青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第八話 骸探偵京 ワイルドカード 後編

 逆さまの吊るされた遺体。椅子に座っていた遺体。何かに準えているものなのかと考えるとそう思えなくもないが何か見落としているはず。何がわからないかわからなくなった時、入り口の扉が開かれた。

 

「悩んでいるようだな、京」

「!………まさかだよな……」

 

 この状況で現れたのは一番の敵だった。かつての親友の一人、そして今最も嫌いなやつ。

 

「何故お前がここにいる」

「事件が起きたのは知っていたさ。ただの興味本位だよ」

「関係者以外立ち入り禁止、つまり不法侵入者って扱いになるが?」

「待て待て、そんなつもりはない。ただお前に会いに来ただけなんだから」

「俺はお前に用事はない。それともこの事件お前が元凶だとでもいうのか」

「だから待てって。少しは落ち着けって」

 

 獅郎は両手を上に上げて降参するようなポーズを取る。

 一番言われたくない奴に言われた。腹立ってきたし一発ぶん殴ってやろうか。

 

「俺はただ単に様子見に来て京に会えるかあと思っただけなんだぜ?それで困っていたから手助けしてやろうとだな」

「お前の手など借りる必要はない。今日は見逃してやるから帰れ」

「え〜俺が来た意味ないじゃん」

「うるせぇ、さっさと帰れ」

「今の事件の状況はまとめられているのか?」

 

 事件のことを口出された。こいつのこういうところは本当に変わっていない。人の話を聞かず自分のやりたいことをやる。正直本当は追い出したいところだがこういう時は敵意がないのを知っているのでやる気が削がれる。だが口を出した分、使えるところまでは使わせてもらおう。

 

「今回の事件、遺体は二つ、これから増える予定の遺体は三つだ」

「二つの遺体に関する殺人トリックは?」

「今回のは難しく考える必要はない。一つ目は首を縄で締められた絞殺。二つ目は心臓を刺された刺殺体。どちらもこれといったトリックはない。けれど一つ目は逆さまになって発見された。だが逆さまにしたのは俺たち発見者だ」

「俺は詳しいことは知らんが、どうして京が逆さまにしたんだ?」

「これは犯人に仕組まれたトリックだ。遺体を不可解にして混乱させるための罠だろう。もちろんお前に説明はしない、使われたらめんどくさいしな」

「俺そんなことしないけどな」

「へっ。犯人は己を郵便配達人と言っていたが手紙は一切ない。けれど本人は警察がいれば届いていると言っていた。これの意味がわかれば次の被害者がわかるんだが……」

「一種の予告殺人なのか?」

 

 予告という言葉に引っかかった。そういえば犯人は最初に脅迫状、いや犯行予告を出していた。そこにヒントがあるのではないかと考える。だがよくわからない暗号ゆえに分からなかった。

 

「当たり引いちゃったかにゃ〜?」

「ものすげぇ殴りたいけど近づいた」

「まじ?じゃあ俺は帰ろうかな。これ以上いても暇だし」

「礼は言わない。その代わり次会ったら殺してやる」

「そいつは楽しみだ」

 

 嬉しそうな声を出しながら獅郎は帰っていった。予告という言葉についてもう一度触れてみるとあることを思い出す。

 古谷の姉のあれはどういう意味だったんだ?というより何であいつは不吉なカードを嫌がっていなかったんだ?

 ふと気になった俺は事件のことを頭の片隅に入れつつ古谷静香のいる病院へ向かった。面会を求めると許可をもらって病室に向かう。部屋に入るとベッドの上に座って外の景色を見る静香の姿があった。

 

「よぉ」

「あ、探偵さん。一昨日ぶりです」

「そうだな。聞きたいことがあるんだがいいか?」

「もしかして事情聴取ってやつですか?」

「まぁ…似たようなもんだ。数日前に届けられたカードってまだあるか?」

「はい、そこの引き出しの中に」

 

 引き出しの方を指差して居場所を教えてくれる。開けることを伝えるとちゃんと返事が返ってくるので引き出しを引っ張る。すると一枚のカードが出てくる。13番、Death。その意味は死を表す。

 

「俺が聞きたいのはこれだ。普通なら死を意味するこのカード、なぜお前は嫌がっていないんだ?」

「え、だって……そっか、普通の人は知らないんだ」

「?」

「タロットって、正位置と逆さ、つまりは逆位置にした状態だと意味が異なるんです」

 

 静香はカードを逆さにしたり正常にしたりで示している。

 確かにそんなことを今まで知らなかった。というより知ってる奴も本当に少ないんじゃね?

