IF:ZERO-ONE VS ZO   作:TAC/108

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C Part-3

市街地での戦いは、概ねA.I.M.S.および滅亡迅雷.netの優勢にて進められていた。A.I.M.S.のライダー達はマギアとの戦闘には慣れており、滅亡迅雷.netはマギアの特性を熟知している。量産型のトリロバイトマギアが多少強化された程度では、彼らに及ぶべくもなかったのである。

それを察知してか、マギアの一団の動きが変わった。内側から膨れ上がるようにして、黒々とした強化装甲を次々に纏い始める。バイザー付きのヘルメットを装着し、右肘から先が武骨な短機関銃へと変形させる。

より戦闘に特化した形態への変身は、彼らを生み出したドラスが埋め込んだプログラムによるものであった。

黒い戦闘兵が群れを成し、一塊になって巨大な人型を形成する。右半身に火器を、左半身に無数の刃を備えた頭部の無い巨人が現れ、結合部の隙間から赤い光が漏れ出ていた。

 

「チィ……数を減らしたと思ったらコレか!」

バルカンが毒づき、巨人の左腕が振るわれる。バルカンは後ろに跳ぶが、薙ぎ払う腕の勢いにより、ナイフを前面に突き出したマギアの躯体が質量弾となって猛烈な勢いで飛来し、直撃を受ける。着弾したマギアは大急ぎで撤退し、再び巨人の一部となった。

合体と分離を繰り返しながら暴れる異形の鉄巨人。巨大マギアほどの脅威ではないにせよ、生半な用意で倒せる敵ではない。

巨人の右腕から機関銃が豪雨の如く連射され、バルキリーと迅を狙う。回避にこそ成功したものの、銃弾が路面を微塵に砕く。

短期決戦を期するため、作戦を提示したのは滅とバルキリーだった。

「迅、時間を稼げ。俺と……バルカンがトドメを刺す」

「オッケー! 先行ってるねー!」

「勝手に巻き込んでんじゃねえ!」

「不破! 私も援護に回る。この際だ、滅との同時攻撃で仕留めろ!」

先行した迅が鉄巨人の背中をアタッシュショットガンで撃った。両腕を振り回して反撃するが、迅は踊るように巨人の周囲を飛び回り、回避と攻撃を繰り返す。

巨人が迅の相手にかかりきりとなった隙を見て、バルキリーが仕掛ける。地上を走りながらショットライザーを連射し、機関銃の掃射を避けながら形態を変えた。

『ショットライズ! ライトニングホーネット!』

帯電するミサイルを放って掃射攻撃を相殺し、巨人の注目を自らに向けさせる。

「行くぞ!」

バルカンが巨人に向かって駆け出すと、巨人の胸から腕が伸びる。掴みかかるに強烈なショルダータックルを喰らわせると、腕を構成していたマギア達が引き戻され、全身が石を投じられた水面の如く波打った。

衝撃で仰向けに倒れ、迅とバルキリーによる一斉攻撃を受ける巨人。自らのカタチを成すマギアを至る所で爆散させ、全身から爆煙や火花を噴きながらも最後の力を振り絞って立ち上がる。

巨人の胸から黒焦げのマギア躯体が飛んだ。一直線に突撃するソレをバルカンが剛腕で打ち返す。跳ね返ったマギアが巨人の一部となり、再び別のマギアが飛ぶ。更にバルカンがパンチで打ち返すと、新たなマギアが放たれる。

「何本でも来やがれ、全部打ち返してやる!」

マギアが飛び、バルカンが殴り返す。巨人と超人のラリーが始まった。

巨人がマギアを放つ速度と、バルカンが打ち返す速度は、ラリーが続くにつれて徐々に上がっていく。マギアの全身を受け止め、倍以上の力で送り返すのは、バルカンの全体重を乗せた両腕である。上がり続ける出力に黒い両腕が赤熱し、爆発寸前までエネルギーが蓄積されていく。

