水曜日、朝起床して学校に向かう。今日からはまた新しい生活だ。学校ではいつも通りに授業を受け、昼休みは屋上でご飯を食べる。昨日の冷蔵庫の状況を見てお弁当も作れないだろうとお嬢様の分も作ってきた。
「今日も美味しいわね」
「お褒めに預かり光栄です」
「なんだ、お前らもう再契約したのか」
京君がサンドイッチを咥えながらこっちを見てくる。
「おかげさまでね」
「んだよ、もう少し長引くと面白かったのによぉ」
「何を言ってるの?」
「俺はてっきりそのまま今井と駆け落ちしようとして湊に捕まるみたいな展開を期待してたんだけどな」
「アタシっ!?」
まるで三問芝居だったぜとでも言いたそうに空を見上げている。結構いろんな考えがあったからそんな軽くはないんだけど。
「それでお前らはこれから元通りの生活か」
「完全って訳じゃないけどね」
「良かったな湊。これでまたうまい飯にありつけるぜ」
「それそうね」
「いいな~アタシも新一の料理食べたいな~」
「はいはい、今度作ってあげるから」
「やった!」
「では私たちもお願いします」
「うおっ、お前らいたのか!?」
「最初からいたわよ」
魔姫ちゃんと夜架ちゃんも一緒に食べていた。あまり話さなかったのでいるかどうか不安だったがちゃんといたらしい。
「お前らたまにこえーんだよな。なんかお化けみたいでよ」
「失礼ね、ちゃんと生きてるわよ」
「ですわですわ」
「わーってるけどよ」
「そうだ京君、今日時間ある?」
「放課後か?特に用事はねぇけど」
「じゃあ六時くらいにcircleにきて」
「何でだ?」
「話したいことがある。リサもこれる?」
「アタシは練習が終わる時間だから行けるけど何かあったの?」
「その時のお楽しみにってことで」
お弁当箱を片付けて座り直す。回りは顔を見合って疑問符を浮かべていたが気にしなかった。そんなことよりもどうすれば納得してもらえるかを考えなきゃいけなかったからだ。
そんな昼休みも終わり、午後の授業を受ける。たいして集中もしていなかったが放課後になるのは一瞬だった。京君に後でと伝えて学校を出る。お嬢様達と共にcircleに向かうと三人の姿があった。
「新兄!」
「新君……」
「名護さん!?」
三人がこっちに駆け寄ってくる。二人は安心したような顔だが、一人は当然として怒っていた。そして近くになると頬を叩かれる。
「一体どういうつもりですか!」
「ちょっと紗夜!」
「いいんだ。当然のことだと思う」
「自分が何をしたか分かってるようですね」
「勿論です。勝手にやめると言っておきながらここに戻ってきたこと、深くお詫び申し上げます」
頭を下げると紗夜さんははぁとため息をつきながら叩いてすみませんと謝ってくる。一応こっちのことは許して貰えたみたいだ。叩いてスッキリしたのだろう。とにかく練習をしようとスタジオ入りをする。
「新兄が戻ってきたってことはRoselia完全復活!?」
「いや、まだ僕は戻ってないよ」
「え、どういうこと?」
「皆さん六時以降は空いてますか?」
各々問題なしと答えてくる。練習が終わったら話すとだけ伝えて話を終わらせる。練習の様子を久しぶりに見た。お嬢様の調子は良く、ここ最近で一番いいらしい。久しぶりの練習の時間を堪能すると五時半になる。一度受付に向かい、まりなさんに延長できるか聞くと許可を貰う。延長料金も含めて僕が払うと伝えて部屋に戻ろうとする。だが気配に気づいて足を止めた。
「予定より早いのではないですか?」
「常に早めに行動しておりますので」
「ですね。貴方はそういう方でした」
振り返ると一条さんの姿があった。ギターケースを背に持っているがおそらく中身は違う。
「用意ができました」
「ありがとうございます。……ですがこれは」
「分かりやすくするために新一様の情報をスライドにまとめたのでこれを持ってくるのが一番かと」
「左様、ですか……」
とりあえずここで待っていて貰えるよう頼んで部屋に戻った。部屋に戻ると既に片付けが始まっていた。手伝っていると京君が乗り込んできた。まりなさんに聞いて入ってきたらしい。ついでに快斗君もいた。構わないだろ?と押し通されたがいつか話す予定だったので問題はなかった。
やがて時間になって一条さんを連れてくるとギターケースを開いて準備を始める。
