青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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Six noise 向き合い方を

「今ならまだ、間に合うことです」

 

 紗夜さんは驚いた顔を見せる。けれどすぐに目を反らした。

 

「……何を言ってるんですか?」

「日菜さんはまだ生きてるんです。なら思いを伝えることは出来ます」

「私にそんな資格はありません。私はあの子を殺そうとしました。あんなものを使っていたとはいえそれは私がやったことなんです。だからそんな資格」

「そんなこと知ったことじゃない!貴女が今日までしてきたことは消えることはない。なんであんなことをしようとしたのか、それが過去からのものなのかどうかなんてどうでもいい!」

「どうでもいいってなんですか!私にだって悩んだことだって苦しんだことだってあるんですよ!」

「それでも!伝えたい人が生きているなら伝えるべきなんです!全てが手遅れになる前に!!」

 

 いつの間にか肩を掴んで話していた。それに驚いたのか紗夜さんはやっとこっちを見た。

 

「手遅れ……?」

「話しましたよね、妹はもういないって」

「え、えぇ……」

「あの子はいつも僕に笑顔を見せてくれてました。ですが兄を探していたあの日、血眼になっていた僕を止めたのはあの子です。普段見せない顔を見せて泣いてました。その時僕は初めてあの子を泣かせてしまったんです。謝りたかった。だけど立場や仕事のせいにして謝るのをどんどん後回しにした結果、あの子はもう戻ってこなくなりました。ただ一言言いたかった。あの子に、希璃乃に謝りたかった!怖い思いをさせてごめんって、その一言を言いたかった!なのに僕はそれすら言えず希璃乃を守れず見殺しにしてしまった!」

「名護さん……」

「でも、紗夜さんはまだ失ってません。貴女は心の奥底では謝りたいと思ってるはずだ」

「ですが私は……」

「謝りたいか謝りたくないのかハッキリさせてください」

「私だって……私だって謝りたいですよ!でも」

「じゃあいいじゃないですか」

「!」

「謝るのに資格なんて要りません。言える時に言えなきゃ意味がないんです。ですから、今やらなきゃいけないことを考えましょう」

「……そんなことが許されるんですか?」

「許すも許さないも決めるのは日菜さんです」

「出来る、でしょうか。こんなことをしたのに」

「日菜さんはいつも貴女のことを見ていた。そして貴女も日菜さんのことを見ていた。なら、聞いて貰えるかどうかぐらい分かるんじゃないですか?」

「それは……」

 

 顔を俯かせて考えている。正直僕に怪我を負わせたことはどうでもよかった。なんとしてでも二人を仲直りさせたいという気持ちだけだったから。どうするのかと問うと少し間が空いてから顔を上げる。まだ迷いはあるもののやることは決まったようだ。

 

「日菜のところに行きます」

「行ってどうするんですか?」

「謝りたいと…思います。少なくとも、今の私に出来るのはそれくらいしかないと思います」

「わかりました。ですがそれは明日にしましょう、今日はもう遅いですし」

「はい。では帰りましょう」

「いえ、紗夜さんはここで一晩過ごしてください」

 

 は?という顔を浮かべているが当然のことだろう。

 

「ガイアメモリの副反応が出た場合に備えてともう夜が遅いからです」

「そう……ですか」

「大丈夫です、明日学校が終わったら日菜さんのところに行きましょう」

 

 紗夜さんからの返事を受け取りメモリ入りの袋を回収してから僕は一言挨拶して部屋を出る。部屋の前で待機していた黒服さんに頼んでモニタールームに案内してもらう。扉を開けると当然そこにはプロフェッサーと快斗君がいた。二人して複数のモニターを熱心に見ている。

 

「お仕事ご苦労様です」

「へ、仕事?」

「新一さんお疲れ様です」

「あ、あーあー!」

 

 様子がおかしいことに気づいた僕はプロフェッサーが急いで隠したモニターを確認すると絶句した。見ていたモニターは紗夜さんに関してではなくポケ○ンのゲーム画面だった。一方、快斗君の方を見てみるとバイタルサインと部屋を映した複数のモニターだった。

