青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

175 / 181
第十六光 必ず迎えに行きます

「そのためにもここにいるお兄様以外の人間全て、私の糧になってください?」

 

 希璃乃はカーテシーをするようにポーズを取り周りの人間に宣戦布告する。その場にいた全員が凍りつき戦えるものの大半はより一層警戒する。

 

「名護希璃乃いや、クイーン。俺たちを少々甘く見ているんじゃないだろうな?侮るなよ」

「まさか。皆様だからこそ糧にすれば強くなれるのです。それに抗している間にも既にお皿の上に載っているんですよ」

「!?総員緊急回避!」

 

 その瞬間回避に間に合わなかった人達の首元に何かが刺さり脱力したようにその場に倒れていく。その人達は瞬く間にガラス片となって砕け散った。その場にはもうスーツと武器しか落ちていない。

 

「まずは三人ですね。全員頂くのにどれくらいかかるでしょうか」

「妹君、これ以上の攻撃はやめていただきたい」

「無意味な争いをしたくないのはこちらも同じです。しかし四谷さんは私に対して敵意を持っていて名護家として介入するみたいです。いくら橋本さんの意思があるとはいえ私はもうあの家を信じることは出来ません」

「だがそれでは」

「だからお兄様以外を殺せばいいんです。もしよろしければ橋本さんだけでも助けてあげましょうか?勿論お兄様と私以外の全員を殺すことを条件に」

「希璃乃」

 

 名前を呼べば人間の姿に一度戻ってこちらを見て反応した。そこにあった無垢な笑顔はきっと本心から言っていることだと確信する。けれどこれは許されていいことじゃない。

 

「お兄様はどちらがよろしいですか?」

「何を」

「私と一緒に来るのにこの人たちは邪魔ですよね。殺してしまうか、私の糧になって頂くか」

「自分が言っていることとやっていることの意味を」

「分かってますよ」

 

 問いに対して真剣な眼差しを向けてくる希璃乃に対して何も言えなくなってしまった。間違っていることだから僕が止めてあげなきゃいけない。なのに僕の体は一歩も動くことが出来なかった。

 

「私とお兄様が解放されるためにはこうしなきゃいけないんです。それにお兄様は言ってくれましたよね、彼らから守ることを約束するって」

「っ!でもこれはやっちゃダメだよ」

「じゃあこのまま私は連れてかれて訳のわからない実験を受ければいいと?」

「そんなことは言ってない」

「ですがあの組織は表向きにはいいことを言って裏では非道なことを簡単にするではありませんか。かつてお兄様がされたように」

 

 その言葉を聞いた瞬間周りの戦意が下がっていく。特に当時いた人達は苦虫を潰すような顔をしている。僕の時も進化するためなどと言って結果的には実験は失敗に終わった。似たようなことがされるのであればそれを簡単に見過ごすわけにはいかない。それでも今は希璃乃を止めることだけを考えていた。

 

「もしかしてお兄様は約束を違えるというのですか?」

「それは」

「私を守ってくれるって言ったのに」

 

 どうするべきだ、何て声をかけてあげるべきなのか。今あの子を止められるのはきっと僕だけだ。なのに何も言ってあげられない。僕は一体どうすればいいんだ。すると立ち止まっている僕を見かねたのかお嬢様が希璃乃に声をかける。

 

「あなた、新一を困らせてるわよ」

「なんです?突然」

「この人は今どうすればあなたを説得できるか必死に考えているわ。あなたを極力悪者にしない方法を考えているんだと思う」

「何も出来ない人が何を偉そうに。第一あなたにお兄様の何がわかるっていうんですか」

「偉そう?そうかもしれないわね。だって私は新一の主人だし。何がわかるなんてはっきりは言えないわ。けれど今のあなたよりかは新一のことが見えているわ」

「何も知らないくせにそういうこと言わないでくださいますか?」

 

 神経を逆撫でしているのか希璃乃の顔にステンドグラスの模様が入っていく。お嬢様はその姿に動揺したがすぐに冷静になる。

 

