「誰かと思ったらお前か」
目の前に座っている女はこっちを睨むように見ている。普段はふわふわしてそうな雰囲気なのに今日に限ってはそうでもないらしい。まぁ前回あんなこと言ったしな、恨まれたりしてもおかしくはないだろ。
「そんな怖い顔してると可愛くなくなるぞ?」
「よ、余計なお世話です!」
「で、何か用か?」
「快斗君のこと…本当に助けてくれないんですか?」
俺を見るその目は真剣そのものだった。戦える力がなくとも助けに行きたいという気持ちをぶつけてくるような視線にも思える。
「聞きたいんだけどよ、お前がアイツを助けようとするのはなんでだ?」
「えっ」
「大したことじゃない。ただ、戦えもしないお前が何故アイツを助けようとしているんだ?」
「それは………」
やっぱりな。善人っていうのは感情を優先して動くことが多い。ただ人を助けたいから、ほっとけないからなんて理由で人助けをする。自分に対するデメリットなんか考えないで事に突っ込む。理に適ってない行動をするのが善人だと俺は思っている。俺はそんな善人が少しばかり苦手だったりもする。
「答えられないんじゃ仕方ないよな」
「私はっ!」
「?」
「私は、快斗君に笑っていてほしいから…またこころちゃんや皆と一緒に笑って過ごしたいから、だから快斗君を助けたいの!」
「へぇ、それは恋心か?」
「ふぇっ!?そ、そんなんじゃなくて///」
「おっもしれーの」
少し揶揄ってみたがこういうのでいじるのは楽しい。何より年頃の男女だ、揶揄いがいがある。
「そ、それで、受けてもらえるんですか?」
「それとこれとはまた別だろ」
「そんな………」
「大体お前、報酬を用意してねぇだろ」
「ほ、報酬?」
「当たり前だろ、じゃないと探偵は動かねぇぜ」
「お金………ですか?」
「さぁな」
「い、今はそんなに無いですけど、絶対払いますから」
「そっか、じゃあな」
適当にはぐらかして店を出ようと立ち上がると慌てた様子で声をかけてくる。正直に言うとそういう顔は何度も見てきているので何も感じない。
「ど、どこいくんですか!?」
「帰るけど?」
「そ、そんなぁ………」
「あー、一つだけ忠告だ」
「?」
「希望は大きく持つなよ」
言えることだけ言い残して珈琲店を出た。外に出ると真夏の太陽とクソ暑い気温が俺に攻撃を仕掛けてくる。そしてさらにある事が俺の頭をよぎる。
夏休みももう終わるんだっけか………宿題、やったっけ………
そんな現実を忘れようとした瞬間錠前が鳴り響く。確認してみるとドーパントが現れたらしい。数は一、すぐに出ようとヘルメットを被り、バイクに跨ると出かけていたスタッグフォンがハンドルの上に乗ってくる。ヤツを見つけたかと聞くと頷いてくる。携帯モードに変えると場所を教えてくる。ありがとなと言うとスタッグモードになって飛び回った。そしてその勢いで追跡に戻ったので俺もバイクを走らせる。全く、ドーパントも朝から出勤とは偉いことだな。こんな暑いのによくもまあ元気なこと………いや数は一だったわけだし出勤とか関係ないか。
現場に着いた俺は現状の確認をする。今回の被害はそこまでなかった。それも当然だ。なぜならもう既に探していた奴の姿があったからだ。ドーパントはもう消滅したのか気配すら感じられなかった。
「よう、快斗」
「京……今度こそ、アッ!?」
こちらに向かってくるかと思ったら頭痛がきたのか頭を抑えている。それでも諦めていないのかナイフの先を向けてくる。
「お前はまだ自分が強いと思っているのか?」
「そうじゃないと、俺は…俺は…!」
やっぱりそうなるよな。そこの考えを抜け出させるためにはやらなきゃいけないんだもんな。
「京君、快斗君!」
「新一か、朝から大丈夫なのか」
