青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第九光 思惑の集まる場所

 事件は放課後に起こった。これから向かうという時に一条さんから連絡が入りファンガイアによる襲撃を受けたという。錠前を見ると確かに発生していた。しかし問題なのはその時に人並みに拐われ希璃乃を見失ってしまったとのこと。

 

「申し訳ございません新一様、任されたというのにこの体たらく」

「仕方の無いことです。それよりソニア様は無事ですか?」

「妻は大丈夫です。それよりも」

「なら奥様を安全なところまで逃がしてください。もし見つからなければ橋本さんに渡してください」

「畏まりました。片付け次第すぐに伺います……なっ!?」

「どうされました?」

「ファンガイアがも一体現れました」

 

 この状況で二体も現れたとなると計画的な行動だと考えるのが妥当か。とりあえずその場から離れるように指示を出して僕は現場に向かった。念の為と放課後まで居てくれた橋本さんを先に向かわせたのは正解だったか。イクサリオンを呼び出して跨るともう一つ重量が増えたような揺れ方をした。後ろを確認すればお嬢様がヘルメットを被って両手で掴んでくる。

 

「何をしているんですか」

「希璃乃を迎えに行くんでしょう」

「昨日とかとは訳が違います。それにお嬢様の安全の保証も」

「あなたの側が一番安全でしょう」

 

 そう言われると何も返せなくなってしまう。仕方ないとそのままクラッチを切って二人で現場に向かう。

 着くなり見られるのは鮫のファンガイアと見たことのないドーパントだった。花のようなデザインに一つ目はまるで真珠を思わせる。逃げ惑う人々に対して何もない空間から球体を出して足止めをしその隙に鮫と一緒にライフエナジーを吸っている。

 

「お嬢様は隠れていてください。もし希璃乃を見つければその時は」

「あなたに伝えるわ。それでいいのよね」

「はい。くれぐれも無茶なことはしないでください、変身」

 

 イクサカリバーを持って二体に攻撃を仕掛ける。せめて一体くらいは一度寝かせないととすぐにイクサナックルで殴ると新種は鮫を使ってガードする。仲間すら盾にするのかとそのままの勢いで殴ろうとすると背中から爆撃を喰らう。鮫を捨て僕を掴むと膝蹴りを数発入れて壁に向かって投げられた。またどこからか現れた球体を展開するのを見て防御姿勢を取ると中断して一歩下がった。一体何だとみれば黒い影が新種の周りを飛び回っていた。

 

「新一様!」

「一条さん」

「申し訳ございません、お待たせしました……ってあれは」

「わかりません。ですが体勢は立て直しましたので一条さんは橋本さんと引き続き避難誘導を」

「かしこまりました」

 

 新種が影を叩き落とすと影は原型を取り戻しているのか人型になった。その正体は以前僕と希璃乃を襲っていたドーパントだった。すぐに切り掛かる準備をすると僕のことを無視して新種と戦闘を始めた。元は人類の味方だからということなのだろうか。終わり次第こっちにも目を向けることを決めて戦闘に加わる。

 

「!」

「以前のことは今は一度置いておく。終わったら話を聞かせて貰う」

「……」

「後で必ず吐かせるから」

 

 僕が新種に切り掛かるとそれに合わせてドーパントが後ろから攻めてくる。まるで僕の攻撃パターンを把握しているように上手く連携が取れている。そう考えるとやはり元名護家の人間だろうか。新種に大きなダメージを与えられずとも追いつけなくなってきているのがわかる。

 分が悪いと判断したのか一度距離を取ると球体で煙幕を作り何処かに消えてしまった。辺りを見回してもその姿は見えずドーパントの方へシフトチェンジしようとすると悲鳴が聞こえてくる。近くの角を曲がるとそこには尻餅をついている希璃乃の姿とさっきまで一緒に戦っていたドーパントの姿があった。

 

「イヤァ」

「貴様、どういうつもりだ!」

「っ」

「ファンガイアに対しては共に戦ったのに奴がいなくなれば今度は人を襲うとは、一体何を考えている!」

「……そこを、どけ…!」

 

 喋ったかと思えばすぐに攻撃がやってくる。それを受け止め切り返すと頭上を跳び後ろに回る。

 

「しまった」

「これで終わり」

「って、思うじゃん?」

 

 愉快に笑う声がやってきたと思えば今度は刀があのドーパントを襲う。僕とヤツの間に挟まれたドーパントは警戒態勢を上げている。僕はそれを通り越して現れた男に殺意を抱く。

 

