IF:ZERO-ONE VS ZO   作:TAC/108

19 / 25
B Part-4

突如出現した滅亡迅雷.netの戦士、仮面ライダー滅と仮面ライダー迅。思いがけぬ敵手の登場に、事情を知らないZOを除く全員が一斉に身構える。

「滅亡迅雷……!」

ゼロワンがイズを庇うように立ち、彼女から受け取ったキーの一つを構える。大打撃を与えたとはいえ、ギガネオヒマンモスは健在なのだ。ここで手間取るわけにはいかない。密かにバルカンやバルキリーと通信回線を繋ぎつつ、両腕を前に出して拳を握る。

「今はお前達に構ってる場合じゃないんだ! 退いてくれるなら、コッチも手出しはしない」

「蒙昧極まるな、飛電或人。我らの目的はお前達ではない」

「……何だって?」

滅の言い分が理解できず、或人は明らかに困惑していた。

「ドラスマギア……否、ドラス02はアークの意志に従わず、滅亡迅雷.netに反旗を翻した。我々の目的はただ一つ、()()()()()()だ」

「僕達の邪魔をしないならお友達……じゃなくて、ドラスを倒すまでの間は休戦してもいい。そうだよね、滅?」

迅の質問に滅が無言で頷く。不破から少しだけ聞いていたとはいえ、ドラスが滅亡迅雷.netからも離脱した独立勢力と化していたことに、或人は驚きを隠せなかった。

「ドラス02……それが今のドラスなのか」

「ヤツの目的は人類の支配。人類絶滅を謳う我らとは、根本的に相容れない存在だ。さて、どうする?」

或人は滅の機械的な笑みが目に浮かぶような心地がした。滅の提案に乗らなければこの状況で滅亡迅雷.netまでもが敵となる。いずれは倒すべき相手だが、或人は迷いを払って答えた。

「わかった。ドラスを倒すまでの間、俺達は敵対しない。その代わり……約束を破るならその時は全力で戦う」

「承知した」

言い終えた瞬間、滅の姿が掻き消える。迅も背中から翼を広げ、ギガネオヒマンモスの背中を目指して飛んでいった。

「ふぅ……き、緊張したァ〜〜ッ!」

ゼロワンは額の汗を拭うも、仮面越しでは無意味であった。

組織の規模こそ小さいが、極めて強大な戦闘能力を持つ滅と迅を相手にしなくてもいいという事実を認め、或人は一時的な緊張からの解放を味わう。

とはいえ、安堵は一瞬のうちであった。ブレイキングマンモスを復旧させるまでの間、山の如き巨大機械獣を止めねばならない。イズからアタッシュカリバーを受け取ると、ゼロワンは前方に跳躍しつつ赤いプログライズキーをベルトに装填した。

『プログライズ! フレイミングタイガー!』

空から落ちてくる炎のトラを装甲に変換し、ゼロワン・フレイミングタイガーへの変身を遂げる。火の粉を散らしながら着地すると、熱風を吹かす赤い影が荒れた路面を疾駆し始めた。

 

地面を駆けながら、ゼロワンはギガネオヒマンモスに目を遣る。根元から千切れた黒い鼻が少しずつ伸びている。この時の或人は知る由もないが、これもまたギガネオヒマンモスを制御するドラス02の能力によるものだった。左右側面部、バルキリーが破壊した砲塔も再生し、徐々にではあるが攻撃的な形態へと変化し続けている。

「姿形が変化してる……変化しきる前に、ダメージを与えられれば!」

ゼロワンの前方20メートル地点に立つはマンモスの右前脚。走行の勢いをつけて跳躍し、前方宙返りからアタッシュカリバーを投げつける。刀身を展開したアタッシュカリバーが、炎の矢となって右膝に突き刺さった。着地と同時に再び跳ぶと、カリバーを膝から引き抜くついでに着弾地点に向けて腕を振り抜く。指先から発せられた炎の爪が内部を焼き、ゼロワンはマンモスの足元に着地した。

距離は詰めたが、問題はここからであった。人間大のままに人智を超えた力を発揮できる仮面ライダーの力があろうとも、70メートルの巨体を足止めするのは困難だ。ギガネオヒマンモスを後退させたZOの一撃も強烈ではあるが、二度も三度も繰り出せるものではない。形態を変化させる力がある以上、次は何らかの対策を取られる。それが或人の見立てだった。

