青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第五閃 Uncovered Mask

 応急処置を受けて今は帰路についている。僕を処置できるところまで運んだ後すぐに快斗君が倒れたのは驚いたが、メモリを三本一気に使うといつもこうなるとのことだ。手当を終えて歩いて家まで向かっている。この姿で練習しているお嬢様達の前に現れたら多分集中できないだろうから連絡だけしてまっすぐ帰っている。今日の特売は逃してしまったが仕方ない。

 やがて家について玄関を潜って家の中に入ると力が抜けたように座り込む。正直いって頭が痛い。さっきの傷は思ったよりダメージが深いらしい。あのまま喰らってたら脳に障害が起きていたかもしれない。深呼吸して痛みを落ち着かせてから家事をする。洗濯物を取り込み、お風呂に湯を張る。夕飯の準備をしようとしたが体が言うことを聞かず意識は消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ち………

 

 誰かの声が聞こえる。誰だ?あまり音が入ってこない。

 

 …ち………いち………

 

 あれ、僕は何をしていたんだっけ。確か仕事をしていたような………

 

 …ん……いち………新一!

 

 その声が完全に聴こえるようになって意識が覚醒する。急いで起き上がってあたりを確認する。ここは湊家のリビングだった。体の状態を確認すると頭には包帯が巻いてあり、下半身は床に横になった状態だった。どうやら倒れていたらしい。ダメージを少しでも和らげるためだろうか、体は正直に行動しようとしていたらしい。

 

「新一」

 

 後ろを振り向くとお嬢様の姿があった。

 

「お、お嬢様。おかえりなさいませ」

「おかえりなさいじゃないわ。何してたのよ」

「家に帰ってきてから家事をやっていたのですがお夕飯を作ろうとしたところから記憶がなくてですね……」

 

 状況を振り返りながら時計を見ると既に七時を回っていた。最近はこの時間に帰って来ることをすっかり忘れていた。しかし覚えていたとしても多分反応は出来なかった。状況から察するに僕は倒れていたのだから。

 

「流石に驚いたわ。帰ってきたらあなたがここで倒れているんだもの」

「お騒がせして申し訳ありません。すぐにお夕飯作りますね」

「無理しなくていいのよ、それに頭のソレ…」

「お気になさらないでください、それに無理なんてしてませんので大丈夫です」

 

 台所にかけてあるエプロンを身に纏って冷蔵庫を開ける。冷蔵庫の中は半分しか埋まっていなかったが今日作る分には申し分なかった。とりあえず今日は豚の生姜焼きにしよう。すぐに調理に取り掛かる。

 夕飯を終え、九時を回り完全にフリーの時間になった。まだお風呂に入っていなかったと脱衣所に向かう。服を脱いで包帯を取ると血が少し滲んでいる事に気付く。倒れた時にでも少し広いてしまったのだろうか。血がついた包帯を別のカゴに入れて浴室に入る。シャワーを浴びながら今日の戦闘を思い出す。ライオンにはおそらく京君が弱点を作り上げた。今後はそこを起点に攻撃していくのがベストだろう。トリケラ…猪宮崇は弦巻家に連行された。けどわかったことがある。園崎に入った人はやっぱり僕に恨みを持ってる人が少なからずいるということ。またメモリの力と元の戦闘能力のせいで今までの敵と比にならないこと。今までの戦闘のレベルを捨てて制限を解除していく必要があるようにも思える。とにかくこのままじゃ危ないと思い直して湯船に浸かる。五分くらい何も考えずに湯に浸かってから浴室を出て体を拭く。その時に鏡に映った体を見る。今までにできた細かい傷、そして左上腕にある一つの線。これが一番大きい傷だった。あの日にできた傷。皆があの事件を忘れようとも僕だけは絶対に忘れない。こんな悲しみをもう誰にも与えないようにするために戦うんだと僕は服を着て脱衣所を出ていく。

