朝早い屋上に現れたのは意外な人物だった。
「おはようございます湊さん」
「おはよう」
早起きが苦手なこの人がこんな朝早くに来るとは思いしなかった。
「…少し、いいかしら」
「構いませんよ。僕も話したいことがありましたから」
フェンスから手を離して向き直す。湊さんの表情は少し暗かった。まるで何かを戸惑っているように感じる。
「それで、ご用件は何でしょうか」
「その前に、あなたの話を聞かせてもらえるのかしら」
「いいんですか?」
ええ、と返事もしながらもどこかバツが悪そうな顔をする。少し話しかけづらいなと思いつつも頭を下げる。
「先日は申し訳ございませんでした」
「……え?」
「感情に振り回せれたとはいえあなたを傷つけてしまったこと、深くお詫び申し上げます」
「ちょ、ちょっと待ちなさい」
「謝ったところで許されるとは思っていません。ですが」
「待ちなさい!」
彼女は声を荒げて僕を止める。
「なんであなたが謝るのよ!あの時悪かったのは私じゃない!」
「……何を」
「あれだけ責め立てて、質問ばかりして自分の意見を押し通して、あなたを叩いたのよ!恨まれて当然のことをしてるのになんであなたは謝るのよ!」
息が切れそうなくらいの大声をあげて涙目になっている。言っていることは正しいのかもしれない。けど僕の中では違った。
「確かにおっしゃる通りかもしれません。ですが、貴女に隠し事をしていたのは僕です。ですからあのようなことはされても仕方のないことだったんです」
「違うっ、違うわ!」
「ですから貴女が謝ることはありません。それに、僕は貴女のことを恨んだりなんて、これっぽっちもしてませんよ」
「そんなこと」
湊さんが言いかけた瞬間予鈴が鳴り響いた。もうそんな時間だったのかと扉に向かって歩き始める。
「待って!」
「湊さん、今度落ち着いた時にお話ししましょう。今は遅刻してしまいますよ」
「………そうね」
歯切れの悪い返事を受けると僕より先に扉の向こうに行く。別に僕は恨んだりなんかしていない。その言葉に嘘はないのだ。何も負の感情は抱いていない。彼女は何も悪くはないと、僕が悪いのだと。そもそも僕のような人間を知らなかったとはいえ受け入れてくれたことが嬉しかった。だから執事として最大限返してきたつもりだった。最終的には怒らせてしまったが、それでも僕はあの人を悪い人として見たくはなかった。
教室に戻って席に着くと京君が話しかけてくる。
「今井から聞いたぞ、湊にフラれたんだってな」
「そういうことじゃないんだけど」
「わーってる。契約破棄されたんだろ?」
「そういうこと」
「昨日の様子見ててなんとなく察してたけどよぉ、関係を修復するつもりはねぇの?」
「ないわけじゃないけど、あの人が自分を責めてる限りできないかもしれない」
「なんでだ?話は聞いたがアイツだって悪いだろ」
「いやいやそんなことないよ」
手を振ってないないと答えると目を見開いてこっちを見てくる。首を傾げるとはぁと思いっきりわかるようなため息をしてくる。
「お前さぁ」
「な、なに?」
「優しいのかどうかしらねぇけど、それはアイツにとって酷だぞ」
「え、なんで?」
「わかってないようなら言っておくけどな、この件に関してはお前ら二人が悪い、だが今のままだとお前が悪い」
「えっ!?」
理解出来なかった。実際僕が悪いんだからあの人は何も悪くない。
「その思考はお前にとっては優しいのかもしれねぇけど、周りからすれば明らかに捻くれてるぞ」
「捻くれてるって……てかまた僕の思考を読んだ?」
「そうでもしねぇとお前のそれは解決されねぇからな。一回全部自分が悪いという思考は捨てて客観的に見ろ」
客観的にか……少し難しそうだがとりあえずやってみることにする。ありがとうとだけ告げるとまたわかりやすいため息をされた。このことと朝のことを昼休みにリサに話すとどう考えても僕が悪いと言われた。もうここまでくると京君の助言通り客観的に見るほかないだろうか。
時間は経ち放課後になると京君は行ってくると告げてくる。例の殲滅作戦に出るのだ。気をつけるようにと言うと当たり前だと返されて肩に手を置かれる。
