「ダァッ!」
気合の声と共に、鋼と鋼の激突する音が響く。早朝の飛電インテリジェンス本社ビル前で、不破諌/仮面ライダーバルカンとドラスマギア改めドラス
バルカンの得物はアタッシュカリバー。本来は
対するドラス02は徒手空拳。特別な能力は一切使わず、ただ純粋な
上段からの振り下ろしを左腕で防ぎ、空いた右手でバルカンの顔面を殴りつける。自動車の衝突にも勝る衝撃を受けて、バルカンの視界が歪んだ。青く光るバルカンの左眼に灰色のノイズがかかる。
「テメェ……やってくれるじゃねえか……!」
左半身の制御が僅かに狂ったことを察知し、両手持ちにしていたアタッシュカリバーを右手だけで構え直す。アタッシュカリバーがある分リーチではバルカンが上回るが、逆に言えばバルカンがドラスを上回るのはその一点のみ。形勢が彼の優位に傾いたことは全くない。
制御システムの完全復旧まで3分はかかるだろう、と不破は直感していた。それは『圧倒的な強さを誇るドラス02を相手に、3分間持ち堪える必要がある』という意味である……本来ならば。
しかし、不破諌という男は良くも悪くも
「3分か……やってやる」
視界の左半分がノイズに霞む中でも、彼の声色から闘志が消えることはなかった。姿勢制御のズレた回転跳躍から、アタッシュカリバーの刃を振り下ろすと、ドラス02の防御に弾かれる。衝撃にカリバーを手放し、無防備の腹に貫手が突き刺さる——かに思われた。
「ぬうッ!?」
ドラス02の右眼から火花が散った。後退しつつ眼前に視線を動かすと、右手だけでエイムズショットライザーを構えるバルカンの姿があった。僅かな一瞬でベルトに固定したショットライザーを外し、至近距離とはいえ精確に一射のみでドラス02の右眼を撃ってみせたのだ。
「お前……」
ドラス02の電脳が未知の揺らぎを知覚する。『ドラス02』として
明確な結論を出すためには、データが不足している。それがドラス02の答えだった。
バルカンは左手にショットライザーを持ち、空いた右手で地面に突き立ったアタッシュカリバーを引き抜いた。一刀一挺を以て異形の二刀流と成し、身を低くして両手を大きく広げた。
「仕掛けてこないなら、こっちから行くぞ!」
地を這うような高速移動で距離を詰め、バルカンが重さに任せてカリバーを振り下ろす。剣の一撃は避けられたものの、回避地点を予測してショットライザーで射撃すると、ドラスの脇腹に弾丸が突き刺さった。
ドラスは弾を脇腹から引き抜くと、潰れた弾丸を手指の力だけで球状に変形させ、指で弾いて撃ち出す。即席のベアリング弾はショットライザーから射出された際よりも速く飛翔し、バルカンの胸に着弾した。尋常ならざる弾速が驚異的な威力を生み出し、バルカンの身体が大きく仰け反る。
「ぐっ……ぬぬ……ハァッ!」
仰向けに倒れ込みそうになった身体が、気合の一声で踏み止まる。バルカンは手首のスナップを利かせてアタッシュカリバーの刀身を畳むと、腰を低くして攻撃の体勢に移った。
『チャージライズ!』
攻撃を阻止するために動いたドラス02の右足をバルカンがショットライザーで撃ち抜き、続けて連射しながら牽制をかける。生じた一瞬の隙に、青と黄の燐光を纏うアタッシュカリバーが抜き身を晒した。
『フルチャージ! カバンストラッシュ!』
縦に振り下ろす一撃が黄色の光刃として飛び、横に薙ぎ払う青い光刃が追従する。反応が僅かに遅れたドラス02に交差する二発が直撃し、鋼鉄の身体が爆煙に包まれる。
煙が晴れると、そこには無傷のドラス02が立っていた。
「こんなモンじゃ足りねえか……」
仮面の下で不破が呟いた。頭部システムの復旧率は70%を超えている。左側の視界が徐々に色を取り戻し、怒りを湛えたようなドラスの顔面を明瞭に捉える。
