このご時世現実で楽しめない分ここで楽しんでいってもらえたら幸いです!
とうとう文化祭が始まった。あれから特に何もなく準備は終わらせられ、調理班はキチンと料理工程を覚えたので給仕も特に問題なく行われるだろう。僕も今日使う服に着替える。一時間半ずつの交替で最初は僕が担当することになった。因みに前後の決め方はジャンケンで僕がチョキを出したら負けた。京君曰く「俺のグーは石破天驚拳と同じよ」とのことでじゃあ何出したら負けるのさと思ったけど黙っておくことにした。他の給仕をする人たちも準備が出来たらしく、午前部隊の準備が整う。
「じゃあ名護君から何か一言」
「え、こういうのって実行委員がやるんじゃ」
「いやこの店の主役君と鳴海君だから。主役から一言どうぞ」
「は、はい。じゃあその……僕は午前中の前半しかいませんけど皆さん怪我に気をつけて、お客さんに喜んで貰えるように頑張りましょう!」
左手で握り拳を作ってガッツポーズを取ると女子とは思えないほどの声が聞こえてきた。大丈夫……なんだよね?え、怪我人出たりしないよね?そんな疑問を消し飛ばすようにアナウンスが流れてくる。
『皆さん準備はできましたかー?本日は文化祭一日目、校内公開ですからお客さんも少ないはずです。ですが油断なさらないようにお願いします。それでは皆さん張り切っていきましょう!文化祭一日目、スタート!!』
テデーという音と共にお店が開業した。その瞬間お店の前に人がやって来る。早速席に着いた人達に接客をしていく。
「いらっしゃいませ」
「名護さんよ、本物だわ!」
「は、はい本物ですよ」
「注文いいですか?」
「はい、ではご注文を取らせていただきます」
「じゃあまず紅茶とオムライス二つずつお願いします」
「畏まりました、紅茶とオムライス二つずつですね」
注文の確認を取ってすぐに紙を渡しにバックに行く。紅茶はすぐに出せるとのことで少し待っておぼんに乗せてさっきの席にまで運んだ。
「お待たせしました。お紅茶になります。ごゆっくりどうぞ」
「注文お願いしまーす」
「はいただいま。何になさいますか?」
「あの………」
どうかしたのだろうか、頬を少し赤らめている。何か問題でもあったのか。よく見てみるとメニュー表のある部分を指さしていた。そこには『写真』と書いており、恥ずかしがるようにこっちを見ていた。なるほどと理解して「構いませんよ」と言うと一気に表情が明るくなった。その後に写真を撮るとすぐに教室を出て行ってしまった。次の声が掛かったのでそのテーブルに着くとよく知っている顔があった。
「よっ、新一」
「京君何してんの?」
「客だ客」
「違う違う、その格好」
そう、彼の格好は制服ではなく衣装用の服だった。出歩くのならば基本制服のはずだが宣伝などの理由で衣装を変えることは許されている。しかし今は彼は作業時間ではない。
「いやー女どもが遊びにいく時もこの格好で行けって。宣伝にもなるし。まぁ個人的にもこの格好に着替えるのめんどくさかったし効率的ではあるわな」
「確かにそうかも。それで注文は?」
「スマイルくれ」
「当店は某ファストフード店でもなければそのようなご注文はありません」
「いやあるぞ、ほれ」
渡されたメニュー表を見てみると確かに書いてあった。左上にデカデカと。しかも目立つように書かれてるし。それを確認して京君の顔を見るとニマニマしているのが分かる。仕方ないと思いつつ笑顔を作ると笑ってくる。注文を急ぐように圧をかけるとサンドイッチとコーヒーを頼んできたのでそれを裏に持っていく。そのタイミングで最初のテーブルのオムライスが出来上がったので持って行こうとするとケチャップを渡される。かけるのはセルフサービスなんだなと思いつつ最初のテーブルに運ぶことに成功した。
「お待たせしました、オムライスにございます」
「あ、あの」
「はい?」
「ケチャップかけてもらえませんか?」