 

「だって仕方ないじゃないか!快斗が仕事してるし私のやることなんて身体から出てる波形や精神状態の確認だけなんだから剣盾やってたっていいだろう!?」

「いや仕方なくないだろ。何仕事サボってんだよ」

「それに必要なデータは名護君が集めてくれてるだろうし、それにアーカイブで見れば何の問題も」

「センパーイこいつしばいてくださーい」

「待って、君の先輩超怖いから!あの拷問だけh」

 

 後ろからの奇襲により話を遮られ気絶したプロフェッサーは快斗君の先輩と思わしき人に連れて行かれ扉の向こうへ消えていった。どうなるのかと聞くと知らぬが仏と言われ無視することにした。念のためアーカイブで記録を確認し快斗君から情報を得ると特に問題ないことがわかった。あとは本人の気力と覚悟次第だろうと片付けることにした。

 

「新一さんはこれで帰りますか?」

「一度帰るけどすぐに戻ってくるよ」

「なんでっすか?」

「紗夜さんが心配だからね。悪いけど少しだけ見ててもらえる?」

「あ、その必要性なくなりましたよ。今から他の先輩が荷物取ってきてくれるそうです」

「だけど僕の部屋だから勝手がわからないと思うから」

「いえ、なんか黒髪の女の人が“これが新様の制服です。新様のことなら任せてください♡”って渡してくれたらしいっすよ」

 

 犯人が一瞬で思い浮かび確定した。今度あったらどうしてやろうかと考えながら善意に甘えることにした。

 それからしばらくして荷物が届けられそのまま部屋に残って紗夜さんの監視を続けた。監視と言っても暴れたりしないか程度であって一つ一つをメモしているわけではない。今までにもこういう経験はあったせいか監視に集中出来ている。数時間が経った頃快斗君が隣で寝ているのを見て今何時かと確認するともうすでに深夜二時になっていた。それでも念のため続けていようと監視を続けた。

 翌朝になり紗夜さんが起きた後に部屋に入る。データでは熟睡している時間は短かったがそれよりも見てわかるくらい眠そうにしていた。

 

「おはようございます、あまり寝れなかったみたいですね」

「おはようございます………そうですね……」

「朝食が時期に運ばれてきますが一緒に摂ってもいいですか?」

「構いません。一人だと少しアレでしたので……」

 

 バツが悪いような顔をして目を逸らす。離れているところにある椅子と机を持ってきて食事を置けるように準備をする。紗夜さんも手伝おうとしてくるが手錠のせいである程度しかベッドから離れることができない。元々許可はもらっていたので手錠を外して動けるようにする。運ばれてきた食事をきれいに置き換えているあたりやはりマナーや礼儀は整っているのだなと改めて感心した。

 

「それではいただきます」

「いただきます」

「やはり美味しいですね。これだけお金持ちの家の人の料理だと一流の人が作っているんでしょうか」

「そう、かもしれませんね………」

 

 浮かない顔をしながら食べている紗夜さんを見て箸を置く。すると気づいたのか食べないのかとおそるおそるといった感じで聞いてくる。一度咳払いをして僕は話した。

 

「食事くらい楽しくしませんか?」

「す、すみません」

「朝食はいわば一日の始まりです。元気に食べないと一日の活力はちゃんと得られませんよ。もちろん、何をするにしてもね」

「っ………」

「やらなければいけないことがあるなら尚更です」

 

 そう言って僕は食事を再開した。すると紗夜さんも遅かった箸のスピードが上がり元気いっぱいという訳ではないがしっかり食べ始めた。それに感心して食事を続けた。

 登校時間になり彼女を花咲川に送ると僕も羽丘に向かった。校門の前に着くと京君と鉢合わせになる。

 

「よお」

「おはよう」

「昨日あの後どうだったんだ?」

「謝りに行くみたいだよ」

「流石だな、ちゃんと説得してやがる」

「そんなことはないよ。最後に決めたのはあの子だし」

「どっちにしろ今日が分岐点といったところか」

「そうだね。あとは彼女ら次第だし」

 

