「行くぞドラス……
頭部システム、完全復旧。明瞭な視界を取り戻すと、バルカンが前傾姿勢から猛烈な勢いで走り出した。ドラス02は格闘戦で応じるが、助走をつけて放たれる超重量の右ストレートを躱しきれずに体勢を崩す。地面ごと抉り砕くようなアッパーカットの追撃が顎を打つと共に、ドラスの全身が虚空へと吹き飛ぶ。
キーを一つ奪われたとはいえ、前回よりも性能の上昇したドラスにバルカンは追従できている。
不破は仮面の下で不敵な笑みを浮かべた。
ドラスが空中で身を翻し、安全に着地する。片膝を立てた状態でバルカンを睨みつけ、次の瞬間には音速を超えた飛び蹴りをバルカンの胸板に叩き込んでいた。防御が間に合わず上半身が大きく揺れるが、パンチングコングの装甲が齎す重量が転倒を防ぐ。
バルカンは両手を強く握り締め、全身の力を両腕に集中させた。巨大な腕部装甲が隙間から熱を放ち、溶鉄めいた色へと変わっていく。
「オオオオオ……ダリャァッ!」
赤熱する両腕からエネルギーの奔流を噴き上げながら、糸に引っ張られるようにしてバルカンが飛び出した。バルカンの前腕部を覆う巨大な装甲は、それ自体が強力な格闘戦用の武器である。溜めたエネルギーを放出することで射出する機構を持つ他、推進器として扱うことも可能だった。発せられた膨大な推進力に身を任せ、単体の質量弾としてドラスに迫る。
電脳の予測を僅かに上回る勢いに、ドラス02は回避を諦め防御体勢を取った。抱え込むように受け止め、空中に向かって放り投げるも、バルカンは不規則な軌道で飛び回りながら何度も突撃してくる。
ドラスの電脳が危険を訴える。予測可能な危機ではなく、予測不可能な攻撃が繰り出される可能性に、彼は内蔵火器の使用を決意した。
「喰らえ!」
「当たる、かよッ!」
ドラス02の肩から放たれる光線を、バルカンは急旋回で避けた。空中で回転しながらドラスの肩に両足を引っ掛け、プロペラの回転を思わせる動きで二人の身体が宙を舞う。バルカンは回転の向きを強引に転換し、車輪の如く縦に回転し始めた。急激な加速に身動きが取れず、ドラスの全身が地面に叩きつけられる。エネルギーの放出が止まると同時にバルカンも着地し、両者の距離が開く。
「まだ足りねえか……」
不破の目的はドラス02が取り込んだプログライズキーの奪還であった。攻撃力と防御力に優れるパンチングコングを最初に取り戻せたのは良かったが、それでもドラスを再び追い込むにはダメージが足りない。ドラスが強力なレーザー兵器の使用に踏み切ったのならば、こちらも同様にカードを切る必要があるだろう。
「不破諌さん」
地面を滑るように高速で接近してきたのは、
「これを」
「猫の手ならぬ秘書の手か」
「各種装備を交換する際にはお呼びください」
「良いぜ、使わせてもらう……!」
言い終えるや否や、バルカンはアタッシュカリバーを右手で持ち、左手で新たなプログライズキーを起動した。
『プレス!』
新たに取り出した明るい灰色のプログライズキーは、驚異的な重圧を生み出す能力を持つ。
その名はブレイキングマンモス、絶えて久しき巨象の威容を示すキー。
『Progrise key confirmed. Ready to utilize.』
『Mammoth's Ability!』
両手で天高く剣を掲げると、灰色の光が刀身を包み込み、バルカンの体長を遥かに上回る光の大剣を形成する。アタッシュカリバーから絶大な重量が生み出され、踏み出した両脚が地面を砕いた。上半身を包む黒い装甲が軋み、摩擦に火花を散らす。
「オオオオオーーッ!!」
『ブレイキングカバンストラッシュ!』
咆哮と共に振り下ろす。ドラスは光の剣を押し返そうとするが、圧し潰されて地面に倒れ込んだ。凄まじい衝撃にコンクリートの路面が砕け散り、微塵に砕かれた破片が煙となって立ち込める。
「まだまだ行くぞ……!」
この程度で倒せる相手ではない。剛腕を振るって煙を払い、カリバーを投げ捨てて走り出した。起き上がったドラスに右腕で殴りかかるが、軽い動作で躱され反撃の蹴りを喰らう。腹に突き刺さった一撃によろめきつつ、ベルトからショットライザーを抜き放って連射した。着弾に装甲が火花を散らすが、痛痒などないと言わんばかりに光線を撃ち返され、大きく仰け反った。
シューティングウルフに比べて増加した重量によって低下した機動力を、力任せに補う戦法にも限界が見えてきた。
