彼女らをリビングに招いて席について貰う。普段ならこんなことはしないはずなのにどうしたのかしら。私自身信じられない。聞きたいことがあると思ったのに何も浮かんでこない。
「そういえばですけどまだお名前を聞いていませんでした」
「湊友希那よ」
「新様とどのような関係なのですか?」
「主従…のようなものよ」
お父さんが勝手に決めたものだけど。
「新様!私がいながらどうして!?」
「落ち着きなさい。大体の事情は知ってるでしょ」
目の前で漫才でも見せられているようだ。それになんで事情を知っているのかしら?既に新一から伝えられていた……とか。
「貴女たちこそ新一とどういう関係なの?」
「そうね、たまたま同じ場所に居ただけよ」
「同じ場所にいた?」
「申し訳ないけど、私達自分達の過去を掘り返されるの好きじゃないの」
「それは申し訳なかったわ」
「いいえ、言わなかった私たちが悪いんですわ。それで新様はここ数年一体どんな暮らしをしているのですか?」
聞かれたことを私は話していく。でも話す内容なんて殆ど無かった。新一は私の執事となり、家事全般や勉強を教える、なんてくらいしか教えられなかったからだ。近くにいるのに知らないことだらけだった。でも気になった事が出てきた。
「ねぇ、貴女たちは過去の新一を知っているのよね?」
「勿論ですわ。それはもう何から何まで「知らないでしょ」まぁ冗談ですがある程度は知っていますわ」
夜架と呼ばれている人が答え始めた。この人は真面目に答える気があるのか無いのかがわかりづらいところがある。それでも構わず聞きに行く。
「どういう人だったの?」
「その前に湊…さんはアイツの過去を知っているの?」
「知らないわ。あと言いづらかったら呼び捨てで構わないわ」
「ありがとう。じゃあ私は言う気にならないわ」
「どうして?」
「アイツだって勝手に過去を話されるのは嫌でしょ」
「それもそうね…」
「でも魔姫ちゃん、少しくらいは話して良いんじゃない?」
「少しって?」
「どんな人だった程度だったら問題は無いんじゃないの?」
「ふん、私からすれば気に食わない奴よ」
少し考えるかと思いきやすぐに答えが出た。その言葉を聞いて新一の方を見ると微妙な顏をしている。
「気に食わない?」
「ええ、私達よりあとから来たくせに簡単に私達を越えていったんだもの」
「確かに新様は私達の中で天才の類でしたわね」
「天才……?」
「やらせること何でもすぐに出来ちゃうのよ」
そういえば彼が物事で苦手そうにしているところは殆ど見たこと無い。
「おかげで私達はすぐに追い抜かされて……あぁ、あの時の冷ややかで汚物を見るような目は今でも忘れられませんわ」
「そんな目したこと無いよ!?」
「冗談ですわ。けどあの頃もでしたが、お優しくなりましたね」
「急にどうしたの?夜架ちゃんがそんなこと言うなんて……」
「酷いですわ全く。ですがあの頃は本当にお世話になりました。私達に優しく接してくださり、わからないところなどきちんと教えて頂き本当に助かりました」
「ちょ、夜架ちゃん」
食事を運んできた新一は慌てるようにしている。それから食事をしながらいろんなことを聞いた。でも何故かそこには真実が隠されているような感じがした。嘘はついていない。けど何か隠されている感じがする。
「今日はありがとうございました。この御礼はいつか。また学校で」
「いいえ、こちらこそありがとう」
貴方の過去、まだわかっていないけど少しだけ近づけた気がする。けれどどうしてだろう。間に大きな壁がある気がしてならない。
──────────────────────
