第一話 おっす、新一生きてるか?
「ったく、こいつも風邪なんて引くんだな」
「私も驚いているわよ。まさか新一が風邪を引くなんて」
「一応春川たちにも伝えようとしたけど今日アイツら休みなんだよな」
「そうね。こんな様子じゃ家事も出来なさそうね」
「やれます。僕はまだ動けます」
「「病人は寝てろ(なさい)」」
皆が授業を受けている中私たちは今、私の家にいる。本当は授業を受けているはずだったのだが、二時間目の体育の時間に新一が倒れたのが原因だった。朝から顔を赤くして少しフラフラした様子だった。おかしいとは思っていたがより一層おかしくなったのはさっきの時間だ。
授業内容は体力テストだった。100m走でありえないタイムを叩き出し、握力を測るやつは限界値を超え、反復横跳びに関してはもはや残像が出来ていた。倒れたのはその直後、額を触るととんでもなく熱かった。
京に背負ってもらって家まで連れてきたはいいものの、家の中に入った瞬間家事を行うとか変なことを言い始め、全力で取り押さえてから今に至る。
「病院は行かなくていいのかしら」
「うーん、この状態だったら行かなくていいんじゃね?咳とかしてないからただの熱だろ」
「熱?」
「あぁ、多分今までの疲労が一気に出たんだろ。ただでさえ家事をやってんのに戦いにまで出てたんだ。怪我も完治しないで無理に動いてたしな」
じゃあこの熱は私のせいなのかしら。私は握る力が強くなる。
「悪いがこれはお前のせいだけじゃない。ちゃんと休むという事をしなかったコイツのせいでもある」
「はは、面目ないですね……お嬢様は気にしなくていいですよ」
「本人もそこは自覚してたみたいだな。なんか食いたいものあるか?」
「京君作れないでしょ」
「バーロー、林檎切るくらいはできるわ」
「ありがとう……気持ちだけ受け取っとくね。そろそろ寝ようかな」
「おう、ちゃんと寝ろ。なんかあったら呼べ」
京は私の肩を2回叩いて部屋を出ていく。寝るのを邪魔しちゃ悪いと私も続いて部屋を出る。一回に降りてリビングに入って椅子に座る。
「台所借りるぞ」
「え、ええ」
「コーヒーあるか?」
「えっと、お父さんがいつも飲んでるやつが……あら?」
台所に入って探すがどこにも見当たらない。確かここに入れていたはずなんだけど。普段台所を使っていないせいかわからない。新一に聞こうとしても今の状態じゃ聞くことはできない。
「これか?」
「そ、そう、それよ」
探していた戸棚の上のところから京が引っ張ってくる。少し私の方を見るとすぐにコンロの方へ向かっていった。ヤカンに水を入れて沸かしている。私は大人しく椅子の方へ戻った。しばらく沈黙が続いたがコーヒーの匂いがすると京がコップを持って向かいの席に座る。
「コップ借りるぞ」
「ええ」
「驚いたな、アイツが倒れるなんて。つっても一番驚いてるのはお前か」
「………」
「飲まねぇのか?いや違うな、考え事をしていて飲んでる場合じゃないのか。大方自分のせいで倒れたと思ってる」
「!なんで!」
「これでも探偵だからな」
済ました顔でコーヒーを啜る京は非常に落ち着いていた。私の心は全く落ち着かないのに。
「さっきも言ったがお前のせいだけじゃない。言っちまえばあれはオーバーヒートだ」
「オーバーヒート?」
「機械だったら使いすぎると熱くなるだろ?それと同じだ。ただどれだけ耐えてたかは知らんが」
「じゃあやっぱり」
「だがあの新一がそれだけで倒れるなんてことはありえない。それ以外にも要因はあるはずだ」
それ以外の要因?でもそしたら最近あったことは……と思い出してみるとあの事しかなかった。
「そう、アイツが自身の正体をカミングアウトしたことだ」
「でもそれがどうして?」
「かなりの緊張状態だったんだろうな。人は緊張が途切れると一気に警戒を緩める。そこに今までのが乗っかったんだろ」
「だから急に倒れたのね……」
これでやっと倒れた原因が分かった。でも今の私にはどうすることもできない。消化のいいものを食べさせたほうがいいんだろうけど作る技術はない。料理だって新一に任せっきりだったし、家事なんてどうすればいいか。
「全く、本当に新一がやってたんだな」
「言い返せないわね……」
「まぁそれがアイツの仕事だからしゃあねぇよな」
ぐぅの音も出なかった。前々から思ってはいたけどこの人は本当に人の心を読むのが上手い。探偵って皆そうなのかしらたまに腹立つこともあるけど。けど今回は特に何も言い返せなかった。
「この時代、男がどうこう女がなんだとかいうつもりはねぇよ。俺だって料理できねえしな」
「なら」
「だが主人なら自分の執事の様子くらいちゃんと見てやれ」
「!!」
「家事ができなくてもいい。勉強ができなくてもいい。けどな、ヤツの体調くらいは見てやれるだろ。それくらいはしっかりしておけ」
「…わかったわ………」
納得する私を前に軽いため息をついた京は小馬鹿にするように言ってくる。
「はーあ、湊にこんな説教したなんてアイツに知られたら怒られちまうかもな」
