「あなたこそ何をしているの!」
私は近くで聞こえた大きな音が気になってきていた。一体何なのか気になってきてみればそこには新一の姿があった。こっちに気づいた新一はベルトを巻いていた。あの時つけていたベルト。ボロボロになってまで私を庇っていた時につけていたもの。
「何を、とは?」
「なんで戦っているの!?もう私との契約は終わったでしょう?」
「そうですね。貴女との契約はもう終わりました」
「私との?どういう意味?」
「いえ、こちらの話です。失礼します」
「待ちなさい」
横を過ぎ去ろうとした新一の腕を掴む。彼は顔色一つ変えずに私を見る。一見するといつもの顔に見えた。けど私にはいつもと違う、ただの作り笑いにしか見えなかった。
「話はまだ終わってないわよ」
「いいえ、僕から話すことはありません」
「質問に答えなさい」
「……お断りします」
「なっ」
新一は怒る様子も見せず、私に腕を剥がしていく。普段なら答えてくれるはずなのに答えてくれなかった。むしろなぜ答えなければならないというオーラを感じ取った。目つきもまるであの夢のように冷たい目だ。違う、これは新一じゃない。私が知ってる彼と全然違う。
「先程も言いましたがもうあなたとの契約は終わりました。命令されても答える義務はありません」
「でも!」
「それではこの辺で。もう二度と、こんなところに来てはいけませんよ」
別段走り去るわけでもなく去っていく。彼の姿が見えなくなるとやっと体の感覚が戻ってくる。あの目を見た瞬間から体が固まっていた。
でもなんで?なんで彼はあんなに変わってしまったの?それともあれが本当の彼なの?
疑問が解決されないまま私はcircleに向かった。いくらあんなことがあったとはいえ練習をサボるわけにはいかない。スタジオに入るとRoseliaのメンバーがすでに準備を始めていた。
「あ、友希那さん!」
「珍しいですね、湊さんがギリギリに来るなんて。名護さんが辞めてしまったのと何か関係があるんですか」
「ちょっと紗夜」
「ですが名護さん本人からは聞き出せませんでしたし、確認するなら湊さんに聞くのが手っ取り早いでしょう」
「………いなくなった人の話をするのはやめましょう。私たちはやるべきことをするの」
「…わかりました、湊さんがそういうのならそうしましょう。とりあえず今は練習です」
皆が返事をして練習が始まった。でも私はずっと集中できずに練習をしていた。頭の中で新一が言っていたことが忘れられなかった。“私との契約は終わった”、この言葉の意味がずっとわからなかった。それでも歌い続けていると紗夜からストップがかかった。
「湊さん、やっぱり何かおかしいです」
「別に、なんともないわ」
「いいえ、おかしいです。今日のあなたは集中できていません。何かあったんですか?」
「何もないわ」
「そんなことはないはずです。いつものパフォーマンスができていません。何か迷いがあるようにしか」
「何もないわ!」
私は大きな声で紗夜の言葉を遮った。当然周りはびっくりしていてそのことに気づいたのは数秒立ってからだった。
「ごめんなさい。練習を続けましょう」
「いいえ、今日は早退するべきです。そのことをあなたが一番わかっているはずです」
「……そうね、そうさせてもらうわ」
荷物をまとめてスタジオを出ていく。そのまま何も考えずに進んでいるといつの間にか家に着いていた。circleからここまでの記憶がない。でもその間ずっと同じことばかり考えていた。彼のいった言葉の意味と取った行動の意味を。家の中に入って自室に戻ってもそのことばかりだった。結局答えが出ないまま時間が過ぎていく。
なんでこんなことを考えているのか分からなくなった時ベランダの方から聞き慣れた声が聞こえてきた。カーテンを開けると向こうにリサの姿が映った。ベランダに出てみると声をかけられる。
「よかった、ちゃんと帰ってきてたんだね」
「当たり前でしょう。…ごめんなさい、皆には迷惑をかけてしまったわ」
「なんで調子悪かったの?」
フランクに話しかけてくるリサに応えることが出来なかった。別になんともないって答えられたはずだけど何も言えなかった。
「当ててあげよっか」
「………」
「新一のことでしょ」
「!……別に」
「別に、じゃないよ。喧嘩したんだって?新一から聞いたよ」
「喧嘩じゃないわ。契約を破棄しただけだもの」
「ま、そうだね。それで何悩んでるの?」
