青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第十七光 家族の時間を守るため

「どうしてわざわざ来たのですか?」

 

 王城の廊下でクイーンはルークに質問した。止めに入られた事が気に食わなかったらしく口調は少しばかり荒れている。ルークは機嫌を取るようでもなくいつものように言葉を流す。

 

「キングからの命令でな。俺としてはあのまま食って貰ってかまわなかったんだが今回は被害をあまり出すなって言われてたもんで」

「あのお方が?何故そのようなことを」

「しらねぇよ。王様にとってアイツらはまだ利用価値があるからじゃねぇの?」

「あんな人たちに利用価値ですか。一体何を考えているのやら」

「さぁな。だが俺はアンタにも驚きを隠せない。まさかクイーンたるものが()を破ろうとしているとはな」

 

 ルークの言葉にクイーンが反応する。ファンガイアには数多くの掟が存在し背くものはクイーンが処刑するのがルールとなっている。しかしファンガイアにとって法の番人たるクイーン自らが掟を破るとなると話はだいぶ変わってくるだろう。

 

「王様は掟を遵守している。そしてその番人のアンタが破るような事があれば怒られるどころじゃ済まされないぜ?」

「わかっていますそんなこと。ですから分かりやすい形で用意して交渉するつもりです」

「そんなことが出来んのか?」

「やってみる価値はあります」

 

 クイーンは実の兄を手に入れるためにこれまで時を待っていた。そしてその計画が完了するまでもう少し、王に話せばどのような反応をされるかは見当がついているがそれでもやってみることに変わりはないようだった。クイーンはルークの横を過ぎて進んでいく。あと数刻で約束の時間になる。それは他のものには知られておらず完全なる独断行動である。

 

「育ての親として忠告しておくが、家畜に情を沸かすなよ?」

「例え人間が家畜だとしてもお兄様だけは家畜ではありませんわ」

「それは家族だからってことか?」

「いえ、私が愛する存在だからです」

 

 女王の姿が見えなくなるとルークは人間へと姿を変えてスマートフォンを取り出し己が主人に連絡を取る。

 

「了解、王が望むままに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 玄関で外出の準備を整えているとお嬢様に声をかけられる。どこにいくかなどは言わなかったがこの時間に出かけるのを不審に思ったのだろう。名前を呼ばれて返事をするがしばらく何も言われなかった。

 

「食事は冷蔵庫に入っていますので温めてお食べください」

「……希璃乃の所に行くのよね」

「察する通りにございます。今日は帰りが遅くなるかもしれません」

「どうしてもいくの?」

「…今度こそあの子を救わねばなりませんので」

 

 そのまま黙って突っ立っているとお嬢様は頬に手を添えてくる。自分の仕事を放って市場を優先するなど本来あってはいけないこと。しかし今の僕は完全に私情でしか動いていない。当然怒られるだろうと覚悟していたが一向に怒られる事がは無かった。

 

「怒らないのですか?」

「言いたいことは山ほどあるわ。けどそれはあなたにしか出来ないことでしょう?だから見送るわ」

「ご配慮痛み入ります」

「堅苦しいわね。いいわ、そのことに関しても帰ってきたらまとめてお説教してあげる」

「それはご勘弁願いたいところですね」

「その代わり希璃乃も必ず連れて帰ってきなさい。あの子にも言いたい事があるのだから」

「仰せのままに」

 

 傅き中世の言葉を紡ぐ。僕の主人はいつも以上に真剣な顔をしている。必ず戻ることと妹を連れ戻すことを条件として妹の元へ向かうのを許してくれた。家の外に出るとスーツを着た快斗君の姿が見える。いつも笑っている顔も今日は睨むような怖い顔をしている。

 

「話は全部聞きましたよ新一さん」

「そっか、まずは君が止めに来たってところかな」

「いや今回は俺の独断っす。弦巻家は今回のことは名護家に任せるとのことで俺は質問しに来ただけっす」

 

 快斗君のこういった時の独断行動は何かと初めてかもしれない。しかしそれでも表情を崩さないのは流石は弦巻家の暗殺者だ。

 

「これからどうするつもりですか?」

「希璃乃を連れ戻しに行く」

「あの人、ファンガイアなんすよね。身内なら大丈夫だと思ってるんすか?」

「身内だからこそ厳しく対処する。だけど約束したんだ。今度こそ守ってみせるって」

「約束っすか。なら仕方ないっすね、手を貸しましょう」

「仕方のないことだから僕は…って、え?」

「えじゃないっすよ。邪魔しに来たやつは俺がなんとかしとくんで妹さんのとこにまっすぐ行ってください」

「いいの?」

「いいのも何もないじゃないっすか。それに約束したんなら行くべきだと思うっすよ。少なくとも京なら『全部終わったらちゃんと褒美貰うからな』とか言って手伝うと思うっす」

「そう、かもね」

「別にアイツがどうこうってわけじゃないっすけど、俺は家族とかいないからまだ家族がいる人の時間を守れたらって思うだけっす」

 

 照れくさそうに言うがそういってくれてるだけでもかなり助かる。その思いを無駄にしないためにも今は進もうとバイクを走らせると快斗君もついてくる。専用のバイクは無いため弦巻家のバイクを持ってきたらしい。山の麓までくると隊列が敷かれているのが見えてくる。

 

「止まれ」

「四谷さん、どうしてここに」

「悪いが行動を監視させてもらっていた。この先に目標がいるのは間違いないがここで貴様を捉えておかなければ後の作戦に影響が出る」

 

