青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第二十一光 何のために

「どうしてあの時撤退したんだ?」

 

 あの日から数日経ち自動販売機の近くのベンチに座っている男を見かけて声を掛けた。俺の知っているこの男は組織としての行動を、命令を守る人物だった。なのに春川が死んだと聞いた瞬間戦意を失ったような顔をして兵を下げた。だから気になって声をかけてしまった。ぶっきらぼうに返されるかと思ったが少ししてから返事が返ってきた。

 

「さぁな……だがあの時は馬鹿馬鹿しいと思ってしまったな」

「勘違いなら聞き流せ、お前はアイツが好きだったのか?」

「フ、そうかもな」

 

 その返答に驚きを隠せなかった。普段なら「何を言っているこの馬鹿者が!」くらいのことを言うこの男が素直に返すなどあり得ない。相当重症だったことがわかる。

 

「アイツを拾ってきたのは俺だからな。当主に無理を言ってここで妹のように可愛がってきたつもりだ」

「…そっちか……」

「なんだ?」

「気にするな。家族として愛していたのか」

「そうだな。俺と同期のお前にすら気づかれていなかったみたいだが」

 

 よく考えれば俺の隊に所属している時に出くわすと毎回説教がましいことを言っていた気がする。この男なりの気遣いだったのだろう。

 

「ここに入れてしまった俺の責任でもあるがそれ以前に生きていて欲しかった。アイツを好きになろうが何だろうがそれは構わない。しかしまだ子供だというのに命を落としてしまった。なんだろうな、今まで仲間の死は見てきたがこんなに辛いのは初めてだ」

「そうか……邪魔をした」

 

 素直に言えていれば何かが変わったかもしれない。そういえば春川も四谷に対しては態度が柔らかかった気がする。二人の態度に隠れていた親子のような絆が彼らにもあったのかもしれない。二人揃って不器用な奴らだがそれこそ親子のようなものだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「新君」

 

 なんて言えばいいかわからず名前を呼んでしまった。名前を呼びかけても反応は無かった。そのまま待ち続けているとこちらの様子を伺っている様に何度か視線を送ってきた。目が合うとすぐに逸らされたがそのまま居続けるとようやく口を開いた。

 

「……放っておいてよ」

「どうして……?」

「今の僕は何も出来ないただの置き物も同然だ。いや、ここに来たってことは僕の処分は決まった?」

 

 処分という言葉を聞いて疑問しか浮かばなかった。友希那さんはそんなこと言う人じゃないっていうのはわかっているはずなのに新君の口からそんな風に出てくるなんて思いもしなかった。

 

「どうして、そんなこというの?」

「だってこんなやついつまでいても仕方ないでしょ。仕事はしないし、戦えないし」

「仕事のためだけじゃないんじゃ」

「いいよ。そうだとしてももう何もしたくないんだ」

 

 虚な目をした新君はまるでこっちを見ていないようだった。人形のように首を傾げてあさっての方を見ている。

 

「何も……?」

「そう、何も」

「なんでそんなこと」

「なんでって、そのままの意味だよ。もう何もかもどうでもよくなったんだ。戦うことなんか特にどうでもいい。だって戦ったって何もないじゃん」

「どうしてそんなこと言うの……新君は、今までなんのために」

「なんのためでもなかったんだよ」

 

 虚な目はこっちを見るが表情は悲しんだり悔やんだりする訳でもなくただ笑っていた。

 

「僕はね、やっと報われたと思ったんだ。今まで戦い続けて、家族を殺されても戦い続けて、皆を守ることだけを考えてきた。でも自分に対してのメリットなんかないって分かっていても、皆の日常を守れることだけが生きがいだって思ってた。その中で希璃乃が生きているのを知って戦ってきた意味がやっと分かったような気がした。もちろん皆を守る為に戦うのが嫌だったわけじゃない。それでも救われた気がしたんだ。でもそれも一時の仮初で希璃乃はファンガイアになって人を殺してたまでは良かった。いいわけじゃないけどそれは僕も同じだから。喧嘩もして話し合ってやっと前に進めると思った時に現実に引き戻された。僕はまた何も出来なかった。また目の前で家族を殺されて目の前にアイツに歯向かうことすら出来なかった。力を持っていても何も出来なきゃ意味がない……………何が最強だ、何が守ってみせるだ、何も出来ないくせに!あの時から何一つ変わっていない!僕はあの頃の弱いままだ。誰かを救おうなんていう馬鹿げた理想を掲げて何も出来ないで今まで何をしていた!一体なんのために……」

 

 いつの間にかボロボロと涙を流しながら声を荒げていた。今まで積み上げてきたものを目の前で崩され泣きじゃくる子供のように。自身を責め続けてやり場のない怒りを吐き出している。

 

「ねぇ教えてよ燐子」

 

 名前で呼ばれたのはいつぶりか、そんなことに気を割いている余裕はなく彼の方を見ると光を灯さない目から涙を流しながら笑うように聞いてきた。

 

