青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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少し頑張ったらいつもより長くなってしまった………


第4話 名護さん、お仕事です!

 はい、皆さんどうも名護新一です。今日は弦巻家からお送りしております。いえ、今日は特に用事もなく夕飯の買い物をしている最中でした。目の前が突然ブラックアウトして現在に至ります。

 なんという事でしょう。今目の前に弦巻家当主がソファに座っています。当主という座にいるだけその場で感じさせる空気は普段感じるものよりも何倍も重く感じる。

 しかしながらこの空間にいるのは僕と弦巻家当主の二人しかいない。一体どういう事なのだろうか。

 

「久しぶりだな名護の御曹司」

「お久しぶりです弦巻家当主様。あと御曹司はやめてください、もうその立場ではないので」

「それはすまない。では名護君と呼ぼう」

「ありがとうございます。それで、今日はどの様な御用件でしょうか。当主直々など只事ではない(・・・・・・)とお伺いしますが?」

 

 質問を投げつける様に聴くと当主は難しい顔をして背を屈める。それほどまでに何か問題が起きたのだろうか。

 

「ああ、これは極秘にして貰いたい」

「畏まりました」

「この資料を見てくれ」

 

 そう言って差し出してきた茶封筒を受け取り、中身を確認してみるとホチキス留めされた資料が二つあった。片方は施設についての説明書の様なもの。もう片方はそこの社員だろうか。履歴書と写真が全て付属されていた。

 こういったものを渡されるのは久しぶりだ。嫌な予感しかしない。

 

「これは………」

「突然だが、君の実力を見込んで依頼したい。任務内容は組織の討伐だ」

「申し訳ございません、こういうのは本来名護家の仕事ですのでそちらに回して貰えれば」

「その名護家が手をつけられなかった場合は?」

「ッ!」

 

 断りの言葉に食い気味に入ってきた言葉それは信じられなかった。今は別の人が当主を務めていて、その人なら必ずやってくれる事のはずなのに何故手を出せていないのか。謎に包まれている。

 

「一体何が起こっているのですか?」

「それについてはこちらも捜索中だ。ただ、この組織は二十四時間循環しており麻薬の製造や人体実験を行なっている」

「…弦巻家は犯罪とは関係ないはずでは?」

「いや、この件に関しては弦巻家どうこうの問題ではない。この街にその様な組織があることが問題なのだ。娘が住む街にこんなものは要らないからな」

 

 その目は曇りなく真っ直ぐにこちらに見つめている。娘を思う父親なら当然のことなのだろう。しかし疑問に思うことがある。

 

「何故黒服(ここ)の人を使わないのですか?今の僕よりかは強いと思いますが」

「それは私の好奇心だ。《朱雪の執行者(スノー・クリムゾン)》と呼ばれていた名護新一の実力を見たくなったのさ」

 

 《朱雪の執行者》という名前を聞いて絶句した。その名前を出されるのは数年ぶりだ。正直もう二度とその名前を聞く事はないと思っていた。

 《朱雪の執行者》────僕が名護家の執行部隊にいた頃に付けられた二つ名だ。どこの誰が言い始めたかは知らないけどそんな名前がある日を境に付けられた。周りの噂によると地域によるが僕が仕事を終えて外に出ると必ず雪が降るからとか、付けている仮面に付いた血が雪の結晶に見えたからだとか色んな説があるがそんな厨二病みたいな名前をつけないで欲しいよね。

 執行者として活動していたからこそその名前がある。そして今、執行者として依頼されている。どんな理由があって名護家が手を出せていないのか、それを知る理由は無い。

 だって僕はもう名護の人間じゃないから。

 

「それに今回はいつもとは別に報酬を用意しよう。一千、いや二千万だそう」

「お金に関しては結構です。僕はお金目的では無いので……と言いたいところですがこれは仕方ないことなんですよね」

「そうだな。では追加で数ヶ月分の日曜必需品の支給を」

「ありがたく受け取らせて頂きます」

「(本当にチョロいな、名護の御曹司………)」

 