「もう一度ちゃんと考えて湊と話せ」
「うん、わかった」
鞄を肩にかけながら教室を出ていく京君を見送り、僕も帰る準備を始めようとすると電話がかかってくる。かけてきた番号は不明で非通知とだけ表示されていた。
「もしもし」
『もしもし、私だ』
「新手の詐欺でしょうか」
『いやいや私だよ』
「やっぱり詐欺じゃ……」
『高城だ高城』
「あぁ、高城さん詐欺ですか」
『違う!まぁ良い、早速本題に入ろう』
「ご用件は」
『ファンガイアが出現した。二人は知っての通り作戦前だ。できれば君に行ってもらいたい』
錠前に直接連絡が来なかったのは二人の気を逸らさせないためだろう。なるほどと了解した僕はすぐにデータを転送してもらい、教室を出た。急いで階段を降りてバイクの元へと向かう。校門までは流石に押したが出た瞬間すぐに跨って走らせた。目的地についてすぐに見たのはライオンのファンガイア。また結構なダメージを負うことは確定だろうと腹を括って戦場に降り立つ
「久しぶりだな白騎士ぃ!」
「お久しぶりですね」
「ずっと会いたかったぞ。あの日お前にやられた傷が全然治らなくてよぉ、お前を殺さねえと気がすまねぇんだ!」
咆哮を上げながら近づいてくるライオンを見てとっさに変身する。状態はやはりセーブモードだ。低出力ではあるが防ぐくらいは出来るだろうと身構える。拳をいなし、斬りつけようとするが避けられてしまう。カウンターは全て回避され、防戦一方の状態になってしまった。
だが体の所々を見るにまだ前回の傷は完全には癒えてないらしい。
「実は結構キツかったりしませんか?」
「ハッ、テメェを殺すには良いハンデだぜ!」
突き出してくる拳を避けて回転斬りをすると飛んで避けられる。その瞬間をイクサナックルで砲撃するとライオンは蹌踉ける。
「やっぱり、今の貴方ならこちらにも勝機はありますね」
「舐めんじゃねぇぞ、ガキが!!」
怒りだした敵はこの前のようなエネルギーを拳に集め出した。流石に今の状態でもろに受けるわけにはいかないとフェッスルを挿し込んでイクサジャッジメントで迎え撃つ。強い衝撃がぶつかりあったせいかその反動で吹き飛ばされる。強制的に変身解除させられた僕は辺りを見回すがそこにヤツの姿はなかった。
だがチャンスは今しか無いだろうと体に鞭を打って辺りを探し始めた。近くのビルの角を曲がるとすぐにその姿を見つける。意外とすぐに見つかったと思えばその思考はすぐに消える。
──なんでこうもあの人はここに来るのだろうかと。
──────────────────
学校が終わったあと新一を捜し回っていた。朝の話の続きをするために。でもどこに行っても彼の姿は見当たらなかった。仕方ないので練習に向かうことにした。リサとあこには先に行くよう伝えていたので私一人だ。
もしあの時あんなことをしなければ、私が一人で帰るなんてことは無かったのだろう。いつだってあの人は待っていてくれた。学校では秘密の関係でも、それを表に出さないようにして仕事をしてくれていた。
……結局、アレも仕事だったのだろうか。でもそうであって欲しくないと望んでいる私がいる。
何故だろうか。こんなこと、今まで考えたこともなかった。でも彼がいなくってからことあるごとに考えるようになっていた。
一人道を歩いてる私の前に大きな影が現れた。
「ハハ、歌姫がこんなところにいるとはな」
「なん、で……?」
この前見た化け物だった。確か新一の攻撃を受けて消えたはず。なのになんでこんな所にいるの?
「知ったところで何も出来ねえ奴に、教えねぇよ!」
化け物は逃げようとするが足を捻らせて転ぶ。化け物の声はまるで楽しんでいるようだった。
「なんで、こんな……!」
「たまたま、テメェの運が悪かったんだよ」
その言葉と同時に少しずつ迫ってくる。近づけさせまいとその辺にある石を投げるがびくともしない。あと数歩の所でやっと気づいた。
こういう目に合わせないように、新一に影から守られていたのだと。歌うことしか出来ない私を守っていたのだと。
───私はその人のありがたみを知らずにその人を
───まだ死ねない。私にはまだ…やらなきゃいけないことがある!