 

「例えばこのDeath。正位置で渡されると死神という意味で、そのまま死、計画の中止、次が見えない状態のことを示すんです」

「逆にすると?」

「逆位置だと再生とか180度生まれ変われるとかいうんです」

「つまり………」

「治らないものが治ったりするかもしれないんですよ」

 

 静香は笑みを作って俺に向けてくる。それは希望に満ちた笑顔だった。もう一度カードを見て逆さにしたり裏を見るが小細工はなさそうだ。

 

「ちなみにこれが送られた時っていうのは」

「はい、花と一緒に送られきたんですが逆位置でした」

「なるほど、どうりで……」

「因みにお花はそこにありますよ」

 

 後ろを見ると黄色く何枚も花弁が重なった花が一輪植木鉢に入って飾られていた。

 

「本当はダメらしいんですけど看護師さんにお願いして置かせてもらいました」

「なんていう花なんだ?」

「それはアルカナの花です。本当は春の花なんですよ」

「花屋で育成したのかもな」

「かもですね。そういえばアルカナの花はタロットの語源にもなっているんですよ」

「へぇ、それは興味深い」

「フフ、よかったら調べてみてください」

 

 情報提供に感謝するとまた会いに来て欲しいと言われる。気が向いたらと答えて俺は病室を出ていった。時間を見ると既に十七時を回っている。何かが分かれば犯人の次の行動を止められる。その確信はあるのだがその何かが分かっていない。

 

「予告殺人か……」

 

 奴との会話をふと思い出す。予告状自体は物的証拠のため警察が持っているが写真を撮ったものがあるためそれを見る。

 

『我は罪人を裁く者

 懺悔の引き出しよりお前たちへ手紙を配ろう

 秘密はいつか明かされるもの也』

 

 罪人を裁く……これは犯行予告だ。しかし懺悔の引き出しが分からない。手紙はおそらく郵便配達人と名乗っていること。だが俺はまだ手紙を手にしていない。

 予告状をもう一度しっかり見ると花がプリントされていることに気付く。それはついさっき見た花だった。

 すぐにその花の語源を調べると予告状の意味を理解した。これならあとは当てはめるだけだと調べると確証を得るために警察に向かった。

 入り口のところで刑事を呼び出し遺体の発見当時の写真を見せて貰う。

 

「何かわかったんですか?」

「あぁ、少なくとも最後の手紙は受け取らなくていいかもしれない」

「ほ、ホントですか!?」

 

 驚く刑事を横に二人に電話をかける。

 

「もしもし、無事か?」

『鳴海さんですよね?こっちはなんともないです』

「そいつはけっこう。今日は絶対離れるな、明日の朝俺が行ったら解放してやる」

『本当ですか?』

「約束しよう。ただし今日は絶対別行動をするなよ」

 

 電話を切って一息つく。

 これで今日の可能性を一つ消すことができた。というより予想通りか。

 

「それで、どういうことなんです?」

「今回の殺人は見立て殺人だ」

「え?」

「やっとわかったんだ。これはタロットに準えた事件だってな」

「どどど、どういうことです?」

「最初に殺された具土、逆さまになったのは俺たちが犯人だ。あいつがいる倉庫の扉に糸が二本あった。それらを十字架から引っ張っていき延びてる方と反対側の扉の端ににくくりつけるんだ。それで限界まで引っ張ると糸が切れて緩く刺さってた十字架は回転する」

「待ってください!そしたら犯人はどうやって倉庫を出たんですか?」

「そう、少しでも開いたら駄目になるこのトリックには穴があった」

「穴?」

「俺たちが開けたのは人数人分は確実に入る広さだ。だが犯人は自分が出る分を考えて糸に余裕を持たせたと考えると」

「そっか、一人分の広さなら糸が切れないようにすれば!」

「そういうことだ。その結果俺たちが入った時には逆さま遺体になったってわけだ。次の円谷だがこっちは簡単だ。お前も見ての通り刺殺体、不意を突いての心臓を一突き」

「じゃあ犯人はどうして椅子に座らせたんですか?」

「それはこれを見れば分かる」

 

 俺はスマホを操作してタロットカードを見せる。

 