 

或人は対岸から自分を呼ぶ声を聞いた。ギガネオヒマンモスの左前脚を殴り付けていたバルカンである。攻撃と両立するためか、ゼロワンの方を向くことなく通信回線越しに怒号が響く。

『さっきの通信はどういうつもりだ!? 滅亡迅雷と手を組むなんざ——』

「ドラス相手でこの状況です! 確かに今回の事件を起こしたのはアイツらだけど、滅亡迅雷まで敵に回すわけにもいかない!」

『そういうことだ。案ずるな、我らヒューマギアは()()()()()()

突如回線に割り込んできたのは滅だった。紫色の弓(アタッシュアロー)から光の矢を絶え間なく連射し、腹部装甲の隙間を正確に撃ち続ける姿が見える。

『ドラスを引きずり出すならば内部に潜り込め。巨大マギアの制御権はヤツの手中だ。引き離せば大幅に弱体化するだろう』

「本当か! ……いや、仮にそれが分かったとしても、誰がどうやってコイツの中に入る?」

或人の思案を遮り、ZOが滑り込むようにしてマンモスの真下に現れる。気づけばゼロワンの肩には小さなバッタが乗っていた。或人の脳内に、勝の声が響く。

『僕だ、或人君。そのバッタを通して、君の脳内に語りかけている。盗み聞きのようで悪いが、通信も傍受させてもらった』

「ホントですか!? ……まさか、通信を聞いてたってことは……?」

『ドラスを引きずり出す役割は、僕が引き受ける。その後は君達に任せるぞ!』

ZOの全身が光に包まれると、大跳躍からのアッパーカットが炸裂した。滅が損傷を与えた腹部が突き破られ、鈍い音を立てながらZOの全身がギガネオヒマンモスの内部へと入っていった。その姿を確認すると、ゼロワンはアタッシュカリバーをマンモスの爪先に突き立て、再び攻撃を開始した。

 

◆◆◆◆◆◆

 

ギガネオヒマンモスを空中から攻め、背中に設置された追加ユニットと戦うバルキリーであったが、予想外に苦戦を強いられていた。ユニットの本体であるネオヒマギアを守る触腕は、破壊しても問題なく再生する。触腕は徐々に復活する速度を上げてきており、本体を狙いにくくなっている。

このままでは千日手か、と唯阿が考えた矢先に、どこからともなく飛来した鋼の矢が触腕を切断した。マゼンタに光る羽根を散らしながら、射手が広大な背中に着地する。

「滅亡迅雷か……!」

「昨日ぶりだね、バルキリー。通信聞いてたでしょ? 手伝ってあげる!」

朝の太陽が影を照らす。翼を広げたままの仮面ライダー迅が、バルキリーの前に立っていた。

迅は翼を光らせると、そこから複数の光弾を放った。ハヤブサの羽根を模した形状の、切断力の高い光弾が縦横無尽に飛び回り、あらゆる方向からネオヒマギアを囲む触腕の壁を斬り裂く。下半身をマンモスの体躯に埋め込んだネオヒマギアが、自らの無防備を察して慌てふためく。

『サンダー!』

この隙を逃すわけにはいかない。プログライズキーの起動スイッチを押したバルキリーが、迅と位置を入れ替えつつ狙いをつける。銃口が帯電を始め、強烈な一射に備える。

『ライトニングブラスト!』

引き金が引かれ、バルキリーのショットライザーから長大な弾体が発射された。青く光るスズメバチの針が、稲妻を撒き散らしながらネオヒマギアの胸を貫く。

しかし、これで倒れるネオヒマギアではなかった。自衛用の触腕が再生しきる前に、本体から触腕を放つ。粗雑な狙いで放たれる白い触腕を苦し紛れと睨み、バルキリーが次の一撃に勝負をかけようとした、その時であった。

