学校には着いたものの結局湊さんと話すことなく午前が終わった。京君に何かあったのかと聞かれたが特にないとだけ答えて普段とは違う、普通の学校生活を過ごした。普段と関わりのない人達と会話したり、お昼ご飯を食堂で食べたり。勿論リサから昼の誘いを受けたが今回は丁重に断った。おそらく湊さんもいるだろう。彼女とはもう少し時間をおいておきたいと思った。
……いや、こうやって逃げているのは自分かもしれない。しかしその時の言い訳は通ってしまい今は一人で食事をしている。黙々と食べていると向かいの席に誰かの食器が置かれた。
「一緒に食べてもいーい?」
やってきたのは氷川日菜さん、紗夜さんの妹さんだ。構わないと流すと席についてご飯を食べ始める。僕も再開しようと箸を動かすと声をかけられる。
「何かあったの?」
「何か…とは?」
「いやなんか元気ないなーって」
「そんなことないですよ」
「うっそだー、だってるんっ♪ってこないもん」
「え?」
るんっ♪の意味は分からないがいつもと違うように見えたのは分かった。
「どこがですか?いつもと変わらないと思いますけど」
「んーとねー、なんか笑ってないような気がする!新一君っていつも笑ってるけど今日は笑ってないと思う!」
ポーカーフェイスは崩していないはず。だとしたら表層だけでなく中まで見られたということだろう。もしくは気付かなかっただけでそこまで出てしまっていたか。前者を信じたいところではある。
「バレちゃいましたか、でもたいしたことではありませんよ」
「ホント~?」
「本当です」
「リサちー言ってたけど、ケンカしたんだったらちゃんと謝らないと駄目だよ?あたしもよくおねーちゃんに怒れて謝ってるけどさ」
喧嘩……ね、確かにある意味喧嘩かもしれない。でも喧嘩なんて何年ぶりにしたんだろう。おかげでどう謝れば良いのかも分からない。
「喧嘩って、どう謝れば良いんですかね」
「え?」
「あっ、いえ、なんでもないです。独り言ですから気にしないで下さい」
「謝り方かぁ」
やっぱ聞こえてるじゃんと思いつつも考える様子を見せる日菜さんを見ながら食事を続ける。謝るべきだとは思うが実際どう謝ればいいのか分からない。
「その時は分からないかもしれないけどさ、自分の間違いが分かったときに謝ると良いかもよ?」
「なんで疑問形なんですか」
「あたしもよくわかってないからかなー。なんかこういうのって難しいよねー」
何を思い立ったのか机をバンと叩いてそれじゃあと言って何処かへ消えていった。食事はどうしたのかと目の前を見ると既に食器が消えていた。一体いつ食べたのだろうか。
そのまま午後の授業受けて放課後になると京君から弦巻家に行くと言われる。僕も行くのか聞くと当たり前だと首根っこ連れてかれる。二人揃ってバイクを走らせるといつしか黒い車が現れて道案内をしてくれた。
やがて弦巻家に着くと前に行ったことのあるブリーフィングルームに連れてかれた。部屋で待ち構えていたのはプロフェッサーと快斗君だった。
「いらっしゃい二人とも」
「久しぶりだな」
「これから作戦会議始めるっすよ」
「作戦会議?」
「君が引き出してくれた情報を元に作戦を立てた」
プロフェッサーがテーブルモニターに触れると工場らしき写真と文字が沢山並べられる。
「先日名護君が猪宮崇から聞き出した情報を元に探ったところにガイアメモリの工場が特定された。今回の任務は工場の破壊と人員の捕縛だ。敵対勢力は撃破、生きていれば捕獲してくれ」
「大体分かった。俺達三人で乗り込めば良いんだな?」
「いや、鳴海君と快斗で攻め込んで貰う。名護君は今回不参加だ」
「えっ」
「え、じゃないっすよ。新一さん大怪我したんですから」
「それはそうだけど……」
正直不安だった。二人を信用していないわけじゃないが相手が相手なだけあって心配だった。
「任せとけ。確かにコイツがヘマしないか心配なのは分かるが俺がいるからどうにかなる」
「馬鹿にすんな。大丈夫っすよ、俺も鍛えてるんで」
「安心したまえ。しかし残念とも言えるが今回の目標は小規模だ。だからよほど想定外なことが無い限り問題ない」