 別にお金が欲しいわけではない。かといって日用品に目がくらんだわけじゃない。うん、そこだけは否定いさせていただく。

 話が終わり、解散という形になった。本日23:30より作戦を開始。作戦メンバーは僕一人、つまり単独作戦だ。二十三時ならばお嬢様も寝ている時間なので心配することはない。そして、武器や装備などは自分で用意していいとの事。無ければ弦巻家が貸してくれるという話だがその必要性は無い。帰れば装備は揃っている。

 部屋を出ると黒いスーツにサングラスをかけた人が待っていた。どうやら家まで送り届けてくれるらしい。ここにくるまで買い物をしていたことを伝えると手に持っていたビニール袋を差し出してきた。中身を確認すると今日買おうとしていたものが全て入っている。しかし驚くことにあの時点では入っていなかったあものまで入っている。教えていないはずなのになぜ今日買うものがわかったのか。恐るべし弦巻家。

 黒い車に乗せられ自宅まで送り届けられる。今日快斗君はどうしたのかを運転手の人に聞くと今日は非番なんだとかで休みらしい。やはりあれだけの人数大勢いでいるとシフト制などに変わるのだろうか。かといってこっちには文句はない。休みはほぼ無いが普通の生活を遅らせて貰っている。家事は好きな方なので問題は無し。

 自分の仕事を考えているうちに家に着いたらしい。下りる時に二十三時に迎えにくるかどうかを聞かれたが資料の場所には一人でも向かえるので断っておいた。

 とりあえず家に入って家事でもしようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 時刻は二十二時半。お嬢様は自室にこもっている為この時間になると自由時間の様な状態になる。自由時間といっても家計簿つけたり漬物つけたりしているので家事していると言っても過言ではないが。

 だが今日はそんなことしている場合ではない。早速自室へと向かう。普通の高校生の部屋をしているとは思うが基本的には勉強と睡眠、着替えのためにしか使用してないので生活感がありますかと聞かれると答えづらくなる。

 部屋の中にあるクローゼットの前に立ち、扉を開ける。そこに掛けてある仕事着を掻き分けておくにある取っ手に手をかける。それを掴みながら横にスライドさせると中に一着の白いコートとベスト、ネクタイ、ズボン、黒いワイシャツ、ベルトが掛けられているハンガーがあり、その横にガンホルダーと紫の布に包まれた長い物体がある。すぐにそれに着替えてガンホルダーを装着し、長物を背負う。そして一番奥に隠されている白い楕円形の面をつけて着替えを終わらせる。

 時刻は二十三時を示しており、ちょうどいい時間なので静かに部屋を出て気づかれないように家を出られる様にする。幸いお嬢様に気づかれることなく家を出ることに成功した。この姿を見たら言い訳できなくなってしまうからね。家を出た瞬間走って移動を開始する。暗い道を誰にも見られないように走り去っていく。目的地の近くに着いたときには作戦開始十五分前だった。早すぎたかと思うと近くに今日乗った黒いい車が止まっていた。車に近づき窓をノックすると昼間の黒服の人がいた。話を聞くと特に変わった情報はなくそのまま作戦を実行しろとのこと。当主からの伝言も変わっておらず、《朱雪の執行者》の実力を見せてもらうとのことだった。だがしかしワイヤレスイヤホンの様なものを渡された。緊急時はこれで連絡するらしい。

 時計をみるともう少しで開始時刻だ。深呼吸をして心を落ち着かせる。やる事はあの時と変わらない。敵対するなら殺さずに無力化させる、敵対しなければ保護する、手に追えなければ最悪殺してでも治める。そして組織の長は吐かせるだけ吐かせて殺す。それだけだ。大丈夫。人殺しはもう馴れている。仕事の時は無情に冷静にすれば良いだけ。………よし、感覚は戻ってきた。今からの僕はただの執行者。ただ従前に仕事を成す。