そんなサービスは……と思いながらバックの方を見ると実行委員の人がサムズアップしている。待って僕聞いてないんだけど。あとで隙を見てメニュー表を確認するか。
「あ、あの…」
「畏まりました。どのようにいたしましょうか?」
「私の名前あやかっていうんですけど……」
「ふふ、かしこまりました」
名前を聞いて意図を読み、オムライスの上にケチャップで文字を書いていく。一緒にいた席の人の名前も希望によって書いていく。意外と難しいなと感じながらもそれぞれの名前を書くことに成功したので良しとする。ではと下がろうとするとメニュー表を見せつけてくる。オムライスの部分を指差しているので確認すると何故かよくあるやつが書かれてた。もう一度裏を見てみると今度は和装メイドの人がガッツポーズをしていた。謀ったね?謀ったんだね?と思いながらもメニュー表を確認して動きの確認をする。こんなことしたことないから上手くやれるかどうかわからないけどとりあえずやってみる事にした。
「ではお客様、ご一緒にお願いします。せーの、萌え萌えキュン♡」
「「ありがとうございまぁす!!」」
大きな声で礼を言われたが正直恥ずかしくなってきた。もしかしてこれあと何回かやらなきゃいけない感じ?冗談きついんだけど。客が食べ始めたのを確認すると急いでバックに戻ってメニュー表の確認をする。すると内容が僕が朝確認した物と変わっていた。オムライスは『新一様の萌え萌えオムライス』になり、サンドイッチは『京の探偵サンドイッチ』となっていた。どういうことか確認すると客を引き寄せるためだとかなんだとか。しかしこれはうまく嵌められたもんだ。だが時間は限られているし何より客に僕が絶対当たるということはない。メニュー表にもランダム性って書いてあるし。そんなこんなで接客をしていると交代の時間になる。教室にやってきた京君の顔を見ると少しばかりやる気無さそうな顏をしていたがファイトとだけ言って交代した。さて、僕も客側で入ろうかと最後尾に並んだ瞬間並んでいた道が二つに分かれる。いや僕モーセじゃないんだよ?すると和装メイドの格好をした暗殺者が迎えにくる。
「いらっしゃいませ新様」
「夜架ちゃん、これは流石に良くないと思うけど?」
「いえ、これは予め決まっていたプログラムですわ」
「ぷろぐらむ?」
「ええ、十時半に新様がここを通るので道を空けるようにと」
「僕は何をするの?」
「お客様として振る舞っていただければ十分ですわ」
耳打ちされた情報をまとめるとただ客としていればいいとの事だが他の人に迷惑なのではないかと思いながら案内に付き従おうとする。だけど今度は目つきをキリッと顔は真面目そうにしろとのことだった。仕事をしつつ休憩って感じなのか、矛盾してるように思えるけど。仕方ないので言われた通りの顔をして教室の中へ入っていく。すると夜架ちゃんはここで下がり僕は席に着く。目の前の席には何故か京君が座ってコーヒーを飲んでいる。
「仕事中だよね?」
「そうだぜ?何故か女共にこうしてろって言われたけど」
何故に?などと話していると僕たちに間に影が一つ差し込んだ。その正体はお嬢様だった。和装もきちんと似合っている。ただ
「ご注文は何に……しますか?」
「湊が接客とは珍しいな」
「私だって不本意よ。ただ……他のことは向いていなかったもの」
「確かにお前には向いてなさそうだな」
「それで?注文は?」
「ではサンドイッチとコーヒーをお願いします」
「俺はコーヒーだけで」
「わかったわ」
お嬢様はメモを取ってすぐにこの場を去って行く。少し怪訝そうな顏をしていたしやはり文化祭に参加するのは反対だったのだろうか。
「そういや湊も文化祭に出るんだな」
「最初は反対してたんだけどね」
「お?なんかあったのか?」
「実は始業式の日の帰りにお嬢様が文化祭は出ないって言い始めて、去年は参加しなかったのにですか?って聞いたらそんなことしてる暇があるんだったら少しでも練習していたいって」
「でも本番当日は風邪で寝込んだんだろ?」