「タロット……?」

「そうだ。そしてこの、ハングドマンとエンペラーを見ろ」

「あっ!これ二人の遺体と同じポースですよ!」

「その通りだ。そして呼び出された時間はそれぞれのカードの番号を示している」

 

 ハングドマンなら十二、エンペラーは四といった具合に同じ数字になっている。発見当時の写真と並べるとそっくりと言っても過言ではなかった。

 

「も、もしかしてこれ通りに行けば……!」

「あぁ、次の対象はジャッジメントかジャスティス……裁判官の松下重治もしくは警察の美登誠也だ」

「美登さんはともかく、松下さんは護衛をつけてるから大丈夫ですよね?」

「そのはずだが念のため確認をとるぞ」

 

 刑事に松下に連絡を取らせるが様子がおかしかった。電話にでないのだ。寝ているのか取り込み中なのか確認するためにも護衛の方に電話をかける。するとこちらの方もでなかった。何かあったのではないかと電話を繋げたまま松下の仕事場に向かった。しかし仕事場にいたのは護衛だけで松下本人の姿はなかった。倒れている護衛を叩き起こす。

 

「起きろ!松下はどこ行った!」

「ぅ……あれ?俺は……」

「何があった、言ってみろ」

「さっきまで仕事してるのを見てて、疲れただろうからってお茶を出してくれたんですけど……」

 

 それから記憶がないと頭を抱える。辺りを見ると確かにコップが転がっていた。話の通り眠らされたのだろう。書き置きとかはないかと探るがそういったものはなかった。

 

「何か言ってなかったのか」

「そういえば今夜は家で飲むとか何とか…」

 

 それを聞いて時間を確認する。時刻は既に七時を回っていた。急いで刑事に連絡を取って松下の自宅を聞き出す。住所を得た俺は仕事場を出てバイクを走らせようとするが息を飲んだ。

俺のバイクの上に一通の手紙があった。まさかと思いつつ封を切るとこんなことが書かれていた。

 

『次の手紙を20時に届ける。謎は解けたかな?』

 

 頭に血が上るのを感じる。しかしここで冷静さを欠くわけには行かないと急いでバイクにのって松下宅まで向かった。現場には既に刑事達は到着しており突入寸前だった。

 

「遅かったですね」

「こんなときに道路が混雑してるとは思わねぇだろ」

「それもそうですね……行きますか?」

「躊躇ってる場合じゃねぇ、行くんだよ」

 

 時刻は既に二十時前玄関の扉を開くと鍵は開いていた。手当たり次第ドアを開けていくとリビングのドアに差し掛かる。ドアノブを捻るとラッパの音が聞こえてくる。ふざけている、これは確実に遊んでいるようにしか思えなかった。

 ドアを勢いよく開けると手にラッパを持たせられた松下の遺体があった。

 

「くそがっ……!!!」

「なんでこんなことに……」

「……仕方ない、せめて最後の殺人は確実に防ぐぞ」

「えっ、でも美登さんは!?」

「数日前から行方不明、ならもしかしたらの可能性もある」

「でも助かってる可能性もありますよね!?」

「それはある……だがそいつのことを考えると……」

「な、なんですか」

「よくない音がするんだ。事件の前によく来る、死神の足音が」

「しっ、死神!?」

「あくまで比喩表現だがな。だがこの間は十中八九当たるんだ」

 

 この事件は毎回ごとに聞こえていた。正直自分の中でも何度やめろと言いたかったことか。残りの二人の内一人である美登のことを考えると足音が遠くにあるよう小さく聞こえてくる。

 

「俺とて諦めたくない。今そいつの捜索は?」

「続けてます。家族との連絡や友人とかにも当たっています」

「ならそのまま続けろ。俺は犯人を罠にかける」

「もしかして犯人が分かったんですか?」

「ああ、犯人は────」

 

 犯人の名前を告げると刑事の顔色は変わる。普通なら考えられないのかもしれない。けれど謎が解ければ必然的にこいつに絞られる。そして俺たちは松下の遺体の場所を調べてから帰宅した。死因は毒殺と判定。推測ではあるが一番可能性が高いストーリーを作り上げる。不備は極力消して真相に近いであろうものを作り上げる。

 しかし帰宅して睡眠を取ろうとするもなかなか寝付けず、ようやく寝れるようになる頃には日を跨いでいた。

 起床して学校に連絡した後の朝八時半、約束通り和也さんと玉城の元に向かう。朝だからか二人とも眠そうにしていた。もしかしたら命が狙われていると知ったら寝れないのも無理はないが。