 時計から23;30を知らせる合図が聞こえてくる。その瞬間地をかけた。正面から入っていき施設の中を確認する。資料で見たものと変わらない。なら、上の空間はただのハリボテなので地下に続く階段へ走っていく。階段を降りた先に広がったのは研究所を象徴するかのような廊下だった。ゆっくり慎重に歩いていくと研究員らしき男に出くわす。その男が声をあげようとした瞬間に手で口を押さえて物陰へ引きずり込む。必死にもがいているがこの男の力ではどうすることも出来ないだろう。

 

「質問です。答えなければ殺します、いいですね?」

 

 男は抵抗するのをやめて目尻に涙を浮かべながら黙って頷く。

 

「イエスなら頷き、ノーなら首を振ってください。貴方はここの研究員で間違いないですね?」

 

 男は黙って頷く。

 

「ここは麻薬を製造し、人体実験を行なっていると聞いています。間違いないですか?」

 

 男は黙って頷く。

 

「その実験は麻薬によるものですか?それともまた別のものですか?」

 

 男は頷くことも首を横に振る事もなかった。

 

「沈黙を貫くなら貴方の足を折ります。言いたいことがあれば三秒だけ手を離してあげますからそこで話してください。逃げようとしたら捕まえて首を折ります」

 

 男の顔は青ざめている。無理もないだろう、突然捕まって脅されているわけなのだから。今から三秒だと言って手を離す。男は息苦しさから解放されたように空気を吸い、こちらを見てくる。声を震わせながら話し掛けてくる。

 

「実験は…麻薬ではありません」

「では改造ですか?」

「いいえ………ガイアメモリのです」

「そうか………貴方はこの実験に賛成ですか?」

「いっ、いえ、私は無理やりこんな事をさせられていて、もう辞めたいんです………」

 

 男は床に手をつけながら涙をこぼす様に言う。この人は保護の対象か、そう判断しようとした瞬間だった。一瞬だが男の顔が笑っていた。やはり無意味だったかと男の腕を持ち上げてパキッと折る。男は自分の腕を確認すると騒ぎ始めた。

 

「ああああああああ僕の腕がああああああああ!!!!」

「ああ、あと一つ。今日ここの所長はいますか?」

 

 質問をしても男から返事は返ってこない。男はずっと自分の腕見て悲鳴をあげている。使えなければ意味をなさないのでその場を後にする。一応弦巻家に連絡を入れて応急処置セットを用意してもらう。精神的な方は弦巻の方で見てもらうことにしよう。走っていくと研究室がいくつも見えてくる。使われていないものがほとんどだったが使われているのもあって、中の様子を見てみると白衣を着た男が何人もいてパソコンと向き合っていた。さらに奥を覗くとガラスの板が貼ってあるのを確認する。仮面の機能にあるスコープ機能を使って拡大してみると鎖に繋がれた人がメモリを挿し込まれていた。つまり今目の前でメモリの実験が行われている。しかし、それを見てすぐ動くわけではない。もう少し周囲を確認するとやはり武装した人間が数人いた。すぐに最適な戦闘方法を探り出す。作戦をたてて研究室に身を乗り出す。

 まずは白衣の男たちに近づく。気づかれないように近づき後ろから催眠ガスを仕掛ける。男たちはすぐに眠り椅子から崩れ落ちた。異変に気づいたのか武装した人が一人入ってきた。隠れて背負っていた長物を取り出す。こちらに気づいてないことを確認した瞬間長物から刃を抜刀して背後を切り裂く。殺さない程度に深く切り裂いた。倒れた音に気付いたのか残っている武装人間がこちらに向けて銃を撃ってくる。弾丸を避けながら接近し、腕を切り落とす。片方の腕を斬り落とされた武装兵はうずくまっている。

 

「しばらく寝ていなさい」

 

