青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第三閃 My Butler

 あの後家に戻り、すぐに夕食を作った。その後食器を洗ったり風呂に入ったりしたが特に問題は無かった。少しは落ち着いてきたみたいだ。自室に戻りここ数日分のレシートをまとめて家計簿に写し出す。お金は余るほどあるがそれでも家計簿を付けるとキチンとした生活が送れているようで安心する。

 しかし今日皆には申し訳ないことをしてしまった。いくら混乱していたとはいえあんな態度を取ってしまったのだ。何かお詫びしないとな……と考えていると部屋の外から気配がする。扉をノックする音が聞こえると声も掛かってくる。

 

「新一、いる?」

「はい、どうぞ」

 

 ガチャリと音を立てて部屋に入ってくるのはお嬢様だった。手には救急箱を持っている。立たせたままではいられないので座るよう願い出るとベッドの上に腰掛ける。一度家計簿を閉じてお嬢様の方に向き直す。

 

「如何なさいましたか?」

「あなたの怪我の事よ」

「これに関しては問題ありません。お気になさらず」

 

 触れて欲しくない、というのが本音だ。この事について聞かれたらつい本当のことを話してしまいそうになるかもしれない。そんな可能性すら今は回避したい。

 

「気になるわよ。帰ってきたら怪我してて、それであんな顔見てしまったら……」

「気を害してしまったのなら申し訳ありません。ですが大丈夫です、転んでしまっただけですから」

「そう……あなたがそう言うのならそういう事にしておくわ」

「ありがとうございます」

 

 話は終わったかと気を抜きかけた瞬間言葉の続きが放たれる。

 

「でもそのままにはしておけないわ。少し我慢しなさい」

 

 ……はい?

 

「あの、お嬢様?何をしていらっしゃるんですか?」

「これを見て分からないかしら。手当てをするのよ」

「いっ、いえ!それには及びません!ましてやお嬢様にこのようなこと!」

「うるさいわね…命令よ、大人しくしなさい」

 

 命令と言われては動けず僕は大人しく手当てを受けることにした。頬の傷や口元の傷を消毒しようとしていたが歌うこと以外は不器用なお嬢様が綺麗に出来るはずもなくガサツというほどではないが優しい治療とはとても言えなかった。やがて絆創膏やガーゼを貼り終えると嬉しそうな顔をしていた。絆創膏を貼るために伸ばした手はそのまま僕の頬を撫でるように滑っていく。他人に治療して貰ったのはいつぶりだろうかと思った瞬間、また夢の映像がフラッシュバックする。

 

全部貴方のせいよ

 

 信じてたまるかと首を横に振るとお嬢様は顔をしっかり掴んでくる。いったいどうしたのかと聞くと少しばかり悲しそうな顔をする。そして一つの質問を投げてきた。

 

「どうして今日のあなたは笑っていないの?」

 

 その言葉を聞いて頭が真っ白になった。どういうことだ?なんで笑っていない?どういう意味だ?

 

「申し訳ございませんお嬢様、仰ってることの意味が理解できないのですが………」

「あなた、普段は一切崩さないような笑ってる顔なのよ。まるでそれ以外の顔を忘れたような。勿論合宿の時の顔は真剣だったのを覚えてる。でもそれ以外で、しかも何かに怯えるような顔を見たら聞かずにはいられなかったのよ」

「そ、それは………」

「私がどんなわがままを言ってもすぐに笑ってたあなたがあんなに取り乱してなんともないなんてありえないわ」

「先程申されたではないですか、このことには触れないと」

「それは怪我のことでしょう?」

 

 話をどうにか辞めさせようとしたが正論で撃破された。もはや返す言葉すらない。こうなったら正直に話すしかないのだろうか。でもまた僕は嘘をつくことになるだろう。だってそれが契約(・・)だから

 

「何か悪いことでも……」

「…ハハ、お嬢様には敵いませんね」

「やっぱり何かあったのね」

「ええ、夢を見たんです。皆が僕のせいで離れていく夢を。忘れようとしたのですが駄目でした。二人が手を伸ばして来た瞬間フラッシュバックして……」

「そう…それは大変だったわね。でも大丈夫よ」

「?」

「私はあなたから離れたりしないわ」

「それはどういう……」

「だってあなたがいないと誰がこの家の家事をするのよ」

「………」

 

 確かにお嬢様の言う通りだ。旦那様がいない今家事ができるのは僕だけだ。お嬢様じゃ生活するのに必要な力は欠けているだろう。この人らしいといえばこの人らしい言い訳だな。納得のいった僕は思わず笑い出す。

 