「名護さん、この方は」
「はい、この間一緒に演奏した人です」
「改めまして、
作業を一度やめて挨拶をした一条さんは準備ができたと教えてくれる。
座っている皆に顔を向けて話し始める。
「まずは謝罪から。この数日間、勝手な行動で混乱させてしまい申し訳ございませんでした。これから、僕のことを話そうと思います」
「新兄のこと、って?」
「まず一つ、これは見て貰った方が早いですね」
懐からベルトを取り出して巻き付け、イクサナックルを掌に当てて装填する。イクサシステムを身に纏った僕に四人は驚いている。
「えっ、えっ!?どういうこと!?」
「これが僕の一つの顔、仮面ライダーイクサです」
「新一……」
「待ってください、じゃあこの間見たそれは貴方だったんですか!?」
「落ち着いてくださいよ氷川先輩」
「大道さんはなんで落ち着いていられるんですか!」
「えー、だってそりゃあ俺も仮面ライダーですから」
紗夜さんははぁ!?と大きな声をあげて混乱してる。京君は言わずもがなメモリを小さく投げて遊んでいる。皆で落ち着くよう促して数分、やっと紗夜さんは落ち着いた。
「では纏めますと、今まで練習中に抜けたりしていたのは怪物を倒すためですか?」
「そういうことです。黙っていてすいません」
「もういいです。それが仕事だったわけでしょう?」
「おっしゃる通りです」
「通りであれだけの怪我をしていたわけですか……」
「その節はご迷惑をお掛けしました。この通り僕は戦いの中にいる身です。これからも迷惑をかけることは多々あるとあると思います」
僕は変身を解除して元の状態に戻る。
「仮面ライダーって本当にいたんだ!あこ感動した!」
「あこ知ってるの?」
「うん!仮面ライダーって都市伝説なんだよ!悪い人を倒してくれるの!」
「ですがこんな身近にいるとは普通思わないでしょう」
「そりゃあな」
「いや~氷川先輩があんなに取り乱すなんて想像もしてなかったわ」
快斗君が笑いながら紗夜さんを見ると睨みを効かされていた。怯える快斗君は急いで話を変える。
「そ、そういや白金先輩は全然驚いて無さそうでしたけど知ってたんですか?」
「は、はい……かなり前から……」
「なんで教えてくれなかったんですか?」
「新君が、皆に…迷惑かけたくないって……」
紗夜さんが今度はこっちを睨んでくる。会釈だけして誤魔化すとフンとそっぽ向いてしまった。
「だけど、新一はこの為だけに
「そう。本命はこっち」
僕は深呼吸して一度落ち着かせる。これを告げるだけで皆の僕に対する意識が変わる。最悪の場合百八十度変わるだろう。だけど、少しずつでも開いていかなければならない。じゃないと、変わることはできないから。
「僕は、名護家第十六代元当主名護新一です」
「嘘……だろ?」
「新一さん、それマジっすか?」
「ホントだよ。少なくとも弦巻家の当主は知ってる。目の前で確認されたから」
「名護家……とは一体なんですか?」
紗夜さんが手をあげて発言する。知らないのも無理はないと一条さんにお願いしてプロジェクターの起動をさせる。邪魔にならないよう少しだけずれて映像と共に説明を始めた。
「名護家は日本にある財閥、弦巻家のような財閥ですが表には顔を出さず裏で動いている組織です。世界の脅威となるもの、人類の敵となるものを認定し、殲滅及び討伐、また技術を各国に提供し防衛手段を築かせるのが主な仕事です。裏ではありますが一応政府公認です。僕は、いえ私はそこの当主────王の立ち位置でした」
「なるほどな。裏だから誰も知らなくて当然なわけだ」
「うん、快斗君とかは例外だけど京君はなんで知ってたの?前に話した時は」
「ああ、金持ちの家の子程度でしか教えられてなかった。だけど俺は探偵家業の中でたまたま耳にしていたんだ」
なら仕方ないかと納得がいく。Roseliaのメンバーを見てみると混乱している人、何を言っているかわからない人、もはや思考が停止した人がいた。話を続けようと咳払いをすると全員が意識をこちらに向ける。
「私は二年の間当主としての仕事を行っていました。ですがある日、家族をとあるファンガイアに殺されたことをきっかけに当主の座を捨てて
「ま、待ってください。話が急すぎます」
「では手短にまとめていきましょう」
「新一様私にお任せください。既にここにまとめてあります」