 二人に対して催眠ガスを放つとすぐに眠ってしまった。まぁ二人とも腕を切り落とされただけだし失血死はしないだろう。ショック死はあり得るけど。そこら辺もあの人たちに任せますか。

 鎖で繋がれている実験体と思わしき生物を斬り裂いた。運が良かったのかその姿はすぐに人間に戻りメモリは転がっていった。被験者は気絶しており、気づかれる事はなかった。転がったメモリは回収しておく。おそらく何かに使える。または戦利品として弦巻家に提出しておこう。

 それからは同じことをずっと繰り返していた。抵抗せずに降参するものは催眠ガスで、抵抗する人は斬ってでも無力化。騙してくる者は痛みを教えてから無力化。それを続けていた。

 しかし厄介なのはまだ最下層が見えてこないことだ。おそらく今回の目標(ターゲット)はそこにいるのだが一向に見えてこない。

 だが、状況が一変する。通路全体が赤色に染まる。警報ランプが光だし音が聞こえ始める。穏便(?)にことを済ませていたはずだがいつの間にかバレてしまったのか。

 突然イヤホンをつけている耳元でピコンピコンと音が鳴り出す。イヤホンのスイッチを押してみると声が聞こえてくる。

 

「名護様、無事ですか?」

「はい、こちらは問題ありません。しかし敵にバレた可能性があります」

「そちらについては問題ありません」

「どういうことですか?」

「どうやら新たな勢力(・・・・・)が侵入した様です」

「わかりました、警戒を強めます。何かわかればまた情報を伝えて頂けると助かります」

「かしこまりました。ご武運を」

 

 黒服の人との通信を終えると僕は走り始めた。他の勢力が参戦したとなれば早々に決着をつけなければならない。それが敵だった場合、大乱闘になるから。

 見えてきた角を曲がった瞬間銃撃が迎えてくる。僕は銃撃を回避しながら物陰に隠れる。相手は飛び道具に対してこっちは近接武器。圧倒的に不利だ。さっきは距離出来な問題位でどうにかなったがこんな回はそうもいかないだろう。なかなか銃撃は止まらない。なるほど、二人で組んでるからか。片方が銃を乱射している間にもう片方は弾を入れている。二段構え…考えられてるな。

 

「ヘイヘイ!そんなんじゃ死んじまうぜ、出てこいよ!」

 

 武装兵たちが近づいてくる音がする。どうやら隙を与えずに殺しに来るらしい。それに声の調子からして殺すのを楽しんでいる様に聞こえる。ゲームのやりすぎでは無いのだろうか。本当なら生かして殺すことの本当の意味を教えたいところだが今はその判断はできない。時間もないから。だから判定する。手遅れの者(・・・・・)と。

 

「坊や、かくれんぼは終わりだぜ!」

「じゃあ、この遊びも終わりですね」

「は?」

 

 こちらに向かって銃を向けた武装兵は笑っていたがその顔も一瞬で崩れる。銃を向けられた瞬間しまっていた刃を引き抜いた。兵が自分の体に気づいたのか自分の体を見た瞬間脇腹から右肩にかけて一筋の朱い線が入っていた。僕は立ち上がってその人の横を素通りすると血が噴き出る音が聞こえてきた。隣の男は前のめりに倒れ、血の海が出来ていた。サイズ的には池かもしれないけど。もう一人は怯えるようにこっちに銃を構えたが一歩遅かった。構えた瞬間には僕は目の前にいて刀を肩に当てていた。

 

「ゆ、許して…ください………」

「それを決めるのは僕じゃない」

 

 泣きながら許しをこいてきたがそんなのは関係なかった。僕はそのまま勢いに任せてまた一人殺した。刀に付いた血を振り落とし、納めた瞬間、少し離れたところで天井が崩れた。敵かどうかわからないので抜刀の構えをする。土煙が晴れるとそこにはでかいロボットの様なものと体全体が黒く染まり、顔を一枚の布のようなヘルメットで隠している人の姿があった。その人らしきものは肩に大きな鎖鎌を乗せており、立ち姿が堂々としていた。