先の見えぬ状況下、不破は次なる戦術を思案する。強力なレーザー兵器を使ってくる以上、接近戦と遠距離戦の危険性は実質的に大差がなくなった。ならば、方法は一つ。
「
『バレット!』
『オーソライズ! Kamen Rider……ショットライズ!』
パンチングコングからキーを差し替え、弾丸を放つ。青い軌跡を描いて戻る弾丸を殴り砕き、新たな装甲を纏う。
『シューティングウルフ!』
青と白、左右非対称の形態に再び戻った。イズを呼びつけると、彼女は青いラインの入った鞄型兵装、アタッシュショットガンを鞄の状態で差し出してくる。
「仕事が早いな」
「私はヒューマギアであり、何より或人社長の秘書ですので」
『ショットガンライズ!』
ぶっきらぼうに鞄を引っ掴むと、アタッシュショットガンをその名の通りに
「後は任せろ、ここから一気にカタをつける……!」
轟音と共に光弾が飛んだ。ショットガンから放たれたのは高威力の単発弾。ドラスの防御より速く、青い光が炸裂する。ドラスは煙を噴きながら跳躍し、勢いを乗せて貫手を放つ。首元を狙った一撃を避け、バルカンはショットガンの銃口をドラスの腹部に押し付けた。
「ハァッ!」
至近距離にて散弾を撃ち込み、無数に散らばった弾丸が堅牢な装甲を削った。衝撃と損傷により、ドラスは後方へと倒れ込む。生じた隙を突くように、新たなプログライズキーをアタッシュショットガンに装填する。
『リボルバー!』
『Progrise key confirmed. Ready to utilize.』
キーの名はガトリングヘッジホッグ、無数の針持つハリネズミの力。アタッシュショットガンに込められた時、針は弾丸へと変わる。
『Hedgehog's Ability!』
『ガトリングカバンショット!』
腰だめに構え、バルカンが引き金を引いた。緑色に光る細長い弾丸が、その名の通りガトリング銃の如く連射される。間髪入れずに襲い来る幾百の光弾を前に、ドラスが両腕を前に突き出した。
まさか打ち返す気か。思い至るより早く、黄色の鋼が飛び散るのをバルカンは目撃した。
スズメバチを彷彿とさせる形状の小型ミサイルが、ドラス02の赤い両腕から放出され続けている。それらがショットガンの撃ち出す光弾と相殺し、攻撃を打ち消していたのだ。
「チッ、考えてみりゃ道理か。刃のキーまで腹の中とはな!」
昨日行われた戦いにおいては、刃唯阿/仮面ライダーバルキリーもまた敗北を喫した一人であった。キーを奪われたというのは本人から聞いていたが、よりにもよってその所在がドラスの体内であったと知り、不破が納得と共に毒づいた。
「言っただろう、もう容赦はしないと。僕の力をここまで引き出したこと……後悔しながら死んでいけ!」
対するドラス02はもはや怒りの感情を隠さない。生態系の頂点と自負する故に、唯一無二たる己を脅かす者は、その可能性とて許容しない。冷徹にして暴力的な自我が、怒声となって発露する。
「怒ったか、だったら俺の怒りも持っていけッ!」
『チャージライズ! フルチャージ!』
激昂するドラス02を相手に、バルカンは微塵も怯むことなく切り返す。アタッシュショットガンを折り畳んでエネルギーをチャージし、再度の発射を試みる。対するドラスはミサイルを周囲に展開すると共に、両手から噴いた炎を纏わせる。
ここにきてドラスが奪ったプログライズキーの力を解放し始めた。向こうもいよいよ本気だと確信し、バルカンが一気に駆け出す。燃えるスズメバチの大群が一斉に襲いかかる、次の瞬間。
『ガトリングカバンバスター!』
バルカンが足を止めて引き金を引いた。猛烈な勢いで緑色の散弾が弾け飛び、炎を掻き消して一点へと集束する。ドラスの全身に緑の針が幾本も突き刺さると、ミサイルは制御を失いながら地面に落ち、纏った炎に焼き尽くされた。
地面に両脚を縫い止められたドラスに距離を詰め、バルカンは胸に突き刺さった一本の針を左手で掴む。瞬間的に力を入れると、緑色の針が内部機関を抉り、ドラスの全身から一時的に力が抜けた。裂傷を刻んだ胸板に突き入れた右手が、新たなプログライズキーを掴む。
パンチングコングキーを引き摺り出した時に感覚は掴んだ。次こそは更に多くを取り戻す。強く念じ、二つのキーを手中に宿す感覚と共に右手を引き抜いた。
握った掌を開き、戦利品を検める。水色に黄色、アビリティは『FANG』と『THUNDER』。一つを懐に納め、ドラスが再び動き出すより早くもう一つを起動する。
