あれから再び毎日練習を重ね、フェスの予選の日がやってきた。朝早くから会場の準備に取りかかっていた。楽器のセット、使う照明のセット、全ての準備が終わり、楽屋にて本番への準備を始めていた。皆がそれぞれの準備をしているとき、不意に寒気が体を覆った。その正体不明の寒気は僕を動かす鍵となった。扉付近に立っていたのですぐに扉に着くことが出来た。
「新一ー、なにしてるのー?」
ドアノブに手を掛けた瞬間だった。リサが僕の肩を掴んで話しかけてきた。
「いや、ちょっと外の空気を吸いに行こうかなーって」
「何を言ってるんですか?あと二十分で本番ですよ。今回、照明などを担当したのは名護さんじゃないですか。本番前に最終確認しなくていいんですか?あと少しなんですから、待機してて下さい」
適当な言い訳を作ると紗夜さんに論破された。確かに言っているとおりだ。機材担当が本番前に抜け出すわけにはいかない。だが、寒気は徐々に悪寒に変わっていた。だから確かめなきゃいけない。ここは無理を通してでも行くべきだろう。
「ごめんなさい、すぐ戻りますから!」
「ちょ、新一!?」
「え、新一さん!?」
「……新…君……」
「もう、何やってるんですか!」
扉を閉めようとすると声が聞こえてきたが受け流す形で扉を閉めた。正直言って心が痛い。でも仕方ない。あとで謝るとして悪寒のする方へ向かおう。
会場の外に出てみるとファンガイアが暴れていた。その姿をよく見てみるといつかの夜、自分が圧倒されたファンガイアだった。歩いてそいつの方へ向かった。奴が気付くとすぐにこちらを向いた。
「よぉ、白騎士のガキじゃねえか」
「久しぶりだね、ヒトデのファンガイア」
「そうだな、またやられに来たのか?頭の悪い奴だなぁ」
「いいや、違うね。今回は………お前を倒しに来た!」
威勢をあげてベルトを巻き付け、掌にイクサナックルをぶつける。
『レ・デ・ィ』
「変身!」
『フィ・ス・ト・オ・ン』
「いいぜ、また同じ目に遭わせてやるよ!」
「その命……神に返しなさい!」
それからファンガイアとの戦闘が始まった。街の地塀物を容赦なく破壊するファンガイアに走って倒しにいく。鈍器の様な腕を振り回すファンガイアを剣で振り払い、距離を詰める。近距離に入ったところでイクサカリバーを斬りつけた。鈍器が振り下ろされようとしたがもう片方の腕でそれを止め、連撃を続ける。突如ファンガイアがもう片方の鈍器でイクサカリバーを止めた。もう片方の腕もいつの間にか逆の立場になっていて、逃げることが出来なくなっていた。その状況に驚いているとファンガイアは胸部に光を集中させ、それをぶつけてきた。その衝撃によって軽く飛び、地面を転がった。急いで体勢を立て直すとファンガイアが話しかけてきた。
「前より強くなったように思えたが……ただの勘違いか」
「さて、強さは分からないけど……今の僕は前とは一つ違う」
「へぇ、まぁ何が違うかは知らねぇけどここで死んで貰うぜ!」
(ここからは『イクサ変身』を聞きながら読むのをおすすめします)
そう言ってファンガイアは腕を振り回しながらこっちに向かってきた。走って勢いをつけてくる。次の一撃で終わらせるつもりだろう。僕は驚いた。この時僕は、一切焦らずに
あと十、呼吸を整える。
九、相手が近づいてくるのを感じる。
八、柄を強握りしめる。
七、雄叫びを上げながら近づいてくる。
六、意識を研ぎ澄ませる。
五、四、三、何も考えずにただ待つ。
二、深呼吸をする。
一、ファンガイアは腕を振り上げる。
……零、振り下ろされる腕を構えていた剣で受け流し、上から剣を振り下ろす。振り下ろされた剣はファンガイアにあたり、ファンガイアはバラバラに砕け散った。そして硝子の雨が降ってくる。このファンガイアを倒すこの一瞬がもの凄く長く感じた。実際にはそんなに時間は立ってないだろう。けれども奴を倒すまでは凄く長い時間の中にいた気がする。……とにかく、勝つことが出来た。あの強敵に勝てたことが嬉しい………が、やらなければいけないことを思いだし、急いで会場内に戻った。
「友希那……」
(ステージ慣れしてるから?いや……FUTURE WORLD FES,に一番思い入れがあるのは、友希那のはずなのに……)
「なに。まじまじ見て」
「いやぁ……なんか、さ。スッキリした顔、してるな一って」
「……そうね。なにも隠さないでいいって、こんな気持ちなのね」
