あれから数日間紗夜さんの動向を見たり聞いたりしているが日に日に厳しさは増しているらしい。しかし別のところでは笑っていることが多いのだとか。笑うことが増えたのはいい傾向だが厳しさが増したことが気になった。その連絡を今日は昼休みに受け取る。
『今日は……大体こんなところ、かな?』
「ありがとう。ごめんね、同じバンドメンバーなのに疑うような真似させちゃって」
『ううん……大丈夫』
「そう言ってくれると助かるよ。そうだ、ご褒美の件決まった?」
『ま、まだ………』
「ゆっくりでいいからね。それじゃ」
「どうだ?氷川の様子は」
電話を切ると横でサンドイッチを齧る京君が話しかけてきた。今日はたまには二人で食おうということで屋上で二人並んで食べている。
「悪化?というべきなのかな。前とはかなり変わってきているみたい」
「そうか。ならお前の嫌な予感も当たるかもな」
「何覗いているのか知らないけど少なくともその可能性はやめて欲しいな」
「でも状況証拠を聞く限り怪しいぞ」
「そうだけどさ……もう少し時間が欲しい」
「だな、あと一手欲しいところだ」
弁当の残りを詰め込んでお弁当箱を片付ける。急いで詰め込んでしまったが時間はまだあるのでどうしようかと聞くとチェス持ってきたからやろうぜと言ってきた。秋晴れの下屋上でチェスをする高校生なぞ聞いたことないがいいだろうと残りの時間を費やした。
その後の授業も無事に消化してRoseliaの練習が始まった。問題もなく練習時間が過ぎ一度に休憩に入る。
「ねぇ新一、教えてもらってもいい?」
「どうしたの?」
「数Ⅱのこの問題なんだけどさ、イマイチわからないんだよね」
「僕数学あまり得意じゃないけどここならこれ持ってきて」
「え待って待って」
「あーっとね、これは三角関数だからここのものとここのを………」
「リサ姉勉強?」
「1週間後に小テストあるからさー。わからないところだらけだから今のうちから勉強しようかなーって」
「偉いね、ちゃんと勉強してて」
リサの頭をそっと撫でると照れるように目を逸らす。払いのけたりはしないのかと思ったが甘やかされるのに慣れていないからか抵抗はしない。
「でも僕に聞いて大丈夫?クラス違うし。なんなら日菜さんに聞いたほうが良くない?」
「いやいや、日菜の説明じゃわからないから来たんだよ」
「あの子ならこれくらいの問題すぐにできそうじゃない?」
「確かに出来そうだねー」
「それが何言ってるのかわからなくて……」
「あはは………」
苦笑いもしつつも紗夜さんの方を見ると顔は見えなかったがなんだか体が強張っているように見えた。
「日菜ちんってすごいよね!なんでも出来て羨ましいっていうか、こう闇の道を行くっていうか…」
「あこの言いたいこともわからなくもないけどわかんないかなー」
「うーん、でもすごくすっごいよね!もう本物の天才っていうかさ!」
あこちゃんの言葉が終わるところに食い気味で部屋の中に大きな音が響いた。その方を見ると紗夜さんがペットボトルを強く握りしめて机の上に置いていた。
「ど、どうかしたんですか紗夜さん」
「紗夜?」
「なんでもありません、少し外に行ってきます」
スタスタと部屋を出て行った紗夜さんを怪しみながらもそのまま数学を教えた。追いかけようとも考えたがそうする必要性もなくなったようだ。錠前が鳴る。出現場所を確認するとcircleのすぐ外らしい。他の二人に連絡を取るとすぐ近くにいるとのことで戦いを任せて避難誘導する事にした。
「皆はここにいて、他に人を避難させてくるから」
「気をつけてね」
「新兄頑張って!」
「うん、それじゃ」
部屋を出て廊下を突っ切ると入り口の窓からでも京君達が戦っているのが目に映る。他の人を避難させて援護しようとナックルを構えるとまだ避難していない人を見つける。何よりその人物にドーパントが近づいていっている。腕を振り上げているドーパントに対して動けないのか固まっているその人を引き離すために走る。跳んでその人を抱えながら地面を滑るとギリギリアウトだったのか腕に痛みが走る。確認すると服の袖が破れ少しだけ血が流れていた。
「大丈夫ですか?」