「うん、だから考えが変わったりしたかなーって思ったんだけど真面目さが変わってなくて……」
「でも今日明日は参加するんだろ?」
「そのつもりみたいだよ」
「なんで急に変わったんだ?」
「それが分からないんだよね」
「待たせたわ」
会話をしていたらいつの間にかお嬢様がコーヒーを持ってきていた。ありがたく受け取ると京君が何故参加する気になったのか聞いている。お嬢様はただの気まぐれだと答えてすぐに裏へ入っていってしまった。女心はよくわかんないなと話しつつコーヒーを口に啜るとシャッター音が聞こえてくる。その音を聞いた瞬間僕がここに呼ばれた理由がわかった。つまりメインの二人が揃う瞬間をイベント時間とするわけだ。カップを置いてため息を吐くとオムライスが届けられる。お礼を言って食べようとすると持ってきたメイドさんが制してくる。その正体を見るとさっき消えたはずの夜架ちゃんだった。何を書かれるかわからないという恐怖を抱きつつ急いでオムライスを食べ終えて教室を出る。
教室を出た僕は時間を見つつどこに向かうか決めた。確かリサのクラス劇が十五分で行われるはずだしゆっくりするためにもそうしよう。劇を見ていれば休憩も楽しくなるはずだ。ただ始まる時間も迫っていたので講堂へ急足で向かうと魔姫ちゃんと遭遇する。
「アンタ何してんの?」
「講堂へ行くところだけど魔姫ちゃんも来る?」
「そうね、どこいくか迷ってたし一緒に行ってあげるわ」
上からだなと思いつつも会話を交わしながら進んでいく。目的地に着くとちょうど始まる寸前だった。僕たちは急いで席に着く。始まったお話の内容は愛の悲劇の物語だった。恋愛に関する内容だったため興味が湧いてくる。しばらくするとリサが出てきた。ただ緞帳の後ろから眺めてブツブツと何かを言っているようだった。少し話したかと思えば消え、しばらく見なかった。その後は瀬田さんが主人公の男の役をやりつつヒロイン役の子と一緒に駆け落ちしようとするところまで行った。流れはロミオとジュリエットの現代学生版みたいだったがここでリサが帰ってきた。でも何故か手に包丁を持ってメインヒロインに向けている。「彼を一番愛しているのは私だ」「これ以上私たちの邪魔をしないで」などヒロインの言うことを聞かずに一方的に言っている。そして挙げ句の果てにはヒロインに包丁を刺そうとしたが瀬田さんが代わりに刺されてしまった。刺したリサは嘘だ嘘だと現実から逃げるように袖にはけていく。残りの体力を振り絞るように声を出した瀬田さんは力を抜いて死んだようにみせた。そこで幕は閉じ、劇の時間は終わった。講堂を出て伸びをすると魔姫ちゃんが難しそうな顏をしている。
「どうしたの?そんな難しい顏をして」
「いやあの子どっかで見たことあるなって。ほら、包丁持ってた子」
「ああリサなら数日前に一緒にいる時にあったよ」
「あの子だっけ。髪型違うから思い出せなかったわ」
「確かにね、僕も一瞬分からなかったよ」
「でも刺し方甘かったわね」
「演技だからね」
「それはそうでしょうけど色々と文句を言ってあげたかったわ。持ち方が甘いし、刺し方もあんなんだったらすぐに躱されそうだし」
「魔姫ちゃんそれ別のプロの話だから」
「二人とも何話してるのー?」
僕達は後ろから声を掛けられて振り向く。ただ振り向く寸前僕たちの意識は固まった。いくら文化祭といえど後ろの気配は気付くはずなのに今まで気づかなかった。誰だと正体を確認すると紗夜さんによく似た人だった。
「ねぇねぇなんの話してたのー?」
「他愛のないことですよ、氷川さん」
「おねーちゃんは名前で呼んでるのにどうしてあたしは苗字なの?あたしのことも日菜でいいよ!」
「え、えっと、日菜さん?」
「名前にさん付けとか麻弥ちゃんみたいでおもしろーい」
なんか調子狂うんだけどという目線が送られたがそのご本人の名前も知ってるようで僕たちは驚きを隠せなかった。何よりこの子は僕達に気配を悟られなかった。一体何なんだろうこの子は。アイドル……にしてはやばくない?