 脱衣所を出て自室に戻ると錠前が鳴り始めた。場所を確認するとここのすぐ近くが表示された。急いで外に出て表示された場所に向かうと一体のファンガイアが暴れていた。京君と快斗君には来なくても大丈夫だと伝えて錠前を閉じる。まだ怪我の痛みなどは引いていないがそうもいってられないので身して戦う。相手はホースファンガイア、何度も戦っている種族だ。特徴はわかっているのですぐに仕掛ける。場所を公園に移して戦闘を再開する。イクサカリバーを横に振ってから縦に振り切ろうとすると早い動きで避けられる。横から腹を蹴られて吹っ飛ばされた僕は受け身をとってファンガイアを視認すると疑うような光景があった。ファンガイアに変わった様子はない。公園の入り口付近にお嬢様の姿があったのだ。その姿に気づいたのかファンガイアはお嬢様の方へ走っていく。その足音に気づいたお嬢様は逃げようとするも転んで身動きが取れなくなる。

 

「っ………」

「◇◇◇……」

「させないっ!」

 

 手を伸ばそうとしたところを斬り、そのままイクサジャッジメントで斬り込んでトドメを刺す。ホースファンガイアはステンドグラスのようになって爆発した。後ろを振り向いてお嬢様を立ち上がらせて土埃を払う。怪我がないことを確認してホッと安心する。

 

「あ、ありがとう…」

「こんな時間に何してるんですか?」

「その、たまたま気分で出てきたのよ」

「駄目ですよ。こんな時間に女の子一人で歩いちゃ。さぁ、帰りなさい」

 

 お嬢様はこっちを見たまま動こうとしない。一応低い声で話しているからバレていないはずだけどどうしたのだろうか。

 

「ねぇあなた……」

「はい?」

「なんでもないわ。助けてくれてありがとう」

「はい、気をつけてくださいね」

 

 わかったと頷いてお嬢様は帰っていく。まさかお嬢様がこんな時間に出歩くなんて考えていなかった。少しだけ時間を空けてから家に戻ろうかな、バレるわけにもいかないし。

 翌日になって学校に行った。授業はいつも通り受けてお昼休みになる。今日は夜架ちゃんと魔姫ちゃんは仕事でいなかったので四人でお昼ご飯を食べながら雑談していた。お昼ご飯を食べ終わった後立って校舎の方へ入っていく。京君にどうしたか聞かれたが急用だと誤魔化した。だが実際は違う。ドアを閉じて掃除ロッカーの前に座り込む。朝こっそり鎮痛剤を飲んでいたが抗力が切れたらしい。昨日の戦闘でのダメージは思ったよりも深く体の所々が痛い。内ポケットから鎮痛剤の入った袋を取り出すと扉の開かれる音がする。出てきたのはリサだった。こっちを見るなり扉をゆっくり閉めて屈んでくる。

 

「その薬は?」

「秘密って言ったら?」

「じゃあ黙っとく……なんて言えるわけないでしょ」

「やっぱり?リサは心配性だね」

「当たり前でしょ!?朝見たら前より大怪我してんだもん、普通心配するよ!」

 

 僕の目を見て必死に訴えてくる。本気で心配してる目だった。もう少し軽く流されるかと思っていたがそうでもなかった。やっぱりこの子は優しい子なんだ。ある意味知られていて正解だったかもしれない。

 

「ごめんって、でもそんな心配しないで。これ飲めば大丈夫だから」

「もしかして痛み止め?」

「そうだよ、これで痛みを緩和できるから授業とかに支障はないしこの薬治療促進効果もあるから万々歳って感じかな」

「副作用とかないの?」

「寝たらしばらく起きなくなるくらい眠気が酷くなることくらいかな。だから眠くなったらガム噛んでる」

 

 実際午前中の授業はそれで乗り切った。授業中にお菓子を食べるという行為は罪悪感があったが背徳感の方がそれを上回った。でも五十分もガム噛んでると味がなくなってくるから正直辛かったけど。

 

「眠気はどれくらいで来るの?」

「んーとね、飲んで一時間くらいしたらかな」

「じゃあ五時間目が終わるくらいだね」

「ホントだ。その時はまたガム食べなきゃだね」

「今寝るとかじゃダメなの?」

「多分同じ状態になるよ。そうなるんだったら昼休みくらい皆と一緒にいたい」

 