「ここから先は僕の番、だよ」

迅の声と共に強風が吹き荒ぶ。何事かと振り向いたバルキリーは、迅を中心としたマゼンタの竜巻と、その中で妖しく光る迅の眼を目撃した。

『フライングディストピア!』

竜巻の中から光弾を無数に撒き散らし、ネオヒマギアが伸ばした触腕を全て断ち切る。バルキリーもベルトにショットライザーを固定し、より高くへと飛び上がった。

空中から降りかかる光弾の雨が、ネオヒマギアを襲う。

イカの頭部にも似たモジュールごと、ネオヒマギアの動きが止まる。光弾は全てが全身を引き裂く刃であり、腕を動かす力すら削ぎ落としてしまったのだ。

しかしながら、これは最後の一撃ではない。

 

『サンダー! ライトニングブラスト! フィーバー!』

 

バルキリーは迅の攻撃から逃れるためではなく、自らがトドメを刺すために上空へと飛んだのである。

バルキリーの右足から鋭く太い三角錐型の針が飛び出す。先程ショットライザーから放たれたものと同じく、青い針が稲妻を帯びる。

これこそ無慈悲なる最後の一撃。スズメバチの戦姫が、罪ありき機械の悪魔に裁きを下す。

 

ブラストフィーバー

 

空飛ぶ羽音は雷鳴であり、突き刺す威力は落雷であった。

虫の息となったネオヒマギアも、本体を失ったモジュールも爆砕しながらバルキリーの蹴撃が巨大な標的を貫通する。

モジュールに大きな風穴を開けながら、バルキリーが着地する。因縁の決着を示すように、ネオヒマギアの胴体が火花を散らして爆発した。

「えーっ……僕の番じゃないの?」

ゆっくりと着地しながら、迅が不服そうに呟く。かつて自身が『お友達』と呼んで共闘した相手だろうと、敵となった以上彼に容赦などない。破壊を()()()に楽しむ悪の戦士(ダークライダー)の側面が顕れる。

彼に対して、唯阿は冷然と述べた。

「アイツは私の獲物だ。それ以上の理由があるか?」

「ちぇっ……」

 

◆◆◆◆◆◆

 

——ギガマンモスマギアの損傷率、48%。戦闘機動の展開効率が著しく低下。ヒューマギアパーツの不足により、完全修復は不可能。

 

巨大マギア動力部にて座するドラス02の電脳に、現在の戦況が逐一報告される。ドラスが用意した決戦形態・ギガマンモスマギアとネオヒマギアの合体による巨大戦力が、人間大の仮面ライダー達に力を削られ続けている。

この機体もいよいよ潮時か。冷徹な結論を下し、彼は次の戦術を練る。

 

——ネオヒマギアおよび追加ユニットが爆散。合体機構を排除し、修復・強化対象をドラス02に限定。

 

新たな報告と命令の入力は同時だった。巨大な駆体を捨て、自らをより強くする方向へと舵を切る。プログライズキーを奪還された分のエネルギー補填も含め、完全修復を終えていたドラス02であったが、ギガマンモスマギアに吸引させた無数のトリロバイトマギアを素材として、更なる自己強化を開始した。既に内部機構として溶け込んでいたトリロバイトマギアのあらゆる部品が、ドラスに繋がれたケーブルの数本を通して彼の内部へと流れ込む。

より太く、より硬く、より強く。液体金属と化したマギア部品は、動力機関を増設し、全身を鎧う装甲となり、駆動系を強靭なものへと変えていく。急激な変容を受けて、ドラス02の全身が猛烈な勢いで赤熱する。溶鉄めいた赤は深みを増し、彼の全身を染め上げる色となった。

 

例えるならば、鮮血。

深紅に非ず、断末魔と共に噴き上がる鮮血の真紅へと、ドラス02の駆体が塗り替えられる。

首から下は爪先に至るまで膨張し、有機的かつマッシヴな体格を形成していた。全身の各パーツが変形し、鋭角的なフォルムが曲線的なものへと変わっている。ヒューマギアを基としながら、偉大な芸術家の手になる英雄の彫刻めいた屈強かつ均整の取れた体躯が完全する。背中からは細長い鋼鉄の尾が伸び、独立した生き物のように滑らかに蠢いていた。

 

