青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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長らくお待たせしました。スランプが来ては治れば現実が忙しく時間があればまたスランプが……そんな毎日が続き病みそうにもなりましたがなんとかここまで来ました。大変ご迷惑おかけしました。


第十八光 倒した責任を

 暗い森の中を駆け抜けていく。気が複雑に並んでいるせいか真っ直ぐ走ることは叶わなかったが障害物を超えていくことに苦は無かった。しかし暗闇の中から針が僕を目掛けて飛んでくる。跳び避けると後を追うように後ろの木に刺さっていく。飛んできた方を見ると数本の針を指に挟んだ魔姫ちゃんがこちらに向かってくる。

 

「これ以上行かせない」

「どうしてそこまでして止めるの?」

「それは……」

「理由もなく止めるなんてこと魔姫ちゃんはしないことくらいわかる。別の理由があるんでしょ」

「そんなの、ないわよ!」

 

 持っていた針を投げて距離を詰めてくる魔姫ちゃんに対して距離を取って逃げようとすると針が逃げ道を塞ぐ。元々逃げるだろうルートに対して針を投げていたのかそのまま殴りかかってくる。拳を避けようとすると足を引っ掛けられるが間一髪で受け身を取って攻撃を避ける。

 

「おとなしくやられなさいよ!」

「一体何を言われた。園崎さんに何を吹き込まれたの」

「うるさい!」

 

 メモリを身体に挿して姿を変えて襲ってくる。僕もすぐに変身して攻撃すると影の中に潜り込んだ。夕方と言えど森の中で日の差す時間ではないため影の中に入ればどこからでも奇襲出来る。上か後ろか全方位警戒しなければいけない中ですぐに終らせるためならどこを狙うか、ここだと思うタイミングで跳び地面に向かって剣を振るうと刃が重なる音が聞こえる。

 

「何でわかるのよ気持ち悪い」

「その言葉は傷つくな……暗い視界より分かりやすいところを警戒しただけだよ」

「それが気持ち悪いって言ってんのよ」

 

 飛んでくる暗器を避け距離を詰めるが至近距離で謎の煙を浴びてしまう。ライダーシステムのお陰で問題ないと突き進もうとした瞬間身体が強張り勢いが落ちていく。

 

「何、これ」

「毒ガスよ。あんたにぶつけるためにはこうするしかなかった」

「だけど」

「そのシステムには効かないと思ったんだろうけどこれだけの至近距離で当てれば多少効くわよ」

 

 身体が固まったように動きづらい。呼吸や会話などの最低限のことは出来るようだがとても戦闘が出来る状態じゃなかった。

 

「あんたがここで大人しくしてくれるなら殺さないでおいてあげるわ」

「それが出来るほど行儀がよくないのは知ってるでしょ」

「知ってるわよ。だから少し痛い目に遭って貰おうかしら」

「その前に聞かせて。一時的に解放される、その為に希璃乃を殺すって言ったよね」

「私が解放されるためにね」

「……やっぱり嘘だね」

「っ、だから嫌いなのよ」

 

 質問に答えるとき魔姫ちゃんの表情は笑っていた。この子は仕事の時にそんな顔はするような子じゃない。自分に有利な契約を結ぶときは尚更表情は冷たいまま変わらない。一緒にいた時からそうだった、こういう時は大抵無理して顔を作っている。

 

「園崎さんが希璃乃を始末する理由は何?そもそも何で生きてることを知ってたの?」

「そんなことは知らない。ただ私はあの子を殺さないとあんたを殺すって脅されただけ。あんたを殺すなんて無理だと思ったけどアイツには絶対に出来るみたいに言ってた」

 

 園崎さんの言うことだ。半信半疑がいいところかもしれない。けれど魔姫ちゃんに相性の良いメモリを作っているぐらいだ、どちらかといえば信用できる方である。会話を続けながら身体が動かないかとゆっくり力を入れる。

 

「前にも言ったけどあんたの妹はもう人じゃない。なのに庇う理由なんて」

「その解答は前にも言ったはずだよ。例え人でなくてもあの子は僕の妹だから」

「何で、何であんたはそうやって自分を犠牲にするのよ!こっちがどんな思いで」

「ごめん、それはわからない」

「っ!」

「君がどんな思いかなんて僕は知らない。それでも僕は今あの子を助けたい。その邪魔をするなら例え魔姫ちゃんでも容赦はしない」

「あっそ……ならここで死になさい!」

 

