IF:ZERO-ONE VS ZO   作:TAC/108

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人工知能搭載人型ロボ・ヒューマギアが、様々な仕事をサポートする新時代。
AIテクノロジー企業の若き社長が、人々の夢を守るため今飛び立つ——!



A Part-1

飛電(ひでん)インテリジェンス二代目社長・飛電或人(ひでんあると)の朝は早い。

飛電インテリジェンスが開発したヒューマギアは、既に人々の生活に深く根付いている。高度なAIテクノロジーは、極めて汎用性の高い人型ロボットを生み出した。しかし、企業というものの常として、新しい製品を開発し続けて、商品の可能性を模索する必要は生じる。

 

加えて、()()()()()()()()()()()()()()。現在の彼はなんと僅かに22歳、大企業の社長としては異例ともいえる若輩なのだ。彼の前歴は売れないお笑い芸人であり、経済のイロハに詳しいわけでも、ヒューマギアの内部構造を知悉しているわけでもない。本人曰く『社長なのに新入シャイーン(社員)!』である。あるいは、ピカピカの社長一年生とも言うべきか。腹芸もそこまで得意な方ではない。

 

そういった理由もあり、飛電或人の社長としての業務とは、専らヒューマギアが運用されている仕事の場に社長自らの足で出向くことで、ヒューマギアの良さをプレゼンしたり修理の依頼を請け負ったりするという方向になる。

かくして、或人が現在向かっているのは、植物の研究を長年続けている秋月孝三(あきづきこうぞう)という学者の研究所だった。その目的とは、秋月氏が使用している研究職支援型ヒューマギア・白辺(しらべ)テルゾーの修理にあたって、実物を受け取りに行くためであった。

 

◆◆◆◆◆◆

 

「よく来てくださいました、社長さん」

研究所に備えられた植物園で、飛電或人は初老の男と握手を交わしていた。朗らかに笑う恰幅の良い男性、彼こそ植物学者・秋月孝三その人である。周囲を見回すと、奇妙な形状の植物が数多く育成されている。

 

「この研究所では現在、食虫植物を主な対象として研究が進められています。秋月博士は食虫植物の研究において一定の功績を残し、現在はこの『秋月植物研究所』の所長を務めています」

「詳しいですな、お嬢さん。そちらもヒューマギアで?」

「飛電インテリジェンス社長秘書のイズと申します。私は或人社長を支援するヒューマギアです」

ハエトリグサを前に目を輝かせる或人に向かって、一人の女性が言った。機械のヘッドギアは、彼女がヒューマギアであることを示している。

彼女の名はイズ。飛電インテリジェンス社長秘書の役割を担うヒューマギアだ。或人と共に行動し、彼を的確にサポートする敏腕秘書である。

 

「ひぇ〜すっごいなァ——ってそういえば! 博士、ヒューマギアの修理って話なんですが……具体的にはどのような?」

未知の研究に感嘆する青年から、或人は社長の顔に戻った。彼の用事は、修理すべきヒューマギアを孝三から受け取ることである。孝三は自らが所有する機体について語り始めた。

「そうでしたな。御社のヒューマギア『白辺テルゾー』なのですが、私は彼に色々と研究を手伝ってもらっていました。論文執筆や文献の調査、あるいはこの研究所で育てている植物の観察など、諸々の研究がかつて以上に捗っていたのは彼のお陰です」

現在、秋月孝三の年齢は62歳である。彼がテルゾーを購入した主な動機は、老化に伴う体力的な問題をカバーするためであった。しかし、彼が漠然と予想していた以上の成果をテルゾーは出すことができた。そこで孝三は、テルゾーを自らの研究に積極的に関わらせたのだという。

 

「そうしておよそ一年が経過しました。今から三週間ほど前、私が植物園にいたテルゾーを呼んだのですが、どうにも反応が遅く……以降も似たようなことが度々起こったので、何か不具合があるのではないかと」

「センサー関連の異常が考えられます。本社でのメンテナンスを推奨しますが、いかが致しますか?」

或人にとって孝三は一人の客であると同時に、ヒューマギアを自らの裁量で最大限に扱ってくれている人物だということがわかった。ならば、或人の答えは一つである。

「よし! だったら、まずは実物を見に行かないと。秋月博士、テルゾーは今どこに?」

或人が尋ねたその時、先程まで或人と話していた孝三の視線が、或人の後方に向かった。

 

白衣を着た若い男性が、植物園の一角を見つめている。男の目とヘッドギアが青く光り、目の前に生えていたサラセニアについての分析を素早く完了する。男は眼鏡を掛けると同時に、孝三のいる方に歩いてきた。

「博士、C区画のサラセニアは状態が少し良くないようです。栄養過多が原因かと」

「自分で調べたのか!? よくやったな、テルゾー。改善案はあるか?」

「与える水の量を少し減らす必要があります。現状で水が多すぎるのであれば、減らしても問題はないかと」

孝三と話しているヒューマギア、彼こそ飛電インテリジェンスが修理依頼を請け負った研究職支援型ヒューマギア、白辺テルゾーであった。

自分だけで植物の状態を調べ、改善案まで提示してみせたテルゾーの様子に、或人はまたしても感嘆させられる。

「あれが白辺テルゾーか……技術研究のサポートに使われるヒューマギア、だったよな? だからあんなこともできるのかな」

「高くはないですが、そういった挙動ができるという可能性もあります。しかし……長期の使用に伴い、何らかの形でエラーが起きている場合も考えられます。本社に搬送し、点検を行った方が良いでしょう」

イズは冷静に状況を分析し、依頼を遂行すべきだと伝える。テルゾーと話し込む孝三の肩を、或人が後ろから突いた。

 

「あの、博士。もしかしたら、今後の使用で不具合が生じるかもしれません。本社で一度テルゾーを点検し、何もなければ問題なく返却するという形で良いですか?」

「どのくらい、時間がかかりますかな? なにぶん私も老骨というやつです。研究を進めるため、できれば早い方が良いのですが……」

「長くても一週間あれば。停止したテルゾーの機体をトラックに積んで運びます。トラックが来るまでに、テルゾーの機能をシャットダウンしてもらえますか? イズ、飛電の本社からヒューマギア配達用のトラックを呼んで!」

承知致しました、とイズが返す。或人が孝三の方に向き直ると、孝三が今まで見せたことのない焦りの表情を浮かべていた。

「博士、どうしまし……あ!」

周囲を見渡して、或人がようやく表情の意図を理解する。先程まで孝三の傍らにいたはずのヒューマギアが——。

 

「白辺テルゾーが、いなくなったァー!?」

 

つづく。

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