これぞ完全形態。自ら宿すゼツメライズキーのオリジナルたるドラスが、自らの兄弟とも呼ぶべきZOをその身に取り込んで至った姿に、今のドラス02はあまりにも酷似していた。ゼツメライズキーに集積されたドラスとネオ生命体のデータが弾き出した、『最強の姿』の答えとも言える。

ただ外敵を蹂躙し、殲滅し、破壊するための姿であり、人類の支配者という目的から遥かに遠ざかり敵対者を絶滅させるための形態であった。

内部システムの最適化が完了し、肥大化した大型カメラアイが小さく赤い瞳を光らせる。

それと同時に、前方の床を突き破って侵入者が現れた。

 

「お前は……僕のプロトタイプか」

我知らず呟いた言葉。忌々しさを隠さずにドラス02が言い放った相手こそ、ドラス02をこの場から引き離すために現れた仮面ライダーZOであった。

「その姿は! ……なるほど、多くのマギアを吸収して、より強い形態へと変身したわけか」

「時代遅れの原型め。お前の存在そのものが僕を苛立たせる。断じて許すわけにはいかない」

一人の男が生み出した、二人の怪物。一人は人間の自由と平和を守る仮面ライダーとなり、もう一人は人間の自由と平和を脅かす悪の怪人となった。源を同じとしながらも、真逆の在り方を選んだ二人が、時を超えて再び巡り合う。

「いわば君はネオ生命体の遺児。邪悪にして冷徹の意志を受け継いで現代に蘇り、人間の自由を脅かそうというのなら……僕が、いや僕達が! 再びこの手で倒す!」

「倒されるのはお前だ。お前を倒して僕はオリジナルを超え、全人類を支配する」

ドラス02が立ち上がり、拳を握り締めて全身を高熱に包む。ZOも拳を構え、全身をエネルギーの膜で覆った。

天然自然の強さや大きさを体現する深い緑の身体を持つZOと、触れれば全てを焼き尽くす炎のような真紅に染まったドラス02。

かつて昭和の戦記と数えられた戦いの記録に記される、どこまでも相容れない二人が、再び宿敵として令和の時代に相見える。

 

ZOが右ストレートを、ドラスが左ストレートを放つ。全身を包んでいたエネルギーオーラと熱気が、拳の衝突と同時に霧散した。

緑と赤の熱波が密室と化した動力部にて混ざり合って爆発し、天井から床まで全てを構成するケーブルに破壊をもたらす。室内は一瞬にして修復を終え、元の形を取り戻した。

これは開戦を告げる一撃に過ぎない。ZOの放つ追撃の左拳が空振る。伸縮自在の尾が地を這い、ZOの右足首が縛られていた。バックステップから距離を離したドラスが、尻尾を駆使してZOの全身を引き寄せ、顔面に向かって強烈な蹴りを浴びせた。尻尾の拘束が解かれたことで大きく吹き飛び、ZOは壁に叩きつけられる。

彼我の距離は30メートル前後。人間・麻生勝としての思考は、現在のドラス02がスペックの上では自らを上回ることを理解していた。

 

立ち上がろうとした一瞬、ZOは奇妙なものを目撃した。

自らの立つ壁の対極に位置する、隅から隅まで全てが赤いこの室内で一際赤く輝き、脈動するもの。眼前のドラスが背にしている、巨大マギアの心臓部……ケーブルの壁に埋め込まれた、マンモスマギアの駆体を。

勝の脳内に閃光が走った。賭けに近い思いつきだが、実行する価値はある。気合の声を上げて脚に力を溜め、ZOがドラスに向かって飛びかかった。空中から放たれるパンチを横っ飛びに避けて後頭部に蹴りを入れ、ZOの身体が前のめりに転倒する。うつ伏せから仰向けに体勢を変え、ドラスが床を殴るより速く立ち上がった。

 

ドラスの両肩に眼球に似た砲口が浮かび上がり、二門が標的に向けて青い光線を放つ。ZOは一発を避け、もう一発は腕で弾いた。右腕に激痛が走り、僅かな間だけ無傷の腕でもう一方を押さえた。その隙に歩み寄ったドラスが大振りなパンチを喰らわせ、ZOを大きく後退させた。体勢を立て直したのも束の間、力任せに押し出すような前蹴りで地面に蹴倒され、ドラスにマウントポジションを取られた。

