駅を出てきた僕たちを待っていたのは駅前のターミナルにあった黒いリムジンだった。皆が唖然としていた。当然僕も驚いている。リムジンには驚いていない、その前に立っている橋下さんの姿に驚いている。ツアーのガイド兼運転手とでも言いたげな服装に三角旗みたいなものを持っている。こうなったらあれだ、申し訳ないけど無視しよう。
「ねぇりんりん、あの車凄くない!?」
「すごい……ね………」
「あれ、新一どこ行こうとしてんの?」
「え、僕たちの行先はこっちだよ?」
「その通りですがあそこにツアーの人がいますよ」
「確かにツアーみたいなのが当たったとは言ったけどあれは聞いてないから多分違うよ」
荷物を抱えたまま早歩きで移動しようとすると橋下さんから声がかけられる。しかもいつもの落ち着いた雰囲気と違ってかなり陽気な感じで。
「皆さーん、ようこそいらっしゃいました〜!ご予約の名護様御一行様ですね?」
「いえ違い「はい、あってます」………………」
「名護さん、あってましたよ」
「確認が取れましたのでこの車に乗ってください。快適なクーラーが待ってますよ!」
「やったー。クーラーだー!」
「ちょっと宇田川さん!もう少し行儀良くしてください!」
「子供は元気なくらいがちょうどいいです!あ、荷物はこっちにお願いしまーす!」
あこちゃん、紗夜さんと乗っていくので皆リムジンに乗っていく。仕方ないのでお嬢様たちを乗せて出発しようとすると橋本さんが「運転席が見える窓側にいてください」とこっそり伝えてくるのでそれに従う。中は予想以上に広いので皆自由に座っていた。指定席は問題なく空いていたのでそこに座り込む。車が動き出すと同時にお嬢様達はこれからの予定などを確認し始めた。その様子を見守っていると橋本さんから声をかけられた。
「飲み物を用意した。運転中故渡していただけるだろうか?」
「構いませんがこの事態に説明求めます」
「主があの場所を使うと聞いたからな。今までの恩を返しているといったところだ」
「そんな…僕の方が色んな恩を受け取っているのに」
「いや、俺は主には返しきれない恩がある。もし嫌ならただのお節介だとでも思ってくれ」
「……納得はいきませんが今回はそういうことにしておきます。ですがもう僕に縛られないでください」
「それは考えておこう」
いや、考えておこうじゃないから。ただでさえ助けてもらいっぱなしなのにその上に重ねていったら僕の罪はいったいどうなるんだ。僕は貴方達を捨てたのに。
「主よ」
「なんですか?」
「俺たちのところから離れたのは確かに残念だ………だが気にするな。少なくとも俺とあと二人は恨んではいない。それにいつか戻ってくると思ってる」
「………そうですか…ありがとうございます」
「気にするな」
気にしないことはできない。橋本さんはああ言ってくれたけど少なくとも恨んでる人はたくさんいるはずだ。けどその人たちのことも忘れずに今も生きている。だからこの音は絶対に忘れちゃいけないんだと思う。
車のスピードが落ちてきた。外の景色を見ると見たことのある景色が見えた。どうやら目的地に着いたらしい。車が完全に止まると橋本さんが降りてこっち側の扉を開いてくる。
「到着しました。それでは皆さん三泊四日の旅をどうぞご満喫くださいませ!」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
会釈をすると橋下さんは手を振って車に乗り込む。その後車は遠くに行き、見えなくなっていった。後ろを振り返ると普通の家よりも大きなコテージがあった。その姿はあの時と何も変わってない、なのに感じる何かは違う。不思議な感じだ。預かった鍵を使って扉を開けるとそこもまたあの時と変わらない風景があった。生活に必要なものが全部揃っており、部屋なども客用として対応できるようにしっかり片付いている。他の部屋も見てみると運んでおいてもらった(当時は橋本さん達だとは気付かなかった)ドラムとキーボードがスタジオ部屋に届いていた。ていうかこんな部屋あったっけ。あの時使ってなかったから気付かなかったのか。
「りんりん見て!あこたちのドラムとキーボード届いてる!」
「うん……良かった……」
「これなら問題なく練習ができそうですね」
「ええ」
それから他の部屋とかも確認していく。少しして皆がリビングに集合すると軽くこれからの予定を確認する。
「それじゃあ皆、各自部屋を決めて昼食を取ってから練習を始めましょう」
「賛成です」
「OK⭐︎」
「りょーかいです!」
「わかりました……」
「それじゃあ昼食の準備をしますね」
「あ、新一」
「どうしたのリサ?」
「新一の荷物運んどこっか?」
「ああ、ううん、大丈夫。後で自分で運ぶから大丈夫だよ」
「わかった」
皆が自分の部屋を決めて荷物を置きに行く。さて、冷蔵庫の中身はどうなっているかな。あの人の事だから中に何か入っている様な気がするけど。リビングから移動してキッチンの冷蔵庫の前に立つ。さあ、オープン!