(よかった……。アタシのしたことは、きっと間違ってなかったんだ……)
「リサ………ありがとう」
「そうだねっ☆……って、えっ。……え!?」
「時間、戻るわよ」
「ちょっと……、待って、今……!」
(ダメだって……!よりにもよって今、友希那にそんなこと言われたら余計……っ)
戻ってくるとリサの顔が凄く動揺していた。何があったのだろうか。本番に支障がなければいいのだが。戻ってきたことを紗夜さんに報告すると怒られてしまった。仕方ない、なにせ本番五分前に戻ってきたのだから。次は気を付けると言い、許しを得ることが出来た。
「5分前よ」
「問題ないわ。いつでも行ける。一一……リサ?」
「ヘ、あえっ!?う、うんっ!だ、だだ大丈夫だよ~! ははは!」
「リサ……」
「リサ姉……前から思ってたけど、緊張……」
「し……ってないよ一っ。しってませーーーんっ!!」
リサの誤魔化しによってその場にいたRoselia全員が静まりかえってしまった。
「Roseliaさん、お願いします」
「「「「「はい!」」」」」
全員が返事をし、移動している中、一人だけ俯いている人がいた。
(アタシは経験も、練習室で、圧倒的に足りない……もし、アタシが足手まといになったら、みんなの今までの努力が……)
「ちょっと今井さん。そうやってうつむいてたら、他の人に楽器かあたって迷惑よ……ちゃんと前を向いて」
「前、を……」
(そうだ。ちゃんとこのステージに向き合わないと)
「紗夜、ありが……」
「よしっ! Roselia,行くぞーっ!」
「おーっ!ほら、みんなでやろーよ!」
「「「お一っ」」」
「「やめて、そういうの」」
僕が声をかけるよりも先に紗夜さんが声をかけた。もしかしたら彼女にとっての事実を伝えただけなのかもしれないけど、おそらくリサに影響を与えたのだろう。さっきよりリサの表情が明るくなっていた。そして皆が意気投合してる中、相変わらずお嬢様と紗夜さんは冷たかった。
(ここからは『Re;birthday』を聞きながら読むのをおすすめします)
Roseliaの番になり、曲が始まった。それぞれがそれぞれのやるべきことを忠実に行ってく。けれど、それはいつもと違った。
(なにかしら……この………私……こんなに穏やかな気持ちになったこと……今まで……)
(……なにも考えられなくなっていく……ただ、歌うことが……)
(た、楽しい……!!ウソみたい! アタシ、あんなに緊張してたのに!……このバンド……)
(やっぱ……そうだよ! Roseliaはもっと、もっともっと、カッコイイあこにしてくれる魔法をもってる……!!)
(……歓声も……ライトも……気にならない……わたし……Roseliaでいるときは、すこしだけ……強くなれるみたい……)
皆が皆、ステージの上で楽しそうに演奏していた。それは練習の時よりも笑顔で嬉しそうだった。皆がどんな気持ちなのか僕には分からない。だけど、凄く楽しそうに演奏しているのだけは分かった。その皆の姿を見て僕はとても安心した。
「「……」」
「ちょっとも一二人とも~……相変わらずクールだな一一っ」
「冷めてたらこんなところに来ません」
「そうよ」
「そうですよっ! 紗夜さんも友希那さんも、Wハンバーグ&エビフライ&チキンソテーのプレート、ご飯大盛りデザート付きでいいですかっ? 」
「「……」」
「よしっ! じゃあ六人ともそれでっ!燐子よろっ♪」
「はい……スーパーやけ食いセット……六人前……ですね……」
「え、僕まだ何も言ってないけど」
「えっ、良いよ燐子、そのまま頼んじゃって!」
「……はい…」
レストランに来ている今、周りの人間からすれば結果は良い方に予想できるだろう。しかし現実は違った。優勝どころか入賞することも出来なかった。ステージの上で結果を聞いたRoseliaは驚愕していた。観客も相当驚いていた。Roseliaは今回の有力候補にも関わらず入賞出来なかったからだ。僕も裏で驚いていた。何故あの実力で受かることか出来ないのかが理解できなかった。その後の公表の話しによると意外な事実があった。演奏はとても良く、結成して短い期間でよくここまで出来たと言う。では何故出来なかった。そこには審査員の意図があった。Roseliaには「入賞」ではなく「優勝」で勝ち上がって欲しいという意図が。そして次に期待するという言葉を残して審査員は帰って行った。予想外の出来事に全員が驚いた。そして反省会を行うということで現在、レストランにいるという形にある。