「そこを退け!」

「おいおい、俺は生身の人間だぞ」

「知ったことか。貴様はこの手で斬ると決めた」

「だとしてもこの化け物がいたらどうもこうもないんじゃないか?」

「天斗兄様…?」

 

 天斗は振り返ると持っていた刀を背にしまい実の妹に対して手を差し伸べる。まるで掬い上げるように出している手を見て希璃乃は取るか戸惑っていた。

 

「希璃乃、そいつは」

「わかっています。でも今はこの人から敵意を感じないのです」

「何を」

「流石俺の妹だ。やっぱり素質がある」

「戯言を」

「迎えに来たぞ希璃乃」

 

 その場にいた全員が呆然となった。あの男が手を差し伸ばした理由は希璃乃を迎えに来たからだという。そんなもの信じられるかと動き出そうとすると先にドーパンとの方が天斗に攻撃を仕掛ける。跳躍して回避させたことで僕は希璃乃に近づくことができた。希璃乃を抱えてすぐに別の場所に行こうとするとまたドーパントが襲いかかってくる。回避することに専念するとそれに追いつくスピードで刃を振り下ろしてくる。間に合わないと察した瞬間今度は目の前に影が現れる。ドーパントの攻撃を防ぐと身を捻って弾き返した。

 

「橋本さん!」

「遅くなったな主」

「どうしてここに」

「市民の避難は完了した。今は他の連中に任せている。危険を感じて来てみれば一体どういうことだ。それに……」

 

 橋本さんは妹を見て戸惑っているようだった。この人には伝えていない。表情に出にくい人ではあるがそれでも困った様子なのは伝わってくる。

 

「色々と言いたいことはありますが今はあとにしましょう」

「そうだな。天斗、やっと会えたな」

「橋本さんか、懐かしいなぁあの時半殺しにしてやったはずなんだけど生きてたんだな」

「生憎とそうやすやすとやられるわけにもいかなくてな。貴様は地獄に引き摺り下ろしてやる」

「そいつは面白そうだ。しかしコイツもいる状況で俺だけを狙えるのかな?」

 

 ドーパントは天斗に対して敵意を抱いている様子を見せるがそれでも優先する狙いは希璃乃らしく武器を構えてこちらを睨んでいるようだった。どうするべきかと思考を巡らせようとすると橋本さんがドーパントを相手するから僕は天斗に集中していいと提案してくる。だとしてもこの子をどうするかと考えると遠くから僕を呼ぶ声が聞こえてきた。それは紛れもなくお嬢様で希璃乃を寄越せという。あの人のことなら信じられると離脱するようにその場を離れてお嬢様に希璃乃を預ける。

 

「あの人までやって来たのね」

「はい。ですからここはかなり危険になります」

「でもお兄様はあの人に」

「勝てはしないのかもしれない。それでも今は迎撃するしかないよ。二人の安全が確実になるまでは耐え切ってみせる。お嬢様、もし可能であれば一条さんに連絡して避難させてもらってください」

「わかったわ。無理だけはしないでちょうだい」

「承知しました」

 

 二人を置いてさっきの場所に戻るとすでに橋本さんとドーパントは姿を消していた。残った天斗は刀を振り回して準備している。

 

「用事は終わったか?」

「後は貴様を葬るだけだ」

「俺は希璃乃を迎えに来ただけなんだがな」

「貴様のような奴に希璃乃を渡すことはしない」

「そっか。じゃあ略奪といくか!」

 

 振りかざされる刃を避け反撃を開始する。まるで獣のように繰り出される攻撃を弾きながら隙を突いて攻撃するがそれすらも読まれているように避けられる。その中で攻撃してくる奴はやはり戦における天賦を持っているのではないかと感じざるを得ない。それでも引くわけには行くかないのだと反撃を続ける。

 ──おい、このままじゃジリ貧だぞ。

 でもこのまま続けていれば勝機が見えるかもしれない。

 ──万に一つの可能性を探すためにこっちがやられちゃ意味がないだろ。ちょっと体貸せ。

 切り抜ける方法があるの?

 ──体勢を立て直すくらいの時間は稼げる。いいから貸せ!

