青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第十二光 泣いていいって言ってるじゃない

 家に戻れば部屋の前にいたのはお嬢様だった。こんな夜遅く、冬の廊下は寒いというのに何故廊下で布団を着て寝ているのだろうか。揺すって起こすと寝ぼけながら起き上がった。

 

「帰ってきたのね」

「何故こんなところに」

「あなたが顔色を変えて走っていくのが見えたから」

 

 見られてしまっていたのか。申し訳ないと頭を下げるとお嬢様は頭を上げるようにと言ってくる。しかし僕の体を見ると驚きを隠せないように退こうとしていた。

 

「新一、それ……」

 

 指先の方を確認すると白いはずのネクタイに血がついていた。ワイシャツにも広くついており勘違いさせるのも仕方なかった。勘違いでもないが。

 

「一体、何をしていたの?」

「……執行者としての仕事、です」

「執行者……?」

「知っての通り、敵組織の殲滅や裏切り者の抹殺を行う仕事です。ですが今回はそうじゃないんです」

「どういうこと?」

「執行者のもう一つの仕事、組織の者の最後を看取るという仕事です」

 

 何かを察したのかお嬢様は黙って俯いていた。この姿を見て誰かを殺したのだと聞いてくることはなかった。僕がいた組織のことを考えて最後を看取るという言葉の意味を考えてくれたのだろう。

 

「念のため聞くのだけど、それは私の知ってる人?」

「……夜架ちゃんです」

「っ!」

「余命短くどうせなら僕に刃を向けてもらいたいと仰ったそうです」

「じゃあその血は」

 

 頷くとお嬢様は僕を抱き寄せた。意味が分からず頭の中が真っ白になった。どうしてこの人は僕のことを抱きしめているのだろうか。目の前にいるのは人殺しだと改めて認識したはずなのに何故そんなことも構いなしに抱きしめているのかが分からなかった。

 

「お嬢、様?」

「辛かったわよね」

「え……」

「泣いていいのよ。こういう時くらい」

 

 まさか、その一言しか出てこなかった。でも実際にそれを口に出すことはなくただ無言のまま抱きしめられていた。

 きっとこれが普通なのだろう。向こうでは皆が言わなかっただけで、怒りだけをぶつけてきただけで泣いていいなんて一言も言われたことがなかった。辛いことがあっても悲しいことがあっても僕はなくことが出来なかった。それは乗り越えるべきことでありその時間よりもその人の死を無駄にしないようにと任務や職務など別のことをしていた。当然、殺した対象の肉親に殴られたりした時や殺されそうになった時もあったけど。それでもなくなんてことはなかった。

 

「どうして泣かないのよ」

「申し訳ありません」

「そうじゃなくて、泣いていいって言ってるじゃない」

「そうですね……でも今は泣くよりも思いに報いるこの方が大事なのかもしれません」

 

 お嬢様から離れて部屋に入ると希璃乃が寝ている。その顔に手を添えても起きることはなく寧ろ手で捕まえてきた。手袋越しでも小さな手は逃すまいと掴んでいるのが分かる。

 犯人は魔姫ちゃんだというのことが分かった。でも動機がわかっていない。だから次に会った時は絶対に聞き出す必要がある。

 翌日夕刻、探そうと動くつもりだったが都合よくドーパントが現れてくれた。希璃乃はお嬢様たちと共にサークルにいる。そっちにはあえて快斗君を護衛としてつけさせた。だから今は余裕がある。

 

「……」

「君の正体は既に聞いている。だから大人しく顔を見せて欲しい」

「…脅しのつもり?」

「そうじゃない。ただの、事実確認だ」

 

 ドーパントとしばらく硬直状態になると諦めたのか変身を解除して姿を現した。そこにいたのは紛れもなくあの時と同じ魔姫ちゃんだった。

 

「やっぱり魔姫ちゃんだったんだね」

「そうよ、もういいでしょ」

「よくない。どうしてそんなものを使っているの」

「何を使おうが私の勝手でしょ」

「じゃあなんでそれを使って僕と希璃乃を襲ったの」

 

 バツが悪そうにさらに視線を逸らした。仕事の時は絶対に隠しているポーカーフェイスでも魔姫ちゃんは私情を挟んでいる時は崩す時がある。

 

「何を隠しているの」

「…言ってもアンタは信用しない」

「そっか、そっちがその気なら」

 