「そんなことないわよ」
「どうかね、アイツならやりかねない。さて、そんなことより飯作るか」
「でもあなたは作れないんじゃ」
「俺が作るなんて言ったか?」
京が不敵な笑みを作ると同時にインターホンの音が聞こえる。来た来たと言いながら彼は玄関に向かった。数秒すると人を連れて入ってくる。そこには両手に袋を持ったリサの姿があった。
「新一のために午後の授業をサボってまで来てくれた今井リサさんでーす♪」
「ちょ、言い方!」
「いや事実だろ」
「それはそうだけどさ……」
「リサ、どうして?」
「そりゃあ新一が心配で。二人が何も作れないこと知ってたし」
「失礼だな、カップ麺なら作れるぞ」
「それ料理って言わないからね!?」
授業はいいのかと聞くと今日は五時間目までだったし最後自習だったからと笑って受け流した。根は真面目なリサが自習といえど授業をサボってくるなんて信じられなかった。リサは台所を借りるといって料理を始めた。十分くらいするといい匂いが漂ってくる。
「おかゆできたよー」
「流石は今井だな。じゃあ持ってくか」
「私も行くわ」
「おう、扉開けてくれ」
おかゆを持つ京に続いて私たちも新一の部屋に向かう。ノックをしてから入ると信じられない光景を目にした。新一がベッドで寝ていなかったのだどこだと部屋を見渡すと扉の裏に張り付いていた。
「何してんだお前」
「……ば、バレた?」
「起きたならそんなとこで遊んでないでお粥食え」
「あー、そこに置いといてくれると助かるなー」
「いや、今から食え」
「ごめん無理。僕は今からスーパーに買い物に行くんだ」
急いで部屋を出て行こうとする新一を阻んで皆で止める。一瞬残像が出来たけど体力がなくなっているのかそのまま床に座り込んだ。
「邪魔をしないでくれ!これは大義なんだ!」
「うっせぇ!大人しく戻れ!!」
「地を這いずってでも行くよ!」
「よーし、なら俺は病人のお前の写真を切姫と白金に送りつけてやる!Present for youってメッセージを添えてな!」
「申し訳ございませんでした」
「わかればよし、戻れ」
颯爽とベッドに潜り込む。確かに夜架なら何かやりかねないけど新一がそこまで恐れることなのだろうか。あと何故燐子にまで?
「何かとちゃんと面倒見てくれそうじゃん?あと本人の前ではぜってぇ言えないけどなんかやばいことしてくれそう」
「完全に偏見じゃない」
「そのまま新一が襲われるかもしれないけどな」
「まさか燐子に限ってそんなことはないでしょ」
「いや、ああいう系がやってくれるって古事記に書いてある」
「どんな古事記読んだの!?」
上半身だけを起こして食べられる体制になる。トレーは京が持ったままだが問題が発生した。
「どっちが食わせるんだ?」
「友希那やる?やらないんだったらアタシやるけど」
「そうね……私じゃ多分上手くできないだろうからお願いするわ」
「あの、僕一人でも食べられ」
「写真撮るぞ」
何でだろう。今日の新一はいつもよりコミカルな感じがする。それにいつもは堂々としている彼が今日は小動物みたいだ。
「はい新一、あーん///」
「あ、あーん」
「奥さん見てくださいよ、あなたの従者浮気してますよ」
「そうなの?」
「違いますよ?」
京はケラケラ笑ってる。新一の弱っている姿なんて滅多に見ないから楽しんでいるのだろう。確かに皆笑っている。しかしどうしてだろう、また無力感が湧いてくる。結局役に立たない主人だなと思うと提案が出る。
「今井、食い終わったら一度部屋を出るぞ」
「う、うん」
「新一は少し休んでろ。あ、寝るなよ?食った後すぐに横になると逆流して食道癌になりやすくなるから」
「よく知ってるね」
「前に飯食った後にゴロゴロしながらテレビ見てたら言ってた」
「あ(察し)」
食べ終わった食器を持って部屋を出ていく。そしてリビングに戻った私たちは作戦会議が始まった。
「さて、こっから今井がどうやって新一を籠絡させるかだけど」
「そんな話今までなかったよね!?」
「冗談だよ冗談。しっかし今日のお前ら面白いな、アイツが倒れただけでこんなに乱しやがって」
「それもそうね……」
「湊に関してはアイツのありがたみをまた知ったところだろう」
「まさかこの短期間で二度も知ることになるとは思いもしなかったけど」
「で、どうするのこれから?」
京が返事をしようとした瞬間インターホンの音が聞こえる。玄関の扉を開けるとRoseliaの残りのメンバーがいた。あこと紗夜は手に小さいビニール袋を持っている。それに対して燐子は少し大きなエコバックを持っていた。
「こんにちは湊さん」
「あなたたち何をしているの?」
「お見舞いに……来ました……」
「新兄が倒れたって聞いたので皆で集まって食べられるもの買ってきたんです!」
「とりあえず上がって貰えば?」
「そうね、入っていいわよ」
お邪魔しますと皆が入ってリビングの人の数は増える。
「さて、さっきの話の続きをするか。今井が新一をどう」