 

「それで、僕たちは解放されるんですか?」

「ああ、シロだと分かったからな」

「よかった〜」

「もしかしたらまた話を聞くかもしれないからその時は頼んだ」

 

 二人は俺に礼を言ってその場を離れていく。一度警察署に向かい美登誠也の情報を手に入れに行こうとすると携帯が鳴る。番号を確認すると刑事からだった。

 

「もしもし、何かわかったか?」

『いえ、そういったことは特に。ですがなぜか朝早くから荷物が……』

 

 荷物と聞いた瞬間悪寒が走る。腕時計を見て時間を確認すると時刻は九時を示していた。

 違う、俺の予想が正しければ遺体となって見つかるのは十一時のはず。だからそれは絶対に違うはずだ。

 

「中身は確認したか?」

『い、いえ、まだですが』

「俺がつくまで開けんじゃねぇぞ!」

 

 電話を切って警察署に急いで向かう。バイクを走らせて近道を使ったおかげで時間はかからなかったがそれでも汗が止まらなかった。警察署に着くと刑事がいる部署にまで走っていく。部屋に入ると大きなケースが一つ置かれていた。

 

「お、おはようございます」

「ああ、まだ開けてないよな?」

「も、もちろんです!念のため警備隊も呼びました!」

「どおりでこんなに人がいるわけだ。とりあえず開けるぞ」

 

 息を呑みながらケースの蓋に手をかける。ロックを外して恐る恐る開けると中から淡い光が見えてくる。その光もあったがローブを着せられた人が一人座らせられた状態で入っているのがはっきり分かってくる。そのローブのフードを取ると知らない男の顔が見えた。

 

「み、美登さん!?」

「…やはりこうなったか」

「じゃあ探偵さんの予想って………」

「ああ、だいたい(・・・・)当たった」

「え?」

「いや、気にするな」

 

 それから美登誠也の遺体の調査が始まった。死因は毒殺、箱の中身がバレないように消臭剤なども入っていたことがわかった。そして美登が纏っていたローブと淡い光を出していたランタン、そして到着した時間が九時であることからタロット番号9番のハーミットであると思われる。何故この時間に届けられたか、他の事件と並べて考えるとあるこちに気づく。こうなったらせめて最後の事件は防ぐと決意してスタッグフォンを起動させる。

 あれから時間が経ち十五時半、仕掛けは動き出し俺たちはスタッグフォンが示す位置へと向かった。ショッピンングモールの屋上駐車場、おそらく最後の殺害現場の場所になるところだ。警察を数人連れて屋上に入り辺りを見回すと玉城を掴んで落とそうとしている犯人の姿が見えた。全員でその現場を取り押さえて犯人と向き合う。

 

「やっぱりお前だったんだな………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古谷和也さん」

 

 和也さんは警察に押さえられながらも必死に抵抗している。名を出すと力が抜けたように項垂れた。

 

「バレたんですね……流石は名探偵です、鳴海さん」

「俺は、こうなって欲しくなかったがな」

「じゃあ今回の事件は」

「ええ、僕たち(・・・)がやりました」

「僕たち?」

「今殺されそうになった玉城も犯人、共犯だ」

「なんで俺を殺そうとしたんだよ!話が違ぇじゃねぇか!」

「お前との約束なんて知ったことか!」

 

 彼の顔は怒りに染まり、警察の拘束を振り解くように力を込める和也さんを彼らは逃さなかった。裏切られた玉城は信じられないものを見ている顔になっている。

 

「僕は知ってるんだ!全てお前が始めたことだってな!」

「な、何を………ッ!」

「お前が姉さんをストーカーしていたこと。そしてそれを具土の野郎に知らせ、アイツと一緒に姉さんを轢いたこと。そん時に座っていたのは具土らしいがお前の方が何倍も罪がある!前々から姉さんはお前に苦しめられていてそれをストレスに感じているのに僕に心配させないようにしていた。なのにお前はそれを知らずに我欲のために姉さんを苦しめたんだ!そして姉さんから未来を奪ったんだ!!」

「では美登さんや松下さんは………」

「アイツらも同罪だ。姉さんの未来を奪った奴らを野放しにしたんだからな」

「だがそんな情報どこで得た?全て貴方の妄想かもしれないよな」

「ちゃんと調べたさ。なんなら、コイツが謝りにきた日に酒に酔わせたら全部しゃべってくれたよ」

 