 臨戦態勢を整えて捉える準備をする。

 

「無理矢理にでも吐かせるよ」

 

 殺しはしない。それでも隠していることは全て吐き出させるために降伏させるしかないと考えた。魔姫ちゃんは逃げることは考えなかったのか同じ様に構えた。気乗りしない顔を見せつつもすぐに攻撃を仕掛けてきた。アサシンといえど近接格闘は必ず叩きこまれる。この子は名護家のアサシンの中でもトップクラスの実力を持っていた。そして何より今はドーパントの力もあって生身の状態でもステータスが底上げされていると考えてもいい。それでも負けるわけにはいかない。

 

「一応聞くんだけど内通者だったの?」

「違うわ」

「じゃあいなくなったハロウィンの日から?」

「……私はあの日、捕虜になった。シャバに出てきたのは最近よ」

 

 少し距離をとるとナイフを取り出して再び攻撃してくる。少しくらい傷を負わせることも躊躇わないときた。ならばこっちもそれなりの覚悟をしないといけないだろう。

 

「一時的に解放する条件としてアンタの妹を殺せと言われた、それならアンタは納得してくれるの?」

「そんな理由じゃ魔姫ちゃんは動かないと思うかな」

「私の何をわかるっていうのよ」

「さぁね。でも、魔姫ちゃんは個人で行動を起こす時は目先の利益じゃなくてもっと先のことを考えてから行動してるはず」

「っ」

「だからそんなことじゃ動かない、そう思っただけ!」

 

 ナイフを取り上げて首に手刀を添えるとお互いに動かなくなる。数秒すれば降参するかと思ったがそんなことはしなかったが代わり話し始めた。

 

「アンタの妹は、あの日死んだ」

「そのはずだったけど、今は生きてる」

「それが偽物だったら?」

「何?」

「その妹が偽物だったら?」

「そんなことはない。念のため色々と聞いてみたけど全て希璃乃が知っていることだった」

「中身は一緒かもしれないわね。でもガワはどうなってるかしらね」

 

 言っていることの意味が分からなかった。だって希璃乃は生きていたんだ。触れた肌だって感じる体温だって食事をする姿だって寝ている姿だって人間そのものだ。

 

「何が言いたいの」

「アンタの知ってる、人間の希璃乃はもういないの」

「何を」

「じゃなきゃおかしいでしょ。死んだ人間が蘇るはずがない、そんなこと」

「そんなことは分かっている。でも希璃乃は生きていたんだ。それが今更になって嘘ですなんてことあるわけないだろう!」

 

 魔姫ちゃんから嘘を言っている感じはなかった。それでも信じる事は出来なかった。少なくとも僕の前ではあの子は人間と同じだった。皆が認識できているのだから幽霊とかでもない。

 

「それがもし人間じゃないって言ったらどうするの」

「いくらなんでもそんな冗談は許されないよ」

「冗談なんかじゃない。それで」

「……それで?」

「私は……」

 

 魔姫ちゃんが何かを言おうとすると言葉に詰まったのか何も言わなくなってしまった。早く答えが欲しいと思うと錠前が鳴る。警戒を解かず錠前を取ると快斗君から連絡が入る。

 

『例のファンガイアが出たっす』

「……」

「…わかった、皆の避難お願いしていい?」

『了解っす』

 

 錠前を閉じると魔姫ちゃんは隙を見つけて距離を取った。逃すまいと腕を伸ばすとメモリを取り出して自身の体へと挿した。すぐにドーパントへと変身して攻撃態勢を取る。

 

「私の目的はあのファンガイアとアンタの妹を殺すこと」

「それは希璃乃が本来生きている人じゃないから?」

「そうね……その方が納得してくれるかしら」

「いいや、納得できないね」

 

 僕も変身するとサークルの方へと移動を開始したためすぐに追い掛ける。後ろからイクサカリバーで撃つが止まることはなかった。追いかけながら状況を改めて整理する。

 魔姫ちゃんは最初から僕を狙っていたのではなく希璃乃のことを狙っていた。真意は未だ分からないがその邪魔をする者として昨日夜架ちゃんを殺した。そして今はドーパントになりファンガイアを倒そうとしている。やっていることがまるでメチャクチャだ。大体、妹とあのファンガイアを殺すって言っていたけどその二つにどんな関係があるのか分からない。聞いても答えてはくれないし捕まえようとしても逃げられる。

