それはそうと……ストックが尽きそうです
秋も中盤に差し掛かる十月十五日の土曜日。普段なら練習に付き添って夕飯の買い物をして仕事しての日々だっただろう。だけど僕達は今、結婚式に出席しています。
同行者はお嬢様とりんりんの二人だけ。紗夜さんは家の用事、リサはバイト、あこちゃんは巴さんとお出かけで来れなかった。
しかしなぜこんなことになっているか、それは数日前に遡る。
〜数日前〜
新生活が始まった翌日、一条さんが書類を家に運んできてくれた。本当に仕事が早いなと思った。
「新一様、取引の書類です」
「ありがとうございます。いろいろ頼んでしまって申し訳ありません」
「いえ、お役に立てているのでしたら」
「何か恩返しが出来ればいいんですが」
「お気になさらなくて大丈夫ですよ」
「もし、僕にできる範囲であればお手伝いさせてください」
「それならこれを受け取ってください」
差し出されたものを受け取って確認すると真っ白な封筒だった。中には紙が一枚入っているのが透けて見えた。
「これは?」
「今週末に行われるパーティーの招待状です」
「へー、でもいいんですか?僕に渡してしまって」
「ええ、むしろ受け取ってください。今週末は空いていらっしゃいますか?」
「お嬢様に確認を取れれば行けると思います」
「行ってもいいわよ」
「よろしいのですか?」
「問題ないわ」
お嬢様の言葉を聞いて一条さんはニコニコしている。そんなに嬉しいのだろうか。
「でしたらぜひ、他の皆さんもお誘いしてください。お待ちしてます」
「何人まで招待できるんですか?」
「新一様を入れて六人ですね。席は用意しておきます。そろそろ時間ですのでお先に失礼します」
最後の方は早口になっていたがきちんと例をして家を出ていく。一体どうしたのだろうかとお嬢様と顔を合わせつつ中身を開いて詳細を確認する。中には結婚式及び結婚祝賀パーティーへの案内と書かれた紙が入っていた。
「結婚!?」
思わず声を出してしまったお嬢様は驚きながらも近づいて紙を確認する。そのまま読んでいくと日程と時間が書かれていた。
〜数日前・終〜
正直結婚式に参加できるような服装は持っていなかったため急いで準備した。勿論二人の分も僕が支払って用意した。偶然にもサイズが合っているのが合ったからよかったもののもう少し早めが良かったと思う。先日熱を出したのも用意が終わってからで本当に助かった。
式場に入る前に看板を確認したが一条さんともう一人知らない人の名前が書いてあった。今思えばあの時嬉しそうにしていたのは自分の結婚式だったからなのだと理解する。
「し、新君………私たち、本当に来て良かったのかな?」
「うーん、問題ないと思うよ」
「で、でも、なんか凄そうな人……いっぱいだよ?」
「そうね。見てて只者じゃない雰囲気があるわね」
参加者の方を見ると過半数が知っている人だった。もう半分は新婦側の親族とかだろう。知っている方は見たことある人しかいない。今は黙っておとなしくしているが喋り出したらとんでもないこと言いそうな人ばっかりだ。
「あ、あの人……」
「え、どれ?」
「あの女の人………」
りんりんの指差す方には夏に屋敷に行ったときに対応してくれた人がいた。目線が合うと軽く会釈してくるのでこちらも同じように返す。
「新一の知り合いが多いの?」
「ええ、まぁ」
「そう」
周りの人を調べるかのように見ているお嬢様のドレスを見る。やはりこういうところの服装は似合っているなと考えていると値札がついているのが見えてしまった。他の人には見られていないかが心配になったが今は撮る方が優先だと手を伸ばす。
「お嬢様、首元少し失礼します」
「え?」
「終わりました」
「何かついていたの?」
「値札カードが付いていましたので」
「どうやって取ったのよ」
「こう、手刀みたいにスパッとですね」
「そう………」
「ドレス、よく似合ってますよ」
「あ、ありがとう………」
値札カードはポケットの中にしまって前を向き直す。念のためりんりんの方も横目で見るが問題はなかった。視線に気づいたのか目を逸らしている。慣れていない格好で恥ずかしいのかと思っていると会場は静まり返った。
「皆様、大変長らくお待たせしました。新郎新婦のご入場です!」
扉が開かれると同時に会場にいるゲストが皆拍手する。扉の向こうから現れた真っ白なタキシードを着た一条さんの顔はとても晴れ晴れとしていた。
あれから色々なプログラムを終えて今は食事と歓談の時間になっている。周りに既にベロベロによった大人たちがいっぱいる。そんな中新郎新婦は僕たちにいるテーブルに着いて共に飲んでいる。
「本日はご招待を受けていただきありがとうございます」
「ご結婚おめでとうございます。まさかいつの間にこんなことになっているとは」
「新一様を驚かせようと思いまして」
「だとしてももう少し早く教えて欲しかったですね」
「もしかしてそちらがあなたの尊敬している方?」