 もしきちんと出来ていたのなら彼には探偵の才能があったのだろう。だが今の彼は間違った使い方をしてしまった。とても惜しく感じる。だが俺のやることは決まっている。

 

「もう一度聞いておく。古谷和也さん、玉城永遠、お前らがこの事件の犯人でいいんだな?」

「僕は認めるよ」

「な、なんで俺まで犯人扱いされなきゃいけねぇんだよ!」

「アンタこの後に及んでまだ…!」

「いいさ、それを納得させるのも俺の仕事だ。一つ一つ紐解いていこう。

 まず第一の事件、具土が殺された事件だ。殺害方法は首を絞められた絞殺による窒息死。しかし発見当時は逆さまの状態で発見された。何故逆さまになったか、その答えは俺たちが仕掛けを踏んでしまったからだ。十字架にくくりつけている二本の紐。その伸びている紐から対となる扉に紐の先をつける。勿論本人が帰る時は仕掛けが崩れない程度にな。そして俺たちはそのことに気付かずに扉を開けてしまったため固定していた紐は解け、十字架は回転した」

「一番難しいのをそんなにあっさり解いてしまうなんて…」

「殺害当時は簡単だ。具土を殺すときは玉城に囮をさせて背後を取ればいい。そして後ろから首を絞めれば完了だ。

 円谷を殺すときは適当なことを話しているときに心臓を一突き。松下は酒か何かを持って行ったんだろう。その中に遅効性の毒を仕込んでおき、奴に飲ませてからしばらく何もないふりをしながら時間を過ごせば殺せる。美登に関しては状況はよくわからないが誘拐して毒殺した線が濃い」

「流石です探偵さん。ですがそれは僕たち以外にもできますよね?」

「ああ、だから裏付けとしてお前はヒントを残していった。郵便配達人として」

「ど、どういうことだ………?」

「えっ、貴方殺人を手伝ってたんですよね?」

「和也さんは玉城に気づかれないようただの遊びだと思わせたんだ。しかしそれが1番のヒントだった。遺体発見当時の写真、これらはタロットカードのイラストに似ている。具土はハングドマン、円谷はエンペラー、松下はジャッジメント、美登はハーミットのように」

「たまたまじゃねぇのか!?」

「たまたまだとしたら俺たちに知らせる時間があまりにも偶然すぎる。それぞれの番号、ハングドマンは十二時、エンペラーは四時、ジャッジメントは二十時、ハーミットは九時に発見されるもしくは殺された。

 そしてお前が殺されかけたのはもう少しで十六時になる時間だった」

「嘘だろ………」

「さすがの推理です。ですが何故玉城が殺されることがわかったのですか?」

「被害者は全員、名前のどこかに別の読み方も含めローマ字にしたときに英語で読めるところがあったりしたんだ。具土のハングドマンのように」

 

 円谷は円谷平司を円と平をとって書き直すと円平、エンペイがエンペラーに近づく。松下は重治をjyujiにするとjudgeに近づく。美登はハーミットのミットのように少し無理やり感があるがこうやって直すとそれぞれに近づく。

 

「じゃあ俺は!」

「玉城永遠、永遠をTowaにするとタワーに近づく。そしてタワーの番号は十六時だったってわけさ」

「お見事です。では最後に僕が犯人だって決める証拠は?」

「さっきの現行犯もそうだが、癖が出ていたんだ」

「癖?」

「君は時間を守りすぎていたんだ。せめて時間がずれていたら最後の事件は止められなかったかもしれない。けれど姉との約束である時間を守るということを君はしっかり守っていたんだ」

 

 取り押さえられている和也さんは今更気づいたかのようにハッとした顔をすると急に笑い出した。周りの奴らは理解できずに驚いている。

 

「ハハハっ!まさかそこを決定づけられるとは!」

「これ以上突き詰めるような真似はしたくない。さぁ和也さん、お前の罪を数えろ」

「いいですよ、その前に離してください。二つほどやらなくてはならないことがあって」

「周りに危害を加えるか?」

「加えません、絶対に」

 

 その言葉を信じて離すように指示を出すと警戒していた手は緩んだ。解放された和也さんはスマホを取り出して電話をしているようだった。どうやら病院に電話しているようだ。おそらくしばらくの別れを告げているのだろう、最愛の姉に。電話を終えたのかスマホを耳から離してタップしているのを見ているとこちらに体を向ける。