「その話はいいから!」
「今井さん……何をしようとしてたんですか………?」
「りんりん、目が怖いよ?」
「とりあえず現状を聞かせてください」
〜少女説明中〜
「わかりました。では名護さんは今休憩中だと」
「ああ、理解が早くて助かる」
「それで今井さんは……」
「それ京の冗談だからね!?」
「ではこれからどうしますか?」
「とりあえず体拭かせないとな。汗が出るのはいいがあのままだと新しく風邪をひきかねん」
「じゃあ私がいくわ」
「わ、私も、行きます!」
「じゃああこも!」
「そんな大人数で行ったら名護さんが驚いてしまいます。ですから二人に任せましょう」
「あこと紗夜はこっち手伝って。晩御飯も作っちゃいたいから」
「わかった!」
「じゃ、そういうことで各自仕事開始だな」
「京はどうすんの?」
「俺はゆっくりしてる……つもりだったんだけどな、仕事が入ったからここまでだ」
「頑張ってね京ちん!」
「お、おう」
京は微妙な顔をしてスマホを取り出す。一方私と燐子は洗面所にバスタオルを取りに行ってから新一の部屋に向かった。
「燐子、そのカバンは?」
「な、何かの役に立ったらなぁ…って……」
病人に対して役に立つものが入っているのだろうか。それにしては物がたくさん入っている音が聞こえるけど。部屋に入ろうとすると中からドテンと音がする。急いで開けると床で倒れている新一の姿があった。
「何してるの!?」
「あ、あの、ただ休んでいるのも窮屈なので勉強しようかと教科書を取ろうとしたのですが…」
「びょ、病人は休まなきゃ……ダメ………!」
病人を引きずってベッドに戻して事情を話す。しばらく考える様子を見せたが上半身だけという条件で汗を拭くことになった。
「私が拭くから燐子は替えのパジャマ用意してもらえる?」
「わ、わかりました…」
「クローゼットを開いて、タンスの一番下の段に入ってるよ」
「う、うん………」
「さぁ、あなたは脱ぎなさい」
「ぐ、やはり脱がないと駄目ですか?」
「当たり前じゃない。脱がないと拭けないでしょう」
渋々といった感じで脱ぐ新一の体を見ると鍛えられているのがわかった。細身とは思えないほど筋肉がしっかりしている。しかしパッと見分からなかったが細かい傷がたくさんあった。でもそれよりも目立ったのは左肩にある一閃の傷。綺麗な線だがそれ以上のものを感じた。
「すみません、お見苦しい体を」
「いいえ、それよりこの傷…」
「ああ、これですか?例の蠍にやられたんです。家族が皆死んだ後に近づいてきて」
「ごめんなさい……」
「お嬢様が謝ることじゃありませんよ。それより……」
新一が顔をある方向へ向けると燐子が写真を撮っていた。画像を大きくしているようだが何度も連写していた。
「ご、ごめんなさい!不謹慎だよね……」
「ううん、大丈夫。でも写真なんて撮ってどうしたの?」
「筋肉……すごいなって………」
それにしては顔がいつもの燐子じゃない気がする。とりあえずそれを無視して体を拭いていると本当に傷だらけのことに気づく。肌の色は白に近いのに傷だらけで心配になる。本当にこの人のことを知らない。そして本当に頼りっ放しだった。やがて拭き終えるとさっぱりした感じでお礼を言ってくる。
「ありがとうございます。体が少しスッキリしました」
「そう、少しは役に立てたのね」
「いえいえ、お嬢様はすでに頑張ってくださいました。では下は」
「下は私に任せて……!」
「何を言ってるの燐子?」
「いえ、病人なら大変かなって」
「いや、そこは流石に申し訳ないし多少は動けるようになったから……ってズボン引っ張らないで!」
「大丈夫、今日はずっと面倒見てあげるから…!!」
「りんりん目が怖いよ!何かしたなら謝るから!」
少し強引に攻めていく燐子VS弱体化しながらも必死に足掻く新一。この戦いは紗夜たちの登場によって中断された。帰る頃には燐子も戻っており一体何が起きていたのか理解出来なかった。
翌日新一は回復して普段通りの仕事をしている。だが今回のことで痛感した。私も多少は家事が出来るようにならないとまた新一に迷惑をかけてしまう。だから少しずつでも始めてみようかと。
後日
「ねぇ京君、あの日りんりんが怖かったんだけど何か吹き込んだ?」
「いや特には。ただ」
「ただ?」
「男は病気の時たまりやすいし今ならチャンスだぞ、って送っといた」
「何が溜まるのかはわからないけどこれ見て」
「嘘だろ………」
「皆が部屋を出て行った後に気づいたんだけどさ、着替えのすぐそばに落ちてたんだよね………おしゃぶり」
「すまん、俺が悪かった」
歌騎士の第一部が終わったのでアンケートとります!全部幕間のネタですけど
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パーティーしよ!ヘイセイヘイセイ
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誰か狂わせようぜ⭐︎