 

「ふー、少し大変だったな」

「隊長無事ですか?」

「おーこっちは平気だ、降りてこい」

「「「御意!!!」」」

 

鎖鎌の人は上に向かって手のひらでこっちに来いと合図していた。すると、似た様な姿の人たちが三人降りてきた。それぞれが剣、ハンドガン、槍といった武器を手にしており、ところどころ血がついているあたりから別ルートで入ってきたと思われる。そのうち一人が気づいたのかこちらにハンドガンを向けてきた。

 

「そこの者、そんなところで何をしている」

「貴方達こそ何者ですか?」

「こちらの質問が先だ。何をしている」

 

 向こうが光の真下であり、こちらは暗い場所にいるためか向こうからは見えないのだろう。だからこちらの装備も見えない。敵かどうかを確認するためにも動くしか無いか。そう思い、僕は小グループに近づいていく。

 

「止まれ、さもなくば撃つ」

「構いませんよ、ですが私はあなたたちの敵では無いことを確認しなくていいのですか?」

「クッ……!」

「落ち着け。おいお前、姿を見せろ。少しばかりおしゃべりしようぜ。互いに手を出すのはそれからでもいいだろ」

「そうですね」

 

 彼らのいる近くにまでくると僕にも赤いランプの光が映し出される。僕の姿を見た鎖鎌の人は大きくため息をついた。すると鎌を下ろして楽な姿勢を取る。

 

「ったく、こんなところで何やってんすか《朱雪の執行者》様………いや、坊ちゃん(・・・・)

「その声、伊達さんですか。お久しぶりです」

 

 目の前の武装兵はマスクのボタンを押して顔部分を晒すようにマスクを開いた。その顔はよく知っている顔だった。執行部隊にいた頃世話になった人の一人であり、忠実な部下だったものの一人。伊達 彰弘(だて あきひろ)だ。彼は大きい武器を使う戦法が得意だったことから鎖鎌がここにある理由も納得できる。

 

「お久しぶりです坊ちゃん。もうあんたは名護の人間じゃ無いのにこんなところで何やってんすか」

「そこに関しては諸々事情がありまして…あ、本職はこっちじゃありませんよ」

「ならオッケーです。それで、わざわざ朱雪の執行者(その衣装)着て何が目的ですか?って聞く必要もなさそうっすけど」

「その喋り方、相変わらずですね。ですが目的は多分同じですよ。よければ情報をいただけますか?」

「構わないっすよ」

「あ、あの隊長その人って………」

 

まだマスクを解いてない三人はおどおどしていた。この時点で絡んで無いという事は僕を知らないということだろう。その様子を見た伊達さんは僕に後ろ姿を見せて話し始めた。

 

「お前ら運がいいぜ。この方はかつて我らが名護家の当主を務め、執行部隊にも所属していた伝説のお方。名護家元当主、朱雪の執行者(スノー・クリムゾン)こと名護新一様だ」

「えっ、じゃあこの方があの伝説の⁉︎」

「スノー・クリムゾンって実在してたんだ……」

「やっ、ヤベェよ本物だ………」

「皆さん落ち着いて下さい、あと伊達さん変に盛り付けないでください」

 

 事実しか言ってないけど魔王降臨の様に話すの辞めてもらえないかな。少し恥ずかしいし。伊達さんのこういう時のテンションは相変わらずだな。その性格ゆえか、当主を務めていた当時、部下の中では気軽に声をかけてくれたっけ。

 

「でも、それだけ坊ちゃんは大物なんすよ」

「はぁ………」

「あの、サインもらっていいですか?」

「あっ、ずりぃ!俺もいいですか!?」

「わっ、私も!」

「だめだお前ら」

「そんな、隊長!」

「どうしてですか!」

「俺が先に決まってんだろ!」

「何言ってるんですか伊達さん、そんなことしてる場合じゃ無いでしょう」

 