「何を笑っているのよ」

「失礼しました。確かにその通りでございますね。この僕としたことがうっかりしていました」

「そうよ、あなたは私の執事。もっとしっかりしなさい」

 

 きちんと返事を返すとお嬢様は静かに笑い、救急箱を持って部屋を出て行った。そして机の方に向き直す。

 僕はまだ弱い。この生活を守るために強くならなくちゃけない。でもあの悪魔は必ず僕の手で地獄に落とす。たとえこの身が滅びようとも。けどそのためにはまだ力が足りない。もっと強くなれるよう頑張らなくちゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 新一の部屋を出た私は救急箱を戻しにリビングに向かった。やっぱりあの人は笑っていなかった。いつもの顔と全然違った。いつもは他の人に気遣う様な笑顔も夕方から無くなっていた。出かける前まではいつも通りだったのに。一体何があったんだろう。それにあの怪我、どう考えても普通じゃない。転んだとかですまされる程度の怪我じゃないことぐらい私でも分かる。前にも同じ様な怪我をしてきた。出かけてる彼は一体何をしてるの……?

 というより、何で私は彼の心配をしてるの?あの時だって心配していなかったのに。あの夏の合宿の時から彼のことが気になるようになってきた。実力を隠すような真似、何でも出来る器用さ、そして執事になる前の過去。分からないことだらけだ。気になり始めた理由は分からない。けれど気になることが多すぎる。

 救急箱を置いた私は自室に戻る前に水を飲もうとキッチンに行く。コップを戸棚から取り出すと目の前にヒラヒラと何かが落ちてくる。拾ってみてみると新一の字が書かれた付箋だった。

 

『お嬢様の苦手を少しでも減らす方法』

 

 そこから先は読む気になれなかったが色々と考えているのが分かった。開いていた戸を閉めようとすると今度は棚に入っているノートを見つける。興味本位で開いてみると色んな料理のレシピが書いてあった。中には試行錯誤したものもが見られる。

 ────どうしてあの人は私にここまでするの?

 そんな言葉が頭をよぎった。お父さんとの契約だから?それとも仕事だから?いえ、どちらも同じね。だとしたら何?ただのお節介?普段あの人を見てる感じそういう部分がつよいのは分かるけどそこまでのものなの?だとしても一つだけ確証が持てるものがある。あの人は優しい。人に何言われても何されても優しく接してる。私が何をしても結局認めてしまうことが多い。甘やかされてるのだろうか。だとしても優しすぎる。……あの人が怒るなんてことはあるのだろうか。

 私はノートをしまって水を飲んで自室に戻る。ベッドの上に寝転がるとすぐに意識は薄れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと荒野にいた。空は暗く、雨が降っている。最初に見たときは知らない場所だと思った。けど私は知っていた。あの夢の場所だ。目の前には棒と黒い何かの山がある。新一はどこだと私は辺りを探す。どうやら今回は山に近づけるらしく走って山の麓まで行こうとする。けれど目の前に何かが落ちてきて行く道をはばかれた。土煙が晴れるとそのシルエットは正体を示す。新一だ。前に見た姿と変わっていない。ぼーっと立ち尽くしたまま動こうとしない。

 

「そこを退きなさい」

 

 返事は無かった。

 

「聞こえてないの?そこを退きなさい」

 

 また返事は無かった。無視して通ろうとすると腕を伸ばして引き止められる。

 

「何故止めるの?」

 

 今度も返事は無かった。顔を見ても表情は一切変わっていなかった。けれどその時、何故か新一の顔は泣いているように見えた。雨が降っているからだろうか。それでも感情がないのに涙を流している。そんなふうに捉えられた。その顔を見ていると新一は私の肩を掴んで後ろへ向けさせる。何をしているのかと聞いても答は来ない。しかしその時新一の口が動いたように見えた。その言葉は前に聞いたものだった。

 

 ────来るな

 

 その瞬間また目が覚める。今度ははっきり覚えている。前の夢の内容もだ。一体何なのだと額を押さえると汗が出ているのが分かる。悪夢……ではないはずなのに何故?夢の内容を整理すると疑問が残る。あの山とあの黒い棒みたいな物はなんなのか。そして何故新一は喋らず帰るように動かそうとするのか。近づかせない……?なんのために?彼が隠し事をしているというの?そんな疑問はすぐに晴れる。彼は隠し事をしている。あの怪我がそれを物語っている。でも一体何を隠しているの?気になってしょうがない。そうだ、彼に直接聞いてみよう。そしたら答えてくれるかもしれない。たとえ契約で言えなくても私が無理を通せば………

