指を刺して犯人を示した京君は確実に仕留める時の顔をしている。他の人が紗夜さんに真偽を問いただそうとしている中、笑い声を溢す者がいた。
「フフ、バレてしまいましたか」
「さ、紗夜?」
「そうです、私があのドーパントです」
「えー!でもなんでそんなことになっちゃってるの!?」
「理由は後で聞こう。とりあえず紗夜さん、持ってるメモリを今すぐ渡してください」
「お断りします」
メモリをポケットから取り出すと起動させて生体コネクタを浮かび上がらせる。
「これは、私のものなんです。日菜でさえ手に入れられない、私だけのもの!」
メモリを体に挿して姿を変えた。ここから先はもう戻る気がないらしい。僕達もそれぞれベルトを巻いて変身する体制を作る。
「この世に風紀を乱す存在はいりません。そして私の存在価値を奪うヤツも!」
「そんなこと言って良いんすか?新一さんは風紀を乱してませんよ」
「そうですね、ですが名護さんはいずれ私にとっての脅威になる。なら今のうちに消しておきましょう。その後は……日菜、あなたの番よ」
「やめよーよおねーちゃん!こんなことしても」
「黙りなさい!元はといえばあなたが悪いのよ!私と同じことばかりしてそれも軽々越えて!あなたに何が分かるっていうのよ!」
「!!」
「でも大丈夫よ。終わったらちゃんと殺してあげるから」
「紗夜さん、お覚悟を」
『R・E・A・D・Y』
『スカル』
『エターナル』
「「「変身」」」
それぞれのアイテムをベルトに装填してライダーシステムを身に纏う。いくら変身したとはいえ室内なので外に出れるよう京君に頼む。やれやれと呆れながらもあの拳の構えを取る。
「何をしているのか知りませんがそっちが来ないのならこっちから行きますよ」
「紗夜先輩、ここじゃ戦いづらいと思うんで外に案内しますよ」
「コイツと一緒になぁ!」
「なっ!?」
人一人分飲み込めるほどの骸骨を作った京君は紗夜さんに向けて拳を突き出す。骸骨は紗夜さんを飲み込むとそのまま壁を破って外に出ていく。後を追いかけるように瓦礫を越えていくと既に戦闘態勢を整えていた。
「痛いじゃないですか……大人しく罰を受けてください!」
「生憎、僕が受ける罰はあなたでは与えられませんよ」
「三対一なんですから大人しく投降した方がいいっすよ」
「その必要はないよ」
「どういう意味だ?」
「彼女は僕一人でやる。もし飛んで逃げられそうだったら二人は捕まえて」
数秒間があったが二人は了承して武器を納めてくれた。
「調子に乗ってると余計痛い目に会いますよ」
「ではもう一つ燃料を投下しておきましょう。貴女は僕のことを風紀を乱していないと考えているみたいですが、こう見えて僕は悪人ですよ。大罪人ほどの、ね」
「では罰を与えても問題ありませんねッ!」
勢いに任せて突き出してくる拳を受け止めその手を掴んで持ち上げる。身動きが取りづらくなった紗夜さんは抵抗してくるが攻撃は当たらなかった。
「離しなさい!」
「分かりました」
言われた通りに離した瞬間回し蹴りをする。飛んだところを追いかけ地面につく前に踵落としをした。痛みに悶えている様子を見せるがお構いなしに首を軽く掴んで持ち上げる。
「カッ、カハッ……」
「覚えといてください。これが、貴女が罰を与えようとした化け物の力だと」
「い、や、わた、しは……!」
抵抗する彼女の腹にフェッスル装填済みのナックルを当ててトリガーを弾く。放たれたブロウクンファングは彼女の体を貫いた。目の前で起きた爆発の傍らで紗夜さんを抱えて皆のもとに戻る。
「ミッション完了、かな」
「久しぶりにエグい新一さん見ましたよ」
「そう?」
「夏以来だな。あの時は半分くらい本気で死ぬかと思ったわ」
「やめてよ、人を鬼みたいに言うの」
「「いや鬼の方がマシ」」
「とりあえずこのまま紗夜さんに話聞きたいから黒服さん呼んでもらえる?」
「了解っす」
変身を解除して抱えたままの紗夜さんを下ろして床に寝かせる。心配して皆寄ってくるが一番に飛びついたのは日菜さんだった。無理もないだろう、実の姉が化け物になって自分を殺そうとした上に知り合いに殺されたように思えたのだから。