 え?という顔をしていたがそんなことをしている場合では無いのだ。時間は刻一刻とすぎていっている。咳払いをして話を戻すことにした。ちなみにサインの件に関してはこの仕事が終わってからすることを伝えると元気な返事が返ってきた。

 話によるとどうやら名護家もここの本当の情報に気づいたらしく。急遽この任務が決定したらしい。今のところ伊達さん達が通ってきたルートだとロボット兵が多かったから血はついていないんだとか。でも少しはやったらしい。そしてこの階層から目標のいる部屋に通じる隠し通路があるらしくそれを教えてもらった。だが既にそこに向かっている名護の者がいるらしい。その人物については教えてもらえなかったが、隠し通路までは案内して貰った。道中敵対してきた者がいたが伊達さんと伊達さんの部下が優秀だったおかげでなんなく進む事が出来た。流石に人も多く出てきたおかげで殺人も免れなかったが血はそんなにつかずに済んだ。その姿を見られたからか称賛の声が聞こえてきたが無視した。時間が勿体無いしね。隠し通路に着くと伊達さん達は保護と捕縛の作業に移るらしくここで解散になった。終わったら建物前集合になった。サインの件忘れてなかったんだ………。

 通路を進んでいくと少しだけ広い空間に出る。目の前には扉が一枚あり、後ろを振り向くとエレベーターがあるのがわかる。扉の先に警戒しつつ勢いをつけて開けると部屋の中には顔を知っている二人のスーツ姿の男の人がいた。片方は机に手をついて立っており、もう片方は椅子に座っていた。二人はこっちをみると座っている方は顔が青ざめていった。

 

「どうしてあなたがここに………」

「なるほど、こういうことでしたか」

「…なぜここに君がいるんだい、当主いや、新一君」

 

 青ざめている方は名護家の研究員の一人である渡部 公太(わたべ こうた)、当主と言った方は現名護家当主霧切 仁(きりぎり じん)だ。

 

「《執行者》として仕事を依頼されたんです」

「君も不幸…いや、我々の失態か」

「そうかもしれませんね。でもその失態の原因もわかった気がしますけど」

「では聞かせてもらってもいいかな?」

 

 興味を抱いているのかそれとも不本意ながら聞いているのか分からない表情をする霧切さんは問いを聞いてくる。だがその前で怯えている様な姿勢を見せる渡部がいた。すでに本人たちはわかっているのに説明する必要などあるのだろうかと考えつつ刃を納める。歩きながら霧切さんの元に向かい推理を語り始める。

 

「まず何故こんなところに霧切さんたちがいるのか、からですね。それはここが『いずれ排除しなければならない脅威』として認定しこの工場を破壊しに来たからです。それは名護家として当然のことですので仕方ありませんけどね。

 次になぜここに渡部さんがいるのか。それはここが実験場だから。名護家の研究員の中で研究というものに一番熱中していたあなたにとって人体実験というものは最高のご馳走そのものでしょう。あの時(・・・)も自分から率先していましたよね。それができるここはあなたにとってはうってつけですよね。

 そしてここが1番の謎でしょう。なぜ今日まで名護家がここの存在に気づかなかったのか。その理由はこの場を見ると簡単に予想できます。ここからは完全な推測ですが、もし渡部さんがまだ名護の人間なら簡単にできますよね?報告する人間さえ買収して仕舞えば、此処の存在を露呈せずに済むんですから。買収した人には嘘の情報を流してもらいあなたはここでやりたいことをする。勿論、買収した人には多額の報酬を支払ってね。それによって両者はwinwinの関係によって成り立つわけですよ。そしてここ最近情報役の人が誰かに怪しまれ、取り押さえられてバレてしまったというわけでしょう。因みに取り押さえたのは橋下さんと予想していますが、どうですか現当主様?」