「………………」
冷蔵庫の中身は予想通り中身が詰まっていた。しかも栄養バランスがしっかり整っている。戸棚の方も見てみると色々調味料とかもあるのがわかる。冷蔵庫の扉を閉めると紙が貼ってあるのがわかる。文字を読んでみると余った食材はそのままにしておいて構わないと書いてある。どこまで準備がいいんだか………今度何か持ってかなきゃ。
さて、昼食だ。手軽にサッパリさせるためにもそうめんにしておこう。エプロンをつけてそうめんを作り始めると足音が聞こえる。
「新君……何か手伝う………?」
「大丈夫だよ、今は休んでて」
「何か………あったら………呼んでね………」
「うん、ありがとう」
やっぱり優しい子なんだよねりんりんは。手順は簡単なので順調に進んでいく。麺が茹で上がり、さらに盛り付けて完成する。完成したので皆を呼んで昼食を始める。ちゃんと作れたからか皆美味しいと言ってくれた。昼食が食べ終わって片付けを始めた。他の人たちは予定通り練習部屋に入っていった。この時間の僕の予定は部屋に荷物を置いて各部屋の設備を点検することだ。まずは自分の荷物を置いて自分の部屋から確認していこう。そこから効率的に動くべきだろうな、時間も限られていることだし。
自分の部屋の扉を開けるとここも変わっていなかった。あの時は少人数での任務だったからこうやって振り分けられたけど大人数だったらこうはならなかっただろうね。荷物を置いて部屋を見回してみる。ベッドにクローゼット、机に椅子、ある程度のものはきちんと備わっていた。だが奇妙なことにその場にないはずのものがあった。窓の近くに置いてあるものに被っている布を取ってみるとそこには以前使っていたヴァイオリンが置いてあった。多分橋本さんの仕業だろう。あの場所を出ていくときに置いていった物なのに何故持ってきたのか。ヴァイオリンを持ち上げると下に紙が落ちているのを見る。拾い上げてみると差出人は橋本さんだった。
『これは主のものだ、だからここに置いていく』
全く、あの人はお節介が好きだな。よく考えれば名護家の人で部下だった人達は皆お節介だったな。そんな僕も人のこと言えないけど。とりあえずこれはここにおいておこう。後でどうするかは決める。そして僕は他の部屋の設備点検へと向かった。
設備に問題はなく、数日過ごすには快適すぎるという事がわかった。時間もちょうどいい感じだったので夜ご飯の準備を進めていると皆が戻ってくる。
「疲れたぁ〜」
「ふぅ、いい汗かいた〜」
「皆お疲れ様。もう少しで晩御飯できるから休んでて」
「名護さん、私も手伝います」
「あっ、アタシもやるよ」
「もう少しですから休んでて大丈夫ですよ」
「そういうわけにはいきません。私達も本来やらなければならないことですから」
「そう………いうものなのかもしれませんね、でしたらお箸と調味料をお願いします」
「わかりました」
紗夜さんはこういう時、頭が固すぎる気がする。もう少し楽に考えていいのにな。これが僕の仕事みたいなところもあるし。
「新一、アタシは?」
「リサは……そうだね、後でお皿運んでもらうから待ってて」
「りょーかい⭐︎」
そうこうしているうちに料理は出来上がり、食卓に今日作った物全てが並んだ。
「すっごーい!すごいよりんりん、夜ご飯がいっぱいだよ!」
「う、うん……凄い………よね………」
「運んでて思ったんだけどさ、新一って相当料理できるよね?」
「これくらいできないと執事なんてできないよ?」
「湊さんはいつもこんな料理を…」