「お嬢様には特売だからって言ってきた。実際に特売はあるしね」
「じゃ、それまでに終わらせるか」
「アンタらはそうやって……!」
ナイフを構えて走ろうとした瞬間、上から人が降ってくる。女の子が降ってきたらそれはそれでよかったんだが、そんな期待ををひっくり返すように予定外の来客は現れた。
「面白いことしようとしてんじゃん、俺も混ぜろよ」
「獅郎、お前は呼んでない」
「あれ、今日は冷静だね。前回はあんなに怒ってたのに」
「ふん、今でもすぐに殺したい気分だが優先するべきことがあるからな。お前と遊んでる暇はない」
手をヒラヒラさせて風を扇いでいると新一が隣でクスクス笑ってくる。快斗は頭を抱えたまま変わらず、獅郎はつまらないものを見る目でこっちを見ていた。
「じゃあ京君、
「気をつけろよ、気を抜けば負傷は免れないからな」
「忠告ありがとう」
「もしかして君と遊べる感じ?」
新一が獅郎の方へ歩いて行くとあのクズは嬉しそうな顏をする。この前変なことを言っていたがとりあえず目の前のことに集中するか。
「さて、いつもの続きをやるか」
「全力で………潰す!」
「じゃあ俺は、全力で引き戻してやる!」
《ここから『テオ』を聴きながら読むのをオススメします》
互いに走り出し、近接戦へと持ち込む。快斗のナイフのキレはこの間より格段に落ちていた。いや、むしろ最初にあった頃より遥かに弱くなっている。頭痛のせいなのか、それとも本人に迷いがあるからなのか。全部捌きつつダメージを打ち込んでいくと距離を取られる。
『トリガー』
メモリを起動させてナイフに装填するとナイフは形状を変えて銃へと姿を変える。面白いことをする、とこちらも銃を構えてお互いに撃ち合う。奴が撃ち出す弾はあまりにも単純すぎたので全部撃ち落とす。走りながら撃ち合っていると間に壁が差し掛かって姿が見えなくなる。どこから来るか警戒していると空気を押し出すような音が聞こえた。上だった。白い翼を広げ、大きくした銃を俺に向けている。銃口には光を灯し始めているのが見える。流石に避けるのは厳しいと考え、盾骸骨を顕現させる。光が大きくなった瞬間、大きな音が聞こえる。耳に響く重く低い音。構えている盾はミシミシとヒビが入る音がしている。まさかこの盾が破られそうになる日が来るとは思いもよらなかった。とにかく今はこの時間を稼ぐ。いくらなんでもずっとこの状況が続くとは思えない。保ってくれよ、盾骸骨。俺は改めて右手に力を込める。盾にさらにヒビが入っていく。力を入れているのに限界が近づいてくるのがわかる。もう少し、もう少しだと足に力を入れて踏ん張っていると攻撃が止んだのか光は小さくなって消えていった。だが光が消えたと同時に盾骸骨は割れて俺は膝をついた。前の方を見ると快斗がさっきの銃を持ったままフラフラになりながらも立ち上がろうとしている。銃はナイフの姿に戻り、快斗は寝っ転がるように倒れた。大丈夫かと駆け寄ろうとするとヤツは地面を叩き始めた。
「チクショウ、チクショウ!!なんでだよ!なんでアンタは倒れないんだよ!!」
「………それはお前が本気じゃないからだ」
「!!!」
こっちを見たかと思えば拳を強く握り、近くに転がったナイフを持ってこっちに攻撃をしてくる。けれどもフラフラした攻撃なぞ少し身をひねれば当たるはずもなく、攻撃が来るたびに避けていた。
「俺は、全力を出してる!」
「違う、それはお前の力じゃない」
「違う!これは俺の力だ、俺だけの力なんだ!」
「じゃあそれはあの女を、松原を見て言えんのか!」
「ッ!なんでアンタが花音さんを!」
「お前が振るっているその力であいつを絶対守れるのか。本当に誰も傷つけないと、言い切れるのか!」
「やめろ……」