「落選したけど、すっごく褒めて貰えてたしアタシはそんなに悪くないんじやないかって……」
「お待たせしました~!Wハンバーグ&エビフライ&チキンソテーのプレート、ご飯大盛りデザートのセットです~」
「……これって栄養大丈夫なのかな?」
「私は認めないわ……むぐ」
「そうよ。このジャンルを育てていきたいのなら、私たちを優勝させて、もっと大きな活動を……もぐ」
(でも……)
お嬢様達はコンテストの結果に不服そうな顔をしながらスーパーやけ食いセットを口にしていた。あまりにも普通に食べていたので考えることを辞めて僕も食べることにした。食べてみると意外と美味しい。ただカロリーがヤバそうだ。
「むぐ……たしかにすっごい悔しいけど、でもっ、それかどうでもよくなるくらい、あこ……、楽しかった!!」
「あー……ちよっと、わかっちゃう……なあ……」
「わたしも……今まででいちばん……」
皆やけ食いセットを食べながらライブの感想を話し始める。結果は悪かったものの三人は不満ではないそうだ。
「!あ、あなた達っ、なんの為に練習してきたと思ってるのよ……」
「そうよ。Roseliaは自分達の音楽を極めるために……」(私……今まであんなに、お父さんの為にって、思ってたのに……歌っている間、何も考えてなかった……)
「私は……どんなに認められても、父親の立てなかったステージで歌うまでは自分で自分を認められない」
「友希那……」
(ただ……、夢中で、日菜に負けないという一心でやっていた筈なのに、私……)
「そうね……私……あの、なにか私に用ですか?」
「あ、あのっ、もしかしてPastel*Palettesの日菜ちゃんのお姉さんですか?すごい似てるなーと思って……!」
「はい、そうですが」
「きゃーやっぱお姉ちゃんいるってほんとだったんだ。すごーい。あっ、ありがとうございましたっ」
(私は、湊さんと同じ……日菜の存在から、逃げることはできない……)
(友希那がお父さんのことを笑って話せるようになるまで、アタシは……)
紗夜さんがパスパレのファンに対応しているとリサが少し険しい顔をしていた。ライブの前もそうだったが何か悩み事でもあるのだろうか。
「でも、皆さん練習の時よりも楽しそうに演奏していましたよ」
「それはっ………」
「わたしも……やっぱり……このみんなで、FUTURE WORLD FES.に出たいです。……それを目指してきた今までが……とても、楽しかったから」
紗夜さんが答えに戸惑っているとりんりんが声を出してきた。賛同するように他の二人も意見を出していく。
「燐子アタシも……! アタシもまだ、もっとこのバンドをやりたい! だって……楽しかったから!」
(友希那に……そして、紗夜にも、もっともっと、楽しいって思ってもらいたい……から)
「あこ、あこも! なんか今日っ、紗夜さんに言われた『あこだけのカッコイイ』、ちょっとだけ掴めた気がして……そしたら優勝できるんじゃないかって……!」
「思うところは……皆様々だけど……来年もコンテストに出る。そして優勝する。その気持ちは、同じようね」
「……っ……ヘヘっ。じゃあこれからも、みんなでRoselia頑張ろうねっ!なんかあったら、こうやって、ファミレスに来たりさっ!」
「「しないわよ……!」」
意気投合しようとリサが声を出すとお嬢様と紗夜さんが同時に断った。そのタイミングに二人とも驚いていた。正直に言うとこっちがびっくりなのだが。
「たまには良いんじゃないですか?今日みたいに反省会的なあれでも……」
「二度とこんなところに来ないように、もっともっと、これから練習するのよ。無駄に出来る時間はないわ。そろそろ帰りましょう」
「「え一一もうちょっと一一」」
「Roseliaに馴れ合いは要らない。友達ごっこがしたい人は、今すぐ抜けてもらうわよ」
お嬢様はその言葉を言い、笑顔で席から離れてった。
コンテストが終わり、少しだけ日常が戻ってきた。やることはコンテスト前と変わらないけどそれでも平和に戻る。そのはずだった……ある日、僕が見たのは白いライダーと黒いライダーだった。
次は来年になります!是非楽しみにしててください!それでは良いお年を!
壁の色を変えるとしたら?
-
色分け
-
上塗り