 薬を飲み込んで立ち上がると少し立ちくらみがする。倒れそうになったところをリサが支えてくれる。ありがとうと言うとどういたしましてと笑って答える。二人のところに戻ろうと扉を開けると二人が話しているのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの白い人と話している時、不思議な感覚があった。まるでいつも話しているような感覚。声は低かったけど、話し方や姿勢なんかが新一にそっくりだった。いっしゅん聞きそうになってしまったがあの人がこんなところにいるはずもないので聞かないことにした。

 でも最近の彼は何処か変だ。怪我ばっかりしてくるし、今日に関してはリビングで倒れていた。何か隠し事をしているに違いないのは確実だ。しかし本人に聞いても教えてくれないのは事実だろう。リサたちが知っているわけでもないだろうし、誰に聞くのが正解だろうか。私は新一と関わっている人を思い出そうとするとある男の名前が出てくる。明日も学校だし聞いてみるのもありだろうと考え、玄関の扉を開けた。

 時間は流れて翌日のお昼。私たちはいつも通り屋上でお昼ご飯を食べている。反対側の方ではAfterglowの人たちが食べているようだが今は関係なかった。

 

「新一、その怪我大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。生活に支障はないからね」

「も〜気をつけてよー?」

「全く、お前が料理作れなかったら誰が俺の昼飯作ってくるんだよ」

「それは自分でも作る努力しようよ」

「めんどいからパスで」

 

 仕方ないななどと言いながら新一はいつもと変わらない様子でお昼を食べている。だが急に立ち上がったかと思うと校舎の方へ戻っていった。急用だといっていたが不思議だったのかリサもその後ろをついていく。京と二人きりになった私は質問をする。

 

「ねえ京」

「ん?どうした湊?」

「あの人はなんであんなに怪我しているの?」

 

 普通の質問を投げたつもりだったが京は目を見開いた。あーとか言いながら目を逸らしてくる。何か隠し事でもしているのだろうか。

 

「ねぇ」

「あ、ああ、そうだな。俺はしらねぇぞ」

「でもあなた昨日新一と一緒に帰ってたじゃない」

「そういえばそうだったな。でも俺が一緒にいる最中は何もなかったぞ」

「そうなの?」

 

 ああ、と答えながら頭を押さえる動作をするが何もないことに気付いたのか少しばかり慌てている。でも彼がここ最近怪我をしているのは見ている限りだと京が一緒にいる時だと思う。だとしたら彼は一体何で怪我をしているの?無理はしていないと言っているけど信じられない。昨日の鎧の人といい何か引っかかる。何かが頭の中に浮かび上がったとき、校舎へと繋がる扉が開かれた。新一たちが戻ってきた。

 

「すみません、ただいま戻りました」

「お待たせ〜」

「遅かったな」

「ちょっとね」

「なんだ?逢引きか?」

「そ、そんなんじゃないよ!///」

「合い挽き…?学校に合い挽き肉はないよ」

「えぇ……(困惑)」

 

 京は苦笑いしていたが私にも『あいびき』の意味は理解出来なかった。それからしばらく話していると昼休みは終わって授業に戻った。授業中新一の方を見ると何か苦いものでも食べているような変な顔をしていた。その顔を見て少し可笑しく思える。

 よく考えればここ最近あの人のことが気になって仕方ない。なんでも器用にできる。ヴァイオリンの技術は人並みではない。たまにある世間を知らないような発言。広い人脈。電車での犯罪者を捕まえた時の余裕。そしてここ最近怪我ばかりしていること。彼のことなんて本当に何も知らない。切姫さんたちもあまり詳しくは教えてくれなかった。一体何者なのかと考えると思考を遮るようにチャイムの音が鳴り響く。号令をして休み時間になる。

 

「新一何食ってんだ?」

「ガムだよ。食べる?」

「いや俺も持ってる。あ、なんならガム組み合わせてどんな味になるか実験しようぜ」

 