「お見事、さすがは新一君だ。橋本さんというところまで見抜くとはね」

「彼はそういうところで敏感ですので」

 

 賞賛するように手を叩く霧切さんとは正反対にさっきよりも一層青ざめている渡部さん近づいていく。机に勢いよく拳を置くと渡部さんは跳ね上がって怯えていた。

 

「それで、そこまでしてあなたは何をしたかったんですか?」

「た、た、ただの麻薬実験ですよ!」

「嘘はつかなくていいですよ、証拠品も出てますから」

 

 ポケットからメモリを取り出し机に叩きつけるとまるで世界の終わりみたいな顔をしていた。だが表情が変わったのは渡部さんだけでなく霧切さんもだった。

 

「それはっ!何故それをキミが研究している、渡部!」

「霧切さん、あなたもこれを知っているのですか?」

「ああ、それは園崎が作り上げた『ガイアメモリ』の複製遺品だ。それに関する情報は園崎が全て持ち去っていったからなかったのに………なぜお前が持っている⁉︎」

「失礼霧切さん、園崎さんは今そちらにいないのですか?」

「ああ、君が抜けた数ヶ月後に彼らは名護家の三分の一を引き連れて消えていった。跡形もなくな」

 

 園崎さんとは名護家の研究員を率いていた人であり、頭脳明晰、研究では必ずと言っていいほど予想以上の成果を上げていた。かなり優秀な人だったのでこういうものを作れてもおかしくはなかったのだろう。しかしそれに関する情報を全て持ち去るとは一体どういう風の吹き回しだ?この状況から考えられることは一つに絞れてくるが今はそんなことより目の前の目標だ。なんたって今回の主犯が目の前にいるのだから仕事をしなくちゃいけない。

 

「なるほど、つまりあなたはもう名護の人間ではない(・・・・・・・・・)ということですね」

「………まさか!?」

「ええ、そのまさかです。彼はもう園崎の手下というわけです。いつからかは分かりませんが目の前にいるのは確実な裏切りものだということですよ」

「くそっ…!何でよりによって元当主がここに来るんだよ………」

「それに関してはあなたの運が尽きたとでも言っておきましょうか。それでは貴方にはここで終わりにしてもらいましょうか」

 

 ホルスターから銃を抜き出し渡部さんの額に当てると当てられた本人は絶望した表情を見せた。

 こんなことに手を出さなければまだ価値はあっただろうに。

 引き金に指をかけると霧切さんが手で制して来る。

 

「何のつもりですか、霧切さん。これは僕の仕事なのですが」

「ああ、だがこいつはうちで引き取らせて貰う。聞きたいことがまだあるのからな。もし今すぐにでも殺したいというのなら俺らを敵に回すことになるけどいいのか?」

 

 霧切さんは軽く脅してくるがその表情は賭けに出ているような表情だった。

 全く、この人は頭がいいのにどうしてこんな無謀な賭けをするのだろうか。仕事モードの僕ならあなたたちに負ける事は無いというのは分かりきっているはずなのに。

 

「………わかりました。ただし条件があります。この件で分かったことを弦巻家にも回してください」

「どうしてそこでかの有名な家の名前が出てくるんだ?」

「あなたなら答えを聞かなくてもわかるでしょう?とにかく弦巻家と連携をとってください。きっと悪い様にはなりません」

「ああ、わかった。君がそこまで言うのならそうしよう。じゃあ拘束するのを手伝ってくれ」

 

 取引が成立して渡部さんを縄にかけようとすると後ろから一瞬だが殺意を感じた。すぐに風を切る音が聞こえてくる。霧切さんを抑えて地面に伏せるとすぐ近くで鈍い音がした。その音の方向を見ると胸に矢の刺さった渡部が口から血を流していた。後ろを確認するとすでに殺意が消えているどころか誰もいなかった。そして渡部さんに何度も声をかけたが反応はなかった。

 

