青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第八閃 Process

 カーテンを開けて映ってきたのは魔姫ちゃんの姿だった。窓に手をかけ、足を窓辺に乗せてこちらを見ている。

 

「こんな時間に何してるの?関係者以外は入れないし、その入り方は不法侵入だよ」

「うるさいわね。仕方ないでしょ、こんな形でしか入れないんだから」

 

 それもそうだねと答えると部屋の中に入ってくる。着地して立ち上がるとこちらを向くと突っ立ったまま話さなくなった。こうして改めてみると数年前より背が伸びているのが分かる。地面につきそうなくらい長いツインロングテール。鋭い目つきの向こうに見える月明かりによって輝く暗く赤い瞳。

 

「それで、こんな時間に何しに来たの?」

「別に、何も」

「もしかして僕を殺すようにでも言われた?《春姫(プリンセス)》」

「そんな馬鹿なこと言われるはずないでしょう」

 

 呆れる表情を見せながらも声色は怒っていた。ごめんと軽くいいながら外を見ると暗い夜空が見える。星は少なく青白い月明かりだけが見える。しばらく沈黙が続いたがそれを破ったのは魔姫ちゃんだった。

 

「………ないの?」

「何か言った?」

「戻ってこれないの?」

「……意外だね。魔姫ちゃんがそんなこと言うなんて」

 

 目の前の女の子は罰が悪そうな顔をしながら目を逸らす。元々そういうことは素直にいう性格ではないのだ。だから少し驚いてしまった自分がいる。

 

「私だって、納得したわけじゃないわよ……」

「そう、だったんだね」

「あの時、あんたは私らに何も言わずに出て行った。でも私らは事情を知っていた。それでも納得していない奴らはたくさんいた。私だってそうだった。納得したふりをして心のどっかでは納得していなかった」

「……ごめんね」

「今更そんな言葉なんていらない。ここに来て分かったから。でも私は、私たちを捨てたあんたを許しはしない」

「それはわかってる。許してくれる方が奇跡だと思うよ」

「私は、捨てたことは許さない。けどそれ以外は別にどうだっていい。別にあんたが誰と契約してようが何をしてようが知ったことじゃない。だけど、もしあんたが良いと言うのなら、叶えてくれるっていうのなら」

 

 言葉のスピードが速くなりながら僕の方に詰め寄ってくる。やがてベッドに半分身を乗り出し、後ろの壁に手をつきながら言の葉を繋げる。

 

「戻ってきて……欲しい」

「………」

「無理だとはわかってる。それでもずっとこのことを言いたかった。あんたに久しぶりに会ったあの時から、恨みとこの気持ちだけは伝えたかった」

「魔姫ちゃんは……僕をもう一度あの場所に戻したいの?」

「……霧切の指示でもちゃんと仕事はやってるけど、あんたの時みたいな感じは………ない」

 

 そこに何を抱いていたのかは知らない。指示だけというのなら霧切さんでも僕でも変わらないはずだ。それでも何かが違うらしい。僕が指示をしていた時は特にこれといったことはしていなかった。そう考えると何が違うのかが分からない。

 

「霧切からの指示はただ仕事をしてるって感じなの。でもあんたからの指示は何かが違うのよ」

「そう、なんだ……」

「まだ私はそれを理解できてない。それを知るためにも、あんたには戻ってきてほしい」

 

 下げていた視線を戻して魔姫ちゃんの顔を見ると涙を流していた。僕は魔姫ちゃんと抱き寄せて髪を下ろすように頭を撫でる。顔は見えないように肩に頭を乗せながら。こうして撫でていると華奢な体というのが伝わってくる。

 

「な、何よ。急に」

「……ごめん」

「え?」

「僕は……あの場所には戻れない」

「………」

「僕は、皆とあの家を捨てた。今更戻る資格なんてない。たとえ皆が戻ることを受け入れてても戻っちゃいけないって思ってる。それに僕はまだ、終わってない」

「……それが、答え?」

 

 魔姫ちゃんの抱きしめる力が強くなる。うん、と答えると力が抜けたように離れていく。ベッドを降りて目元を擦り、少し乱れた服を整えるとこちらを見つめてくる。その目を見ていると呆れたような溜息を吐かれる。

 

「全く、そういうところよ」

「なんかごめん」

「謝らなくていいわ。…少し、らしくもないところ見せたわね」

「ううん、魔姫ちゃんの本音を聞けてよかったよ」

「じゃ、私は帰るから」

「そっか。気をつけてね」

 

 魔姫ちゃんは僕に背を向けて窓に足をかける。え?まさかそこから帰るつもりじゃないよね?ここ三階だよ?