 刃を振り上げる直前フェイクフェッスルに手が届き気合いでベルトに装填する。力を振り絞って防御の姿勢を取ると目の前に《偽・星閃天装》が現れ刺撃を防いだ。動揺するところを見逃さず弾き返して立ち上がる。

 

「まだ毒が回ってるはず」

「無理な身体の使い方は、知ってるからなぁ」

「アンタもう一人の」

「そうだ、俺は名護深次。今日こそ本気で潰させて貰うぜ」

 

 深次のように荒々しく剣を振るう。勿論身体は痛い。痺れるように動かしづらいのにそれを無理矢理動かしているため反動のダメージは大きい。

 

(でも鎧の色が変わってない。アイツが演技してるってこと?それともその上でフェイクを重ねてる?だったらもう一度毒ガスを浴びせれば!)

「どうした魔姫、その程度じゃ俺を殺せないぞ!」

 

 《偽・星閃天装》を片手でぶん投げると簡単に避けられる。いくら無理して動かせるとはいえあの大剣を片手で操るのには無理があった。

 

「どんな無茶振りよ!」

「勝ちぁいいんだよ勝ちぁ!」

「だけどそれが仇になったわね」

 

 何かを仕掛けてくると考えた僕はイクサカリバーを片手にしてまたフェッスルを装填した。魔姫ちゃんも確実に仕留めるつもりでこちらに仕掛けてくるのがわかる。きっとここで終らせに来るはずだ。何せ今なら勝ちを確信に変えられるだろうから。

 

「(エネルギーが収束するどころか剣一本で突っ込んできた?)勝ちに必死になって切り札を間違えたようね!」

「っ!」

「それ一つで私には勝てない。これで本当に終わりよ!」

「そうだね、これで終わりだ」

「まさかあんた、ガッ?!」

 

 魔姫ちゃんが後ろから飛んでくる大剣に気付かず背中から貫かれたところを十字斬りにするとアサシンドーパントは爆発した。メモリが排出され力が抜けたように倒れる彼女を支えると一度こちらを睨むがすぐに気の失せたような顔をした。

 

「負けたのね」

「残念だけどこれが結果だよ」

「うるさいわね、言われなくてもわかってるわよ。最後のアレ、何」

「フェイクフェッスルは基本的に粒子転送されてくるんだけど一定の範囲内にあれば引き寄せる形で呼び出すことが出来るんだ」

「だから投げたのね。あの毒、麻痺毒だから普通動けないと思うんだけど。戦ってたのも結局どっちか分かんなかったし」

「毒から立ち上がったのは深次だね。あと剣を投げた時、そういう無茶は彼の方が得意だから」

「じゃあそれ以外はアンタだったわけね。引き継げばなんとかなるとかどんな無茶振りよ」

 

 言った二つ以外は全て僕が深次を演じてやっていた。そうすれば少しでも彼女の判断が鈍ると思ったのとこの地形だと深次はきっと戦いにくいだろうから僕が体を動かすべきと判断した。

 ──実際広いところじゃないとイラつくしな俺。

 だそうです。だけどおかげで基本的に動くことによって攻め方を一点に絞ることができた。割と賭けではあったけど。

 

「あんた役者になれるわよ」

「それはどうも」

「褒めてないわよ」

「そっか。メモリは壊させてもらうけどいいよね」

 

 近くに転がっているメモリをイクサカリバーで刺して粉砕する。すると笑ったような機械音が聞こえてくる。

 

『やってしまったね、名護新一君』

「その声…」

『P43番いや《春姫》もご苦労だった。結果を残せなかった君にもう用はないよ』

 

 魔姫ちゃんの方から声がすると思い見てみるとチョーカーが赤く点滅して音声を発していた。どうやらずっと会話を聞かれていたらしい。メモリを破壊したのを確認してから声をかけてきたということはそれがトリガーになって何かが発動する。だがそれが何かがわからなかった。

 

『流石は《朱雪の執行者》だ。仲間だった者にも容赦はしないんだね』

「何故この子に妹を殺させようとしたのですか、園崎さん」

『死人は死人にして置かなければ可哀想ではないか。それに私は君が気に入らない。失敗作の癖に私の駒にならないどころか人の為と私達の邪魔をする。だから早く絶望して動けないようにしたかったのだが、存外上手くいかないものだね』

「そんな事のために二人を…!」

『おっと勘違いしないでほしい。ファンガイアになったのを知ったのは君たちとさほど変わらない時期だ。まぁタイミングを合わせて名護家の方に情報を送ったのは故意だがね』

「貴方という人はどこまで」

『さて、そろそろ被験体にも役目を終えてもらおうか』

 