 決着をつけるのを見守ろうと僕達は話し教室に入っていく。

 

「ちなみにだが俺は今回どっちに転ぼうがお前と氷川がそういう関係になる展開に期待している」

「なんで?」

「面⭐︎白⭐︎そ⭐︎う」

「これ二度目だけど京君は僕とお嬢様が離別する系のルートに期待するのは何故?」

「見てて面白い展開だと思うから。因みに湊が取り戻そうとして氷川とバトルになるのが理想の展開な」

「屋上でノコギリと包丁を交えないことを願いたい展開だね」

「何を話しているの?」

 

 後ろを見ると首を傾げて質問を投げかけているお嬢様の姿があった。とりあえず挨拶だけすると京君がお嬢様の方に行く。

 

「聞いてくれよ湊。新一が主人がいるのに他の女に浮気しようとしてるんだぜ」

「それ前にやったよ?」

「新一、契約はまだ残っているわよ」

「おjy、湊さん………」

「新様新しい主人に乗り換えますの?」

「ほらめんどくさいのきちゃったじゃん」

「新参か、この展開はアツくなってきたぞ」

 

 そんなことを言っている場合ではないだろうと弁解するようにいうと口を尖らせてヘイヘイと返してきた。それからというものこの話題でちょいちょいいじられるものの時間は過ぎていく。放課後になって紗夜さんを迎えに行くからとお嬢様たちに断りを入れに行く。

 

「湊さん、申し訳ございませんが」

「紗夜のところに行くのでしょう?行ってきなさい」

「ご配慮ありがとうございます」

「ただし、ちゃんと連れて戻ってきなさい」

「仰せのままに」

 

 一礼してその場を離れ、荷物を持って京君に日菜さんのことを任せると返事が返ってくる。そのまま学校を出て花咲川の方へ向かった。快斗君に連絡をとり紗夜さんの状態を確認するとちゃんと教室にいるらしい。迎えに行っていることを伝え電話を切る。信号待ちになった時空模様を見てみるとあまりいい色をして要るとは言いづらかった。

 花咲川に着き周りを確認すると紗夜さんは校門の前にいた。暗い顔をしながら下を見ている。

 

「お待たせしました」

「いえ、私も先ほど来たところなので」

「そういっていただけると幸いです。それでは行きましょうか、日菜さんが待ってますよ」

「はい………」

 

 逃げたいという気持ちがあるのかしっかりとした返事ではなかったが連れて行くことにした。道中話しかけながらも京君に集合場所を聞きその場所へと向かっていく。

 

「紗夜さん、自信がありませんか?」

「………えぇ」

「それはそうですよね。ですがこれは貴女が選んだ道です。もう、迷っている場合ではありません。覚悟を決めてください」

「………」

「そうでなければちゃんと謝れませんよ」

 

 コクンと頷きながらも下を向いている。どうにかなるのだろうかと思いつつも地図を確認するともう集合場所に指定された喫茶店に来ていた。今日来たところは羽沢さんの家ではなく別の店らしい。中に入ると京君たちが座っているのが見える。やってきたお店の人に対応しながら彼らのいる席に向かう。座ってから飲み物を頼んで僕達は一息つく。

 

「日菜さん体調はどうですか?」

「全然、問題ないよ」

「なら良かったです。それでは紗夜さん」

 

 店に入っても下を向いていた顔が向けられる。笑顔を作って返すと戸惑いながらも視線を僕から外す。僕と京君は黙って見守っていたが硬直した状態がしばらく続く。やっと口を開こうとした時に間が悪く飲み物が届く。とりあえず受け取って一度落ち着かせるために飲ませる。一方日菜さんはずっと元気のない顔をしていた。彼女自身も気を悪くしているのだろう。紗夜さんの肩に手を置いてエールを送ろうとするとまた下を向いてしまう。

 

「……です」

「?どうした?」

「………無理です」

「紗夜さん?」

「やっぱり無理です!」

 