「分かりました。いざとなったら呼んでください」
分かったと返事が返されると作戦内容の伝達が始まった。僕も一応耳にして内容を把握しておく。作戦の確認が終わると各自解散になる。そのまま帰宅して家事を済ませてゆっくりしていると電話が掛かってきた。かけてきた人の名前を確認する前に電話に応答する。
「もしもし、名護です」
『新一、今起きてる?』
「まだ九時だからね、全然起きてるよ」
『なら良かった』
掛けてきたのはリサだった。意外だ、今まで用事がある時はメッセージで済ませていたのに電話をかけてきたのは初めてだ。今日お昼ご飯を断ったときぶりな気もするけど一体どうしたのだろう。
「何かあったの?」
『ううん、今何してんのかなって』
かけてきた理由は意外と単純だった。少し不安になった自分もいたがそんな自分はどこかへ消えていった。
「本を読んでたよ、学校で借りたやつ」
『何借りたの?』
「ウィリアム・シェイクスピア作、“ロミオとジュリエット”」
『恋愛ものじゃん、興味あったの?』
「まぁね。今まで読んだことなかったし、どうせなら読んでみようかなって」
有名人という知識はあったが実際のところ読んでる暇がなくて中身に目を通したことはなかった。もうほぼ読み終わったが皆が言ってるイメージと違って面白く感じた。
「知ってる?ロミオとジュリエットって何ヶ月もかかってる様に見えて実際五日間の物語なんだよ」
『えっ、ウソ!?』
「ホントだよ、今度読んでみて」
うんと言いながらも戸惑うように答えている。本好きのりんりんならこの話は知っているだろうかなどと話していると歯切れが悪い事に気付く。一体どうしたのか聞くと本題に入り始めた。
『実はさ、友希那が悩んでるみたいでさ』
「湊さんが?新曲の構想かな?だとしたらあの人らしいね」
『違うの。友希那自身のことなの』
へぇ……?
友希那自身という言葉を聞いて本を閉じた。少し気になってきた。純粋に興味がわいてきた。あの人が音楽以外のことで悩みを持つのを聞いたのは最初のRoselia解散の危機以来ではないだろうか。
『新一と別れたあとから何か思い悩んでるみたいでさ』
「そう、なんだ」
『うん、なんか見てて辛いっていうかなんていうか……』
「前にも言ったけど、あの人は何も悪くないよ。隠してたのは僕だしね」
『でっ、でも』
「言ってあげて、思い悩むことはないって」
『……新一はどうしたいの?』
「どうって……」
まさかりんりんと同じ質問をされるとは。彼女らは何処か共通点があるかもしれないと思いつつ朝言ったことと同じことを伝える。
「聞いて貰えるのなら謝りたいかな」
『やっぱり?』
「うん、謝罪だけはしたいかな。申し訳なかったって」
『そうなんだ』
「まぁ聞いてもらえないんじゃないかって不安があるのも事実だけどね」
『……実はさ、友希那も同じなんじゃないかなって思う』
「同じ?」
『うん、あれだけ悩んでるって事は多分そうだと思う』
一度携帯を耳から離して考える。どうして彼女が謝らなければならないか。考えたが答えは出なかった。スマホから僕を呼ぶ声が聞こえたのでもう一度耳に当てる。
「ごめんごめん」
『大丈夫~?まぁそういうことだから、一度友希那と話し合ってみたら?』
「うん……そうしてみるよ。ありがとう」
『ううん、こっちこそ急にごめんね。それじゃおやすみ〜』
リサとの通話を終えて携帯を伏せる。天井を見上げて目を瞑っていると今までの光景が蘇ってくる。お嬢様と過ごした時間、戦っていた日々、Roseliaの音楽を誰よりも近くで聴いていた時間。そういえばいつから練習に顔を出せなくなったのだろうか。1週間前か、もう何ヶ月も聴いていないような気がする。出来ることならばもう一度あの演奏を、あの歌声を近くで聴きたかったと思うと意識が段々と薄れていった。
次に目を覚ました時、僕は椅子に座っていた。あの後そのまま寝てしまったのかと状況を整理すると子供の声が聞こえてくる。声のする方向を見ると廊下に繋がる扉が勝手に開かれ、子供が三人入ってくる。
「ごはんごはん〜♪」
「希璃乃、はしゃぎすぎだよっ」
「そういう新一もソワソワしてるじゃないか」
