「あちゃー、そうなっちゃったか」
「新君…」
事情を話すと二人はそれぞれ納得したような反応を見せた。自分で話していて気づいたが、どう考えても僕が悪い。感情に任せていろんなことを言っていたが結局のところ悪いのは僕だった。しかしどうして僕はあんなにも感情的になってしまったんだろう。素直に「契約通りですので問題はありません」といっておけばお嬢様も引いてくれたのではないのだろうか。
「まあ、否定しなかった僕が悪いし、最後まで言い切れない僕の不徳だ」
「でも友希那も言い過ぎだとは思うよ?新一の話を聞いてる限りだと」
「いやいや、お嬢様は何も悪くないよ。ただ真偽を問いたかっただけだろうしね」
「それでもさ」
「それに、もうお嬢様じゃないんだよね……」
そう、もう彼の方との契約は終わったのだ。契約を結んだのは旦那様だが契約内容の中に『契約破棄を可能とする者に湊友希那を含む。また湊友希那の独断により契約破棄を可能とする。』という文章があった。まさか本人は知らないのにやってみせるとは思いもしなかった。実際思い出したのはついさっきだけど。
「じゃあ湊さんとは……どうなるの?」
「んー、そうだね。正式な契約破棄は旦那様に報告してからだけど、現状だと『家に僕の荷物を持ってるクラスメイト』ってところかな」
「うわーなんか変な響き」
「あまり、というか普通こんな関係ないよね」
「そりゃあね。じゃあ荷物移動させるのに人手がいるの?」
「いやそんなことはないよ」
実際机とかは旦那様のお古を借りているだけなのでそのままにしておいて大丈夫。持っていくものといえば服とクローゼットの奥底にあるもの、教科書とかの細かいもの程度だから段ボール三つあれば十分だろう。
「荷物は……どこに運ぶの?」
「悩みどころかと思ったんだけどすぐに決めたよ」
「えっ、どこどこ?」
「僕の、十年以上前に住んでいた家かな。幸いにも誰も住んでいないから寝床にはなるよ。鍵の隠し場所は知ってるし」
あくまで誰にもいじられていなければだけど。
「じゃあその作業が、終わったら………」
「うん、それが本当の契約終了。僕はただの名護新一になる」
「新一はそれでいいの?」
「うん。それがあの人の望みなら。元とはいえ自分の主人の幸せを願うよ」
答えはとうの昔に決まっていた。例えどちらに捨てられようともその時は潔く辞めて、別の道を歩むことを。もともと真っ暗な道に光をさしてくれただけなんだ。やることが増えてただけで僕の目的は変わりはしない。
「じゃあなんで……悲しそうなの?」
「え?」
「よくわからないけど、言ってることと表情が合ってない…よ………」
「燐子………」
「フフ、りんりんには敵わないや」
「!」
「後悔はないけど、物寂しさは感じるかも。何かとあの人との生活に慣れちゃってたのかも」
「それって……」
「なんだろう。よくわかんないや」
人がいなくなるから寂しく感じるのか?いやそんなことはない。だって一人の時はそれなりに合ったし。もしかしたらあの人の無茶振りを楽しんだりしてたのかな。全く、おかしな話だ。内心自重気味に笑っているとリサが身を乗り出してくる。
「新一は本当にそれでいいの?」
「え?」
「新一はさ、本当に友希那のそばから離れていいの?」
「…どういうこと?」
「え、あっ、ほら、仮にも年頃の男女じゃん!?一緒に暮らしてて何かこう心境の変化というかさ!」
「前にも言ったけど、そういうのは一切ないから大丈夫だよ」
リサは慌てて身振り手振りしていたが言っていることの意味がわからなかった。その隣でりんりん安心したように胸を撫で下ろしているが何かあったのだろうか。
「そういえば…」
「?どうしたのりんりん」
「アレは……どうなるの?」
「アレ、って?」
「あの、その………」
りんりんは手で十字を象るように指を動かしている。もしかして、とお腹の近くで四角いものを象るとうんうんと頷いてくる。やっぱりりんりんは賢いと思う。そっちの方まで気配りが出来るとは嫁に行ったら絶対いいお嫁さんになりそうだ。
「大丈夫、リサも知ってるから」
「!今井さんも……」
「え、なんの話?」
「仮面ライダーの話」
「あ、アレね!てことは燐子も知ってたの?」
「はい……春くらいに」
「アタシは合宿の時。てっきりアタシが一番だと思ってたんだけどな〜」
「私も、私だけだと……」