「流石にここまでのクオリティはないわ。張り切っているのかしら」
「そうですね、お恥ずかしながら少しだけ張り切ってしまいました」
「これが少し………」
「あ、皆さん食後にデザートもありますよ」
「そんな事までできるの!?」
「デザートあるんですか!?」
「うん、ちゃんと皆の分あるから大丈夫だよ。それではお召し上がりください」
最後の言葉を告げて席を少し離れる。
「あれ、新一は一緒に食べないの?」
「え、うん。みんなの反応見てから後で食べようかなって」
「新一、ここで食べなさい。あなただけ一人で食べるのはおかしいでしょう」
「ですがお嬢様…」
「それに今まで一緒に食べてたじゃない。今更気にする事はないわ」
「そうですね、なぜ距離を置いたのかはわかりませんが今更なことです。一緒に食べましょう」
食事中も何か曲とかについて話すだろうから邪魔してはいけないと思ったのだが、その気遣いもどうやら要らなかったらしい。大人しく席に着いて食事を取ることにすると食べ始めた皆(お嬢様とあこちゃんを除く)から怪しげな目線を向けられた。味に関しては問題ないと思うし、やはり何か不味かったのだろうか。
(((なんで新一(新君/名護さん)はこんなに料理できるの!?)))
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食事の後片付けが終わり、色々と済まして時刻は二十二時。皆が自室に篭った時間だ。ちなみにデザートはゼリーにしといたのだが評価は高かった。三人の目線は変わらなかったけど。
皆と同じ様に僕も自室に篭っている。特にする事もないので届けられたヴァイオリンを持ち上げる。見た目はあの頃と変わっておらず弦の糸と弓の糸もしっかりと貼られていた。ニスで塗られた表板が僕の顔を写している。久しぶりに弾いてみようかと首元に置くとドアを叩く音が聞こえた。
「新兄いるー?」
「はい、何かあったの?」
「新兄、せっかくだから遊ばない?」
そう言ってあこちゃんが見せてきたのはトランプだった。意外だった。初日だからゆっくり休むものだと思ってたんだけどな。
「どうしたの?」
「いや、ちょっと意外で…」
「え、そう?それで新兄はどうする?」
「せっかくだし混ざろうかな」
「やったー!じゃあ行こ!」
「あ、先に行ってて。少し片付けてからいくから」
「うん!あ、リサ姉の部屋だからね!」
「はーい」
ドアを閉め、見えない様にしていたヴァイオリンに布をかけておく。そして部屋を出てあこちゃんたちのいる部屋へと向かっていった。
京「クソ暑いな…」
快「知ってるか?新一さん今海行ってるらしいぞ」
京「まじかよ…しゃあね、かき氷食いにいくか」
快「いいなそれ、俺もいく」
京「お前、かき氷の味は?」
快「ブルーハワイ」
京「はん、わかってねぇな。かき氷はレモンだろ」
快「馬鹿なこと言ってんじゃねぇぞ、ブルーハワイに決まってるだろ!」
京「はぁ!?」
そして二人はいつもの論争に発展したという………
一方その頃、新一の方は
あ「新兄かき氷は何味?」
新「いちごかなやっぱり。原点が一番だと思う」
あ「わかるー!やはり真紅に染まりし闇の果実が………」
二人とは全く別の意見だった。
壁の色を変えるとしたら?
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色分け
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上塗り