「そんなことをしてあなたにとって何の意味があるの?それで新一が本当に幸せになるなら私は手伝うわ。けれどそうでないなら私が新一の代わりに否定するわ」

「なら、今すぐ死んでください!」

 

 姿を変え繰り出してきた攻撃は真っ直ぐお嬢様の方へと向かっていた。お嬢様はその場から動こうとせず他の人も間に合わないようだった。しかしお嬢様には傷一つなく気づけば僕はお嬢様の前に立って変身し攻撃を全て防いでいた。

 

「なんでその女を庇うんですか!」

「この人が……僕の主人だから」

「やはりお兄様はその女に惑わされています!」

「本当にそれだけだと思うのかしら」

「何を」

「こうすることで新一はあなたに怪我人を出させなかった。それはあなたがこれ以上悪者にならなくていいようにしたんじゃないかしら」

 

 結果的にはそういうふうに捉えられるのだろうか。お嬢様を守ることに夢中でそれ以外を考えられていなかったが、これで希璃乃が少しでも冷静になってくれるのであればそれでいいとも思っている。だがお嬢様の言葉は逆に反感を買ったらしく希璃乃は怒りを押さえているようだった。

 

「何を言ってもあなたは私を怒らせるのが得意のようですね。もういいです、本当は全員ライフエナジーを吸い尽くしてあげようかと思いましたがそんなことをせずに今すぐ殺してあげます」

 

 無数の球体がこの場にいる全員の周りに突然現れる。その数も絶対に防ぎきれないくらいあるだろうと思った矢先小さく爆発して僕達に当たることはなかった。

 

「落ち着けよクイーン」

「邪魔をしないでください」

「そんなことしてもアンタにメリットはない。一度退こうぜ」

 

 希璃乃の横にいたのはスコーピオンだった。となると今の攻撃を全て爆発させたのはあいつだろうか。一瞬のことでわからなかったが今は助かった。しかしそれとは別に助けられたことに苛立ちがくる。希璃乃はため息をついて攻撃する手を止めた。

 

「それに別の客人だぜ」

 

 二つの影の間から出てきた人型が攻撃を仕掛けるが簡単に防がれてしまう。それは先程まで対峙していた変身した魔姫ちゃんの姿だった。連続して攻撃を仕掛けるがヤツはクイーンを庇いながら躱していく。

 

「人間が作った物で俺たちに叶うわけないだろ」

「新手、いや春川か」

「貴様今まで何処に行っていた!早く戻ってこい!」

「今はアンタたちと一緒にいるわけにはいかない」

 

 魔姫ちゃんは攻撃を続けるがスコーピオンはある程度避けると一瞬で捕まえて身動きを封じてしまう。魔姫ちゃんは捕まった状態から影に消えていき背後を取るもすぐにカウンターを食らってしまった。飛ばされた先を見ると煙が晴れた先には何もいなかった。おそらくそのまま姿を消してしまったのだろう。

 

「全く、少しは面白いかもと思ったのだがな」

「帰りますよルーク」

「へいへい、喜べ人間今回は見逃してやる。次に会う時は死なないようにな」

「お兄様、必ず迎えに行きますのでもう少しだけ待っていてください」

 

 二人は爆煙を立たせると同時に姿を消した。四谷さんはすぐに指示を出して捜索班と帰投組に分けて解散させた。橋本さんと四谷さんだけが残り僕に近づいてくる。一切表情を変えず迫ってくる様子を見て今回は仕事の方を優先させるのだと判断する。

 

「貴様のせいで目標を取り逃がしたわけだが何か言い訳はあるか?」

「あの子は僕の」

「妹だからなんだ?あれはもう人間ではない」

 

 僕に銃口を向けても表情は変わることはなかった。言っていることも冷酷で淡々としている。

 

「それに今回新たに三名を殺害した。もう言い逃れはできまい」

「それは」

「人類の敵をこれ以上野放しにしてはおけない」

「待て、主の身内でもか」

「知ったことか。こいつはもう民間人だ。執行対象になればこいつでも俺は殺す」

 