 突如として抱えている魔姫ちゃんが苦しみ出す。首元の血管が怒張しているのを見て何か細工が仕込まれているのがわかった。

 

『任務に失敗すれば証拠は消すのは当然だな。またお話ししよう名護新一君』

「待て!」

 

 何度声をかけても機械から返ってくる返事はなかった。どうするべきだと頭を回していると魔姫ちゃんの体の端が塵になっていっている。身体の組織を崩壊させる毒でも入っていたのか、完全なる証拠の隠滅を図ろうとしているだろう。

 

「もうどうしようもないわね」

「受け入れるの?」

「そうするしかないじゃない。言っとくけどこればかりは自分を責めるんじゃないわよ」

「え?」

「きっと僕が気付かなかったからーとか言うんでしょうけどこの依頼を引き受けていなければ私はずっとあの牢の中にいた。外に出るいいチャンスだったのよ。それでも手にかけてしまったものはあるけど」

「……」

「自分の死とか考えたことなかったけどまさかこんなことになるとはね。あーあ、もう少しちゃんとしておくべきだった」

 

 まるでいつもの魔姫ちゃんではないかのように笑う顔を見て本当に死に際なのかと思い始める。もう足の方が八割無くなっている。

 

「アイツのトドメ、どうせあんたが刺したんでしょ」

「…そうだよ」

「あの子なら幸せでしょうね。私はそんなことして欲しくないけど」

「どうして?」

「逆に聞くけど身内に殺されたいなんて思うやつそうそういると思う?」

「それもそうだよね」

「あそこが異常だっただけ。あんたはもっとまともに生きていいのよ。全く、こんな世界じゃなきゃただの優しいムカつくだけの奴だったのに」

 

 支えている魔姫ちゃんの身体が軽く感じる。もう下半身はとっくに無くなっていた。それでも話を続ける彼女を見る。

 

「……僕は優しくないよ。ホントに優しい人は」

「それ以上は無し。どうせ言っても聞かないだろうし。それに私からしたらムカつくくらい優しかった、それだけよ」

「じゃあ……そういうことにしておこうか」

「そうして…………そろそろこの時間も終わりね」

 

 自分の身体の軽さに気付いていても触れることはしなかった。それでも終わることだけは伝えてきた。言いたいことは山程ある。けど今は彼女を優先する。

 

「私を倒してでも自分の道を進んだ、それはあんた自身の意思よ」

「でも結果的に君を」

「私が死ぬのはこっちの問題。あんたとの勝負に関係ない。でもそうね、一つ言うとしたら」

 

 魔姫ちゃんは僕の顔に手を添えて見た事のないような清々しい笑顔で言った。

 

「あんたの妹を救いなさい。それはあんたにしか出来ないこと。私を倒した責任、取ってもらうわよ」

「……勿論」

「らしくない事したわね。先に行ってるわ、急いでこっちに来るんじゃないわよ」

 

 全てが塵になり彼女は跡形もなく消えていった。何も残そうとしないのは彼女らしいとも言える。しかし結果として僕は彼女を殺した。いや、そうじゃないとこの先には進めなかっただろう。いずれにしろ通る道だったのだ。そう考えるしかない。覚悟を決めて僕は立ち上がり希璃乃のいるところに向かい始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──了解した。伝えておく」

「せっかくの基地外での模擬戦なのですから皆さんもっと派手に動いてもいいんですよ」

「全員何をしている!奴らを捕えろ!」

「いえ、そもそもこれ」

「でも一条隊長が」

「だが四谷隊長は」

「戦場じゃ動かなきゃ死ぬぜ」

 

 伊達による的への攻撃が酷すぎる。戸惑っていれば戦場ではそれが命取りになるのは間違いないが新人たちにまでそれはないのではないだろうかと思う。

 

「橋本どうかしたのですか?」

「主から連絡だ。《春姫》の死亡を確認した、灰と化したため遺体処理はしなくていいらしい」

「な、んだと……」

 

 四谷の威勢は止み動きが止まると武器を手から滑り落とした。この状況でそうなると戦意喪失と見ても問題ないだろう。

 

「上司だったお前はなんとも思わないのか」

「…運が良ければ寿命で死ねる程度には思っていた」

「そうか。なら全軍戦闘を停止せよ。撤退だ」

 

 自分の武器を拾い上げ鞘に収めると後方へと歩いていく。様子がおかしいと思ったのか伊達が挑発的な言葉を送ってもさして反応はしなかった。あの男はあの男で不器用だなと思い我らも武器を収めた。

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