「やっぱり?で、どうするの?前に、友希那に正体がバレた時にいなくなるかもって言ってたけど………」
「それって!」
「あぁ、まだ大丈夫だよ」
「まだ?」
「そう、イクサシステムはお嬢様とは別の契約なんだ」
「そう…なの?」
主な契約はイクサシステムを用いてのファンガイア退治だった。お嬢様の方の契約はあくまで行動範囲を広げやすくすることと連絡を取りやすくするためだ。もっともお嬢様の契約を受け入れなければ使わせないなんて一瞬脅されたが。
「うん。だけどお嬢様が契約破棄した場合の内容で旦那様が一つ僕に命令を下す権利があるから、もしかしたらそれ次第ではってところかな」
「私、嫌だよ!新君と会えなくなるの!」
「りんりん?」
「せっかく、久しぶりに会えたのに……会えなくなるなんて」
「りんりん………」
「それはアタシも嫌だよ!だってまだ約束が叶ってないもん!」
「リサ………」
二人とも泣きそうな顔になりながら訴えてくる。幸いにもここは個室で、周りに他の患者さんがいないからよかったもののこんな大声を出していたら病院の人がやってくるだろうか。でも訂正をしなきゃいけない。
「二人ともまだ決まったわけじゃないからね?」
「そりゃあそうだけどさ!」
「フフ、ありがとう」
「新君…」
「じゃあちょっと外に行ってこようかな」
スマホを探そうとすると床頭台の上にあることに気づく。それを取って立ち上がろうとすると腕に何かが引っかかる。よくみると点滴の管だった。外れないようにして姿勢を変えて靴を履くと後ろから声がかかってくる。
「え、どうしたの!?」
「ちょっとね。すぐ戻ってくるから二人はここにいて」
「一人じゃ…危ないよ……」
「大丈夫すぐ戻ってくるから」
ドアを開けると優しい声で介助するという声がやってきた。それなりの大きさだったので多分二人にも聴こえているだろう。僕はその人に手伝ってもらいながら移動する。
「全く、あんた私がいること知ってたでしょ」
「なんのことかな」
「腹立つ」
正体は制服姿の魔姫ちゃんだった。いるかどうかは知らなかった。実際一人で行こうとしてたし。しかし一瞬知らない人かと思うくらいの演技力だった。橋本さんに教わったのかな。でも最後のやつで内心ちょっと傷ついた。
「怪我人の心を労ってよ」
「いやよ、あんたなんかそれくらいで傷つかないでしょ。それにそんなキャラじゃないし」
「いや実際ちょっとだけ傷ついたからね?」
「はいはい、よーしよし痛かったですねー(棒)」
「ごめん、魔姫ちゃん元々そういうの向いてなかったよね」
「殺すわよ」
ちょっとだけふざけてみたがガチで殺気出されたので辞めることにした。そのまま電話ができるエリアまで連れて行ってもらい旦那様に電話をかけた。
「もしもし、名護新一です」
『新一君か、どうしたんだい?』
「契約についてのお話です」
『その様子だと、友希那にバレたんだね?』
「はい、おっしゃる通りです。そして契約破棄を申されました」
旦那様は無言になるが話を続ける。
「お嬢様による契約破棄のため、契約内容にある“湊友希那による契約破棄の場合、名護新一に対して一つ命令を下す“という事項が成立します」
『そうだね。つまり私は君に一つなんでも命令できる』
「仰る通りです。何なりと」
正直命を落とせとかは言われないとは思うが何が来るかはわからない。旦那様は少し考えるように唸っているのが聞こえるが答えはすぐに帰ってきた。
『わかった。では湊幸也は名護新一にRoseliaのマネージャーを辞めることを命ずる』
「…畏まりました。では現時点をもってRoseliaのメンバーに通達をし、正式に脱退させていただきます」
『いや、今すぐじゃなくて大丈夫だ。退院してからでいい。……すまない。少しでも距離を置いておいた方があの子のためにもなる』
「いいえ、これは僕に与えられた罰ですから。受け入れるだけです」
「君の意思は硬いね」
「これは意思とは関係なく、契約ですから」
後ろからかかってくる言葉に返事を返して振り向くと申し訳ないさそうにしている旦那様の姿があった。すぐに礼をして顔を上げるとすぐ目の前までやって来ていた。
「久しぶりだね」
「久方ぶりでございます旦那様」
「契約は破棄された。もう私は旦那様ではない。君と私の関係は」
「
「やはり君は理解が早いな」