 彼は銃を下ろし来た道と反対方向へと歩いていく。とりあえずは解放されたのだろう。しかしこのままでは希璃乃が彼らと戦うことになる。もし希璃乃が負けるようなことがあればきっと良くないことになる。あの子が勝ったとしても名護家からの攻撃が止むことはない。

 

「大丈夫なの新一?」

「僕自身は何もされいないので。お嬢様の方は」

「私は無事よ。けれどごめんなさい、希璃乃を説得してみようとしたのだけれど止められなかったわ」

「いえ、気遣ってくださりありがとうございます。申し訳ありませんが数日間弦巻家に匿ってもらうことになるかもしれません」

「どうして?」

「やることが決まりました」

 

 今の状況で唯一と言ってもいいほど僕にしか出来ないこと。それはもう一度希璃乃を説得することだ。周りに誰もいない状況ならもしかしたら話を聞いてもらえるかもしれない。だが先ほどルークが来たことで向こうも警戒心を高めているかもしれない。そうなると二人きりになる状況を作り出すのすら難しい。そもそも会えるのかすら分からない。

 

「あなたの考えていること、分かるかもしれない」

「そうですか?」

「あの子に会いたいけどきっかけを作れないといったところかしら」

「そうです。それに呼び出す手段だって」

「それならあるわよ」

 

 お嬢様はスマホを取り出してチャットアプリを見せてくる。確かに希璃乃の連絡先はそこに入っているがそう簡単に返ってくることはないだろう。

 

「やってみなくちゃわからないことだってあるわ」

「しかしですね、このような状況になった以上連絡をそう簡単に取れるわけが」

「とりあえず送っておいたわ」

 

 いつのまにか僕のスマホがお嬢様の手の中にありメッセージが送信されていた。というか僕のスマホはロックが掛けられていてパスワードを知っていないと開けられないはずだがなぜ開けられたのだろうか。見られていたというのも信じられない。

 

「京、あなたの情報が役に立ったわよ(小声)」

「お嬢様今なんと」

「なんでもないわ。とりあえず帰りましょう」

 

 帰ってからずっと考えていたがやはりどうしても受け入れ難かった。操られているのか、それとも脅されているのではないかというのを必死に考えたがそれでもあの時の声や表情は本物のように思える。まるで全てを捨ててでも手に入れたいものがあるというように感じられたあの言葉すら本気に思える。

 もしそれが本当だったとしても一度あの子と話をしたい。それでも意見が変わらないのであれば僕が止めるしかない。だけどもし少しでも考えが変わるようならまたあの時みたいに一緒に暮らしたい。少なくともあの時間は嘘ではないと信じている。

 どうしたらまた話を出来るだろうかと考えると電話がかかってくる。スマホの画面に表示されたのは希璃乃の名前だった。

 

「もしもし希璃乃?!」

『お兄様ですか?お昼は申し訳ありませんでした』

「大丈夫だよ」

『つきましてその件についてお話ししたいことがありましてお会いしていただけませんか?』

「僕も話したいことがあるんだ」

『よかったです。先に確認しておきたいことがあるんですがよろしいですか?』

「いいよ」

『お兄様は私との時間と湊さんとの時間、どちらかを選べと言われたらどちらを選びますか?』

 

 その質問にすぐに答える事が出来なかった。勿論希璃乃との時間は大切だ。だがお嬢様との時間も大切にしたい。だからどちらかしかなんて言われてもすぐに答えは出せなかった。

 

『それがお兄様の答えなのですね』

「待って、これは」

『大丈夫です。明日の午後六時、黒鉄山でお待ちしております』

 

 その言葉を最後に希璃乃との電話は途切れてしまった。また一つチャンスを捨ててしまった。今の返答をきちんと行えていたのならきっと取り戻せたかもしれないのに。だが今は立ち止まっているわけにはいかないと必ず迎えに行くと心に決めて明日に添えて準備を始めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。