 そしてサークルに着くと真珠のファンガイアが快斗君と交戦していた。どちらかが劣勢という訳ではなく優勢であるというわけでもなかった。

 

「お待たせ」

「現状はなんとか…ってコイツ」

「……」

「それは一回置いといて。目的は同じみたいだからとりあえずあのファンガイアを倒そう」

 

 魔姫ちゃんが先陣を切るとファンガイアは大量の球体を出して攻撃を仕掛けてきた。快斗君が斬撃波で球群を薙いでいくと道を開いてくれる。その道を突っ切り剣を振り下ろそうとすると目の前に現れた影に邪魔をされる。僕と魔姫ちゃんは距離を取り警戒すると真珠のファンガイアの前には蠍のファンガイアの姿があった。

 

「あれは……?」

「貴様…!」

「どうしてあなたがここに?」

「迎えに参りました、クイーン」

 

 蠍は真珠のファンガイアに対して跪き手を差し伸べる。その光景を見て僕たちは唖然としていた。普段湧き上がる殺意も忘れかけるほどに理解が追いつかなかった。それに蠍はあのファンガイアに対してクイーンと言った。つまりあそこにいるのはチェックメイトフォーの一角であり、ファンガイアの幹部が二人もいるということだ。

 

「キングの命令かしら?」

「いえ、これは独断です」

「私があの人間達に負けると言いたいのかしら」

「まさか。されど今のあなたは完全な状態ではない。遊び程度ならここで退くのが吉かと」

「そう」

 

 そっけない素振りをしてファンガイアは煙幕を出して姿を消した。蠍を逃したのは痛手だったが無闇に手を出さなかったのは正解だったかもしれない。チェックメイトフォーの一角ともなれば策なしの状態でいけば命を危険に晒したかもしれない。それによって被害を受けるのは確実にこちらだけだ。

 敵がいなくなったかと思い刃を納めようと考えるわけではなく、近くにいるドーパントに向かって再度身構える。それは快斗君も同じだった。だがチラチラとこちらを見て集中できていないようだった。

 

「どうしたの」

「いや、その」

「アレの正体なら知ってる。だから構わず攻撃していいよ」

「了解っす」

「アンタらに構ってる暇はないの。もうここに用はない」

「残念だけど少し乱暴にしてでもお縄についてもらうよ」

「本当に春川さんなんだな。申し訳ないっすけどちょっとだけ痛いっすよ」

「仕方ないわね」

 

 影に消えた魔姫ちゃんを警戒し快斗君と背中合わせで全方位を警戒すると下から足を引っ張られるように転ばされる。起き上がった時にはすでに目の前に凶器を構えたドーパントの姿がある。剣で守ろうとすると快斗君がドーパントの背中をドロップキックする。距離を作ることで態勢を立て直すが魔姫ちゃんはまた姿を消した。

 

「どう考える?」

「消えたと思ったら足元から出てきた。っつーことは影から殺せるってことっすよね」

「まるで幻想のアサシンだ」

「暗闇が棲家になっているなら暗闇を消しちまえばいいんすよ」

 

 緑色のメモリを取りだすとスロットに差し込んでマキシマムドライブを発動させた。すると快斗君の身体は光だしまるでライトのように辺りの影を全て消し去った。しばらくすると目眩しになったのか目を抑えているドーパントの姿が出て来る。

 

「何よ、この光」

「アンタがこのあいだ新一さんにやったことを数倍にしてやってやったんだよ」

「そのメモリは?」

「プリズム、光の記憶っす。あんまり使い道はないんすけどこういう時には役に立つっすよ」

 

 ナイフを逆手持ちにして単身特攻すると煙幕を貼られる。それでも逃すまいと出鱈目にナイフを振り続けていたがどうやら逃げられてしまったらしい。

 

「ああ!いいとこだったのに!」

「仕方ないさ。正体もやり方もわかったから次こそは確実に仕留められると思う」

「そうっすね、とりあえず先輩方の様子を見に行きますか」

 

 変身を解除してRoseliaの皆を探しに行くと皆無事であることを確認する。希璃乃も一緒にいたため無事であることは明白だった。しかし途中で一度逸れてしまったらしいがすぐに見つかったためよかったと安堵する。しかし実際そのことについて希璃乃に質問するといつもと違う顔をしているように感じた。だがそれも一時的なものだろうと考え引き続き練習を行ってから解散することになった。

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