長い夢を見ていた気がする。あの頃の、戦場を闊歩していた頃の記憶を夢で見ていた気がする。人を斬り、人を撃ち、仲間が殺され、自ら手にかける、夢を通して全て見返していた。時刻を確認するとスマホが指す時間は六時。
「やばっ」
焦りを感じて体を起き上がらせると思い出す。普段なら色々と支度をせねばならないが今日は違った。いや、今日からはもうこのくらいの時間でも問題は無いのだ。
──もう、僕は執事じゃなくなったから。
はぁとため息をつきながら天井を見る。昔住んでいた家の天井。小さい頃の思い出しかない家。昨日からここで暮らし始めたことを思い出す。というより段々と意識が覚醒していき、思い出される。ベッドがなかったので床で寝ていたことさえも。
怪我をした一昨日は金曜日、退院した昨日は土曜日、そして床で目覚めた今日は日曜日。二度寝をしようかとも考えたが朝支度を済ませて意識を完全に覚醒させる。そもそも何でこの時間まで寝ていたのか。普段なら自然と起きるはずだし、目覚ましだって聞こえるはず。答えは簡単だ。寝る一時間前にあの薬を飲んだからだ。結構効くもんだなと感心しながらも一階に降りていくとインターホンが聞こえる。返事をしながらも警戒しつつ出ると黒服の人達だった。
「おはようございます名護様」
「おはようございます。朝早くからご苦労様です」
「ありがとうございます。お時間はよろしいでしょうか?」
「問題ありません。というよりよくここが分かりましたね」
「先日湊様の御宅にお伺いしたところ名護様は引っ越しなされたと申されましたので」
常に見張っててもおかしくないと思っていたが意外とそうでもなかったのかな。
「なるほど、それで要件というのは」
「お渡ししたいものが」
そういって差し出されたものを受け取るとよく手に滲む感覚があった。物体を確認すると柘榴の絵が描かれた錠前だった。そういえば戦闘の際に使ったな。事情を聞くと一昨日錠前の反応がロストしたことにより予備を届けに来たらしい。流石に病院にまで持って来られるのは気まずいだろうと昨日にしたらしい。まぁ昨日もいなかったからこんな朝早くになったんだろうけど。てかよくこの時間起きてると思ったね。
「そこは名護様ですので」
「はぁ………」
「お怪我の具合はいかがですか?」
「痛みはだいぶ引きました。……もしかして、本当は貴女方が病院に運んでくださったんですか?」
「おっしゃる通りです」
「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそいつも快斗がお世話になっていますから」
それから少しばかり仕事について話をするとあることを思いつく。対象からすれば朝からストレスマックスになるかもしれないけど。
「もしよろしければ、弦巻家に連れて行っていただけませんか?」
「名護様を、ですか?」
「ええ、僕をです」
「何ためにですか?」
「会いたい人がいるんです。先日捕まえた、ガイアメモリの使用者に」
『いつかそう来ると思っていたよ』
機会が混じったような声がどこからか聞こえてくる。黒服さんは胸ポケットから何かを取り出したかと思うとそれを開いてホログラムを映し出してくる。そこに映っていたのは椅子に座っているプロフェッサーの姿だった。
『おはよう名護君』
「おはようございますプロフェッサー。久方ぶりですね」
『そうだな、しばらく出番なかったし』
「それで、合わせていただけるんですか?」
『ああ、彼には悪いが朝っぱらから話を聞かせてもらおう』
嬉しそうな声を出すとすぐにホログラムは消えてしまった。とりあえず連れて行ってもらおうと黒服さんに車に乗せてもらい、出発する。
車に揺られながら彼に聞くことをまとめているといつの間にか着いていた。車を降りると日が差してくる。降りて案内されるままについていく。外見が豪華な建物の中に入っていく。だが中身は外とは違い、鉄で作られたことがすぐにわかるような監獄のような作りだった。そのまま奥に進み小さな部屋の中に入れられる。部屋の中には椅子が一個と机、隣の部屋を隔てるための透明なガラス板が貼ってある。おそらく面会室と言われるところだろう。実際名護家にも似たようなのがあるから分かる。
