鋼が鋼を打つ音が鈍く響く。決意を込めた巨人の鉄拳が、巨象の顔面を強打して尚、巨象の勢いは衰えない。全てを巻き込みながら、巨象は破滅に向かって歩みを進めんとしている。
仮面ライダーゼロワン・ブレイキングマンモスとギガマンモスマギアの戦いは最終局面へと突入していた。巨大ユニットに搭乗中のゼロワンが通信回線を開き、通信に応じた全てのライダーに呼びかける。
「あのデカいマギアが暴走を始めてる! これ以上被害を出さないために、少しでも動きを止めてくれ! 決着は——」
『俺がつける、だろ? 上等だ。トドメは譲ってやるから確実に決めろ! それが飛電の社長……アンタの戦い方なんだろう!』
誰より早く応じたのはバルカンだった。次いで空中から攻撃を続けていたバルキリーと迅が、敵の側面へと回り込む。
『巨大マギアの身体を支えているのは四本の脚だ。そこは私達で可能な限り抑え込む』
『やってみなよ、ゼロワン。僕達もお膳立てしてあげるからさ』
ただ一人、滅は無言であったが、ゼロワンの視覚にはアタッシュアローで巨象の脚を狙い撃つ滅の姿が見えた。
呉越同舟。たとえ今だけであろうと、飛電或人には心強い味方がいる。思想も目的も異なる戦士達が、この瞬間だけは確かな共同戦線を形成している。
その光景を歴史の先達、仮面ライダーZOは見据える。
共に戦う仲間の尊さを知る一人の男として、彼はゼロワンの背後に立つ。地上を見下ろす真紅の悪魔……ドラス02を見上げながら、麻生勝が或人に声をかけた。
「僕は再びドラスを追う。そっちは……いや、言うまでもなさそうだ」
ZOの方を向いたゼロワンが、大きな手で親指を立てる。短い間に結ばれたが、確かな信頼が二人の間にはあった。
ならば、勝はただ一言を告げるだけで事足りる。
「こっちは、任せてもらおうか」
誰の目にも留まることなく、緑と赤の影が姿を消した。熱り立つ巨象を目前に、ゼロワンは両腕を前に出し、顔面を守るようにして構える。
「よし……行くぞ、皆!」
或人の言葉が号令となったか、四騎が一斉に動き出す。ゼロワンも積極的に格闘戦を仕掛け始め、ギガマンモスマギアに攻撃の機を与えない。
「オラァッ!」
仮面ライダーバルカン・パンチングコング。その剛腕で巨象の脚を執拗に殴り、表面装甲を無理矢理に引き剥がす。単純暴力を体現する戦いに、呆れたように滅が横槍を入れる。
「その野蛮な戦法……暴走と大して変わらんな」
「俺は俺のやり方で敵をブッ潰すだけだ! お前に! とやかく言われる筋合いは……ね、え、なァッ!!」
装甲板を剥がし、内部骨格まで殴り折る乱暴な戦い方。右前脚の再生が追いつかないほどの勢いで、バルカンはただひたすらに殴り、蹴り、千切り飛ばす。
「ならば……」
『ストロング!』
『Progrise key confirmed. Ready to utilize.』
滅がアタッシュアローにプログライズキーを装填する。さながら矢をつがえるが如く、キーに秘められた力は射出の瞬間を待っていた。
『アメイジングカバンシュート!』
数秒の後、黄緑色の光がアタッシュアローから放たれる。狙うは右後脚の膝部分。長短二本、ヘラクレスオオカブトムシの角を模した光弾がマンモスの脚を半ばから両断した。
「お前……!」
「戦いとはこうするものだ」
膝から下を失い、大きくバランスを崩すギガマンモスマギア。次いで動いたバルキリーが、着陸と同時に形態を切り替える。ラッシングチーターの俊足で左前脚に喰らい付き、周囲を疾走しながら装甲の隙間を確実に狙撃する。
『ダッシュ!』
点を狙う銃撃は布石に過ぎない。ショットライザーをベルトに固定しつつ、右腕を大きく広げた構えを取った。
『ラッシングブラスト! フィーバー!』