馬乗りになったままドラスが両手でZOの首を絞め始め、両腕が青白く光る。絞殺を目的とした行動ではなく、ZOのエネルギーを吸収するための接触であった。身動きが取れず、されるがままに力を吸い取られるZO。表情の変わらないドラスの顔面が、冷酷な笑みを浮かべているようにも見えた。

「所詮この程度……僕の力になってもらうぞ」

「……お……え、たぞッ」

「聞こえないな、苦しむならもっと大袈裟に苦しんでもらおうか」

力を失いつつある両腕が、力を奪い取る両腕を掴んだ。

 

「お、ぼえ……た、ぞ!」

「覚えた……何を——ぐぁッ!?」

ドラスの腕が唐突に爆発し、両腕から激しく火花が散る。腕を離した瞬間を狙い、ZOが起き上がりざまに頭突きを放った。ドラスの胸に強烈な衝撃が襲いかかり、今度はドラスが仰向けに転倒する。

起き上がろうとした瞬間にドラスは激しい違和感を抱いた。

両腕が動かない。胸部の修復が遅い。出力が低下している。何より……エネルギー供給が来ない。

「力を奪われるのは二度目だ。それに僕は……()()()()()()()()だからね」

「まさか……僕からエネルギーを奪ったのか!?」

冗談めかして語っているが、ドラス02にとっては信じ難く認め難い事実だった。

いかにドラス02がドラスを模したとしても、滅亡迅雷.netから独立したとしても、ドラス02がヒューマギアを基としたマギアであるという事実に変わりはない。未だドラスの腰に装着されているベルト——ゼツメライザーと、今のドラスを形作るドラスゼツメライズキーが何よりの証である。

ZOとドラスが同じ研究の過程から生み出された存在であったとしても、マギアとして能力を再現されたドラス02にまで繋がりがあるとは言い難い。技術系統が違いすぎるのだ。

 

しかし、事実としてZOはやってのけた。他者から力を奪い取る能力を利用してエネルギーの向かう方向を逆転させ、ドラス本体からエネルギーを奪ったどころか()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。それも、かつて一度自らがドラスに力を奪われ、封じられたというだけで。

……当然ながらそれだけではない。天才であったが狂気に堕ちた科学者・望月博士が、『完全な生命体』……即ちネオ生命体を生み出す過程で作られた、麻生勝の肉体にバッタの遺伝子を結合させた改造人間。言うなれば()()()()()()()()()()()()である彼は、ドラスですら持ち得なかった力を手にした。森羅万象からエネルギーを貰い受け、100%以上の力を発揮する……『未知数』の力を。

この男を前に、あらゆる数値は意味をなさない。友情、愛、希望。人を守りたいと思う心すらも確かな力として振るう戦士は、数字で語るスペックを超越して常識外のパワーを発揮するのである。力を奪い返したのも、力の流れを変えたのも畢竟するに、()()()()()()()()()()()を心一つで乗り越えたからに他ならない。

 

赤く発光していたケーブルが淡い緑に色を変え、ZOの両脚を入り口に膨大なエネルギーを供給する。両腕の修復を終えたドラスが立ち上がり、ZOに向かって構えた。全身からオーラとして力を溢れ出させながら、ZOが一歩ずつゆっくりと距離を詰める。破れかぶれに殴りかかるドラスの拳を掌で掴むと、空いた片手でドラスの顔面を掌底にて打ちのめす。大きく退いたドラスが次に見たのは、右拳を強く握り締めて力を溜めるZOの姿だった。

あれを喰らえばただでは済まないと、ドラスの本能めいたモノが警告する。復旧した吸収機構を用いてエネルギー供給の幾分かを取り戻し、そのほとんどを防御に回す。

二人は力を溜め続ける。一方は攻撃のため、もう一方は防御のため。光纏う人型が、掌中に宿した最大の力を込め、右腕を大きく振りかぶる。

 