「はい、彼が私の元主人名護新一様です」
新婦の女性がやってくる。パッと見た感じ外国の女性に見える。お嬢様と同じくらい長い髪に綺麗な水色の目をしている。どっかで見たことがあるなと考えていると声をかけてくる。
「初めまして、名護様。私、ソニア・
「こちらこそ初めまして。名護新一と申します。この度はご結婚おめでとうございます」
「やはりあの時の方ですね」
「ヴァンハイム……もしかしてご当主様の名前って」
「はい、ルーカス・
ヴァンハイムさんはドイツの有名な会社の方だ。出資をしてくださっている会社の一つでもある。他にも色々と手伝ったりする上で何度か会談をしたがとても高貴な人だったのを覚えている。どこかで見たことあったのは彼の屋敷で見かけたからだろう。
「ヴァンハイム家の御令嬢でしたか」
「はい!ですがもうこの方の妻ですので」
「一体いつからお気にかけていたのですか?」
「そうですね、10年くらい前でしょうか。名護様がうちにいらっしゃった時に見かけて、その時一目惚れしてしまいまして」
それから話を聞いていたが彼女はその時は七歳で結婚などといっても信じてもらえないと考えてずっと花嫁修行をしていたらしい。というか話を聞いて気づいてしまった。この人たち十歳差の結婚だ。ということはおそらくソニアさんは同い年だろう。しばらく談笑すると他のところにも挨拶しにいくとのことで二人は席を離れていった。緊張していたのかりんりんが大きく息を吐いた。
「大丈夫?」
「う、うん……緊張しちゃって………」
「そんなに緊張したかしら」
「お嬢様は大丈夫ですか?」
「問題ないわ。それよりあの人私たちと同年代なのね」
「そのようですね。向こうの国がどの年齢で結婚できるかは知りませんが日本では大丈夫でしょう」
「日本は16歳からだもんね……」
「じゃあ私たちは結婚できるの?」
「そうですねお嬢様達なら」
「新一は?」
「友希那さん……男の人は、18歳からです………」
へぇと興味があるような顔をしている。というより知らなかったのだろうか、いやこの人なら知らなくて当然かと流しておいた。とりあえず一息しようと飲み物を飲むと猛々しい人がやってきた。何やら手には黄色いシュワシュワしたものを持っている。
「坊っちゃん久しぶりー!」
「伊達さん、お久しぶりです。………もう出来上がってますね」
「すまない、控えるようには言ったんだが」
「何言ってんだよはしもっちゃん!あの一条が結婚したんだぞ!?飲まなきゃダメだろ!」
「橋下さん、お疲れ様です」
目の前の殲滅部隊隊長はすでに酒によっており、それに呆れている目付け役は申し訳なさそうにしている。
「この人たちって………」
「おっ、嬢ちゃんたちも久しぶりだな!元気にしてたか!」
「は、はい…」
「伊達、怯えてるじゃないか。すまないこんな奴連れてきて」
「いいえ、お祝いなんですから大丈夫だと思うわ」
「感謝します。さすがは主の主だ」
「もしかしてこの人たちも」
「はい、名護家の関係者です」
やっぱりかという顔をする二人を見ると関係者二人は一瞬真面目な顔になる。だがすぐに笑って受け流す。
「なんだぁ坊ちゃんもう話したのかぁ」
「まぁいつかは話さねばならないことだしな」
「嬢ちゃんたち、坊ちゃんのことよろしくな」
「はい!」
「ええ!」
なんだか恥ずかしいなと思いつつも二人に感謝すると酔っ払いがとんでもないことを口走った。
「そんでどっちが坊ちゃんの彼女なんだ!」
「ブフッ!?」
「「!?」」
「こら伊達!」
「え?ちげぇの?もしかして二人ともだったりか!コイツァ失敬、坊ちゃんもスミにおけねぇなぁ!!」
「すみません橋本さん、その人連れてってください」
「御二方、申し訳ない。この詫びはいつかする」
酔っ払いは気絶させられて扉の向こうへ連れて行かれた。隣を見ると訳の分からない顔をしているがもう一人の方を見ると顔を真っ赤にしていた。誤解されないようにするために一度席を外してバルコニーの方へ出る。この会場広すぎるだろと思いつつ外でグラスに入っている飲み物を飲むと足音が聞こえてきた。その人物も疲れたようにため息をついている。
「お疲れ様です一条さん」
「ありがとうございます新一様」
軽く乾杯をしてグラスの中を飲み干す。一条さんの顔を見ると少し赤くなっている。酒は飲める人だが他の人に飲まされたのだろうか、少しお酒の匂いがしてくる。
「飲みましたか?」
「まぁ…それなりに」
「新郎というのも大変なのですね」
「そうですね………ヒッグ」
酔ってんなぁと思いつつ空を見上げると三日月が頂点に達していた。
「新一様だって、いつかはこういう目に遭いますよ」
「果たして、その日は来るのでしょうかね」
「どうしてです?私でさえ結婚できているのです。貴方にはそれ以上の幸せを受ける義務があるはずです」
「どうでしょうね。僕の手はもう、こんなに汚れています。こんな僕が幸せになる資格なんてあるんですかね」