しばらく待っていると隣の部屋から扉が開かれる音が聞こえる。入れられた人は簡易な服装になって目隠しをされている。強制的に座らせられると目隠しを外された。その人物は僕の姿を見た瞬間目の前の板に飛びついた。眼光は鋭くなり、殺す殺すと荒れ狂う獣のように目に映る。
『安心したまえ名護君。そのガラスは強化ガラスだから簡単に割れはしない』
「ですよね。二人にしてもらえませんか?」
『わかった。モニタリングはしている。万が一、ということは無いだろうがいざとなったら突入する』
「畏まりました」
因みに今の会話は向こうには聞こえていないらしい。僕に気を取られている間に黒服さんは部屋を出て鍵を閉めた。これで僕達は二人きりになった。
「お久しぶりです、猪宮さん」
「テメェどのツラさげてここに来たァ!」
「お話を……と思いまして」
「ふざけんな!」
とても冷静に会話をする余裕はなさそうだ。だから僕は相手の言葉を無視して会話を、一方的に喋り続ける。まず頭を下げて一言述べる。
「申し訳ございませんでした」
「………………は?」
「僕は、身勝手な我儘で貴方方を捨て、家を出て行きました。そのせいでこのようなことになっていること、深く謝罪します」
「……ふざけんなよ」
「許してもらおうなどとは思いません。罰も、いずれ受けるつもりです」
「ふざけんな」
「僕のせいで振り回された挙句、仲間と対立」
「ふざけんなっつってんだろ!!」
ドン、と重い音が部屋中に響く。
「テメェのせいでオレたちは行き場を失ったんだ!こんなオレたちでも受け入れてくれたと思った恩人に捨てられて、はいそうですかで済まされると思ってんのか!」
「………」
「オレは、人を殴ることしか頭にねぇ。ムカついたらすぐに手が出る。周りに嫌われていたオレに手を差し伸ばしてくれたアンタが、オレたちを捨てたんだ!!」
「……おっしゃる通りです」
「それなのに、目の前に出てきて、それで憎しみを全部ぶつけられないまま違うヤツに負けて、そんでもって今更謝りに来られて………どうしろってんだよ!!!」
猪宮さんの顔はぐしゃぐしゃになっていた。それほど、僕のことを宛にしててくれたんだ。なのに僕は捨てた。彼が言っていた思いは何処にもやれない、行き場のない思いだったんだろう。
「それを聞いて改めて言います。本当に申し訳ございませんでした」
「………ッ!テメェ!!」
「貴方の話を聞いて、僕がやったことの罪は到底償えるものではないと改めて確認できました。でも、僕にはやらなければならないことがある。そのために貴方に力を借りに来ました」
「んな都合の良い」
「わかってます。これがどれだけ自分勝手で都合の良すぎることか。さらに罪を重ねることでも。それでも僕は皆が傷つかない世界を作るために、貴方が笑っていられる世界を作るために戦わなきゃいけないんです。ですから、どうか力を貸してください」
僕は頭を深く下げてお願いをする。彼だけでなく、彼のような思いを抱いた人は大勢いるだろう。そう行った人たちを救うためにも今は僕が泥でも罪でもなんでも被らなければいけない。むしろそのつもりで来た。だから何を言われたも仕方ない。だけど僕はちゃんと考えていることを伝え切れた。あとは僕の本心で彼の心をどれくらい説得できたかだ。
「………あげろ」
「………」
「頭を上げろ」
言われた通り頭を上げると拳がガラス板にぶつけられる。勿論当たりはしないがその分の衝撃が風邪のように伝わってくる。強化ガラスだから割れなかったものの普通のガラスだったら完璧に割れていただろう。
「聞け。オレはアンタを許すつもりはない」
「はい」
「けどな、一つ条件がある。ここを出たら一発殴らせろ。そしたら完全じゃねぇが許してやる」
「いいのですか?」
「あぁ。………元々、オレがここまで生きて来られたのはアンタのおかげだからな。それに、アンタがオレに頭を下げたんだ。元とはいえ恩人がそこまでやってんのに折れねぇわけにはいかねぇだろ」
「ありがとう…ございます」
「言ったろ、まだ許してねぇ」
「そうですね」
「それで?アンタがここに来た理由はそれだけじゃねぇだろ」
「お気づきでしたか?」
「オレが慕っていた上司はそんなチンケな理由で来るかよ」
チンケとは失礼だなと思いつつも微笑する。
「知っていたら教えてください。貴方は使っていたもの、ガイアメモリの生産工場を知っていますか?」