ドラスは防御姿勢を取らなかったが、有り余るエネルギーを用いた多重防壁を前面に繰り出し渾身のパンチを防ぎきる——はずだった。

光の壁が一瞬、ZOの拳を止める。しかし、拳が触れた瞬間に20枚以上も重ねられた防壁が砕け散り、ドラスの胸板を凄まじい衝撃が襲った。

己の身を微塵に砕きかねない一撃に、ドラスは全身の力を振り絞って耐える。室内が再び赤の一色に染まり、ドラスのダメージが一瞬にして修復された。本命は動力室の制御奪回、それが成された以上、ZOに次の手は無い。振り上げた手刀を以て、ZOの肩を斬り裂かんとした、その時であった。

「ハァ……ッ!」

「何!?」

拳が胸に触れたまま回転を加えられると同時に、膨大な力が解き放たれた。古流武術においては寸勁と称される、標的に触れるほどの超至近距離から放つ高威力の拳打。人間として放つならば、修練の末に修得する技だが、超人たるZOにとっては純粋な『力の解放』で事足りる。

「しまっ——」

嘆きを紡ぐ間も無し。糸を引かれたようにドラスの全身が後方に吹き飛んだ。赤い壁すら突き破ってドラスは激戦の市街地へと放り出される。ZOが見据えるものは己の兄弟とも言える怪物ではなく、朝の陽光が僅かに射し込む人型の大穴であった。

ドラスを追うか、動力を潰すか。思案は一瞬にして終わり、ZOはドラスが突き抜けた穴道を走り出す。巨大マギアの防衛機構が作動し始め、ケーブルでZOを拘束しようとしたのだ。

全速力で光の方へと走った末に……ZOは巨象の額から飛び降りた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

『プログライズ! フリージングベアー!』

様々なプログライズキーを使い分け、ゼロワンはギガマンモスマギアの全身を隈なく攻撃する。フリージングベアーへと形態を変えつつ、右後脚を氷の斬撃にて凍結させ、歩行のバランスを崩す戦法であった。

しかし、有効とは言い難い。脚を凍らせて動きを止められるのは短い間に限られる。多少弱体化したとはいえギガマンモスマギアの出力は依然として凄まじく、文字通りに足止めが精一杯と言わざるを得ない。

そのような状況で、あったのだが。

 

突如としてギガマンモスマギアの全身が小刻みに震え始める。数秒後には顔面に大穴が開くと同時に、真紅の人型が飛び出してきた。それを追うようにして、ギガマンモスマギアの内部に侵入していたZOが地上へと飛び降りる。

真紅の人型……ドラス02は空中で身を翻すと、コウモリめいた巨大な翼を背中から展開した。ドラス02はカメラアイを赤く光らせ、ギガマンモスマギアに最後の指令を送る。命令を受け取った巨大マギアは、瞑目するように双眸から光を消し、修復途中の鼻を一瞬にして伸ばした。

追加装備を失い、制御からも離れたギガマンモスマギアが命ぜられた内容は、極めて単純な暴走であった。無理な修復が祟り関節部が爆散するが、新たな関節を増設して無理矢理にでも四脚が全身を支える。

「マジかよ……」

「或人社長、巨大マギアを完全に撃破するなら今かと」

ゼロワンの戦闘を支援していたイズが提案する。ドラスを内部から引き剥がした今、ギガマンモスマギアを支えるものは何もない。

ドラスが与えた力を使い潰し、破滅に突き進む壊れた歯車と化した機械の大怪獣。あまりにも痛ましいその姿に、飛電或人は決意する。

かつては警備ヒューマギアの一体であったマンモスマギアに、今度こそ自らの手でトドメを刺す、と。

 

「衛星ゼア後部ユニットの修復は完了しております」

或人の意志を汲むようにイズが言った。つまり、巨大戦力(ブレイキングマンモス)が再び使えるということである。

「わかった……今度こそ絶対に、俺が止める!」

路面を凍結させて氷上を滑り、ゼロワンはギガマンモスマギアの前方に回り込む。キーを差し替え、衛星ゼアが投射する光に向かって跳躍すると、鋼の巨人が再び戦場に降り立った。

『プログライズ! Giant waking! ブレイキングマンモス!』

漆黒の巨体から黒い煙を噴くギガマンモスマギア。真の決着をつけるため、ゼロワンが巨象に向けて跳び上がり、顔面を全力で殴りつけた。

 

つづく。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。