 

「すみません、お待たせしました」

「もうどっちも終わったのか?」

「いえ、もう一つは今やっているところです」

「じゃあ終わるまでに質問だ。何故こんなわかりやすくしたんだ、貴方程度ならもっと難しくできたはずだ」

「それは……わかりません。もしかしたらこいつらのやったことをもっと明るみに出すためかもしれません」

「そうか………次に聞きたいことがある。政治家は傲慢故にエンペラー、お坊ちゃんは我慢ができないからハングドマン、裁判官は裁断するからジャッジ、玉城は転落するからタワー。しかし何故警察はハーミットなんだ?普通ならジャスティスだろ」

「わかってるはずですよ、探偵さん。警察は、隠すのが上手いってこと」

「………そうだったな」

 

 この事件はその正しき部分であり腐った部分が1番の元凶になってしまった。もしキチンと捜査や裁判が行われていればこんなことにはならなかったのだろう。被害者たちは我欲のために大衆の正義を捨てた。その結果がこれだ。

 

「玉城さん殺しかけた理由はいいんですか?」

「そいつは共犯とはいえ元凶だ。最後には消すつもりだったんだろ?」

「その通りです。ですがもう無理ですね、約束したので」

「こういうときは律儀なんだな」

「ええ、ですが今から別の約束(・・)を破ります」

 

 笑顔で違和感のある事を言った和也さんはスマホをその場に置いて後ろに向かって走り出した。走り出す寸前口が動いたのが見えたがもし正しければやばいことになると俺は和也さんの方へ走り出した。だが空いてる距離の問題か、間に合いはしなかった。

 和也さんは玉城を落とそうとしたところの塀の上に立ち、胸ポケットから白い花を取り出すとこちらを振り向いたまま落ちていった。高さは建物で言えば五階分。生きているはずがないと思いつつも下を見ると鈍い音が聞こえてきた。手に白い花を持った殺人犯は、笑顔のまま血溜まりの池を作っていた。

 俺はその場に座り込んでコンクリートの床を叩いて空に向かって叫んだ。もう出さないと決めた被害者を出した懺悔を。

 

 

 

 今回の事件は犯人が自殺したことにより幕を閉じてしまった。当然共犯の玉城には前科も含めてこれからまた罪が決定されるらしい。俺がやったことは間違いだったのか、それを数日間問い詰めながら静香さんのお見舞いに行った。当然本人は弟の死を知っていた。

 

「失礼する」

「鳴海さん、こんにちは」

「体調はどうだ?」

「まぁまぁです………」

「和也さんを止められず本当にすまなかった」

「いえ、もういいんです。あの子が、初めて自分でやったことですから」

「え?」

「あの子はいつも私の指示で動いていたんです。その分いい子ではあったんですが自主性がなかったので………」

「だがそれとこれは………」

「もう会えないのは、辛いですが、あの子の意志も尊重しようと思います。それにあの子、またアルカナの花を送ってくれたんです。あの子が死んだ次の日に」

 

 窓の方を見ると新しいアルカナの花が飾られていた。おそらく元々予約していたのだろう。用意周到すぎる。

 

「あと、この封筒が届いていたんですよ。中身がわかりますか?」

「十三番のデスか?」

「惜しいです。それともう一つ入っていたんですよ。十九番のsun、太陽です」

「そいつは………よかったな」

「はい、とても嬉しいです」

 

 涙目になる静香さんにこれで失礼すると伝えて部屋を出る。少しだけ背中を壁にもたれかかると部屋から嗚咽が聞こえてくる。Sunの意味は太陽、幸福だ。最後の最後で姉に対して希望を残していったのだろう。

 あの時和也さんが置いたスマホには零番のフールが写っていた。飛び降りること、また欲求に忠実なことを示していたのだろう。彼のとっての欲求は、姉に対する忠誠だったのだろうか。

 元々最後の最後には飛び降りるつもりだったのだろう。全てを片付けて静香さんに迷惑をかけないようにして。身勝手な人だ。そうだ、フールの意味はこうともあった。──愚者、と。

歌騎士の第一部が終わったのでアンケートとります!全部幕間のネタですけど

  • 二人のバースデーやろ!
  • パーティーしよ!ヘイセイヘイセイ
  • 誰か狂わせようぜ⭐︎
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