「それでそれで何の話してたの?」
「さっき見てた劇の話よ。見てて面白かったわ」
「そう?あたし的にはリサちーにもっと激しくやって欲しかったけど」
「アタシがなんだって?」
覗き込むように会話に入ってくる。勿論こっちの気配は感じ取っていた。その確認を取るとちゃんと頷いてくる。
「新一今休み時間?」
「うん、あと余裕を持って五十分くらいかな」
「じゃあ一緒に回ろうよ!」
「構わないけど二人は?」
「あたしは魔姫ちゃんともう少し話してみたいかなー」
「アンタら二人で行ってきなさいよ。私はこの人と遊んでるから……面倒だけど」
「えーなんでー?」
なんか楽しそうだったので僕とリサは二人と別行動をする。こうやってリサと二人になるのは合宿の夜以来か。人が多いこともあって新鮮な感じがする。
「最初はどこ行く?」
「んーアタシは新一に任せるよ」
「えっ、僕はリサの行きたいところ行こうと思ってたんだけど」
「ホント?えーじゃあどうしよ」
「無難に何か食べに行く?」
「あっ、じゃあクレープ食べたい!」
小腹も空いていたしちょうど良いのでクレープに決定した。学内マップを見ながら進んでいくと迷わずに目的地に着くことが出来た。中に入るとAfterglowの皆が仕事をしていた。表札を見たら蘭ちゃん達がいる教室だったことに気付く。クレープを二つ頼むとすぐに用意してくれるがその間にモカちゃんが揶揄ってくる。それに対してリサは「まだそんなんじゃない!」と言って顔を赤らめている。冗談だと笑っているモカちゃんを横に蘭ちゃんがクレープを二つ持ってくる。礼を言って受け取ろうとするとじっと見つめてくる。何か顔に着いてるのか聞くとそうでも無かったらしい。その手が離れると蘭ちゃんは別の人の接客に移った。僕達はクレープを食べながら教室を出る。
「新一は何味にしたの?」
「苺にしたよ。クレープは食べたことなかったからね」
「そうなの?じゃあ初クレープだね」
「うん、リサは?」
「アタシはチョコバナナ。ねぇそっちの少し貰って良い?」
「構わないよ」
どうぞと差し出すとリサは遠慮なくかぶりつく。美味しそうに食べてる姿を見て僕は安心する。御礼にリサのも食べて良いとのことだったので少しだけ貰う。チョコバナナの方も確かに美味しい。こういうのを食べると作りたくなってしまう。次はどこに行こうかと話しかけようとすると顔を背けてしまった。
「(え、もしかして今アタシ達間接キスしたんじゃ……///)」
「どうしたのリサ」
「(すっごく恥ずかしくなってきたんだけど。どうしよどうしよどうしよ)」
「あの~」
「(てかなんで新一は普通にしてられんの!?普通意識しないの!?)」※彼は鈍感です
「今井リサさん?」
「はっ、はいっ!!」
「どうしたのさっきから。返事も無いし……」
「えっ!?いやその…」
「もしかして熱?」
僕は念の為リサの額に手を当てたがとんでもなく熱くなっていた。
「ちょ、凄く熱いけど大丈夫!?」
「だっ、大丈夫大丈夫!ちょっと頭冷やしてくるねー!」
慌てふためくようにリサは走り去っていった。追いかけようとしたが凄い早さですぐには追いつけそうにはなかった。置いてかれてしまったが仕方ないのでクレープを食べながら歩き始める。時間を見るとあと二十分、暇なので外の屋台ブースを見に行くと色々と面白いものがあった。だが校舎の方から大きな声が聞こえてくる。何事かと見に行ってみると屋上にいる生徒が何やら叫んでいた。
「あれ、名護先輩」
「あぁ、君達は一年の……」
「ウッス」
「ねぇこれは何やってるの?」
「知らないんすか?未成年の主張」
「何それ」
「名護先輩でも知らないことあるんですね」
「寧ろ知らないことだらけだけどね」
一人の男子にところでその格好何?と聞かれたがただの衣装とだけ答えて未成年の主張とは何だと聞き返した。どうやら名前だけが堅苦しいだけであってあとは自由に叫んで良いらしい。そう説明を受けた瞬間同じ学年の女子が屋上から告白し始めた。最近の告白というのはこういうものなのか。その叫びは相手に届いたのかきちんと返事が貰えたみたいだ。最近の文化は面白いなと感じていると僕と似たような服の人が現れる。あの人本当は仕事してないのではないかというほど疑いたくなる。
「お前らに言いたいことがあるー!」
『なーにー?』
「この後十二時から名護新一が店番をやるからチャンスはその時だぞー!」
何を言ってるんだあの人はと思いかけた瞬間だった。
『いよっしゃああああああああああああ!!!』
近くにいた女子達は皆怒声のような声をあげている。ここ学校だよね?皆女子だよね?呆然としていると後輩達が早く教室に戻るべきだというので急いで教室に戻っていった。外の列を見てみるともはや長蛇の列となっていた。京君め、今度会った時は仕事の大半押し付けてやる。そして僕の後半の仕事は始まった。しかし時間通りに上がる事はなく、一時半から来た京君を逃すことなく仕事をやらせた。全ての客を捌き切る頃には今日の文化祭は終わっていた。
移動中
「そういや劇見にきてくれたの?」
「うん、面白かったよ。リサも凄く上手かったよ」
「ホント!?」
「うんうん。正直凄い適役なんじゃないかなってくらい上手かったよ」
「それどういう意味?」
次回「文化祭二日目」
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