二人が帰ったあとはいつもと変わらなかった。けど深夜になってそれは覆された。布団に入ろうとした瞬間だった。直感だが住人ではない誰かがこの家の敷地内にいる。簡易装備を身に纏って窓から屋根に登る。屋根から見渡しても誰もいなかった。気のせいかと屋根を降りようとした瞬間、後ろから気配を感じて小刀を構えた。咄嗟の構えが正解だったのか相手の刃と交わり互いに距離を取ることになった。顏を伺ってみると昼間に見た顏だった。長い黒髪に紫と蒼のオッドアイ、切姫夜架だ。
「ちょっとお遊びしては過ぎるんじゃないかな?」
「フフッ」
彼女が笑ったかと思うと後ろから風を感じる。まるで桜吹雪のような風の感覚。僕はしゃがんでから彼女の顔に向けてコンテンダーを構えた。うん、警戒していてよかった。夜の奇襲は一人とは限らない、複数の敵を相手に出来るようにしておけ。この教えがあって本当に助かったよ。
「後ろ、がら空きだと思った?」
「やっぱりアンタのこういうとこ気に食わないわね」
「これ以上は洒落にならないけど、やる?」
「いいえ、私達なりに新様の腕が落ちてないか見たかったんですわ」
「なるほど。だから君達の得意な奇襲なわけだ」
「まぁそれも失敗に終わったけどね」
互いに敵意がないことがわかると全員刃を懐に収める。ずっと立ってると疲れるので皆屋根に座る。
「本題を聞こうか」
「当主様の命令で私達はここにいる。任務などで席を外すことは多々あるだろうけど、本来の任務は通信役」
「通信役?」
「ええ、新様と当主様の連絡のためのパイプですわ」
おそらく園崎のことや僕の使ってるイクサシステムのことなどについてだろう。どうやら本格的にバックアップに回ってくれるようだ。すると魔姫ちゃんから紙を渡される。内容を読んでみると夏休みに霧切さんから送られて来たやつと内容はほぼ同じだった。違ったのはもう一枚の紙に『こっちが本当のサプライズだ』と書かれていた。
「なるほどね。全く、手荒な歓迎だね」
「フフ、でも新様と遊べて楽しかったですわ」
「はいはい、事情はわかった。じゃあこれからはクラスメイトとして、仕事の仲間としてよろしく」
別れの挨拶を告げると夜架ちゃんがなんかくねくねしてきたが魔姫ちゃんに首根っこ掴まれて隣の家へと帰っていった。その姿を見て中身はさして変わっていないことを確認すると僕も家に入っていく。夏は終わっているが今日の夜は暑かった上に激しい運動をしたのでシャワーを浴びて寝ることにした。
翌日、あまり寝れずに登校すると眠そうな京君に声をかけられる。
「どうした新一、眠そうだな」
「ちょっと色々あってね」
「へー、で、今日何すんだっけ」
「本当は興味ないでしょ」
「バレたか」
「すぐわかるでしょ。あと今日は文化祭の役割分担と飾り付け作りだよ」
「よし、帰るわ」
「帰らせないよ」
「そんな、帰らせないなんて……新様は私の身に一体」
「夜架ちゃんお座り!」
「あぁ、そんな犬みたいな命令するなんて。ええ!新様がお望みなら私は犬にだってなります!」
頼むからそれ以上僕の信頼を落とそうとするのは辞めてくれないかな。結局この事態は治らずにHRが始まり、時間は流れて役割分担となった。と言っても
また翌日、学校が始まるとすぐに行動は別れた。僕は料理部隊に着きメニューの品作りを始めた。品作りと言っても今日は皆に行程を教え込むだけだ。全員が配置に着き準備が整う。
「じゃあ皆さん本日はよろしくお願いします。とりあえず今日はオムライスを作ろうと思います。材料は既に用意してあるのでお気になさらないで下さい。料理は分量が命取りになりますので焦らず頑張っていきましょう!」
『はい!』