 京の変な発言に対応を困らせているが一見すると普通の男子と何ら変わりわないんだと感じる。でも今までの行動を見て考えるとどれが本物の新一かはわからない。結局新一のことが頭から離れず休み時間が終わり六時間目に入った。今日の最後の時間は化学の授業で実験室でやる簡単な実験だった。適当な席を取るとそこには大和さんと京、新一が座っていた。

 

「このメンバーで実験か」

「みたいっすね。でも内容は二人一組でやる感じですかね」

「じゃあ俺と麻弥、新一と湊のペアに分かれるんだな」

「あら、どうして?」

「俺達は向き合う形で座ってたからよ、机挟んでる状態だろ?それで隣には麻弥なんだからペア分けするんだったら効率的だろ?」

「それもそうだけど本人の意思も聞かなきゃダメだよ」

「自分は構わないっすけど」

「それなら私も構わないわ」

「っし、じゃあさっさとやるか!」

 

 京と新一は実験道具を取りに前の方に行った。大和さんとはあまり話したこともないため会話はしなかった。やがて実験が始まり道具を手に取る。しかしどう使うのかわからないでいると新一が声をかけてくる。

 

「どうかしたんですか、湊さん」

「これはどうやって使うの?」

「……試験管バサミは少し置いといてください。今僕がやってる作業はここにある四つの試験管にそれぞれ付箋を貼っています」

「どうして?」

「全部違う液体を入れるからです。中には火で加熱するものもありますがそれは後ほど。それで──」

 

 新一は真面目に答えてくれた。その時もいつも通りの顔なのだがそれをみるとどうしても数日前のあの時の顔を思い出す。普段では絶対に見ない不安を抱えている顔。それを考えているとどうしてもこの人のことを考えてしまう。

 

「あの、湊さん?」

「な、なに?」

「聞いてまし…たか?」

「ごめんなさい、少し考え事をしてしまって」

「なら仕方ないですね。でもこれから火も使うんですからちゃんと集中してください」

「え、ええ………」

 

 ねぇ新一、あなたの顔は一体どれが本物なの?

 授業が終わって教室に戻り、帰る準備を済ませる。新一と教室を出るとリサが合流する。校舎の中を移動しているときはずっと新一のことを考えていた。校門を出てしばらくすると新一が急用ができたと言って走って何処かに行く。その後ろ姿を見てふと思い出す。彼はこういう時いつも顔が変わることを。

 

「友希那〜?どうかしたの〜?」

「ごめんなさいリサ、少し練習に遅れるわ。あと荷物をお願い」

「ちょ、友希那!?」

 

 気がつけばリサに鞄を押し付けて走っていた。新一が走って行った方向に向かって走っていくと彼の姿は無くなっていた。それでも探し続けると何かが壊れる音が聞こえた。その場所に向かうと私は見たことない光景に絶句した。私も行ったことのある場所がありえないほどに変わっていた。瓦礫が積まれ、車からは火が出ていた。異様な光景を見て立ち止まっていた私に見たことないような怪物が近づいてくる。

 

「まさか、こんなところで会えるとはな…!」

「な、なに!?」

「知る必要はねぇよ!」

 

 逃げようと後ろに下がっていた私は尻餅をついて動けなくなる。目の前まで来ていた怪物が受けたらタダで済まないような拳を振りかざした瞬間、もう駄目だと目を瞑る。けど数秒経っても痛みは感じなかった。恐る恐る目を開けてみると目の前に影があった。しっかり目を開けてみると昨日の鎧の人の姿があった。

 

「テ、テメェ!」

「この人に……手出しは……させ…ない」

 

 何か言ったかと思うと鎧は消えて見たことのある格好の人が出てきた。目の前で崩れ落ちていくその姿を見て近寄るとその正体に気付く。さっきまで追いかけていた人。普段私の執事をやっている人。

 

「なん、で────」

 

 その顔は名護新一だった。

歌騎士の第一部が終わったのでアンケートとります!全部幕間のネタですけど

  • 二人のバースデーやろ!
  • パーティーしよ!ヘイセイヘイセイ
  • 誰か狂わせようぜ⭐︎
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