巨人も全くの無傷ではない。打ち返されるごとに細く小さくなっていくその姿は、バルカンの拳が巨体を構成するマギア達を砕いている証だった。互いに限界は近づいている。

 

投ぜられたマギアの数が百を超えた頃であった。バルカンが殴り返すと、飛来したマギアが爆散した。

一瞬の静寂。直立不動を保つ鉄巨人は、既に限界を迎えていた。鉄柱めいて太かった四肢は、強かに打ち据えられて細く変形している。動体から煙を噴いたまま、再び動くことはないかに思われた。

「どうだ……!」

「まだだ。ケリをつけるぞ」

後方から歩いてきた滅が、ベルト基部のレバーを操作する。ジャッキが押し戻され、装填されたプログライズキーが再び展開された。

『スティングディストピア!』

滅の左腕に装着された、サソリの尾を思わせる刺突兵装が、紫電を帯びて伸ばされる。滅の全長を遥かに超える長さまで伸長した毒針が、鎖のように巨人の全身に絡みついた。

滅の拘束が刺激となったか、巨人が最後の力を振り絞って必死に足掻く。しかし、巨人を拘束するサソリの尾が猛毒の如き破壊エネルギーを全身に浴びせ、磔刑めいた体勢に動きを封じた。

『パワー!』

バルカンはショットライザーを両手で構え、縛り上げられた巨人を狙い定める。赤熱した両腕から蓄積した力が炎として噴き出し、爆発的な推進力を生み出した。

「ハァァァーーーッ!」

『パンチングブラスト!』

咆哮と共に轟音が響き、バルカンの前腕を覆っていた装甲が弾丸となって飛翔する。一直線に目標へ向かって飛んだ剛腕が鉄巨人に激突し、滅による拘束をも突き破って空中へと吹き飛んでいく。

 

パワー

ブラスト

 

巨人の形を成していたマギア達が分離し、花火めいて断続的な爆発を起こした。ショットライザーをベルトに固定したのと同時に、バルカンの両腕に黒い装甲が収まった。マギアを縛っていた滅の毒針も、長大な支管を縮めて左腕に収納される。

夜を徹して続いたマギアとの戦いが、決着を迎えたのである。

 

「帰るぞ、迅」

「そうだね。またね、エイムズ! 次は僕達が相手だよ」

滅が左腕を振るうと、紫色の霧が全身を覆い隠す。迅がアタッシュショットガンを放り捨て、霧の中に入っていった。

「待て!」

「よせ。ヤツらとの戦いは次の機会だ」

ショットライザーを抜き放ったバルカンをバルキリーが制止する。あからさまに舌打ちしつつ、二人がショットライザーからキーを引き抜いて変身を解除した。

霧の中で、滅と迅の眼が妖しく輝いていた。

「何故手を引く。俺達を背後から撃って、漁夫の利を掻っ攫うこともできただろ」

霧に向かって不破が問いかける。問いは剣呑そのものであったが、滅は平然と返した。

「ゼロワンとの約定は未だ終わっていない。ドラス02が斃れた時こそ、我らは真に敵同士に戻るのだ」

「そうかよ……次は容赦しねえ」

滅の笑い声が不気味に響き渡る。不破は強い怒りを込めて、霧の中に光る二つの影を睨みつけていた。

 

「では、さらばだ——アークの意志のままに」

 

一陣の風が吹き、紫の霧が晴れる。未だ謎多き人類の敵手、滅亡迅雷.netの姿はそこにはなかった。

A.I.M.S.の隊員達が、徐々に集まってきている。不破は隊員達の下に向かい、作戦の終了を伝える。

唯阿は携帯端末でA.I.M.S.本部に連絡を入れていた。負傷者の救護や破壊された街の修復など、戦闘で発生した被害の補填作業を手配させるためであった。

「どうにかコッチは片付いたが……飛電の社長、アンタはどうだ」

不破が密かに呟いたのは、自らが強く憎むヒューマギアを世に送り出し続ける、飛電インテリジェンスの社長のことだった。

 

◆◆◆◆◆◆

 