「あー、言うてオレも下の方だったからな。数はそれなりにあるらしい。細けぇ数は知らねぇが一つだけなら知ってるぞ」
「本当ですか?」
「ああ、なんせオレもそこにいたからな」
「用心棒ですか」
「まぁそんなところだ。輸送する時とかのな」
「そうですか……では園崎の本拠地などは」
「そこまでは知らねぇ。オレみたいな奴らは使者を送られてきてそれで命令を実行してたからな」
つまり園崎は表に立とうとしない。裏から組織を動かしていることになる。自らの手は染めず、実験と称して多くの人を道具としている姿が目に浮かぶ。
「有益な情報ありがとうございます」
「おう、それだけで十分か?」
「今は大丈夫です。朝からすいませんでした」
「いやまぁ俺も言いたいこと言えたし十分だ。あーでもなんか疲れたし寝るかな」
「またお話聞かせて貰うかもしれません。その時はよろしくお願いします」
ああという声を聞いてお辞儀だけして部屋を出る。黒服の人が待ってくれていたので猪宮さんのことをお願いして監獄を出る。その後すぐ高城さんと繋がったので情報提供をするとやることが増えたらしく回線は途切れた。急に切られたので少し動揺してしまったが平常心を取り戻して黒服さんと話す。家まで歩いて帰ることを伝えて弦巻家の敷地を出る。
今日は彼だけだったがおそらくこれからいろんな人と今日みたいなことを繰り返すだろうと考えていると錠前が鳴り響く。近場に出現したので走っていくとすぐに見つかった。
鞭のようなものを振り回しそこから電気を流している。見た目が魚っぽいところから電気ウナギがモチーフだろうか。上着に隠してあるベルトを巻き付け、内ポケットからナックルを取り出して変身する。
「その命、神に返しなさい」
「◇◇◇!」
狂気に染まっているのか言葉の意思疎通はできないと判断した。動き出そうとすると違和感に気づく。いつもと違い勝手にセーブモードになっていた。おそらくバーストモードで受けるはずのダメージを事前に抑えておくためだろう。だがそのせいで視界がいつもより狭まる。それでもやらねばなるまいとイクサカリバーを構えて迎え撃つ。互いに睨み合っていると仕掛けてきたのはあちら側だった。手とも言える鞭をこっち目掛けて振るってくる。さっきのが本当であればアレにあたれば電撃を流されてしばらく隙を見せることになる。そうすれば一発でゲームオーバーだろう。
鞭を回避しながら接近していくと距離を取られる。銃撃しても鞭で叩き落とされる。さてどうしようかと考えると近くに倉庫が目に見える。作戦が頭の中に浮かび上がり、今度は誘うように攻撃を避ける。そのまま倉庫の中に流れ込んでいく。先に入ったおかげで中がどうなっているかわかる。これなら実行できると確信を持つと倉庫内に客が訪れる。
「◇◇ー!」
「いらっしゃい」
「◇◇◇!!」
伸ばしてくる鞭を斬りながら避けて倉庫の奥の方へ走る。入り口度と逃げられる可能性があるので確実に仕留めるためだ。客は頭に血が昇ったのか入り口から離れてこちらに向かってくる。
──掛かった。
天井部分にある鉄骨の固定部分を撃ち抜き数本になるように破壊して撃ち落とす。落ちてきた鉄骨に気を取られていたウナギはすぐに鉄骨の下敷きになった。土煙が晴れても出てくる気配がない。瓦礫の隙間を覗くと身動きが取れなくなっている姿が見える。倒すなら今だとフェッスルを装填してブロウクン・ファングを放つ。瓦礫ごと砕け散り、その場には破片と共にステンドグラスが飛び散った。
変身を解除して倉庫を出ようとするとまたあの姿があった。最近戦場によく顔を出す人。本来は来てはいけない、守られるべき人。そしてもう、僕の主人ではなくなった人。
「こんなところで何しているんですか、
「あなたこそ何をしているの!」
歌騎士の第一部が終わったのでアンケートとります!全部幕間のネタですけど
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二人のバースデーやろ!
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パーティーしよ!ヘイセイヘイセイ
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誰か狂わせようぜ⭐︎