わからなかったら聞くようにと促し、実習を始めていく。ただ皆料理が得意な人達が多い分スムーズに進んでいく。正直僕がいなくても良いような気がしてならないが気にしないでおこう。時間が過ぎて行くに連れて皆オムライスが完成していく。全員分キチンと美味しく出来ていたので今日はよしとすることにした。自分で作ったものを食べる者がいれば他の人とトレードする人もいた。僕のところに来た人も何人かいたがあいにく今日は指導に回っていて作っていなかったことを伝えるとがっかりした様子で帰っていった。でもそんな中作ったものをトレード以外の目的で持ってきた女子がいた。
「新一、食べてもらえる?」
「真姫ちゃん。でも僕作ってないよ」
「いいの、半分食べて。私料理したことないから……具材はしっかり切れているはずだけど」
「わかったよ」
それはそうだよね。あんな環境にいたら食堂部隊にいない限り作ることなんてそうそうないよな。スプーンを貰って半分に切り分けて皿に移す。うん、きちんとレシピ通りに作れているからか見た目の方はしっかりしている。味の方はどうなっているだろうか。少しばかり胸を躍らせながらいただきますといってオムライスを口の中に運ぶ。予想通りの味だ。ちゃんとできてて美味しい。
「どう?」
「美味しいよ。ちゃんと作れてる」
「本当……?」
「うん、魔姫ちゃんマニュアル通りにやるの苦手なのによく頑張ったね」
「一言多いのよ!」
このやりとりを聞いたのか他の女子たちも僕の元へ本来のオムライスの一部を持ってやってくる。拒否することもできないので全部食べることにした。流石に十何人分のオムライスを食べるのは大変だった。教室に帰る頃にはお腹の中が重く感じた。どっかでこのカロリーを消費しなきゃ……。
「アンタ大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、これくらい平気だよ」
「そうには見えないんだけど」
「新一ー!どうかしたのー?」
「リサ。こんなところでなんて奇遇だね」
「うちのクラス劇やるんだけど今その休憩中で……ってその子は?」
「先日転校してきた春川魔姫よ」
「あ〜噂の転校生の!アタシ、今井リサ。よろしくね♪」
「ええ、よろしく」
「二人はどういう関係?」
「「ただの知り合い」」
「息ぴったりじゃん」
「「たまたま(だ)よ」」
僕達は顏を見合わせる。こんな偶然あるのだろうか。でもあったものはしょうがないと前を向き直すとリサが少し膨れた顔になっていた。
「どうしたのリサ?」
「えっ!?な、何が!?」
「いや、なんか怒ってるっぽいなーって」
「そ、そんなことないよ!あ、なんか呼ばれてるっぽいから行くね!」
リサは急いで廊下を走って消えていってしまった。しかし何かあったのだろうか。何だろうねと魔姫ちゃんに聞こうとするとジト目でこっちを見てくる。何?と聞くと別にと返されて置いてかれた。仕方ないので考えるのを辞めて教室に帰ることにした。教室では飾り付の制作作業が行われていた。京君も嫌々ながらちゃんとやっているようだった。僕達もその作業を手伝いに入ると担任から男子の呼び出しが入る。どうやら文化祭で使う物の運び出しを手伝うらしい。職員室から講堂へ運ぶと任務完了した。ただ何を組み立てているのか気になって見ていると知らない女子から声をかけられる。
「名護さん、鳴海さん、お仕事お疲れ様です」
「お疲れ様です」
「お疲れ様。お前……どっかで見たような………?」
「覚えてくださってて光栄です。生徒会長の水面と申します」
「あー、生徒会長さんか。これは失礼した」
知らないと思っていたがまさかの生徒会長だった。まだ人の顔を覚えきれてないところがあるから気をつけなきゃな………。
「いえいえ、楽になさって大丈夫ですよ。それより、気になるんですか?」
「これか?」
「はい」
「まぁ…気になりますね」
確かに気になりはするよなと思いながら眺めていると生徒会長が笑顔のまま一枚の紙を差し出してくる。
「御二方、ステージに出てみませんか?」
壁の色を変えるとしたら?
-
色分け
-
上塗り