 彼が合図をすると一斉に武器を構えられる。殺してでも止める気なのか模擬戦用ではなく実戦用の武器だ。しかしこんなところで止まる訳にはいかないとベルトを取り出そうとすると快斗君が前に出る。

 

「まさかとは思うが邪魔立てする気か?」

「邪魔してるのはアンタらだろ」

「これは下手を打てば名護家と弦巻家の関係が悪化する可能性があるが」

「そうだよなぁやっぱそうなっちゃうよなぁ。そうなると俺弱るんだよなぁ……」

「快斗君やっぱりいいよ、本当にそんなことになったら君の立場だって」

「んー、でもこれって言ってしまえば兄妹喧嘩に組織が首突っ込んで来てるってことっすよね?なら悪いのあっちじゃないんすか?」

 

 言っていることはなんとなく分かるがでもそれとこれとは話が変わってくる。それに四谷さんだって理解が出来ないというふうにこちらを見ている。

 

「ボウズ、言ってること面白いな」

「んあ?」

「なら兄妹喧嘩が終わるまで待っててもいいかもしれないよなぁ」

 

 隊列の方から伊達さんが笑いながら出てくる。こっちにくるなり体を伸ばしたり軽くストレッチをして向こうへと向き直る。そして持っていた鎌を地面に突き刺した。

 

「貴様どういうつもりだ?」

「なんて言うんだ?少し話が変わった、俺はこっちにつくって言えばいいのか?」

「反旗を翻すということでいいのだな?」

「おうおう、日本語ってのは難しいな。お前らを殺すつもりはねぇけどこのボウズの時間稼ぎに参加してやろうってだけだ」

「結果は変わらないではないか。それ相応の覚悟が出来ているんだろうな」

「アンタいいのか?」

「べっつにぃ〜?そもそも俺この作戦乗り気じゃ無かったし。だって元々坊ちゃん一人に総攻撃だぜ?いい気はしないしってか勝てるわけない奴らで群がっても仕方ないだろ」

「貴様……!」

「それに一条なら“多勢に無勢といえど新一様を止めることは難しいでしょう”とかいうだろw」

「伊達にしては頭が回っている」

 

 いつの間にか現れた橋本さんは感心するように軽く手を叩いている。さっきまで向こうにいたはずなのにどうしてこっちに来ているのだろうか。

 

「そんな言葉いつ覚えたんだ?」

「これでも日本語勉強してんだぜ、一応部隊長だし」

「そもそも貴方日本人ですよね」

「細かいこと気にすんなよ坊ちゃん。さてと、お前はどうする?一条」

 

 僕達と向かい合っている隊列の中には勿論一条さんもいた。僕を止めるとなると幹部クラスは総動員してくるくらいなのだろう。我ながら高く見られているみたいだ。刀を持つ一条さんは四谷さんの横に立つ。

 

「私は……出来ることなら新一様にはここで退いて貰いたい所存です。希璃乃様の事はどうか我々に任せて欲しい。伊達達も規律違反で今すぐに処罰を下すべきです」

「だそうだが?」

「けだし」

 

 一条さんは刃を取って四谷さんに向ける。ピクリとも動かなかった四谷さんにダメージが入ることは無かったが周りが騒然としている。

 

「久方ぶりの家族の時間、理解出来ない者がいても仕方ありませんが、それを使ってでも止めようとする新一様のご意志を私は尊重します」

「ほう、そうか」

「一条隊長が裏切るのか…?」

「裏切りではありません。少しばかりここでこの作戦についての議論を始めるだけです。拳を交えて」

「嘘だろ」

「名護家上位三人が向こう側につくのかよ」

「貴様にその権限があるのか?この作戦の指揮は俺が」

「では特権を使いましょう。《秩序司令(ノーブル・オーダー)》としてこれよりこの作戦の指揮は私が取ります」

 

 《秩序司令》──一条さんに与えられた二つ名でありどのような戦局でも的確な指示により勝利へと盤上を操り自らも戦場へ赴き任務を完全遂行させる姿から付けられた。

 これは特権を使うと言えば現在参加している作戦の指揮を乗っ取る事が出来る権利であり基本的には盤面をこちらの思い通りにするために使う。それをこのような形で使われるのは四谷さん達にとっては想定外だったのだろう。

 

「そこまでアイツの味方をするか!」

「今回ばかりは私もわがままを言わせてもらいます」

「ヒュー♩一条もワルになってきたなぁ」

「だがこれで戦力は十分すぎる」

「大道様、我々も協力させていただきます」

「そりゃ助かるっすけどいいんすか?立場とかそっちの方が大変でしょ」

「この程度なら後で報告書を書けば問題ありません。それにこれからここで行われるのは反乱ではなく森林を使った模擬戦(・・・)ですので」

 

 一条さんは笑みを浮かべると伊達さんは拳を鳴らし橋下さんはトンファーを構える。なら問題ないかと快斗君も返信して武器を構える。

 

「この代償、いずれ高くつくぞ」

「その時はその時です。それでも今は、我が主である新一様の援護を行います!さぁ、道を開けなさい。塞ぐものは容赦なく迎え撃ちます」

 

 四人が隊列のバランスを崩しに行くとすぐに道が開かれる。他の幹部達まで全て押さえて誰も邪魔が入らないように綺麗に道が開けている。

 

「行け坊ちゃん!」

「必ず妹君を救ってくれ」

「貴方の願いが叶うことを祈っております!」

「兄妹喧嘩、早めに勝ってきてくださいっす!」

「皆、ありがとう!」

 

 開かれた道を進み約束の場所へと向かう。思わぬイベントが起きたがそれでも道を作ってくれた四人に感謝し妹を取り戻すんだという思いを胸に山の中を駆けた。

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