 

「一つだけ言っておくわ」

「何?」

「あんたはわかってると思うけど………優しすぎるのは、時に残酷よ」

「………忠告、ありがとう」

 

 礼を言った瞬間彼女は窓を抜けて月明かりに照らされた闇の中に消えていった。その姿を見送った僕はまた眠りにつき、次の朝を迎えた。

 時間は流れて昼になり病院を出た。朝起きた時に黒髪ロングの看護師さんが布団に潜り込んでたけどそれはつまみ出して引き取り人に連れて行ってもらった。

 病院の敷地を出てすぐにRoseliaのグループチャットに脱退の意思を伝え、チャットからも退室する。そして真っ直ぐ湊家に向かい荷物を取りに行く。持っていた鍵で玄関を開けると旦那様が待っていてくれた。事前に連絡はしていたがそこにいるとは思わなかった。今お嬢様はいるかを聞くと丁度家を出ているらしい。ある意味好都合だと伝えて二階へ向かう。扉を開けると僕の部屋だったがやはり荷物は少ないなと感じた。

 

「君が来る前に私も一度見たがこれといった私物は増やさなかったんだね」

「いつかこうなることは分かっていましたし、あまり買うものもありませんでしたから」

 

 テキパキと用意してくださった段ボール箱に詰め込んでいく。執事服はどうするか聞くと記念に持っていけと言われる。私服を他にも買わねばならぬのでそれまでは代わりになると思いありがたくいただく。荷物を全て詰め終え、入らなかった長物を背負って荷物を下に運ぶ。三箱必要かと思ったが実際二箱で足りてしまった。二箱目も少し余裕があるくらいだ。玄関に荷物を置き、旦那様に持っていた鍵を渡す。

 

「君がいなくなるのは少し寂しいな」

「そう思っていただけるなど、光栄です」

「たまにお邪魔しに行っていいかな?」

「構いません。是非いらしてください」

「そうか。ではありがとう。今まで友希那を守ってくれて。そしてこれからもよろしく頼む」

「畏まりました。お世話になりました、湊さん」

 

 段ボール箱を二つ抱えて湊家の玄関を抜ける。玄関先に止めてあるイクサリオンに荷物を置き、縄で巻いて固定する。ヘルメットを被って会釈をし、その場から発進した。

 これでもうあの家に入ることはない。湊友希那を守る契約は終わりを告げた。これからはあの人はただの知り合いになる。Roseliaも知っている人達のいるバンドとなる。全て受け入れようと心に決めてバイクの速度を上げていく。しばらく走らせるとりんりんの家の近くになる。

 隣の家の前にバイクを止めてヘルメットを取り、家を確認する。誰も住んでいる気配がない。ポスト口の中から上の部分を探ると鍵があった。隠し場所は変わっていなかった。それを使って鍵を開けると懐かしい匂いが漂ってくる。ここは間違いなく僕達が住んでいた家だ。鑑賞に浸っていると後ろから声をかけられる。

 

「ここが新様が住んでらした家ですか?」

「普通の家なのね」

「二人とも何しに来たの?」

 

 魔姫ちゃんと夜架ちゃんだった。普通に接しているところを見る限り昨日のことは割り切ったのだろう。もう一人の方は多分反省していないだろうけど。

 

「魔姫ちゃんから聞きました。契約破棄でこの家を使うって」

「なるほど」

「それで出ていく姿が見えたので」

「後を追てきたと?」

「はい!流石は新様ですわ!」

「私は止めたんだけどね」

「別にいいよ。その代わり荷物を運ぶの手伝ってくれる?」

 

 勿論と夜架ちゃんはすぐに荷縄を解いてダンボールを持ち上げる。軽い方をすぐに手に取ったためか軽いことに不信がる。重い方を持ちつつドアを魔姫ちゃんに開けてもらって家に入る。二階にある僕の部屋(だったところ)に運んでもらい適当に置いてもらう。荷物を仕舞おうと試みるがタンスとかがないことに気づく。

 そういえば生活の雰囲気だけでも維持させるためにほぼほぼ向こうに持っていったっけ。

 仕方ないので軽く整理するように置いて一回に降りる。リビングを覗いてみると流石に持っていけなかった食器棚やダイニングテーブルがある。そのまま台所に行って水やガスを確認するとちゃんと着くことがわかった。

 