「おねーちゃん!目を覚ましてよ!」
「ヒナ……」
「落ち着いてください日菜さん。気を失ってるだけですから」
「でもっ、でも!」
「随分心配するんだな。殺されかけたのに」
「ちょっと京!」
「事実だろ。メモリによる気の迷いだと信じたいがな」
「京、やめなさい」
お嬢様の一声によって辞めた京君だったが今回のは流石に意地悪だと思う。だけど言っていることも間違いではないのだ。日菜さんは紗夜さんに殺されそうになった。なのに倒れている紗夜さんを心配するなど相当紗夜さんのことが好きだと思えた。他に怪我がないか見える範囲で調べていると黒服さん達がやってきた。紗夜さんを運んでもらい自分達もすぐに追いかけると伝えるとすぐに戻っていった。
「さて、今更ですが皆さん怪我はありませんか?」
「ないわ」
「大丈夫!」
「なら良かったです。これから紗夜さんに話を聞くため僕は黒服さん達を追いかけます。そのためここで今日はさよならします」
「待ってあたしも!」
「それはダメだ」
「京君、なんで!あたしもおねーちゃんのところに」
「ダメだって言ってるだろ。冷静になった氷川がお前のことを見て何も思わないわけないだろ。きっと自分を責め立てる」
「紗夜のことだもん、きっとそうなるよね……」
「だから日菜は今日は帰れ。新一がなんとかするって言ったんだろ?なら任せとけばいい」
「うん………」
「大丈夫ですよ日菜さん。約束は絶対守りますから」
「私の夜ご飯は?」
「冷蔵庫に作り置きのものがあるのでそれをレンジでチンしていただければ。副菜ばかりなので足りなければ作るしかないのですが…」
「じゃあアタシ行くよ」
「頼んでもいい?」
「オッケー♪その代わり今度何か奢ってね」
「畏まりました。とりあえずこれで解散にしますので二人一組で帰ってください。危険なことに遭いそうだったらライダーの誰かに連絡を」
メモリを回収して会釈だけしてイクサリオンを喚びだす。バイクに跨って発進し弦巻家へと向かった。門の前では黒服さんが待っていてバイクを止めるとそのまま案内される。入った部屋は猪宮さんの時と似たような場所だが安全を重視しているような、精神的に安楽をもたらすような部屋だった。部屋の端の方でベットの上で寝ている紗夜さんの姿があった。もしもの時を考慮してのことだろうか、両方の手首に手錠のようなものがそれぞれ付けられている。近くにあった椅子に腰をかけて待っていると紗夜さんが起き上がった。
「ここ、は………?」
「おはようございます。といってももう夜ですが」
「名護さん…?そういえば私は………って、なんですかこれ!?」
「一応、身柄の拘束をさせてもらってます。暴れたりしたら危険なので」
「暴れたりってなんですか。どうせもう私のメモリは壊されているんでしょう?」
「いいえ、ここにありますよ。イクサシステムにはメモリブレイクの機能はありませんからね」
さっき拾ったメモリを紗夜さんに見せる。間違って押してもすぐに取り出せないよう袋をもらって入れておいたので一応安全ではある。横に揺らして丸腰だぞと見せると取り返すように手を伸ばしてくる。
「返してください!それは私のです!」
「そうかもしれませんが、本当にこれは必要なものなのですか?」
「何を言ってるんですか。それさえあれば私はあの子を超えることが」
「分かりました」
袋を落としてメモリごとを踏みつけるとメモリが砕ける音がした。足を外すと当然メモリは袋の中で砕け散っていた。
「な、なんてことを………」
「こんなもの紗夜さんには必要ありませんよ」
「ですがこれでは、私はあの子に………」
「なんでこんな事をしたのか教えていただけませんか?」
紗夜さんは気力を失ったように俯くとぽつりを口を開いて呟き始めた。