意味が分からなかった。ここは僕の家で僕以外誰もいないはずだった。なのに小さい男の子と女の子、それよりも少し身長の高い男の子がいる。顔は雲が勝っているように見えないでも声はどこかで聞いたことのあるだった。途中で名前を呼んだのだろう。その名前もかき消されたように聞こえなかった。
「二人とも、もう少し静かにね」
「ほら、父さんもああ言ってるだろ」
「「はーい」」
「ふふ、お待たせしました♪」
後ろから声がすると思うと今度は夫婦と思われる人達がいた。こちらの声も聞いたことのある声だ。しかしさっきとは違って顔がはっきりわかる。僕の
「ほら、皆座って」
「何してるんだ新一。早く座りなさい」
「にぃになにしてるの?」
「どうした新一、お腹減ってるんじゃないのか」
皆が僕に向かって言ってくる。さっきまでいた小さな男の子の姿はなく、僕のことを指しているのは明白だった。言われるがままテーブルの席に着き手を合わせてから食事を取る。
「おいしい!」
「ああ、やっぱり母さんの料理は美味いな!」
「ありがとう二人とも」
「当たり前だろう。母さんの料理だぞ。どうした新一、手が止まってるぞ」
おかしかった。周りからすれば僕がおかしいのかもしれない。けれどこの状況は絶対と言えるほどおかしかった。希璃乃は小さいままだし、父さんと母さんも若い。そして何より隣に僕より背の低い
「気づいたか」
父さんの方を見るとあたりは真っ白に染まって母さん達は消えていた。父さんの顔はさっきまでと何ら変わりはないが声は低くなっていた。
「どういうこと?」
「お前には帰るべき場所がある。ここにいちゃいけない」
「何言ってるの?」
「やらなければならないことがあるだろう。例えお前が、
「そうだけど……っ」
「何を悩んでいるんだ?」
「自信がないんだ。たとえ僕が許しを乞おうとも許されないことをした」
「どうして許されないんだ?」
「え?」
「悪は、自分でも決められるが他人にも決められる。そしてそれは片方の意見が絶対ではないんだ。それはお前が一番よくわかってるだろう」
「それはっ」
「もう時間だな」
父さんはフッと笑うと背を向けて向こうに歩き始める。その背中を追いかけようとしても捕まえることは出来なかった。というよりかはそれ以上進めなかった。父さんとの距離が一方的に空いていく。
「待ってよ父さん!」
「お前は、今まで頑張った分、自由にやってみたらどうだ。やりたいことを、さ」
「待ってよ父さん、それじゃわかんないよ!」
消えていく父の背中を見届けると僕の意識も白く染まっていく。やがて光が戻ってくるとテーブルの天板と閉じてある本が視界に映る。ここはどこだと辺りを見回すと自分の家だとわかる。伏せてある携帯を手に取ると五時半を指していた。どうやら本当に夢を見ていたらしい。
しかし覚えているのは父さんが出てきて“自由にやってみたらどうだ”という言葉だけ。他に何が合ったかは覚えていない。とりあえず朝支度をして時間を潰した。
それでも時間が余ったため学校に向かった。完全に気分で動いている。本当ならもう少し家で休んでいるべきなのかもしれない。バイクを止めて校舎の中に入っていく。教室は誰も来ておらず職員室まで鍵を取りに行って教室を開ける。
誰もいない教室というのはこんなにも静かなものかと呆気にとられたがとりあえず荷物を置いて屋上へ向かった。誰もいない屋上。秋も中頃に入るためか風は少し冷たいが心地よかった。フェンスに手をかけて中庭を適当に見ていると扉が開く音がした。こんな朝早くから誰だろうと思うとそこには思わぬ人物の姿があった。
歌騎士の第一部が終わったのでアンケートとります!全部幕間のネタですけど
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二人のバースデーやろ!
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パーティーしよ!ヘイセイヘイセイ
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誰か狂わせようぜ⭐︎