「う、うん。ってあたしの心配より新一君の方が大丈夫じゃないでしょ!」
「これくらいなんともありませんよ。サークルの中に逃げて下さい、Roseliaの皆がいる部屋まで」
「なんで?」
「聞きたいことが山ほどあるからです。さぁ、早く行きなさい!」
「わかった!」
飲み込みが早いのかすぐにサークルの中へと逃げていった。状況判断ができる人で本当に助かった。傷の具合を確認するためにある程度腕を振り回すとさして痛みはなかった。ドーパントの様子を確認すると冷静さを失ったかのように慌てふためている。何か不都合があったのだろうか。ナックルを装填して変身する。
「二人ともお待たせ」
「アイツそれなりに強いな。ただなんか半端なところがあってやりずれぇ」
「俺に対しての攻撃は強いんだけどな」
「恨みでも買ったのか?」
「そんなことした記憶ないんだけどな」
「どちらにせよ倒した方が早いかな」
戦闘態勢を整えるとドーパントは叫び上げるように口を開いてきた。しかし出てきたのは言葉ではなくとてつもなく嫌な音だった。耳を塞いで聞こえなくしようとするがそれを通り越してくるほど強い。自然に病んでいくのを感じて前を向くとドーパントの姿はなかった。全員が変身解除して辺りを見回す。
「また逃げやがりましたね」
「また、ってことはアイツが…」
「うん。例のドーパントだよ」
「こりゃあますます怪しくなってきたな」
「犯人の目星ついてんのか!?」
「まぁね。でもあまり信じたくないかな」
「え?ってか新一さんその腕は大丈夫なんすか?」
「無問題、意外と浅いし軟膏塗ってればすぐに塞がるよ」
「よし、じゃあついでに事件の整理をしようぜ」
Roseliaの皆がいる部屋にまで戻って状況を報告する。部屋の中にはRoseliaの皆と指示通りに来た日菜さん、出て行ったはずの紗夜さんがいた。こっちの傷をすごく心配しているが問題ないと答えて練習の続きをしてもらう。
一方僕達は日菜さんを連れて一度廊下に出てさっきの戦いの情報をまとめる。
「快斗君は今回どうだった?」
「前回よりも激しめでしたね。まるで怒っているかのように」
「京君は?」
「さっきも言ったが中途半端な攻撃とか本気の攻撃が入り混じっててやりづらかったな。ただ」
「ただ?」
「迷いがあるようにも感じた。快斗への攻撃の時はないようにも見えたんだが俺の時はなんだかな」
「三人ともさっきからなんで怪物の話してるの?」
「ああ、今回の犯人は身近にいるんじゃないかって新一が仮説を立ててな。それの検証中だ」
「新一君が?でも戦ってなかったような……」
「ハハ、そこは一旦置いといてと。コホン、今回被害者は出たの?」
「それなんですけどさっき先輩がまた同じような人が襲われたって」
「素行不良か」
「その通り。しかも今回は男女関係なく。その上最近路地裏で倒れてた男二人が蝙蝠の化け物を見たって」
素行不良の人のみを襲う化け物。快斗君には本気を出して京君には本気を出せていない。この違いはやはり一つしかないだろう。
「今回の犯人は
「だな」
「間違いないっすね」
「えー?なんでそんなことするのー?」
「簡単なことだ。力を手に入れたはいいもの使う相手がいない。そんな時都合のいいがいるとしたら?」
「そっか、チンピラとかなら殴っても平気だもんね!」
「チンピラでも殴っていいのと殴っちゃいけないのがいるんですけどね」
「いや殴っちゃいけねぇのなんていないだろ」
「取り消せよ…今の言葉……!」
「ぜってぇ使うタイミング違う」
「まぁそんなことは置いといて、これだけ揃うともうほぼ確定だよね」
「嘘だよね………?」
「残念ながらこれは九割九分確定だ。犯人は花咲川風紀委員の氷川紗夜だ」
「えっマジなん?薄々思ってはいたけどよ」
「おねーちゃんがそんなことするわけないよ!まして怪物なんて………!」
紗夜さんが犯人だと言うと日菜さんは血相変えて批判してくる。気持ちはわかるがこれだけの状況証拠が揃っている以上何を言っても無駄になる。
「日菜、これは現実だ。あとは本人に聞けばわかる」
「でもこんな証拠だけでおねーちゃんを犯人扱いなんて!」
「違うっすよ日菜先輩。逆にこれだけ揃っちゃったんすよ、認めたくはねえですけど」