何を悩んでいるか。答えは簡単だった。だけど言葉にするのが難しい。そもそも真実を話して信じてもらえるのだろうか
「その………」
「?」
「初めて知ったの。新一が、鎧を纏って戦ってたこと」
「うん」
「驚かないの?」
「知ってたからね⭐︎友希那が知るちょっと前から」
「そうなの?」
笑いながらも肯定している。リサには話したのになんで私には話してくれなかったのか。よくわからないものが込み上げてくる。
「それで、最近ずっと怪我してきてたからずっと気になっていたのだけど、それを知った時に何やってるのかさっぱり分からなくてつい怒鳴ってしまったの。“傷口が開いてるのに何してるの”って」
「そりゃあ心配にもなるよね」
「ええ。その後、病院で目覚めて、隠していたことを問い詰めてたらなんだか怒りが込み上げてきて、本当は別のことを言わなきゃいけないのに彼を責めてしまってた。それで……」
「勢いのまま契約破棄しちゃったと」
私は力が抜けたように頷く。今ちゃんと振り返ると彼は悪いことはしていなかったのだ。私が一方的に怒りを振りかざしただけで。でも確かに許せないものがあった。
「でも仕方のないことだったと思うよ?契約の中にあったのかもしれないし。もしかしたら本当に心配かけたくなかっただけかもしれないしね」
「だとしてもよ………ごめんなさい、余計な心配させてしまったわね」
私は訳のわからなくなった思いを一度忘れるために部屋に戻ろうとする。けどそれをリサが止めてきた。
「友希那はさ、本当はどう思ってるの?」
「え?」
「本当は、新一にどうして欲しかったの?」
「………」
答えられなかった。どうして欲しいのか、私の中でまだ答えが纏まってなかったからだ。だからこそ部屋に戻ろうとした。なのになんで止めたんだろう。おかげでわからないものが増えてしまった。
「わからない」
「?」
「わからないわ……あの人は、たくさん怪我して困らせるし、私との契約は終わったのに今日も戦っていたし」
「え、友希那知らないの?」
「…何を?」
「新一が戦うのは別の契約だよ」
「え……?」
別の……契約?じゃあ私の契約ではなかったの?彼の言葉は嘘ではなかった。けど私との契約で戦っているわけではない?どういうことなの?
「本当に知らなかったんだ……」
「…リサは知ってたの?」
「うん、友希那が出て行った後にアタシもお見舞いに行ってて、その時に聞いたの。マネージャーを辞めるっていうことも」
「そう………」
「見たんだ。病室に入ったらさ、新一が目から涙流してるの」
泣いていた?あの人が?そんな話ありえないと思いつつ耳を傾ける。
「泣いてたわけじゃないんだけど本人が気づいてなかったんだよね。その時、お嬢様は何も悪くないって言ってたんだ。悪いのは自分だって」
「………」
「でもさ、アタシはそうは思わない。友希那だってさ、何か言ったんじゃないの?新一が傷つくようなこと」
確かに言った。彼のいっていることを無視して自分の感情だけを押し付けていた。その上私は彼を叩いた。
「言っちゃうのはわかるけどさ、他にも何かあったんじゃないかな。傷付かずに解決する方法が」
「わからないわよ……だって私は」
「うん、昔から人付き合い苦手だもんね。だからさ、どうしたいかだけ考えてみよ?アタシも手伝うからさ」
「リサ………ありがとう」
「どういたしましてっ」
私は部屋に戻って窓を閉める。話しててやっとわかった。私の気持ち。でもまずしなきゃいけないことを考えないと。……どうやったらいいのかもリサに相談しないと。
あれから考え続けて翌朝を迎えた。いつの間にか寝てしまっていたらしい。時間を見るとギリギリの時間だ。お父さんも起こしに来てくれればいいのにとすぐに支度して下に降りるとリビングにお父さんの姿はなかった。お父さんの部屋を覗いてみると私と同じように机に突っ伏して寝ている姿があった。とりあえず家を出て学校に向かった。
────────────────
月曜日の朝になった。あの後は特に何もなくずっと家にいた。家具らしいものを買いたかったがその日は食事を買うだけにしておいた。これから時間はあるわけだし問題はないだろうとあぐらをかいたのだ。今まで厳しく生活してきた分、今は甘えてもいいだろう。