「終わりましたの?」

「うん。とりあえず買い物にでも行こうかな」

「お昼ご飯のですか?」

「お昼は適当に済ませるよ。どっちかっていうとお夕飯の分。冷蔵庫もまだ使えるみたいだしそこに貯蔵しなきゃね」

 

 実際ここまで使えるとは想定もしていなかった。使っていなかったとはいえ基本料金があるはずだと思ったがそれはおいおい調べて行こうと考えて外出の準備をする。

 

「お供しますわ」

「ちょっと」

「構わないよ。どうせだったら皆で食べに行かない?勿論奢るよ」

「新様!そのままお夕飯を食べて行ってもよろしいでしょうか!」

「流石にそれは図々しいわよ」

「うーん………良いよ。今日は二人の好きなものを作ってあげるよ」

「やりましたわっ!私この日のために生きてきたんですわ!」

「あんたマジでいいの?」

「うん、手伝ってくれたし。日頃とあの頃のお礼も兼ねてね。魔姫ちゃんも遠慮しないでね」

 

 はぁとため息を吐きつつ満更でもなさそうな顔をしている。一方もう一人はテンションが爆上がり中だが外に出ようとすると腕に引っ付いてくる。ひっぺ剥がして保護者に預けて改めて家を出る。この景色も久しぶりだなとそのまま僕達は商店街に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は自習練のためにスタジオを借りにきていた。手続きとかはいつも新一のやり方を見ていたからわかっていた。三時間近く練習にのめり込んでいたがそれほど実力が上がった気はしなかった。仕方ないと今日はやめて帰ることにした。手続きを済ませてスタジオを出る前にスマホを確認するとたくさんのメッセージが入っていた。誰からの連絡かを確かめてみるとRoseliaのグループチャットだった。

 今から約二時間前、お昼の十二時に新一から“一身上の都合でマネージャーを辞めます。今までお世話になりました“とだけ書かれてチャットから退会した記録が残っている。その後に紗夜とあこがいろんなメッセージを出していたが詳しくは見なかった。私は執事の契約を切っただけなのに何故Roseliaのマネージャーまで辞めなきゃいけないのかが理解できなかった。私はスタジオを出てすぐに走りだした。もしかしたら家に荷物を取りに来ているのではないだろうか。そんな考えを持ちながら急いで玄関を開けて二階に上がり、新一の部屋の扉を開けた。

 そこに移ったのはいつもの新一の部屋と変わらない風景だった。でも何か違和感を感じた。

 

「新一君なら、一時間くらい前に荷物を持って行ったよ」

「お父さんどういうこと?」

「新一君はこの家にいる意味が無くなった。だから荷物を回収して引っ越したんだ」

「なんで!」

「契約破棄したのは友希那だろう?」

「ッ!そうだけど……」

 

 何も言い返せなかった。昨日私が契約を破棄したから新一はこの家にいられなくなったのだ。

 

「何かあったのかい?」

「新一がRoseliaのマネージャーを辞めたの」

「……契約内容の実行、確認したよ」

「え?」

 

 契約?なんのこと?

 

「そうか、友希那は知らなかったな。彼との契約内容の中にあるんだ。友希那が契約破棄した場合は一つだけ命令を下す権利が与えられるって」

「そんな!」

「でも、今彼といるのは気まずいだろう?」

「……」

「だったら少しでも距離を空けておくべきだと思ってね。なに、別に会ってはいけないなんてルールは作ってないから大丈夫だよ。もっとも、彼が会って話すことを望んでいるかどうかは別だけどね」

「そう……」

「さて、私は夜ご飯の準備に取り掛かる」

 

 お父さんは階段を降りてリビングに向かって行った。私は空き部屋の中を調べる。クローゼットの中を開いても何も無かった。あの時のヴァイオリンすらない。それから机の中とかを調べてみたが彼の私物は無くなっていた。

 

「本当に、もう、いないのね……」

 

 部屋を出て扉を閉め、自分の部屋に戻る。

 ────本当はあの時、どうするべきだったんだろう。

 私はあの時、感情に振り回されて叩いてしまった。新一を傷つける言葉も沢山言った。けどなんであんなことを言ってしまったかは今でもわかっていない。でも何かが許せなかった。その許せない何かの為に私は────

歌騎士の第一部が終わったのでアンケートとります!全部幕間のネタですけど

  • 二人のバースデーやろ!
  • パーティーしよ!ヘイセイヘイセイ
  • 誰か狂わせようぜ⭐︎
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