「それでしたら私も同じです。ですが私は信じています。人には、幸せになる権利が必ずあることを。特に貴方のような人のためにたくさんの時間を費やしてきた人には」
「ご冗談を……」
果たしてどうなのか。人のために費やしてきたかどうかはわからない。結局あの時何のために僕が動いていたのか今ではわかっていない。人を殺した時も何のために戦っているのかを忘れることがあったくらいだ。特に今は自分のために生きているのだから。
「冗談などではありませんよ。もっと自分を大切にしてください」
「それは………」
「さて、酔いが覚めたので私は中に戻ります」
「珍しいですね。ちゃんとした答えを残さないなんて」
会場に戻る一条さんの背中を見送りながら言葉を投げると少しだけ振り向いて悪戯っぽい顔をする。
「ちょっとだけ、意地悪させていただきますね」
「なんですかそれ」
ふっと笑うと中に戻っていった。実はまだ酔いが覚めていないではないのだろうか。そう思っていると入れ違いでお嬢様がやってくる。
「お疲れ様ですお嬢様」
「ええ、お疲れ様。一条って人とすれ違ったのだけど、何を話してたの?」
「……色々ですよ」
「そう………あの人たち、幸せそうだったわね」
「そうですね」
気遣ってくれたのか話題を変えてくれた。でも実際見ると幸せそうだった。今もガラス越しに笑っている彼らの姿が映っている。まさかあの話がちゃんと進展して結婚までなるとは想像もしていなかったけど。
けど、あの人なら結婚して幸せになる以上の権利がある思う。それくらい戦場にいるのがおかしいくらい優しい人だ。
「新一も結婚したいの?」
「いえ僕は別に」
「あっさりしているのね」
「……僕には幸せなんて、今で十分ですよ」
「今?」
「お嬢様に認めてもらえて、皆の幸せを堂々と守っていける。それだけで僕は幸せです。勿論、陰で戦っているのも悪くはありませんでしたけどね」
「あなたって人は………」
お嬢様は言葉に詰まったのか何か考える様子を見せている。しかし一瞬冷たい風が吹いたせいで寒そうに体を抱えている。上着を脱いでお嬢様に羽織らせて一度中に入ることを促す。素直に従ってくれたお嬢様は先に中に入る。
僕も続いて入ると中は外に出る時よりも盛り上がっていた。流石に一人だったのはキツかったのだろうか、りんりんが早足で近づいてくる。
「変なことされなかった?」
「うん、大丈夫……あの人がいてくれたから………」
「
「久方ぶりですね。この子の事、二度もありがとうございます」
「いえ、私もお話しさせていただいていますので」
少しだけ笑うとすぐに何処かへ行ってしまった。何かと世話になっているなと思いつつ時間を確認すると既に八時になっていた。夕方から始まったもののもうこんな時間かと二人に声をかけて会場を出る準備をする。最後に新郎新婦に声をかけて会場を去っていく。会場の近くから出ているバスを捕まえて乗り込む。幸いにもバスで一本、降りたら少し歩くだけだったのですぐに来たのは助かった。
「凄かったね…結婚式………」
「そうだね。僕もああいうのは初めてだよ」
「そうなの?」
「はい。あった事と言えば…戴冠式という名の就任式ですね」
「よくわからないわ……」
「今は分からなくてもいいかもですね」
こういう言葉を知ってそうなりんりんから何かレスポンスがあるかと思ったが数秒経っても何もなかったのでチラッと見てみるとすぅすぅと静かに眠っていた。そして今更気づいたが肩に頭を乗せられている。これじゃあ姿勢を直したりとかは出来そうにないと思いつつ暫くバスの旅を満喫した。
バスを降りた後は起こさせないようにおんぶしながら家まで連れて行った。精算の時にICカードを手に持っていてくれて助かった。道中でのお嬢様の言っていた意味はわからなかったけど。
「大きいわね…」
「何がです?」
「なんでもないわ」
送り届けた時にお母様は笑っていたが何かあったのだろうか。なんとか送り届けた僕達はそのまま帰宅した。
一方その頃弦巻家
「快斗ー!見て見てー!」
「おー?どうしたこころ。面白い物でもあったか?」
「見てこのヘビさん!おっきいの!」
「らぶーこぶー」
「(いやおっきいどころの話じゃねぇだろ!?)でっけえな、どこで拾ってきた?」
「帰り道で見つけてきたの!飼えないかお父様に聞いてくるわ!」バビューン
「ゑ?おい待て、絶対無理……ってやっぱ速いな……」
「こぶー待てー」トコトコ
「(お前は遅いのかよ。てか心なしかこころの声に似てるような……こころだけに?)ん?どうしたこっち見て」
「らぶーこぶー、クズー」
「は!?」
「ザコー」ビューン
「薄々思ってたけどあいつ喋れるだろ絶対!てかなんで急に早くなった!?」ダッ
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誰か狂わせようぜ⭐︎