目を瞑った瞬間、化け物の叫び声が聞こえた。閉じていた目を開けると目の前に剣を持った新一が立っていた。
「アガッ…!!?」
「大丈夫ですか、お嬢………湊さん」
「新…一……?」
「はい、名護新一です」
「何で、ここに?」
「見てわかんないんですか?仕事ですよ」
その時の新一の目はあの時でも、今までにも見たことの無いほどの怖い目をしていた。仕事と言えど私を助けた意味が分からなかった。
「でも──私は一方的に貴方を捨てた。だから私を助ける必要なんて……」
「それは……思うのは貴女の勝手ですが、僕はただ、やりたいことをやっただけです。目の前で襲われている人がいる。それを助ける。それがたまたま貴女だっただけです」
「でも………」
「離れててください湊さん。これから貴女のことを気にしてる余裕なんてありませんので」
剣を竹刀のように構えてこちらのことは見向きもしなかった。言われた通り離れたところに行こうとするが足を捻らせたせいで立つことが難しかった。
「足が…」
「……分かりました。では下手に動かないよう、お願いします」
「テメェ!!ふざけんじゃねえぞ!!!」
化け物はかなり怒っている。無理もないのかもしれない。けど新一は表情を変えなかった。
「知りませんよ。僕は守りたいものを守っただけ。貴方の邪魔をしただけですから」
「ぜってぇ殺す!」
殺すと言われた瞬間新一から怖いものを感じる。私は一瞬、呼吸すら出来なかった。すぐに意識を戻すと新一は鎧を纏って戦いに行っていた。
前の姿とは違って顔の十字の部分が閉じられていた。見ていて圧倒的に化け物の方が優勢だというのが分かる。それでも抗うように新一は戦い続けている。
「やめなさいよ!なんで戦ってるのよ!」
「さっきも言ったでしょう。守りたいものを守ってるだけです」
「でもそれであなたが傷ついたら」
「そんな事、どうだっていい!これは僕のやりたい事で、罪滅ぼしでもあるんだ!!」
……罪、滅ぼし?何を言っているのだろうか。彼には何も罪はない。いや違う、私が知らないだけだ。彼は何かを抱えながら戦っている。それすら知らない。何より私は彼のことを全然知らない。だから彼が何をいっているのかすらわからないんだ。
「あなたが何を抱えているかはわからない。けど、私はただあなたを傷つけた。だから私なんかをあなた」
「──私なんか、なんて言わないでください」
「え……?」
「僕は、今までずっと考えてきた。こんな僕が貴女達のような人と関わっていいのか。誰かを笑顔にできているのだろうかと。もしかしたら……皆が僕から離れていくんじゃないかと」
「どういう──」
「それでも皆は笑っていてくれた。そして貴女は、離れたりしないと言ってくれた。それが例えあの時だけだったとしても、嬉しかったです」
その言葉にはさっきまでにない暖かさを感じた。なんで、なんで酷いことをした私にまでこんなに優しいのだろう。なんでこんな人を捨ててしまったのだろうか。悔やんでも目の前の光景は変わらないことくらい分かってる。それでも悔やまずにはいられなかった。元通りになることなんて出来ないだろう。だから私は決意した。
「新一!」
「なんでしょうか。これ以上話している余裕はないんですが」
「それでもいいわ。私は、あなたに隠し事をされているのがすごい腹立ったわ。それにこれ以上傷ついてほしくなかった。私との契約が切れればきっと怪我をしなくて済むと思ったわ。けど現実は違った。私はあなたの心に深い傷を負わせただけだった。だから言うわ、ごめんなさい」
「湊さん………」
「でもあなたの言っていたことにも腹が立ったわ。料理ができないとか洗濯ができないとかわがままだとか。確かにその通りかもしれないけどものすごく腹が立ったわ」
「それは…申し訳ありません」
「それでも、私には欠かせない存在だった。……もう、元の関係には戻れないって分かってる。だからこうさせてもらうわ」
私は戦っている新一に向かって指を指してを言い放つ。
「私と、契約しなさい!」
歌騎士の第一部が終わったのでアンケートとります!全部幕間のネタですけど
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二人のバースデーやろ!
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パーティーしよ!ヘイセイヘイセイ
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誰か狂わせようぜ⭐︎