

「それはお兄様が私でトンデモない想像をしてしますからですか?」

「言ってることはわからないけど人が真剣に考えてるんだから茶化すのはやめなさい。てかそんな知識どこで拾ってきたのやら……」

「し、新一は私でとんでもない想像をしているからそんな余裕はないわよ」

「お嬢様、意味がわかっていないのに張り合うのはやめてください」

 

 とりあえず二人には入らないようにと念押しをして防音室の中に入る。覚えている曲ならまだしも今回に関しては少し自信がない。そんな姿を二人には見せたくなかった。期待に応えたいという気持ちときちんと出来るかという不安を背負いながら弓を弾いた。

 音を弾いてて楽しくないはずがなかった。アップテンポの中にある冬景色を掴み取ろうとすると指が追いつかなくなってしまう時があった。もっと落ち着いて、曲を理解するようにと練習を重ねると段々と弾けるようになってくる。久しぶりだからか弾けるようになるのに時間が掛かってしまった。翌日も練習をしなければなるまいと今日は早めに片付けて寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 あぁ、扉を閉められてしまいました。せっかくお兄様の演奏が聞けると思ったのに残念です。

 

「お兄様の邪魔をするわけにもいきません。行きましょう」

「そうね」

 

 本当は聞き耳を立ててでも聞きたいところですがいくら防音壁とはいえ気配でバレてしまうでしょう。お兄様は完璧ですので。

 とはいえこの人もここまで聞こうとするとはお兄様に相当関心があるようですね。まぁ主人としては気になって当然かもしれませんが。

 

「あなたは何か音楽をやっていたの?」

「私ですか?」

 

 頷く湊さんは私のことをまっすぐ見ている。お兄様が楽器を弾けることからの期待だろうか。意地悪をしても仕方ないし教えましょうか。

 

「多少ですがやってましたよ」

「どの楽器を?」

「フルートです」

 

 やっていたと言ってもネットを通して独学を積んだだけで正式なものでもないけど。それでも出来ていたのはお兄様が私たちの生活を守ってくれていたから……。

 

「今はやってないの?」

「たまに一人でやるくらいです。人に聞かせるようなものでもありませんし」

「それは新一にも?」

「当然です。お兄様の実力に比べれば私は、というより比べるのすら失礼に値します!」

 

 あの人に憧れて、私がやりたいと思った楽器だから始めた。そしてそれはまだ並べられる程になっていない。

 

「良かったら聞かせて欲しいわ」

「先程も言いましたが人に聞かせるようなものではありません」

「あなたがそう思っていても私は聴きたいわ」

 

 何を言っているのだろうか。多分、お兄様と比べられると思う。だってお兄様はなんでも出来るから、きっとフルートでも私より上をいっている。実際に見たことはない。それでもきっと私より上なんだと思う。

 

「……今は気分が回りません。いずれ機会があれば」

「わかったわ」

 

 リビングへと移動してお互い椅子に座って様子を見る。きっと今この人は私に興味を示しているのだろう。だからあんなことを聞いてきた。だったら今は私にとってもチャンスかもしれない。

 

「湊さんはお兄様のことをどう思っていらっしゃるのですか?

「どう、って?」

「時折見せるお兄様への発言、あれはどう考えても主従の範疇を超えています。まるで」

「まるで私が新一のことを好きみたい、って言いたいの?」

 

 分かっているんだ……割と話の早い人なのかもしれない。この機会にこの女の心のうちを調べておくのもアリかもしれない。お兄様の近くにいて良いのかも。

 

「その通りです。それはどうなんですか?」

「別に悪いことではないでしょう」

「では湊さんは本当にお兄様のことが好きなんですね」

「そうね」

 

 あっさりとした返事にイラッとする。あれだけの人を従わせているだけでなく自分の好きにしようとているということなのだろうか。

 

「では告白はしたのですか?お兄様は鈍感なところもありますから」

「そうね、だからそれ以上のことをしたわ」

「それ以上?」

「言葉だけでは伝わらないのだからキスしたわ」

「はぁ!?」

 

 今なんて言ったこの人!私の、私のお兄様のファーストキスを、この人が、奪ったぁぁぁ!?

 待ちなさい私、ハッタリかもしれないじゃない。それにもしお兄様の気付かないところでやったとしたら実質ノーカンでは?いや、それはそれでこの人問題あるでしょ。それにお兄様がファーストじゃない可能性だって……それはそれで嫌ぁぁぁぁぁぁ!!!