「用意がいいですね…お願いします」
一条さんは返事をすると簡単な表をプロジェクターに写した。事細かというわけではないが大体の情報はちゃんと載っている。京君は帽子を深く被り、快斗君はプロジェクターに釘付けになっている。そんな中Roseliaは各々がわかる言葉でまとめ始めた。
「つまりでまとめると……」
「新一はお金持ちの子供」
「それで組織のトップであった」
「でも復讐するために全部捨てて」
「私たちのところにいる………」
「そして仮面ライダーで正義の味方!」
納得したように頷いているが少しだけ引っかかったので言葉を訂正する。
「あこちゃん、仮面ライダーは正義の味方かもしれないけど、僕は正義の味方じゃないよ」
「えっ?でも仮面ライダーは正義の味方なんだから新兄は正義の味方じゃないの?」
「ちょっと難しい話になっちゃうけどね。仮面ライダーとしての行動は正義だよ、きっとね。けど僕自身はそんな綺麗なものじゃない」
「えーっと?」
「まぁ多分そのうち分かると思うよ。他の人は理解出来ましたか?」
「すみません、途中で出てきたファンガイアというのはなんですか?」
「ファンガイアはステングラスの模様が入った人型の化け物です」
「資料提示します」
「よくありましたね。これが今まで戦ってきたファンガイアの一部です。ここに写真はありませんが僕の仇は奴らのうちの一人です」
「家族って………」
「はい、父と母、そして妹が奴の手にかかりました。表沙汰ではテロもどきのバス事故になっていますが、生き残った乗客は僕一人です」
「他の人は!?」
「皆死にました。………今でも、あの光景が夢に出てきます」
急に暗い話をしたせいか空気が重くなる。仕方ない。今日はもともとここまで話す予定だったのだ。その上で僕は話を進める。
「失礼、話がそれました。僕が知って貰いたかったのはこの二つ。普段戦いに出ていること、復讐を糧に生きていること。この二つを抱えていますが、出来ることならRoseliaのマネージャーを続けていきたいと考えています。ですが本当の僕を知った上で皆様に続けさせてもらえるかを問いたかったんです。勿論一人でも嫌だという人がいるならばもうこのようなことは言いません。ご判断をお願いします」
一度頭を下げて顔を上げるとRoseliaの皆は顔を見合わせていた。おそらくあの人は嫌だというのではないだろうか、でもあの場所に戻りたいと考えている自分がいる。しばらくの静寂の中を勇気を出して破ったものがいた。
「わ、私は、戻ってきて欲しいです!」
「燐子?」
「新君は……確かに私たちとは、違う世界の人だった…のかもしれません………けど、Roseliaのマネージメントを出来るのは……彼しかいないと思います」
「で、ですが、それとこれとは」
「そーだよっ!りんりんの言う通りだよ!」
「あこちゃん…?」
「だって新兄だよ?さっき言ってたことはあこにはまだ難しいけどっ、でも新兄自体は何も悪くないじゃん!!それに今までだってずっとサポートしてきてくれてたじゃないですか!!」
二人はこっちに駆け寄って目の前に立つ。
「それに新兄が仮面ライダーとかチョーカッコイイじゃないですか!だから、あこたちは新兄が戻ってくることに賛成です!」
「宇田川さん!そんなことで決めていいことではないのよ!もっとちゃんと考えて」
「そうね、あこの言う通りよ」
「湊さん!?」
「新一は、私たちに黙っていたけど、私たちを守ってくれていた。なら少しでも彼の望みを叶えてあげるのがせめてもの恩返しになるんじゃないかしら。それに」
言葉の途中で区切ったかと思うと僕に近づいて腕をがっしり掴んできた。振り解く気はないが絶対外してくれなさそうだ。
「この人は、私の執事だもの」
「あなたまでそんな………!」
「あちゃー、皆に先越されちゃったか」
「今井さん?まさかあなたまでとか言うんじゃ!」
「え?そうだけど?」
「なんでですか、なんで皆さんはそんな簡単に受け入れられているんですか!私はまだ混乱しているのに!」
「氷川、少し勘違いしているぞ」
話の間に割り込んできたのは京君だった。紗夜さんの隣の椅子の背に寄りかかって話しかけている。
「何がですか」
「誰も、完全に理解しちゃいねぇよ」
「そんな!?」
「宇田川妹だって言ってたろ。まだわからないって」