 深次の言葉を信じた僕はフェッスルをベルトに装填してフォームチェンジを行う。白かった装甲は黒く染まり十字が開かれたマスクは閉じてイクサオルタナティブに変化する。

 

「深次になったところで変わらねぇよ!」

「それはどうかな!」

 

 イクサカリバーを逆手持ちにして奴の刀を受け止めると反対の手でイクサナックルを持つ。深次は基本両手にそれぞれ何かを持って戦うタイプだ。だがそれで押し返すとしたらきっと避けられるか防がれるだろう。

 

「んな見え透いた攻撃が効くと思ってんのか」

「自意識過剰なんだよバーカ」

 

 圧縮弾を地面にぶつけてヒビ割れを起こす。危険を感じ取ったのか天斗は数歩下がるとすかさずガンモードに切り替えて撃ち続ける。全てを弾いている奴は人間じゃないと思わせるどこまで化け物になれば気が済むのだろうか。

 しかしこれだけの距離があれば次の動きを決められると構えた時後ろから悲鳴が聞こえてくる。隠れていたはずのお嬢様が転んでいた。何かいるのかと思えばさっきのファンガイアがまた姿を表していた。あっちには希璃乃もいたはずだ、まさかと思いすぐに駆けつけようとすると同時に攻撃しようとしたファンガイアの動きを止める姿が見えた。名護家の戦闘用に用いられるブレードで受け止めている一条さんがそこにいる。

 

「手出しはさせません」

「一条さん!」

「新一様の大切な方を傷付けさせるなど言語道断!貴様、何者かは知らぬがこの人に指一本触れさせはしないぞ」

「………」

 

 ファンガイアは黙ったまま後ろに引き下がっていく。まるで戦意を無くしたのか煙幕を作ってまたいなくなってしまった。

 気を取られたいたが後ろの気配がなくなっていることに気づきすぐに辺りを警戒したが天斗の姿も消えておりここでの戦闘は終わりを告げた。

 

「無事ですかお嬢様!」

「え、ええ。この人のおかげで」

「ありがとうございます一条さん」

「いえ、任を果たせなかった身としてはこの程度しかできず申し訳ないところです」

「そんなことありません。おかげでお嬢様は生きておりますので」

「そう…ですか」

「お嬢様、希璃乃は」

「お怪我はありませんかお兄様!」

 

 少し離れたところから走ってくる希璃乃の姿を見て一安心した。二人とも無事だったようで安堵のため息が出る。

 

「すみません、気がついたら後ろに化け物がいてそれで逃げてしまいました」

「その判断は正しかったと思うよ。しかしお嬢様と一緒にいたのではないの?」

「湊さんはずっとお兄様の方を見ていて気づかなかったんだと思います」

「そうね……不覚を取ったわ。後ろを振り向いたらあのファンガイアが黙ってこっちを近くで見ているのだもの」

「お嬢様にはもう少し危機感知をしてもらいたいものですがこれは僕の失態ですね」

「私も気をつけるわ、ごめんなさい」

「謝らないでくださいお嬢様」

「でも湊さんは結果的にお兄様に迷惑をかけたのなら当然ではありませんか?」

「希璃乃、いくらなんでもこの状況じゃ仕方なかったと思うよ?」

「だとしてもですよ大体お兄様は……」

 

 くどくどと妹から説教を受けていると時間が過ぎていく。申し訳ない気持ちもあるがそれ以前にどうしてこんなにも敵が集まったのかが謎だった。鮫のファンガイア、真珠のファンガイア、それに対して敵意を抱き、僕達を殺そうとしてきたドーパント、そして天斗。偶然集まったにしてはかなりでき過ぎている。誰かが誰かを見張っていたようにも思えるのは何故だ?あのドーパントは今橋本さんが相手をしているがそもそも何故人間だけでなくあのファンガイアも狙おうとしたのだ?抹殺対象をアレにしているからか?だとしたら僕達はその次なのか?考えれば考えるほど謎は深まっていく。

 

「新一」

「いかがなさいました?」

「今日はお買い物をやめて家に帰りましょう」

「そうですね。それが一番かと思います」

「新一様、橋本が戦闘を終えたそうです」

「そうだ!ほったらかしにしていましたけどまだ向こうで戦っているじゃないですか!」

「本人は無事だそうです。ただやはり向こうの戦闘に対する意志があまり感じられなかったと」

「妙ですね。不利な状況判断が出来ているとも捉えられますけどそれにしては敵意を向ける相手がわかりづらいです」

「こちらでも色々と調べてみます」

「よろしくお願いします」

 

 そこで一条さんとは解散し二人を連れて帰った。だがお嬢様の表情はずっと浮かない顔をしており何かを考えている様子だった。

 

(確かにあの時後ろから押された気がする。けどその時は見えてた影がどうみても人にしか見えなかったのが変わったように思える。それで後ろを見たらあの子は消えていた。……まさかそんなことは………)

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