 

「さっきから一人でどうしたの?」

「ち、ちなみにお兄様とはどこまでいったんですか」

「キス以上は進んでないわ」

「き、キスは、な、何回したんですか?」

「まだ一回かしら」

 

 それを聞いて私は大きく深呼吸した。

 よしよしよしよしよしよしまだ大丈夫なんとかなる。私にもまだチャンスはある。というより最後には私のところに来るに決まっているのだから大丈夫です。

 

「それより、それがもし本当なら湊さんはいずれお兄様と恋仲になりたいということですか?」

「ええそうよ。あの人をもう、一人にはさせないわ」

 

 一人にはさせない、か。いつか私ができなかったこと。しかもそれでお兄様をより孤独にさせてしまった。だからその気持ちは負けないつもりだ。

 

「ではお兄様が今まで何をしていたのかも知っていますか」

「聞いたわ。それでも私はもうあの人を一人にさせたくない。出来ることならあの人を救ってあげたい」

「それは無理です」

「無理?」

 

 出来るはずがない。あの人の苦しみがわかるはずがない。今もずっと苦しんでいるあの人の痛みを今まで普通に暮らしてきたあなたが知ろうとすることすらできるはずがない。そう考えた私はそれ以上のことは言わなかった。

 

「すみません、少し一人になりたいので部屋に戻ります」

「待って今のはどういう意味」

「忘れてください」

 

 リビングを出て別室へ向かう。この間ここにきた時に部屋があった方がいいだろうとあの人に住まわせてもらっている部屋に入る。中には必要最低限のものしかない。大体は寝ることと着替えにしか使っていないしそれで十分なのだ。

 布団の上に座り込むとスマホにメッセージが届く。内容を見るとため息しか出なかった。それでも仕方のないことだと片付けてメッセージを送り返して電源を切った。後悔をしているわけじゃない。そのお陰で私は今ここにいられる。それでもこうするしかなかったのだろうか、こんな運命になってしまうことに嫌気をさしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「お嬢さん、こんな時間にお散歩かい?」

 

 気配を突如として現した声に私は警戒する。敵意はない、けれども急に出て来たのが不気味で仕方なく持っていた武器を構える。

 

「あーやっぱそうなるよなわかるわかる」

「誰ですの?」

「俺っすよ切姫さん」

 

 姿を見せたのは黒いスーツを着た大道さんの姿だった。そういえばこの人も暗殺者でしたわ。だからと言ってこんな登場のされ方をしたら警戒をせざるを得ないのですが。

 

「それで何用ですの?私今任務中ですの」

「それってもしかして誰かを探していたり?」

「よくわかりましたわね。お心当たりでもあるんですの?」

 

 刃を構えて威圧する。もしこの件で弦巻が関わっているのでしたらことを構える前に一度撤退した方がよさそうな気がしますがせめて情報源を捕まえたいところ。すると大道さんは手を前に出して降参するように振る。

 

「心当たりってか最近その人を防犯カメラで捉えたんすよ」

「防犯カメラで?あの子に限ってそんなヘマはしないはずですわ」

「そうだとは思うんすよね。やっぱ俺たちアサシンだしそんなことするはずないと思ったんすけど他の角度から見ても特徴が一致しているというか」

「もし確定したら教えて欲しいですわ。まだその域に達していないのでしょう」

「そうっすね、是非見てもらいたいところではあるんすけど、その感じだと俺たちが犯人の可能性を疑ってるっすね」

「当然ですわ。勿論新様が信じている貴方方を疑いたくはないのですけど。ですがあの場でそんなことが出来るとしたら弦巻と園崎しかありませんもの」

「正しい判断だと思うっす。じゃあまた何か分かったら連絡します」

 

 一歩後ろに飛び跳ねると暗闇の中へと姿を消した。大道さんの情報が確かならそれは有益な情報になるが本当に信じられるか。でもまだ亡くなったというわけではなさそう。ならまだ探さなくてはなりませんわ。

 大道さんが消えた方から気配が現れる。同じような出方をしているため同じ人物だと疑った。

 

「大道さん、それは二番煎じというものですわ。すでに自分でされてたでしょう?」

「残念ながら俺はあのガキじゃない」

 

 一瞬で凍りついた空気に刃をもう一度構える。今度は殺意を持って。

 

「怖いなぁ夜架ちゃん」

「貴方に今は構ってる場合ではありませんの。みんおがして差し上げますからさっさと立ち去ってくださいまし」

「力で言えばこっちの方が上なんだけどな。でも望み通りにしてやる」

 

 すぐに防御と攻撃ができるように構えるとキミの悪い顔を浮かべて再び暗闇の中へと消えていった。完全に消え去るのを待たなければ油断した隙にやられると考えていると不可解な言葉が残された。

 

「もし探している奴がいるなら新一を張っておけ。そこに現れた怪物がお前のお目当てだろうな」

 

 その不可解な言葉を信用するか否かを私はそこで考えてしまった。命に関わるようなことはなかったがこれが私にとって人生最大の分岐点になってしまったのは確実だった。

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