青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第二十光 聖騎士とマヨネーズ

 あの日、二人の帰りを待つと決めていたため遅くまで起きていると呼び鈴が鳴った。新一なら鳴らす必要がないはずなのにどうしてだろうとインターホンに出ると一条さんの姿が映った。すぐに出ると肩を担がれた新一が目に入る。

 

「新一!」

「……」

「無事でよかったわ。希璃乃はどうしたの」

「っ!」

「湊様それは」

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……僕が、僕が弱いから……」

 

 見たこともないくらい顔をぐしゃぐしゃにして泣き続ける彼を見て驚いた。まるで豹変したような新一を見て何が起きたかすぐには理解できなかった。けれど分かったことが一つだけあった。この時にはすでに彼の妹はこの世にいないということだ。

 その後新一を落ち着かせて部屋まで連れていき一人の空間を作らせるとリビングで一条さんに話を聞かせて貰った。と言っても知ってることは彼の声を聞いて駆けつけたときにはすでに希璃乃はいなくなっていて辺りにガラス片が落ちていたと言うだけだった。だがそこで私たちが思ったのは新一が殺すはずがないということだ。

 

──僕が弱いから────

 

 あの言葉からおそらく他の誰かに殺されたんだと思われる。でも誰が殺したのかは聞いてみないことにはわからない。けれど新一も今はそんな状況じゃないことは明らかだ。

 あれから二日経ったが新一は部屋から出てくることはなかった。食事を部屋の前に置いても手をつけている様子はなかった。お父さんに相談してそっとしておくべきとは言われたけど流石に何も食べていないのでは心配になる。

 

「友希那、新一は?」

「まだ出てこないわ」

「流石にヤバくない?ご飯食べてないんでしょ?」

「そうだけど置いておいても手をつけてくれないのよ」

「せめて明日には一回ご飯食べて貰おう」

「そうね、とりあえずまた様子を見てみるわ」

 

 リサとチャットで話一度様子を見てみるが食事に手をつけていなかった。ご飯は食べなくても数日大丈夫とは言ってたけど流石に心配だ。ノックをしても返事は来ない。

 

「ご飯ここに置いておくわ」

 

 必要以上に刺激しない方がいいのは分かっている。けどあのまま放っておくのは出来なかった。話を聞きたい気持ちはある、けれど今は新一が部屋から出てきてくれることを願っている。

 夜、どうしても寝れなかった私は一度彼の部屋を見に行こうとした。ご飯は食べただろうか、部屋から出てきてくれてないだろうか、そんな心配が私を駆り立てる。部屋を出て見ると置いておいたトレーが食事まるごと無くなっていた。扉も開いており中には誰もいなかった。まさかと思い台所に行くと冷蔵庫からマヨネーズを取り出している新一の姿があった。近付こうとするとほんの一瞬だけ睨まれる。だがそれだけでそこにいるのが新一ではないと気付く。

 

「どうしてあなたが出てきているの?」

「何でって言われてもなぁ……新一が機能して無いからだろ?」

 

 マヨネーズをクルクル回しながら私の横を過ぎていく。逃がすわけないと手を掴むとジト目で見られてため息をつかれる。

 

「なんだよお嬢」

「新一の身体で何するつもり?」

「あのなぁ俺だって腹は減るんだぜ」

「でもそれは」

「同じ身体なんだコイツだって腹が減ってる。だがそれもどうでいいくらい動けないってことだ」

 

 その言葉を聞いて納得した私の手は力が抜ける。それを上手く使って深次はスルッと抜けるように手を振りほどいて食卓へ向かった。テーブルの上にあるおにぎりと野菜を見て深次はマヨネーズの蓋を開ける。

 

「コイツはお嬢が作ったのか?」

「そうだけど」

「ふぅん」

 

 興味を示すように見回してから勢いよくかじりつく。しょっぺぇと言いながら一つ食べ終ると今度はマヨネーズをもう一つのおにぎりにかけ始めた。

 

「何してるの!」

「なんだよ、悪いことしたか」

「それは新一の為に作ったものでそもそもあなたが食べるものじゃ」

「食ってるのは新一の身体だぜ」

「そうじゃなくて」

「それに足りない栄養をマヨネーズで補ってんだ。作ってくれたことには感謝するがコイツ少し塩気が強すぎる」

 