「最初はあのことの諍いから始まったんです。しかし今までのことが溜まってたぶん出てきてしまいあの子に“嫌い”と言ってしまったんです。一番傷つく言葉だとわかっていたのに。それから負の感情がどんどんエスカレートした時にそれを渡されたんです。最初に使った時、力が溢れてきたんです。今の自分ならなんでも出来ような全能感。これさえあればあの子なんで軽く越えられる。それでもあの子がテレビに出ていたり会話で聞こえたりするとストレスになっていました。どうにか張らせないかと考えた時に風紀委員の仕事ならと言い訳をするようになって、それもどんどんエスカレートしていきました。その結果、あなたに怪我を負わせ、ましてあの子を殺そうとして」
「………どうして、日菜さんを疎ましく思っていたんですか?」
「あの子は、昔からなんでも出来たんです。やるのはいつも私の後なのに、私が苦手だったことも簡単にできて、私が頑張ってできるようになったことも簡単にこなしていく。それが嫌だったんです。きっとこの子には追いつくことは出来ない。いつも比べられる。そんなのが耐えられなかったんです」
「話してくれてありがとうございます。とても辛かったですよね」
「ッ!あなたに何がわかるんですか!いつも側にいる人に追い抜かされて!それで本人は気遣っているかのように声をかけてきて!それに一体どんな気持ちで同情を」
「わかりますよ。僕も同じでしたから」
「え………?」
怒号をしていた紗夜の顔は動揺を隠せないでいた。聞いていて紗夜さんの過去には僕と共通点があった。だからこそ余計に放っておけなくなった。いつの間にか立ち上がっていた紗夜さんを座らせて話し始める。
「少し、昔話をしましょうか」
「昔話?」
「はい。僕には一人の兄がいました。彼の名前は
「待ってください!名護さんにお兄さんはいないはず、だってこの間話した時はお兄さんのことなんて言ってなかったじゃないですか!」
「言う必要がなかったからですよ。まずは最後まで聞いてください。
完璧になりたいと思ったはいいものの何をしても兄より劣ってしまう。ならばせめて兄の力になれるようにと自分ができることは何でもしました。知識も武力も何もかも手を出して身につけようと必死に努力したのを覚えています。そんな僕の姿を見た兄は頑張りすぎるのは良くないが、やりたいことはやり通せと応援してくれました。その頃から周りの信頼を得ると共に仕事の都合上僕は外に出るようになりました。帰って来れば家族はもちろん、兄は誉めてくれました。ちゃんと出来て偉いって、よく頑張ったって。そんな日々を嬉々として過ごしていたあの頃は考えもしませんでした」
「何を……ですか?」
「兄は、天斗は僕達家族を裏切ったんです」
「………え?」
「ある日、僕が外から帰ってきた時でした。庭を見れば血の海になって沢山の重傷人や死体が転がっていました。一体何が起こっているのか分かりませんでした。ただ、笑い声がする方を見ると天斗が血のついた刃を持って高らかに笑っていました。あの光景はどうやっても忘れることはないと思います。その後すぐに天斗は姿を消しました。残っている人たちで当たりを捜索しましたが姿どころか何も見えることはありませんでした。血眼になって探しても影すら見えなかったんです。天斗がやった事を許せずせめてこの手で殺そうと捜索範囲を広げようとしました。ですがその時妹に止められたんです。やめてって止められ何故止めると聞き返すと怒っている時のお祖父様にそっくりだと泣きながら言われたんです。その姿を見て僕は全ての指示を取り下げました。それから天斗は消息不明、僕は当主への座に入りました。以上です」
本を閉じるように手を叩くと紗夜さんは現実に戻ってきたかのような顔をした。途中から信じられないと訴えるような顔をしていたがこれは紛れもない事実だ。僕が憎しみの刃を握る原因の一つでもある。
「名護さんは、お兄さんをどう思っていたんですか?」
「裏切る前は尊敬の対象、裏切った後は必ずこの手で葬る害悪ですね」
「あまりにスケールが違いすぎて追いつかないのですが、私と名護さんが同じような境遇にいたぐらいしかわかりません。それでもかなり違うと思いますが」
「そうですね、地位はかなり違うかもしれません。ですがそれ以外に紗夜さんとの共通点と決定的な違いが存在するんです」
「………それは?」
「同じ、才能あるものに劣等感を感じていたところ。そして決定的な違いは、今ならまだ間に合うことです」