「誰も苦しめず、皆が平和に暮らせる世界を作れるっていうのか!」
「ヤメロ、ヤメロ………」
「過去に囚われたお前が、本当に強くなれるわけないだろ!」
「ヤメロォォォォォォ!!」
突き出された一閃はさっきよりも正確に俺を狙っていた。だが俺はその伸びた腕を掴んで放り投げる。投げられた快斗は壁にぶつかり、転がっている。立ち上がったかと思えばすぐに攻撃を再開してくる。だがさっきよりもキレが良く、確実に俺を倒しにきていた。そして俺たちは問答を続ける。
「じゃあなんで俺は強くなれないんだよ!どうしたら強くなれんだよ!」
「お前が過去に囚われている限り、現状は変わらない」
「わっかんねぇよ!何に囚われているかすらわかんねぇんだよ!」
「じゃあはっきり言ってやる。お前は弱い」
「ッ!」
「自分は強いと思い込み、大事な人を傷つけられた程度で他人に縋り弄ばれた!だが弱いのはそこじゃない。お前は他人の力を自分の力と偽り、自分の過ちから目を背けたことだ!」
「自分の、過ち………何が悪いってんだよ、傷つけた現実から目を背けて何が悪いってんだよ!」
「馬鹿野郎!!」
俺の怒声を聞いた快斗の動きは一瞬止まった。その瞬間に顔面目掛けて鉄砕拳を打ち込む。吹っ飛ばされた衝撃で動けなくなった快斗の胸ぐらを掴みながら俺は言葉を続ける。
「そういう現実を受け入れて、前を向いて歩けるヤツが本当に強くなれるんだ!俺だってまだ弱い!あのクズを思い出す度にあの光景を思い出す。自分が無力だった光景を!それでも俺は!もうあんな思いをしないようにする為に、自分を自分で強くするんだ!」
手を離して快斗を地に落とす。衝撃のせいかベルトが外れて強制的に変身解除させられている。俺は座っている快斗に近づき、変身を解除して告げる。
「過去に囚われるのではなく、過去すら自分の力の糧としろ。そうすればお前はもっと強くなる」
「それは…俺の力か?」
「ああ、お前自身しか手に入れられない力だ」
「誇れる………ことなのか?」
「勿論、胸張って自分の力だと言っていい。手に入れられたのならあの女の前にも出ていけるだろうな」
快斗はそれでもウジウジしながら質問を繰り返してくる。俺が吹っかけたことだったがめんどくさくなってきた。
「しつけぇ!いいか、お前は一人じゃねえ。強くなるのに相手が必要なら俺や新一がいる。それでいいだろ」
「でもよ……俺、今更戻ってもいいのか?」
「んなこと気にしてんじゃねぇよ。なんだったらついていってやってもいいぞ」
「やっぱいいわ」
「テメェ!人がせっかく気を遣ってやったのに…って、そのくらい言えるようになったんだったらもう問題はねぇな」
手を差し出すと叩くような強さで掴んで立ち上がってきた。ただ、その顔はさっきまでよりも明るく。いや、今までで一番いい顏をしていた。こっちまで清々しくなってきやがる。
「でも練習相手は新一さんにお願いするわ。お前じゃすぐに超えられそうだし」
前言撤回するわ。こいつ今すぐ捻り潰してやろうか。まぁ減らず口を叩けるようになっただけマシってことにしとくか。
「これからどうする?」
「どうするも何も、決まってんだろ」
「いいのか?ボロボロのくせに」
「いいや、この状態だからこそ行くんだ。逆に考えてみろよ。この状態の俺に一泡吹かせられたら。アイツ、悔しがるに決まってるぜ」
「お前………本当に
「変なルビ振りやめろ!」
俺は煽りながらも新一の元へと向かっていった。
壁の色を変えるとしたら?
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色分け
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上塗り