 塩だけにしたがのが間違い、というわけでは無さそうだ。マヨネーズおにぎりを食べると幸せそうな顔をしているか何もマヨネーズじゃなくてもいいじゃない。せめてドレッシングにしなさいよ。

 

「カロリーに比例して上手さが爆発してやがるなこれ」

「……」

「いやお嬢、野菜につけてるからマヨネーズとかじゃなくてな?」

「何よ」

「普通米にはドレッシングはかけねぇだろ。でもツナマヨって文化があるだろ。俺のはそのツナが抜けただけだ」

「そういうことにしておくわ」

 

 えぇ……とか言いながらも全て完食した彼はごちそうさまを言い残して部屋を出て行こうとした。前に立ち塞がるとめんどくさそうにしながら通すように言ってくる。

 

「脱走なんか目論んじゃいねぇよ」

「じゃあどこに行くつもり?」

「自分の部屋」

「……」

「信用ねぇなぁ。あくまで俺はコイツを殺さないように飯を食っただけだ。用が終わればまたバトンタッチするんだよ」

「今でも契約は続いているの?」

「本来ならこうやって俺が出てくることはない。だが現状を見て分かる通り新一にはそれを守る余裕がない」

「でもあなたはルールを守ろうとしている」

「そりゃ一度負けたら言うこと聞くだろ」

 

 同じ新一の身体でも見られないような顔を見せて私を払おうとするがそれを許さず立ち塞がっていると大きなため息をついてリビングのソファに座り込んだ。

 

「何よ」

「聞きてぇことあんだろ。あの状態の新一じゃあ話をさせたらまた閉じ籠りそうだ」

「あなた察することも出きるのね」

「悪かったな、んで何を話せばいい?」

「全部よ」

「長くなるぜ。明日も学校だろ」

「そんなことより優先すべきことだわ」

「新一が聞いたら何て言うか……なら後悔するなよ」

 

 深次は組んでた足を直して考えるような姿勢を取る。それほどまでに深刻な話であることは想像してたが改めて聞く体勢を作る。 

 

「昔々名護家の御曹司と呼ばれていた男がいた。そいつは幼い頃は平和な暮らしていたもののある時を境に人を殺すためのマシーンとして育てられるように」

「長いわよ」

「始まったばかりだぜ。それに長くなるって言ったろ」

「レベルが違うじゃない。私が知りたいのはこの間のことよ」

「お嬢は冗談が通じねぇな」

 

 ケラケラと笑いながら彼は全てを話してくれた。新一が魔姫を倒した時に別の人物によって殺されたこと、希璃乃と和解した直後に蠍のファンガイアにまた家族の命を奪われたこと、最後まで兄でいようとしたこと。話してる最中はふざけるようなことはせず終わると深いため息をついた。

 話を聞いてて思ったのは怒りばかりが頭の中に出てきたことだ。

 

「顔が怖いぞ」

「こんな話聞けば誰でも怒るわよ」

「んまぁ胸くそ悪いよな」

「それよ。でもなんで新一は自分のことを責めるの?悪いのはどう考えても」

「それしか出来ないんだよコイツは。自分の力を過信している、というわけでもないがそれでも助けたかったという意思が強くなりすぎて責任を全て背負い込もうとする。誰のためにもならないのに誰かのためにってな」

「まるで知ったような口振りね」

「そりゃそうだろ。ずっと一緒だったんだからな」

 

 この人は新一と同じ存在であることを思い出す。ずっと一緒だった、つまり心の奥底でずっと新一が見てる景色を見てきたのだろう。見せられたの方が正しいのかもしれない。ならきっと新一の苦しみを私よりよく分かっているかもしれない。

 

「それはそれでムカつくわね」

「何が?」

「こっちの話よ。この会話って」

「皆まで言うな。新一との接続は切ってる(まぁ契約破りたが)」

「ありがとう、何かあったら言っとくわ」

「そんなとこまで察せられるようになったのか成長したなぁ 」

 

 わざとらしく泣く真似をする深次を睨むとケラケラと笑う。新一の顔でそんな風をされると調子が狂いそうになる。

 