学校へ行くために準備をするもののいつもの時間に起きてしまったため多少の余裕が出る。まぁ遠くなったし少し早めに出るのもいいだろうと家を出た。電車で通学していたため定期があるが湊家より反対側にあるここでは通用しない。なのでそのうち解約に行かなければいけない。とりあえず今日はバイクで行こうと準備をすると扉が開く音が聞こえる。横目で見るとりんりんの姿があった。おはようと手を振ると家を出て門の前までやってくる。
「おはようりんりん」
「おはよう…新君……」
「今から登校?」
「うん……」
「良ければ送ってくよ」
「そんな、悪いよ……」
「ううん、大丈夫。花咲川は通り道だろうし」
予備のヘルメットを持ち上げると戸惑いながらもそれを手にする。荷物を座席の下にしまい、ヘルメットを装着すると同じ方向からまた扉の音が聞こえた。今度はりんりんのお父様だった。お父様は声をかけながらこちらに寄ってくる。
「ここに住み始めたのかい?」
「はい、数日前から」
「じゃあこれからよろしくだな」
「こちらこそよろしくお願いします。近頃挨拶に伺わせていただきますね」
「さて、その時私は自宅にいるかな?これから登校かい?気をつけていくんだよ」
「はい、ありがとうございます」
「行ってきます…」
「燐子も乗っているのか。娘をよろしく頼む」
「かしこまりました。それでは行って参ります」
ヘルメットのバイザーを下ろしてバイクを走らせる。制服を着た状態で運転したことはなかったので新鮮な感じがする。りんりんに速度の確認をすると大丈夫と答えたので安心して運転する。しばらく集中していると声をかけられた。
「あれから……友希那さんに会った…?」
「うん、昨日会ったよ。偶然ね」
「お昼……頃?」
「正解、よくわかったね」
「昨日の、練習……集中……できてなかったから」
「そっか」
それがどうした。知ったことではない。と考える自分もいた。もうほとんど赤の他人なのだ。それを気にしていても仕方ないと自分の中で区切りをつけようとする。
「気にならないの……?」
「もうそういう関係じゃないしね。それに、僕が心配しても何もできないから」
「そう、なのかな……」
「昨日も悪いこと言っちゃったしね」
「え?」
「答える義務はありませんって。今考えるとかなり意地悪だよね」
自重気味に笑うが半分は後悔している。もう少し話を聞いても良かったのではないかと。
「新君は……謝りたいの?」
「?なんで?」
「なんか、話してて…謝りたいのかなって……」
「うーん、確かにその気持ちはあるかも」
「じゃあ」
「でも向こうは聞いてくれるかな?この前あんなこと言っちゃったしいっても信じてもらえるかが不安、って感じかな」
「…そっか………」
決して謝る気が無いわけではないのだ。僕自身非は認めてる。けれど傷つけた分信用はかなり減っているはず。その状況下でどうすれば謝罪を受け入れて貰えるか。今までこんなこと無かったからどうすれば良いかが分からない、これが本音だ。でもだからと言ってまわりを頼るべきではないというのは分かってる。
「ありがとうりんりん」
「?」
「気遣ってくれたんだよね。ありがとう。とりあえずどうにか出来ないか考えてみるよ」
「うん……」
「もうそろそろ学校だよ」
どのタイミングで停めるべきか分からず結局校門前まで来てしまった。降りたりんりんからヘルメットを貰い、荷物を渡してから仕舞い、迎えも来るか聞くと練習があるからと断られる。周りからの視線もあるため撤退の準備をする。
「それじゃあ学校と練習、頑張ってね」
「うん、新君も……気をつけてね」
「ありがとう。紗夜さんにもよろしく伝えておいて。それじゃ」
手を振ってからハンドルに手をかけてバイクを走らせる。そのまままっすぐ羽丘に向かった。
「白金さんおはようございます。先程の方は…」
「おはよう…ございます……新君です」
「名護さんですか!?話があったのに………というかなんで二人で登校してるんですか!」
「えっとそれは………」
すぐ後にこんな会話があったらしいがりんりんはなんとか乗り切ったらしい。
歌騎士の第一部が終わったのでアンケートとります!全部幕間のネタですけど
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二人のバースデーやろ!
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パーティーしよ!ヘイセイヘイセイ
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誰か狂わせようぜ⭐︎