暗闇の中で、飛電或人が目を覚ます。

自らの立つ地面さえ深い暗黒に染まった世界に、或人は立っていた。

光源も無いのに、自分の身体だけは見えていた。仮面ライダーゼロワンとしてではなく、生身の飛電或人の姿である。

真っ暗闇に放り出され、或人は困惑していた。進むべき道がわからず、戻るべき場所へと戻れないからだ。

「そうだ、勝さんのところに……ドラスを倒すために、戻らないと」

かつて敗北を喫し、再び仮面ライダーとして挑んだ強敵・ドラス02。今度こそ彼を倒すため、或人は戦場へと戻ろうとしていた。

しかし、見渡す限り全てが暗闇である。道標どころか道が無い。一寸先は果てなき闇に繋がっており、自分がどこに立っているのかすら曖昧だった。

 

突然、彼の前に白い影が現れた。白衣を着た壮年の男が、或人の傍を通り過ぎてから振り返る。或人と男の視線が合った。

「あなたは……?」

知らない男だった。しかし、どことなく秋月(あきづき)博士を思わせる雰囲気がある。ヒューマギア・白辺テルゾーと共に、植物の研究をしていた植物学者、秋月孝三(こうぞう)。顔立ちも体格も異なるが、目の前の男には不思議と秋月博士に近い、優しい面影があった。

白衣の男は口を動かして何事か話していたが、或人には聞こえなかった。男の背後は、いつの間にか炎が広がっていた。

「誰なんだ、あなたは」

或人が問う。男は微笑みながら、或人の背後を指差した。彼の背後から炎の枝が伸び、或人を避けて暗闇の果てへと進んでいく。遠くで十字の火柱が上がり、暗闇の一部が砕け散った。道の先にある光明が、或人を照らす。

「俺に……道を教えてくれてたのか」

男は或人に歩み寄ると、金色の懐中時計を手渡した。古めかしいそれに備えられた機構が、独りでに動き出す。

 

オルゴールの音色が優しく響いた。

「この曲は……」

或人にとっては、初めて聴くメロディだった。しかし、オルゴールの奏でる穏やかな音は或人に一時の安らぎを与えていた。

戦いに追われ、忘れかけていた感情が蘇るような心地だった。雪の日にショーウィンドウを覗く父子の姿が脳裏を過り、或人の記憶と重なる。父の顔は、目の前の男と瓜二つだった。

幼い自分の背中を押してくれた、()()()()()()()()

ヒューマギアと人間が、共に笑い合える世界という夢。大人になった今もなお或人の原動力となっていたのは、自らを育ててくれた父親を心から笑わせたいという幼い頃の夢であった。

「そうだ……俺は、俺の夢に向かって飛ぶ。そのために……誰が相手でも向き合ってみせる。ヒューマギアと人間が()()()()()()世の中を、飛電の社長として……仮面ライダーゼロワンとして作るために!」

或人は白衣の男に礼を言った。自分が何をすべきかを示してくれた、名も知らぬ男に。

白衣の男は笑顔のみを返し、炎の中へと去った。

 

オルゴールの音色は、或人の手の中で鳴り続けている。

音楽が遠のき、炎が男を包んでいく。

間違え続けた人生だった。後悔もある。

それでも……誰かの助けになれたことを、少しだけ誇りながら。

かつての罪人は、炎の十字架へと消えていった。

 

◆◆◆◆◆◆

 

白い光の中で、或人は再び目を覚ました。

「……えっ、俺二度寝したの?」

「おはようございます、或人様」

0と1の電光が柱のように立ち昇る空間に、或人は立っている。彼の背後から、イズが起床の挨拶をした。

この場所を或人は知っている。ゼロワンドライバーを初めて使用した際に入り込んだ、衛星ゼアの電脳空間である。

……イズが、いる。何故?