「でっ、でも!」
「でもよ、皆信じてんだ。名護新一って男をよ。お前にとってアイツは信じられない男だったか?自分勝手に動いて周りに迷惑ばかりかけるような男か?敵意を見せて攻撃してくるようなヤツだったか?」
「それはっ」
「それに、新一はよ、多分こんなこと話したくなかったんじゃないか?」
「えっ」
全く、この探偵さんは余計なことを………
「本当は怖かったはずだ。元御曹司なんて知られればどんな目で見られるかなんて目に見えてる。けど
「………」
「もう分かるだろ、賢いお前なら。別に、貸しを勝手に作られたことを気にしてんだったらこの機会にコイツに倍の貸しを作ってやれ」
「そんなこと思ってません!」
紗夜さんは立ち上がって京君を追い払うとこっちを見つめてくる。近づく気配はないが何を話そうか戸惑っている。
「そのですね、名護さん」
「はい」
「私も、おそらく湊さんと同じです。勝手に隠し事されてそれで急に混乱させられて、それで少し嫌になってます」
「……申し訳ございません」
「ですがあなたに助けられていたのは事実です。ですから仮にですが、あなたが私たちを信じてくれたように私もあなたのことを信じてみたいと思います」
「紗夜さん…!」
「ですがもしまた裏切るようなことがあればその時は覚悟しておいてください」
紗夜さんは不満そうに髪をいじりながらも僕が戻ることを承諾してくれた。全員からの承諾が降りたことによって僕の復帰が認められた。やったと喜びつつも改めてよろしくお願いしますと礼をして今日は解散となった。スタジオの鍵を返しにまりなさんの元へ向かい会計を済ませる。次の予定を確認させてもらい、記入してcircleを出る。出る直前、一条さんからデータをどうするか聞かれたので回収することにした。
「今日はありがとうございました」
「いえ、新一様のお力になれたのなら」
「ではあと一つだけ、お願いを聞いてもらってもいいですか?」
「フフ、何なりと」
「僕の家を売ってもらえませんか?」
「……よろしいのですか?思い出を売ってしまっても」
一条さんは珍しく悲しい声を出す。普段は元気があっても落ち着いたような声なのにトーンは変わらずテンションだけが落ちているように感じる。
「構いません。今度こそ、あの家にはもう戻れませんから」
「何かあったのですか?」
「………父に言われたんです。ここには戻ってくるなと」
「そんな!啓介様はもう」
「夢の中です。ですが夢といえど父の言葉。言っている姿はまさに父にそっくりでした。僕の年齢ではそういったことは難しいのでお願いしたいのですがよろしいですか?」
「畏まりました。手続きはお任せ下さい」
不満がありそうな感じを一瞬見せたが一条さんは承諾してくれた。本当に申し訳ない。この人には頼ってばかりだ。
「申し訳ございませんがご迷惑おかけします」
「いえ、では後日。またお会いしましょう」
「………一条さん!」
「はい?」
「また今度、何もない時に、一緒にお茶に行きませんか?」
「喜んでお供させていただきます。楽しみにしています!」
一条さんは振り返って満面の笑みを見せると姿を消した。僕は家に戻って荷物をバイクに乗せて離れる準備をする。家の中を最後に見ておこうと歩き回るがほとんど残っていない。全て見終えて玄関を出る。最後にありがとうとだけ告げてバイクを走らせる。さようなら、僕たちの思い出。あの頃の時間は決して忘れはしない。
真っ直ぐ湊家に向かい、バイクを止めるとお嬢様が出てきた。
「ただいま戻りました。今日よりまた、よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそよろしく。………おかえりなさい、新一」
荷物を抱えて湊家に入る。僕達は顔を見合わせるとふと笑みが溢れて笑っていた。
今日からまた、ここでの生活が始まる。
でも前とは違う、僕たちの────新しい生活が始まる。
アンケート取りますのでよろしければお願いします!
歌騎士の第一部が終わったのでこれからは新一君を基本的に自由にさせられます。さて、どうしましょうか←特に考えてなかった
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誰か狂わせようぜ⭐︎