「おい渡部!どういうことだ………」

「なるほど、使えなくなった駒は捨てるに限るですか」

「………そういうことか」

「はい、おそらくここが襲撃されることを把握してこの事態に備えていたんでしょう。だから渡部さんは殺された。少なくともここで僕たちができる事はもう無いでしょう。あとは処理班に任せるのが一番じゃ無いですか?」

 

 霧切さんは苦虫を潰したかの様に返事をして部屋を後にした。僕もそれに続いていく。別に目の前で人が死んだからどうこう言うつもりはない。この仕事をやっている限りは『この人はこういう運命だった』で片付けるしかないのだ。それに祈ったって死人は甦らない。道中で霧切さんは連絡を取っていた。おそらく処理班や執行隊との連絡だろう。

 通路を通って地上に出る。すると空はまだ暗く星が数個輝いていた。あたりを見回すと何の変哲もないただの市街地だった。まさか地下で人が何人も死んでるなんて思わないだろうな。歩いて弦巻家の車の元に戻ろうとすると声を掛けられる。どうやら伊達さん達みたいだ。結局サインの件は忘れていなかったらしい。

 

「坊ちゃんお疲れ様です」

「「「お疲れ様です」」」

「お疲れ様です。すみません、ペンをいただけますか?生憎、今ペンを持ってないので」

「それなら問題無いっすよ」

 

 そう言って伊達さん達は懐から色紙とペンを取り出す。いったいどこから持ってきたのか。まさか戦場に持って行ってないよね。まぁそれはないか。

 

「では皆さん名前お願いします」

 

 一人一人名前を聞いてサインを書いていっている。こういう形でサインするのは初めてだが名前を聞いて書いていると何だか点呼をとっているみたいだ。銃を向けてきた人は前田千秋、剣を持っていたのは池波修斗、槍を持っていた人は相田美鈴という男二人に女一人という構成だった。それぞれに書いた色紙を渡すと皆喜んでいた。そんなに有名人なの?僕。ちなみに伊達さんは他の三人より喜んでおりその場で一番子供っぽかった。

 

「伊達さん、この人たちは最近入った人ですか?」

「そうっす、こいつら新人の割にはスペックが高いんで早めに戦場に出してるんすよ」

「なるほど、ちゃんと育ててあげてくださいね。貴方、たまに雑なところとかありますから」

「やだなぁ、言われなくてもわかってますって」

 

 それじゃあと後ろを向いて立ち去ろうとすると大きな声で感謝の言葉を言われる。それに対して手を振って答えるとキャーキャー騒ぎ始めていた。一応夜中だからもう少し静かにしてほしいよね。

 全てが片付き車に近づいて窓をノックすると黒服の姿が現れる。これにて今回の任務は終了だという。だが報告しなければならないことがあるので弦巻家投手に電話を繋いでもらえるか確認を取る。確認の時間はさほど取られずすぐに車に乗り込み自宅に送ってもらいながら連絡を取る。名護家が介入したこと、園崎のこと、ガイアメモリのことを報告するとすぐに事情をわかってくれた。ついでに名護家が干渉するかもしれないと伝えておくとすぐに「君がやったのだろう」と返された。さすがは弦巻家当主、これくらいのことはすぐにお見通しというわけだ。ついでに名護家の介入は予想してたか聞くと向こうにも予測できてなかったらしい。その言葉が本当かどうかはわからないが。証拠の品はあなたの手下に渡すと伝えると感謝と労いの言葉を渡されて通信は終わった。ちょうど家に着いたのでお礼を言って車を降りるとすぐに黒い車は消えてしまった。

 家の中に入ると全ての電気が消えており静かな空間となっていた。部屋に入るとやはり殺風景な景色が広がっていた。服を脱ぎ、洗濯物などの処理を終わらせて今日を終えることにした。




新一君の異名考えるのに三時間使い果たしたという話があったりなかったりするんですよね。
あれ、おふざけって何だっけ

壁の色を変えるとしたら?

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