『サンダー!』
「使わせてもらうぜ、刃!」
『Hornet's Ability!』
スズメバチの飛来するは雷の鳴るが如く。本来は仮面ライダーバルキリーの用いる、ライトニングホーネットキーを躊躇なく使う。不破に出し惜しみなど無く、あるのは攻撃の意志だけである。
アタッシュショットガンにキーを装填し、次なる一射の狙いを定める。
『ライトニングカバンショット!』
ショットガンから放たれたのは閃光の尾を引く散弾であった。空中で軌道を変更し、枝分かれする稲妻めいた軌跡を残しながらドラスの全身を襲う。プログライズキーを奪われた直後であり、著しい弱体化の最中にあったドラスは、防御する間もなく直撃を受けた。砂粒ほどの小さな弾丸から流し込まれた電撃が全身を灼くも、自らの機能を用いて弾丸を内部に取り込み、各部の修復を行う。
「まだだ!」
ドラスが両腕を炎に包み、バルカンに殴りかかった。僅かな間にバルカンは次弾を装填し、至近距離で撃ち込まんとする。しかし、ドラスにアタッシュショットガンを弾き飛ばされ、顔面に炎の掌底を受ける。その勢いのまま顔面を掴んだドラスが、バルカンの頭部を地面に叩きつけた。マウントポジションを取り、灼熱の鉄拳で何度もバルカンの顔を殴る。熱と殴打の苦悶に喘ぐ不破の声と、硬質な打撃音が響く。
「許さないッ! 人間ごとき、二流の生物が! 完全な生命となった僕の体に傷をつけるなど!」
怒りに震える拳を、ドラス02は振るい続ける。両手を組んで槌の如く叩きつける一撃を喰らわせてなお、彼の憤怒が収まることはなかった。
しかしながら。
仮面の下から、くぐもった声が響く。
「本気だと、思ってたが……
『Shark's Ability!』
何を、言っているのか。その疑問はすぐに打ち消される。
『バイティングカバンショット!』
車両の激突にも勝る衝撃が二人を襲う。直撃を喰らったドラスが勢いよく吹き飛び、胸元を光る牙が喰い破る。巻き込まれたバルカンも少なからぬ傷を負ったが、それ以上にドラスのダメージは大きかった。
「なぜだ……なぜ、そうまでして戦える……! 力を削がれ、性能差は圧倒的で、僕はお前よりも強いのに、なぜ!?」
よろめきながらも立ち上がるバルカンに、ドラスが問いを投げかける。ほとんど慟哭するような声色だった。
「俺はな……
スペックの差ではなく、使える力の幅広さでもない。ドラスに芽生えた自我こそが、ドラスをここまで追い詰めたのだと不破は叫ぶ。
「自分の力に驕り、他人を見下すその心! だからな……お前は今の今までずっと、
全力を出すまでもなく、自分が人間に負けるはずはない。その思い込みと驕慢が、無意識にドラスの力を抑えていた。
なぜバルカンが単独でドラスに挑みながらも、互角以上に戦えたのか。
なぜバルカンは何度もドラスからプログライズキーを奪い返せたのか。
……そもそも、なぜ不破諌は
その答えはただ一つ。
マギアとして
不破諌の『秘策』に、ドラスはまんまと嵌り込んだのである。
「貴様……ふざけるなァーッ!」
「もう遅いッ! 全て返してもらうぞ!」
ベルト部分に固定したエイムズショットライザー。装填されたシューティングウルフキーの起動スイッチをバルカンは力強く押し込む。
『バレット!』
ショットライザーのグリップを強く握りしめ、引き金を引いた。
『シューティングブラスト! フィーバー!』
バルカンの周囲に青い火の玉が幾つも浮かび上がると、それらがオオカミを象ってドラスの全身に噛みつく。眼前に光弾を生み出しながら、バルカンが空中に跳んだ。
「俺の全力を見せてやる……ハァッ!!!」
光弾を蹴り飛ばしてドラス02に当て、更なる追撃に飛び蹴りを繰り出す。深く抉るように蹴り込む一撃が、辺り一面を吹き飛ばさんばかりの巨大な爆発を生んだ。
バ
レ
ッ
ト
シ
ュ
I
テ
ィ
ン
グ
ブラストフィーバー
吹き荒れる突風が爆煙を晴らす。全霊を注ぎ込んだ一撃にて、バルカンはドラス02の駆体を貫いていた。地面に倒れ込んだドラスをよそに、バルカンは右手を開いた。その手には、二つのプログライズキーが握られている。
一つはフレイミングタイガー。炎を操る赤いキー。
そしてもう一つは……バッタの描かれた黄色のプログライズキー。ライジングホッパープログライズキーは、確かにバルカンの掌中にあった。
「確かに、取り戻したぞ……受け取れッ!」