極限まで引き出された四肢の力が、バルキリーの速度を猛烈な勢いで上げていく。虚空すら足場として宙を駆け、右腕・右脚から発振した光の爪で装甲の隙間を斬り抜ける。一斬ごとに達磨落としめいてマンモスの脚が分断され、その度にバルキリーが加速した。
バルキリーが光の爪を三つの光線として放つ。大きく腕を振るって放たれた光爪の向かい側へと回り込み、爪先から伸びる橙の光をマンモスの左前脚の付け根へと突き刺した。接合部を失い無残に崩れゆく左前脚を、落下しながらも音速を超える足捌きにて微塵に斬り刻む。光が斬撃の軌跡を描く中で着地したバルキリーが、斬り損ねた破片をショットライザーにて撃ち抜いていく。
「わぁ……良いね、僕もやってみようかな!」
『フライングディストピア!』
崩壊と修復を繰り返すギガマンモスマギアの胴体を、無数の閃光が斬りつける。バルキリーに追従するように、迅が自らの翼を巨大な刃としてすれ違い様に斬撃を浴びせたのだ。マゼンタに光る大翼が分厚い装甲を左後脚を一閃すると、焼き付いた痕を残して半ばから断ち切られた。
三本もの脚を失ったギガマンモスマギアは立つことすらままならない。バルカンが破砕し続ける右前脚も胴体を支えるに足らず、前方へ投げ出され巨体が地面に倒れる。かつての威容は既になく、ただ死を待つ鋼鉄の獣が破壊をもたらしながら地に伏せっていた。
決着をつけるならば今しかない。巨体に見合わぬ脚力で上空へと跳躍すると、コックピット内のゼロワンがベルトを操作する。
『ブレイキングインパクト!』
成層圏に至る直前で静止しつつ左腕の盾を地上に向けて投げつける。高速で落下する盾が巨大化する。対象の巨躯に合わせた、80メートルを超えるシールドへの質量変化。確実にこの一手で決めるための特別仕様であった。
それを灰色の光に包まれたゼロワンの左脚が蹴る。重圧を増した盾と一体になったブレイキングマンモスが、銀灰の流星となって一直線に突き進む。
この高さまで跳んだのはドライバーを通じてのゼアからの提案ゆえである。高速で落下しながら、ゼロワンの視覚は確実にギガマンモスマギアの頭部を捉えていた。
首が僅かに持ち上げられ、鼻が蠢く。真っ暗な通気孔に、破壊を齎す黒い光が渦巻いていた。
市街地上空700メートルにて、ゼロワンの全身を凄まじい衝撃が襲う。マンモスの鼻から黒い竜巻が放たれたのだ。
「やっぱり来たか……けどなァッ!」
本来なら市街地にて解放されるはずだった、吸引した物質を膨大な破壊エネルギーと共に発射する広域殲滅兵装。想定されていた威力に届かない全霊の一撃が、高空より落下してきたゼロワンの重圧すら押し留める。漆黒の風が、銀の流星と拮抗していた。
その様を誰もが遠巻きに眺めている。バルカンが、バルキリーが、迅が、滅が、そしてZOとドラスが。天より落ちる巨大なゼロワンと、ギガマンモスマギアの最後の拮抗を離れた場所から見据えていた。
「
破滅の風を吹き消して、巨大質量が押し通る。地に伏せるギガマンモスマギアにゼロワンの飛び蹴りが直撃し、巨体をシールドが押し潰す。
一瞬の静寂が訪れ、次の瞬間には灰色の鋼板が大爆発に跳ね上げられる。元の大きさに戻った盾がゼロワンの左腕に収まると同時に、爆風を背にしてゼロワンは着地した。
ギガマンモスマギアを構成していたパーツ、そして市街地にて吸引したマギア達の破片が、爆風と共に周囲に散らばる。動力炉となっていたマンモスマギアの上半身が転がる。両腕も下半身も失った小さなマギアの前に、一つの影が現れた。
「これで終わりだ……じゃあな」
鉄の巨人から降りた影が、優しげな声と共に剣を向ける。地より天を仰ぐマンモスマギアは、その姿を知っているような気がした。
抵抗する素振りも見せず、マンモスマギアは静かに眠る。一瞬の後、その身体に剣が突き立てられると、マギアの駆体が力尽きるようにして崩れ落ちた。
C Partにつづく。