「そんな────」
「練習が終わった後に聞こう。勿論最悪のケースを考えて残りの時間で作戦も練っておこうか」
「新一君はこれでいいの!?」
胸ぐらを掴んで必死に声を上げる。しかしこの事件、二度目の戦闘の時に目星は揃っていたのだ。だからこそ否定できる材料を探すために捜査をしていた。だがそれも逆の展開に持ってかれた。だからもう、残された手段を使うしかないんだ。
「良いわけがない。だからこそ、最善の手で事件を片付けられるようにするんです」
「新一君……」
「大丈夫です、絶対仲直りさせてみせますから」
手を取って首元から離すと納得してくれたのか頷いてくれた。それから作戦をある程度練り時間が過ぎるのを待った。思ったより時間が進むのは早く片付けの時間になった時に部屋に戻る。部屋を見渡すと全員が揃っていた。
「皆辛気臭い顔してどうしたの?」
「リサ、見てよこれ」
「え?どうしたの?」
「これさ、ゾンビとかの仮装にピッタリじゃない?」
そう言って僕はさっきまで隠していた腕の傷を見せつける。見た目はかなり広く深そうに見えるため初見の人からすればかなり驚くだろう。勿論これを見たリサは悲鳴をあげていた。その声を聞きつけたのかあこちゃん達もやってくるが驚きの声を上げてくる。
「わー、新一さん大変だー(棒)」
「早く治療しないとなー(棒)」
「いやこれペイントだって(棒)」
「そんなこと言って本当は痛いんじゃないのー?(棒)」ツンツン
「アハハ、、全然痛くないよー(棒)」
全員わかりやすい演技をしながら巫山戯る。皆が呆れている中一人だけ表情の違う人がいた。
「どうしたんですか紗夜さん。これ、
「そ、そうみたいですね……」
「血とか苦手だったか?」
「そ、そんなことはありませんが」
「だとしたらちゃんと見てくださいよ。本物かどうか確かめてください」
ぐいっと腕を持ち上げて紗夜さんに近づけると罰が悪いような顔をして後ろに下がっていく。
「やっぱり、紗夜さんだったんですね」
「どういうこと?」
「ここ最近近くに現れていたドーパントの正体です」
「えっ!?」
「さっきも同じ奴が出てたんだけどよ、その時に日菜を襲おうとして庇った新一が怪我をしたんだ」
「じゃあ…その傷って……」
「実は本物だよ」
「何してんの!?」
「まぁこれも作戦なので。紗夜先輩、正直に話してください」
紗夜さんは黙ったまま俯いている。この状態を保ったところで何も変わらないことは本人が一番わかっているだろう。彼女が顔を上げた瞬間口を動かそうとしたが別の人物がそれを阻んだ。
「待ちなさい。仮に紗夜が犯人だとして証拠はあるの?」
「そ、そうだよ!証拠がないと紗夜さんが犯人だって言えないじゃん!」
「じゃあせっかくだしここは探偵さんにやってもらおうか」
「おいおいマジかよ。本編で推理することはないって思ってたんだけど」
「メタいこと言うなよ」
「しゃーない、やるか。まずは今回のドーパントの特徴からいこう。被害者は全員素行不良の者だ。服装、夜遊び、風紀が乱れてればなんでもオッケー。
次に戦闘場面だ。俺や快斗にはかなり強い攻撃や本気が見られた。しかし新一と戦ってる時はすぐに逃げるか中途半端な攻撃をしていた。
そして出現時期と今日の出来事。出現時期は今から約1週間前、そして今日日菜が襲われそうになった。こいつは素行不良なんかじゃない」
「1週間前って紗夜と日菜が喧嘩した日!?」
「その付近だと思われる。次でチェックだ。事件当時には存在が発見されず、事後には場所に現れた。それは氷川だけなんだ」
「だ、だけどそれだけなら他の人だって」
「ここ最近、氷川の様子がおかしくなかったか?笑顔が多いとか、風紀の乱れに厳しくなったとか」
「「「「!?」」」」
「普段の性格からは考えられないこともドーパントになったヤツの特徴の一つだ。さぁ、チェックメイトだ。ペイントだと偽っていた新一の腕を見た時からなぜ新一を見ない。それはそうだよな、コイツの腕に傷を作った犯人はお前なんだからな!」
指を刺して犯人を示した京君は確実に仕留める時の顔をしている。他の人が紗夜さんに真偽を問いただそうとしている中、笑い声を溢す者がいた。