アバンタイトル
ある日の夜のことである。
爆発事故によって水中に沈んだ実験都市。瓦礫と残骸が迷宮の様相を呈する、人類には到底立ち入ることのできない場所。その一角に小さな研究室がある。謎めいた計器や諸々の精密機器が置かれ、休むことなく演算を行う薄暗い室内で、二人の男が話し合っている。
黒いパーカーのフードを被った青年は、幼さを感じさせる笑顔を浮かべながら、もう一人の男に何事かを尋ねた。
「何それ? 新しいキー!?」
「ああ。我らがアークの思し召しというヤツだ。過去のアーカイブを検索したところ、興味深いデータを発見し、それを基にこのキーを開発した。今は、実際にコレが動くかどうか……そしてどのように動くかを検証している最中だ」
男は構築中のプログラムを表示するモニターではなく、モニターに繋がれているカーキ色の鍵型装置だった。機械的な意匠のある形状から、電子鍵の類であることは判別できる。バッタを人型にしたような怪人のイラストや、機能を示す『TYPE:ZETSUMETSU』の文字が確認でき、物々しい雰囲気を漂わせている。
全ての演算を終え、男がキーを青年に渡す。幼子のように満面の笑みを浮かべて、青年が喜びを口にした。
「これでまた新しい友達が増えるんだぁ……! あ、そうだ! 暗殺ちゃんは?」
「バックアップデータの整理中だ。
男が青年に機械仕掛けのベルトを持たせる。帯の内側に無数の棘を備える、明らかに人間が使うに適さないベルトを、青年……迅は慣れた手つきで懐にしまった。
そのまま部屋を出ようとする迅を、男が呼び止める。一拍置いてから彼は、ニヤリと笑みを浮かべながら静かに言った。
「一つだけ言っておく。今回のゼツメライズキーは
迅が間延びした返事をして去っていく。遠足に行く幼児のような心持ちで、彼は人々の住む街へと繰り出していくのだ。
人工知能を搭載し、物体認識の機能によって人間の暮らしを支援する人型ロボット『ヒューマギア』を、自らの
研究室の壁に掛けられた布こそは彼らの旗印。無機質な紋章を取り囲む『滅亡迅雷』の四文字。
彼らの名は、
人類滅亡を企てる凶悪なサイバーテロリスト組織であると同時に、僅かに二人の構成員によって維持されている
滅亡迅雷.netの首領たる男……
モニターに映された鍵型装置・ゼツメライズキーの画像データを滅は睨みつける。実物と同じくカーキ色のキーに刻まれた、恐るべき怪物のデータ。数多の絶滅種動物を歴史上に記してきた人類にすら手に余る、新たな生命体の名を冠する、極めて凶悪な
——『
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