後方で様子を見ていたイズに向かって、バルカンが二つのキーを投げ渡した。仮面ライダーの全力投球を正確に受け止め、自らの通信機能を用いて宇宙を漂う人工衛星・ゼアと接続した。
「ライジングホッパーキーの奪還を確認。ゼロワンシステムの再起動、及び各種戦闘データのアップデートを要請します」
◆◆◆◆◆◆
飛電インテリジェンス本社・極秘ラボにて。
ラボに存在するこの装置は、プログライズキーをはじめとする各種装備の開発・製造を担う多次元プリンター『ザット』。その内部には、機能を停止した変身ベルト、飛電ゼロワンドライバーが置かれている。
『衛星ゼアからの命令を受信。ゼロワンシステムを再起動、アップデートを開始します』
ザットのアナウンスが或人の耳に入るや否や、3Dプリント機構が一斉に起動し、細かい損傷を修復していく。プログライズキーの形をした入力装置がドライバーに挿入され、過去の戦闘データを入力していく。
「ついに来たか! 待ってたぜ、衛星ゼア……!」
単独でドラスに挑む不破を援護するために、イズを送り出してから、或人は一人で待ち続けていた。ゼアを通して強制的に機能を停止させたライジングホッパーキーが、再起動するその時を。
『システムアップデートを完了しました』
ザットの設備が停止し、安全扉が開く。或人は新品同然にまで修復されたゼロワンドライバーを手に取ると、ザットに向けて礼の言葉を言ってから駆け足でラボを去っていった。
◆◆◆◆◆◆
全く動かなくなったドラスに、バルカンは変身を解くことなくショットライザーの銃口を向け続けていた。完全に破壊しきっていない以上、警戒を怠ることはあってはならない。
「社長はまだか……?」
不破が呟いた、次の瞬間であった。
「遅れてェ……ゴメェェェーーーーン!!!」
絶叫が響き渡る。飛電或人が、謝罪の言葉を叫びながら走ってきていた。イズの傍らで止まると、息を切らしつつ彼女の顔を見上げた。
「ッハァ、ハァッ……待ったァ?」
「お待ちしておりました、或人様」
イズは行儀良く頭を下げてから、或人にライジングホッパーキーを手渡した。
「どうか、もう一度立ち上がってください、或人様。飛電の社長として。そして——」
「仮面ライダーゼロワンとして。そうだろ? 他にもライダーはいるけど、やっぱりゼロワンは……俺じゃないとな!」
「はい。『アルトじゃ〜〜ないと!』ですね」
自らのギャグを取られて苦笑する或人の方へと、バルカンが駆け寄る。
「おい! 俺がいるのも忘れるなよ」
「不破さん! ……今まで戦ってくれてたんだな。ありがとう」
「キーを取り返して、ヤツを倒す。それだけだ」
取り戻したプログライズキーの幾つかをバルカンから手渡されると同時に、鋼の軋む音が歪に響き始めた。
見るも無惨な姿になりながら、ドラス02が立ち上がっていた。血のように潤滑液を垂れ流し、内部機構を露出しながら、赤く光る双眸を或人達に向けている。
「まだ生きてやがったか!」
バルカンがショットライザーで撃つも、大したダメージにはなっていない。むしろ着弾した弾丸と融合し、修理を行っているようにも見える。
両腕をだらりと垂らした体勢で、ドラスが雑音混じりに呻いた。
「次は、必ず……倒す……バラバラにしてやる……」
或人はその姿を見て確信する。目の前のマギアは、既に研究者型ヒューマギアではなく『ドラス』という名の破壊者の写し身なのだと。
「そうはさせない。今度は、俺達の番だ!」
『ゼロワンドライバー!』
或人が変身ベルトを腰に装着する。手に取ったプログライズキーを起動し、ベルトの認証機構と接続した。
『ジャンプ!』
『オーソライズ!』
衛星ゼアが出力したバッタ型のロボットが、上空から飛来する。バッタは或人達を守るように周囲を飛び跳ね、やがて或人の眼前に着地した。
展開したキーを構え、或人が叫ぶ。
「変身!」
『プログライズ! 飛び上がライズ! ライジングホッパー! A jump to the sky turns to a riderkick.』
バッタが黄色の光となり、或人の全身を包み込む。変身が完了すると、そこに或人の姿はない。バッタの力を宿す仮面の戦士が立っていた。
仮面ライダーゼロワン・ライジングホッパー。夢に向かって飛ぶために、飛電インテリジェンスの社長が再び戦場に舞い降りる。
「ドラス! お前を止められるのはただ一人、俺だ!」
B Partにつづく。