「じゃ、俺は部屋に戻るぜ」

「これからどうするつもり」

「それはお嬢が決めろ。俺は身体を返して必要に応じて出てきてやるから」

「でもどうすれば」

「お嬢は難しいこと考えんなよ。分からなくなれば氷川とかリサに聞け。アンタは実行役だろ」

 

 手をヒラヒラと振って部屋に戻っていく。この状況で私が出きること。それはきっと新一を外に連れ出すことじゃないだろうか。でも外に連れ出して何をしよう、そもそも外に出ることすら拒否されるかもしれない。寒さを感じて時計を見ると三時を示していた。新一のことを考えるのに夢中で時間を忘れてしまっていたらしい。一度寝て明日考えようと自分の部屋に戻った。

 案の定朝遅刻しそうになった。リサが来てくれなければ遅刻は確実だっただろう。しかし今の状態でどうやって新一を連れ出す?こういうことはリサたちの方が得意かもしれない。というかあの人難しいこと考えるなって私のことバカにしたのかしら。やっぱり気に入らないわね。

 

「友希那なに考えてるの?」

「どうすれば新一を外に連れ出せるかよ。流石にあのままにはしておけないわ」

「そうだよね。でも引きこもるのにも理由が分からないし」

「訳なら聞いたわ」

「ウソ?!いつ聞いたの?」

 

 深夜に深次が出てきて食事をしてたことを話す。深次が見てた景色を話してもらったこと、新一が塞ぎ込んでしまった理由、私の料理にマヨネーズをかけたこと全てを話した。

 

「そんなことがあったんだ……」

「気分転換と言っていいか分からないけど外に連れ出さないとなにも変わらないと思うの。だけどどうすれば連れ出せるか分からなくて」

「そうだね。でもなんで新一は自分のことを責めるんだろ、悪いわけじゃないのに」

「それは私なりに考えてみたのだけどきっと使命とか仕事とかじゃないと思う」

「え?」

「彼は優しいのよ。優しすぎるから自分を責めてしまう」

 

 リサは言葉を失ったように黙り込んでしまった。でも今はそこに構っている場合じゃない。ずっとあのままにはしておけない。でも私の力だけじゃダメだ。私は言葉足らずだしきっと間違えてしまうかもしれない。

 

「友希那、思ったんだけど最初から連れ出すのは難しいと思う」

「何か方法があるの?」

「まずは全部吐き出させた方がいいかも。悩みごとって誰かに聞いてもらった方が少しは気持ちが楽になるから」

「それならリサが適任ね。きっと上手く聞いてあげられるから」

「いや、ここはアタシじゃない方がいいかも」

「どうして?」

「そりゃあアタシはそういうの専門みたいなところあるけど今回は燐子がベストだと思う」

「燐子が?」

「希璃乃のことをよく知ってるのは新一以外で燐子だし小さい頃からの付き合いってことを考えたらね」

 

 それもそうかと昼休みに電話することを話すとOKを貰えた。どうしてもあの状態は放っておけない。結局新一のことばかり考えていたら授業にも集中出来てなくて先生にも怒られてしまった。でも私はそれすらも耳に届いてなかった。放課後にRoselia全員が集合して私の家に向かった。向かう途中で全てを話したが燐子も最初こそ驚いていたものの途中から真剣な表情になっていた。

 

「着いたわ」

「新兄大丈夫かな」

「白金さん準備はいいですか?」

「…はい……!」

「頼んだよ燐子」

 

 ノックを数回しても返事はない。

 

「……新君、入るよ……」

 

 燐子が扉を開くと隙間から見えた新一の部屋はカーテンで閉めきられていて真っ暗だった。新一の姿は見えずそのまま閉められてしまいあとは燐子に任せることにした。

 

「湊さんは良かったのですか?」

「もちろん私が行くことも考えたわ。けれど言葉を間違えて彼を違う方へ連れてってしまうかもしれない。それだけは避けなきゃいけないと思う」

「友希那さん……」

「私は自分が力になれなくてもあの人の役に立ちたい。いずれ戻ってくるあの人の為に出来ることはしてあげたいわ」

 

 ここにいても仕方ないからリビングで待つことになり皆が階段を降りていく。どうか彼が前みたいに笑えるように今と向き合えるようになることを願いながら私も階段を降りていった。

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