ドラス02はこの時初めて、単身のバルカンに対して構えを取った。両手を下ろし脱力した直立姿勢ではなく、明確に格闘戦を目的とした体勢となり、全身のエネルギー供給量を上昇させる。
「もうお前には、容赦しない」
至高の生命たる己に、眼前のライダーが傷をつける可能性を認めたことが、ドラス02に芽生え始めた誇りにヒビを入れた。溢れ出す感情の正体を、ドラスは理解した。
純粋な『怒り』だった。鋼鉄の顔面は表情を変えることなく、しかしながら確かにバルカンに怒りを伝えている。
「上等だ、こっちも全力でやらせてもらう」
『ブリザード!』
バルカンは水色のキーを起動させると、アタッシュカリバーが備えるスロットに装填した。空気すら凍る冷気が刀身から生じる。
『Progrise key confirmed. Ready to utilize.』
『Polar bear's Ability!』
『ブリザード』の
『フリージングカバンストラッシュ!』
横薙ぎの一閃をドラス02が手刀で叩き折るも、二つに割れた凍刃が軌道を変えて宙を舞う。迎撃しようとした次の瞬間、ドラスの目にアタッシュカリバーの刃が映った。
「何だと!?」
ドラスが驚愕の声を漏らす。凍刃が己に命中する可能性があるにもかかわらず、バルカンが接近戦を挑んできたからだ。
不規則に軌道を変えながら、二つの氷晶が飛翔する。直撃を避けるために回避動作が小さくなったドラスに対し、バルカンが強引に斬撃を当てる。肩口を深々と刃が抉り、触れた先から内部機関が凍結する。氷の刃は当たる寸前で砕け散り、無数の弾丸となって二人に突き刺さった。二人の両脚が凍りつき、至近距離からの移動を完全に封じる。
「ぐうッ……まだまだァッ!!」
冷気と激痛に苦悶しながら、バルカンがアタッシュカリバーを両手で強く押し込む。ドラスの胴体を刃が引き裂いていく。
「なぜこのようなマネを——」
「この距離なら剣だろうと弾けねえだろ……ハァァーッ!」
切開された胸に右手を突き入れると、掴み取った何かを勢いよく引きずりだした。氷に覆われたアタッシュカリバーを強引に引き抜くと、その拍子に両脚を封じていた氷が砕け散る。疲弊した様子のドラス02を蹴倒してから、バルカンは引きずり出したそれを——暗い灰色のプログライズキーを確認した。
「お前、そのキーは……」
「まずは一つ目、取り戻させてもらったぜ」
昨日、飛電インテリジェンス本社前の戦いで奪われた、パンチングコングプログライズキー。それがバルカンの手元に再び戻ってきたのだ。
「おのれ……人間ごとき、二流の生物が……」
ドラスの全身から光が洩れ、力を大きく減退させる。パンチングコングのデータこそ手に入れたが、キーの生み出す力を失った以上、弱体化は免れ得ない。
「返してもらうぜ、俺達から奪った全てをな!」
アタッシュカリバーを地面に突き立て、バルカンがパンチングコングキーを起動した。
『パワー!』
『オーソライズ!』
ショットライザーに装填されたキーを差し替え、装備を圧縮した弾丸を撃ち放つ。
『ショットライズ! パンチングコング! Enough power to annihilate a mountain.』
弾丸を裏拳で粉砕すると、青い装甲が素体諸共組み替わり、屈強な上半身を持つ黒いパワードスーツを形成した。装甲の隙間から熱気を放ち、纏わりついた氷が一瞬で蒸気に変わる。鉄塊の如き巨躯が煙を吹き上げる様は、さながら蒸気機関車めいている。
仮面ライダーバルカン・パンチングコング。山すら吹き飛ばす双腕を携え、怪力の王が戦場に舞い戻った。
「行くぞドラス……
つづく。