 机をバンと叩いて走って店を出て行ってしまった。一体どうしたのかと他の客がざわざわしている中僕達はすぐに役割を分けて動く。京君は日菜さんを見て、僕は紗夜さんを追いかける。店の外に出ると遠くの方を走っている彼女の姿が目に入る。それを追いかけて走り出すと紗夜さんは逃げるように走り続ける。追いかけっこはしばらく続きやっと見つけた時には灰色の空から雨は降り出し店の近くの路地裏に入っていた。

 

「一体どうしたんですか」

「無理なんです!あの子に謝ることが出来ません!」

「…なんでですか」

「確かに店に入る前は謝りたいと考えていました。ですがあの子を前にした途端怖くなったんです!また同じことを繰り返してしまうのではないかと、今度は本当に取り返しのつかないことをしてしまうのではないかって!」

 

 雨に濡れながらも叫び散らす紗夜さんに近づき僕は彼女の頬を叩いた。乾いた音が聞こえた数秒後、ゆっくりと顔を戻してくる。

 

「貴女はまだ覚悟がいえ、向き合えていないんですね」

「……何にですか?」

「貴女の罪にです」

「私の…罪………」

「京君のセリフを借りますが、紗夜さん、貴女の罪を数えてください」

 

 僕は彼女の顔の前に人差し指を立てて一という数字を示す。

 

「怪物の力を使ってしまったこと………」

 

 真ん中指も加えて二という数字を示す。

 

「言い訳をして関係ない人を巻き込んでしまったこと…」

 

 薬指も入れて三という数字を示す。

 

「私が妬んでいるのを知りながらも、優しくしてくれた日菜を……傷つけてしまったこと………」

「わかってるじゃないですか。そこまで分かっているならもうやることは一つです」

「ですがそれが分かっていても向き合うことなんて」

「傷付けるのが怖いですか?」

「ッ!」

「また日菜さんや周りの人間に危害が及ぶのが怖いですか?」

「あ、当たり前でしょう!?私のせいなのにこんなに人を巻き込んでたった一回謝って皆のところに戻ろうなんて許されるはずがないじゃないですか!」

「それは誰が決めたんですか?」

「そ、それは」

「傷つけられた人ですか?京君ですか?僕ですか?それとも日菜さんですか?」

「で、でも」

「貴女は謝罪をしたら二度と同じことをしてはいけないんですか?」

「そんなの当たり前じゃないですか!」

「それは違います。人は同じ過ちを繰り返す、どれだけ誠心誠意謝っても。ですが何故いつしか間違えなくなるのか、それはその人が同じ過ちを繰り返した時に止められるよう考えているからです。だから同じ過ちでも程度が違う」

「ですがそれは人によっては」

「そう、これは個人差がある。だけどそれがどうかしたんですか?同じ過ちをしたらもう二度と許してもらえないんですか?」

「なんでさっきから当たり前のことばかり」

「そう考えているのなら僕が示す答えは一つです。貴女は間違っている」

 

 さっきまで泣きながら叫び散らしていた声が聞こえなくなる。まるでおかしなものを見ているかのような顔になる。

 

「貴女がする前提は間違えないことではない。謝ることだ。その意味は貴女が謝りたいって事をあの子に伝えるためだそうだろう!?」

「っ………そうですよ!私はあの子に謝りたい!ちゃんと前を向いて謝りたいんです!でもそれじゃあ」

「それだけでいいんです」

「え?」

「今はそれだけでいい。あの子に謝りたいってその気持ちさえあればいいじゃないですか。その後のことなんて彼女と話し合いながらでも決めてください。ほら、来ましたよ」

 

 紗夜さんの後ろの方を指差すと傘をさした京君と日菜さんの姿があった。雨のせいもあって重くなっているであろう足を動かしながら姉妹は距離を詰めていく。あと数歩のところで二人は歩みを止める。

 

「おねーちゃん、あたし」

「日菜っ、その」

 

 姉妹が一斉に口を開いた瞬間、この場に似合わない愉快そうな声が聞こえてきた。

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