 聞いたところでどうするの?聞いて私がどうにかできる問題なのか、聞いたら何か変わってしまうのではないかと体が動くことはなかった。時計を見ると時刻は六時。普段より三十分早い。この時間なら寝ると支障をきたしそうなので起きて朝支度をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 今日はお嬢様が早くにリビングに降りて来て下さったおかげで片付けなどが早く終わった。なんで早いのかを聞いたところ「たまには」と答えられて終わりだった。その流れに沿って早めに家を出るとリサと遭遇する。リサは今日日直の仕事があるらしい。今更だが見た目にそぐわず真面目な一面がある。秋も深くなり始めるこの頃は風が少し冷たくなってくる。個人的にはこれくらいが丁度いいとも感じる。清々しい朝になるかなと思った瞬間、見たくない者が目の前に現れた。

 

「よっ、久しぶり」

 

 その男は僕達に手を振って挨拶をしてくる。リサ達は知らない人に声をかけられたと考えているだろう。今すぐにでも警戒態勢を作りたかったが何も知らないお嬢様達の前でそれをするのはかなりリスキーだろう。

 

「新一知り合い?」

「さぁ…ね」

「そんな怖い顔すんなって。今日はちょっとお話ししに来ただけだからさ」

「話すようなことなんてないけど。それに今から学校だから」

「大丈夫だ、すぐ終わるから。な、《朱雪の執行者(スノー・クリムゾン)》さん?」

 

 その名前を聞いた瞬間悪寒が走った。何故皇 獅郎(この男)がその名前を知っている?とにかくこの名前を持ち出して話をしようってことは逃すつもりはないということだろう。

 

「スノークリムゾンって何?」

「さぁ?人違いじゃない?」

「(へぇ……)早く行こうぜ」

「申し訳ございませんお嬢様。あの頭のおかしい人を送ってこなければならないので僕はここで一度離れます」

「大丈夫よ。それより、昨日のような怪我はしないようにね」

「はい。お気遣い感謝します。リサ、よろしく頼める?」

「まっかせといて!」

 

 二人をその場から見送り、僕は後ろの男に向き直す。皇はクスクスと笑っている。

 

「やっぱ予想通り隠してたか」

「それで、何の用?」

「そうカッカすんなって。言った通りおしゃべりだよ」

「じゃあなんであの名前を知ってるの?」

「そりゃお前、教えてもらったからだよ」

 

 答えを聞いた僕はすぐに戦えるよう鞄を近くのベンチに置いた。皇は舌なめずりをしてこっちを見ている。

 

「誰に」

「俺がいるのは園崎の家。あとはわかるだろ」

「僕の素顔と名前という情報提供………」

「イエス♪」

 

 確かにこれだけ情報があれば確証は得られるし、何より向こうが僕に関する情報を提供しててもおかしくはない。

 

「それで?何が目的?」

「せっかくだから誘いに来たんだよ。仲間にならないかってな」

「巫山戯てるの?」

「ふざけてなんかないぜ。俺はお前の実力を見込んで誘ってんだ。

 《朱雪の執行者》。多くの悪を滅ぼし、また多くの同胞を殺し、それらよりも多くの人を救った英雄。その力はまさに鬼神。って聞いたぜ?」

 

 どうやら本当に僕の情報を得たらしい。それを知ってどうして僕の所に来たのか。

 

「君の言うとおりだけど、何故僕を誘いに来たの?君のことだ、力だけじゃないよね?」

「気付いたか。ほらよ、前に戦った時、半分くらい同じ動きしてたろ。そん時分かったと思うけど俺はお前と同じ名護の剣術を手にしてる。そして今回のことで更に分かった。俺とお前は似てる」

「巫山戯たことを言うな」

「真面目だよ、大真面目」

 

 似てる?僕とこの人が?そんなことはあり得ない。彼は自分の力のために戦って、僕は皆を守るために戦っている。第一、人殺しを楽しむような奴と同じなんてあり得ない。けど一つだけ共通点はあった。お互い人を殺してるということだ。数は違うかもしれない。けれども人を殺した時点で僕達は同類なんだ。でも────

 

「どうだ?仲間にならないか?」

「断らせて貰うよ」

「なんでだ?」

「僕にはやるべき事がある」

「……へー、じゃあ仕方ねぇな」

 

 彼は僕に背中を向けて帰ろうとする。去り際にこの事は他言しねぇから安心しろ、と言われたがそれは到底信じ難いものだった。しかし彼は奇襲をするわけでもなく帰っていった。何もしないのならいいかと一応警戒は解かずに学校へ向かった。

歌騎士の第一部が終わったのでアンケートとります!全部幕間のネタですけど

  • 二人のバースデーやろ!
  • パーティーしよ!ヘイセイヘイセイ
  • 誰か狂わせようぜ⭐︎
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