「僕は、なんのために戦ってきたの?」

 

 すぐに答える事はできなかった。答えを待たずもう戦いたくないと言って蹲ってしまった。それを見て無性に放って置けなくなり抱き寄せて頭を撫でると嗚咽を漏らしながらまた泣き始めた。なんて言えば良いのかわからなかった。何を言っても彼を傷つけてしまうのではないかと、今はこうしてあげるのが正解ではないかとそう考えた。

 新君をベッドに寝かせて部屋を出て皆のところに行くと全員こっちを見てきた。今井さんが気を利かせてお茶を淹れてくれたがとても飲めるような気分じゃなかった。

 

「どうだったの?」

「泣いてるような声が聞こえてきましたが」

 

 私は皆に全てを話した。新君が感じてしまったこと、壊れた彼の姿、なんて言えばいいのかわからなくなったことも全て。話し終えると皆下を向いてとてもじゃないが明るい雰囲気とは程遠くなった。元々そういう空気でもなかったけれども。

 

「戦いたくないって、言ったのね」

「はい……」

「やはり今回のことは彼の心にかなりきているようですね」

「新兄を元気にさせられないかな」

「今は無理させないほうがいいかも」

「でも……」

「あこ、少し時間を置こう。そしたらきっと新一も笑えるようになるよ」

「今はどうしているの?」

「泣き疲れたのかぐっすり寝ています」

「そう……」

 

 友希那さんは何かを考えているようだったが私は提案をした。でもこれは提案ではなくもうお願いに近いのかもしれない、けどこうでもしないともう彼が持たないかもしれない。

 

「友希那さん、新君を戦いから解放してあげてください」

「燐子?」

「そうでもしないと……あのままだと新君が壊れちゃいます!」

「それは契約を解除しろということ?」

「契約は…続けてもいいんです……でも、戦うことだけはやめさせないと……辛いことばっかりさせて、これ以上無理をさせてしまったらもう2度と前みたいに戻れなくなってしまう気がして……」

「白金さん……」

「そうね。燐子の言う通りだわ」

 

 否定されるかと思っていたが友希那さんはその通りだと正面から肯定した。愕然とする中あの人も暗い顔をして机を見ていた。思うところはあったのだろう。だから自分から行くのではなく私に行かせたのかもしれない。

 

「これ以上あの人を戦わせるのは酷だと分かっているわ。私もあの人には笑っていて欲しいもの」

「でもこのままってわけにはいかないよね」

「ええ、だから戦うことを禁止にするわ。でもその前に彼の意思を直接確認しに行くわ」

「この状態で行くんですか?!」

「宇田川さんが驚くのもわかります。湊さんはご自身のことをよく理解されているから白金さんを名護さんの元に行かせたんですよね?」

「そうよ。でもこれは私が、主人である私が自ら行かなきゃいけないことだと思う」

 

 そう言って立ち上がると誰も否定することはなく頷いていた。私に一緒に来てもらえるように言って二回へと上がって行った。そのまま後ろをついていくと新君の部屋に入る。案の定新君はまだ寝ていたが友希那さんはお構いなしに入ってものを探し始める。机の下にある収納の中にあったベルトと果物の絵がついた錠前を取り出した。いつも新君が使っているものだ。それを私に渡して部屋を出るように告げる。扉越しに耳を当てると二人の会話が聞こえてくる。

 

「新一、少しいいかしら」

「お嬢様……いかような処分でも受け入れます」

「なら命令するわ。金輪際戦うのを禁止するわ」

「え……?」

「明日からは普通に生きるの」

「普通…とは?」

「そうね、まず朝ごはんを一緒に食べましょう。その後は学校に行って授業を受けるの。お昼はもちろんあなたの作ったお弁当よ。学校が終わればRoseliaの練習に行って帰ってきたら家事をするのよ。私も手伝うわ。終われば一緒に勉強をして寝てまた次の日も同じように過ごすの」

「そこに、僕は必要ですか?」

「ええ、あなたが必要よ。あなたがいる生活がいいの。だからもう戦わなくていいわ。一緒に普通になりましょう」

 

 友希那さんが部屋から出てくると私に手に持っているものを渡すように言う。それを受け取るとリビングに持っていった。机の上に置きどこに隠すかの話になった時に氷川さんが自ら引き取ると言い出した。何かあったとき、本当にどうしようもなくなった時に使うことになる、その時に使える人が守っておくべきということもあるそうだ。その日はこれで解散になった。新君から戦うためのものは全て取り上げた。気づかない間に撮るのは気が引けたけどこうするしか無かった。きっとこれが正解なんだと思う、そうじゃないと彼を救うことが出来ない。

 新君を持ち直すことは少しずつやっていけばいいと思っていたが翌日から執事の仕事をしていた。Roseliaの練習にも参加しにきたときは皆驚いていたが彼はいつものように振る舞っているように見せた。

 

 ──そう、あの日から彼の笑顔は消え、壊れた人形のように動き続けていた──────

 

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