何故ここにいるかを聞くと弦巻家の人から連絡が入ったらしい。その時点でお嬢様がいることも伝えられていたのだがこんなことになるとは思いもしなかったらしい。我ながら不甲斐ないと謝罪するとそんなことはないと擁護してくださった。それから契約内容の見直しを簡単に済ませて明日荷物を取りに行くことを伝えると了承してくださった。
「本日はありがとうございました。…湊さん」
「君にそう言われるのは会った時以来だな。なんにせよお大事にといったところかな」
「かしこまりました。これからも引き続きよろしくお願いします」
一礼して帰っていく姿を見送って病室に戻っていく。これで契約の話は片付いた。あとのことはこれから考えよう。しかし怪我人とは不便なものだ。点滴代を引っ張っているが正直めんどくさい。
「あんたあの人と契約してたのね」
「魔姫ちゃんもしかして知り合いだった?」
「いや、前に見たことがあるだけよ」
「え、どこで?」
「忘れたわ」
実際どこで見たんだろう。雑誌かなんかかな、もしかしたら街中の可能性もあるけど。でも魔姫ちゃんはそこら辺の人を覚えるような人じゃないしな。
病室の前まで来るとリサと遭遇する。手荷物を見る限り飲み物を買いに行っていたようだ。扉を開けようとすると代わりにリサが開けてくれた。
「────ハァ──────」
礼を言いながら部屋の中に入っていくと何かが聞こえてくる。呼吸音にしては随分吸う音が大きいような……。
「スゥ────ハァ──────」
近づいていくと明らかに大きくなるその音にドギマギしながらもカーテンの向こうを見るとりんりんが僕のいたベットに顔を突っ伏して呼吸している姿があった。こちらに気付く様子はなく今も続いている。後ろから覗いてきた二人も見たことない物を見たような顔をしている。
振り返ってベッドの方を見るとりんりんがこっちを見ていた。顔を真っ赤にしているあたり全て察したのだろう。とりあえず何事もなかったかのように僕達は元の位置に戻った。
「とりあえず今旦那様と会ってきたよ」
「あんたこの状況でよく話せるわね」
「気にしても仕方ないよ、多分何かの間違いだし」
「(それでいいのか……)はぁ…」
「そ、それでどうだったの?」
「命令内容は“Roseliaのマネージャーを辞めること”になった」
「そ、そんな!」
「落ち着いて、何も会えないと決まった訳じゃない」
「そっか……Roseliaのマネージャーを辞めるだけで…メンバーと、会ってはならないじゃないんだもんね……」
「そういうこと。だから後々連絡は入れるけど二人には先に言っとくね」
二人は戸惑いながらも頷いてくれる。ちゃんとじゃないだろうけど納得してくれるあたり優しいよね。
「ということなので、明日からまた別の形になっちゃうけどよろしくね」
「えっ?」
「え、だってもうそろそろ面会終了時間だよ?」
「そうね、これからは親族じゃないといちゃいけないもの」
「あ、あの新君」
「どうかしたの?」
「この人は……?」
りんりんは魔姫ちゃんの方を見て首をかしげている。そういえば初対面だっけ。軽く紹介して今日は解散した。皆が帰り静かになった病室に訪れた人の気配。白衣を着た男の人、僕の主治医らしい。ケガの状態はヒドイものの絶対安静にするのなら明日の昼には退院していいとのことだ。そのことに礼を言うとすぐに退散していった。入れ替わるように夕食が運ばれるなど少しばかりごたついたが初めての病院生活は終わりを告げた……はずだった。
いや終わるはずだった。けどいつも動いてるのにずっとベットの上だから動けなくてソワソワしていた。仕方なく寝てはいたが目が覚めてしまった。外がどうなっているか気になってカーテンを開けてみるとそこに見えたのは暗い夜空ではなく、また青白い月でもなく、真っ赤なセーラー服を着た魔姫ちゃんの姿だった。
歌騎士の第一部が終わったのでアンケートとります!全部幕間のネタですけど
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二人のバースデーやろ!
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パーティーしよ!ヘイセイヘイセイ
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誰か狂わせようぜ⭐︎