「イズ!? どうしてここに……?」

「状況に基づいた判断です。衛星ゼアへの提案でゼロワンドライバーに仕込んだ()()()()()()()()()()()は、私と衛星ゼアを通した二段階の承認によって初めて起動します」

イズが衛星ゼアより送信される中継映像を或人に見せる。映像にはドラス02と格闘戦を繰り広げるZOが映っていた。ドラスは背中から広げた翼で空中に飛び、空を飛べないZOに対して優位に立ちつつあった。

ゼロワンが叩きつけられた岩壁の近くに、イズが立っているのを或人は確認する。形態はフリージングベアーのまま、ゼロワンの全身は氷の壁で覆われていた。物体を凍結させる機構の応用で、自らの身を守る自動防衛機能が働いているらしい。

「いや、秘匿システムとか全ッ然知らなかったんだけど……もしかして、ドライバーをアップデートした時に仕込んだ?」

「はい。『秘匿』システムですので、A.I.M.S.にも滅亡迅雷.netにも知られるわけにはいきませんでした。こちらを」

イズがプログライズキーを或人に手渡す。形状はごく普通のキーだが、秘める能力やモデルとなる動物が一切描かれていない。

色は真っ黒だが、白紙の(ブランク)キーとでも言えそうな見た目をしている。或人が起動スイッチを押しても、一切反応しない。

「現時点を以てシステムを解禁いたします」

『衛星ゼアによる承認。秘匿システム『MODEL(モデル)-01(ゼロワン)』の起動が可能となりました』

イズと衛星ゼアの承認により、ブランクキーが独りでに、或人の装着するゼロワンドライバーへと装填される。

その瞬間、或人の脳内に膨大な情報が流れ込んだ。秘匿システムの使用法が、ゼロワンドライバーを通して叩き込まれる。

「そういうことだったのか……! ありがとな、イズ!」

「お褒めにあずかり光栄です。それでは……行ってらっしゃいませ、或人社長」

或人の視界が明転し、白い世界が塗り替えられる。

 

◆◆◆◆◆◆

 

ドラス02にはZOに存在しない決定的なアドバンテージがある。

確かにZOは、数値上に現れない『火事場の馬鹿力』ともいうべき力を発揮することがある。しかし、それが為されるのは、あくまで人型の超人という括りの中である。

つまり、ドラス02……更にはその原型たるネオ生命体の端末・ドラスが持っていた、怪物的な変身・変態や分身・分裂の手段を持たない。ドラス02が広げるコウモリの翼やクモの脚は、元々は原型たるドラスが自らの身体から生み出した怪人をルーツとしているが、同様の機能をZOは持っていないのだ。

ZOの原型が、完全生命を生み出す過程で生まれたある種のプロトタイプであり、『バッタの力を持つ超人』()()()()()という点から、ドラス02に空中へと逃げられたZOは、有効打を与えられずにいた。クモの糸による拘束を引き剥がし、自由の身となってなお、苦戦を強いられる強敵であることに違いはなかった。ドラスが本気を出し始めたことで、ゼロワンと引き離されたのも痛い。

戦況が徐々に、ドラスの優位に傾きつつある。

巨大マギアとの戦いに相当な力を投じた。長時間の戦闘によって体力は削られ、万全とは言い難い。ZOとて無敵ではないのだ。

それでも、麻生勝は耐え続ける。言葉を交わし、信念を認めた若き戦士が、再び戦場に舞い戻ることを信じている。

 

そして。

その時はやってきた。

 

「行、ッ、くぜエエェェーーッ!!!」

 

叫び声と空を裂くような打撃音が響き渡り、空中にいたはずのドラス02が一瞬にして地面に叩きつけられた。

「バカな……何が起こった!?」

声を上げたのはドラスだった。土と砂の大地から身を起こしながら、衝撃の発生源を……土煙を巻き上げて着地した黄色の光を確認する。

『飛び上がライズ! ライジングホッパー!』

戦士の到来を告げるコールがその場にいた全員の耳に入った。ZO、ドラス02、そして……イズと、仮面ライダーゼロワン/飛電或人。

ゼロワン・ライジングホッパーが、再び帰ってきたのだ。

想定を超えた事象に、ドラスの電脳が激しく困惑する。明らかに今の一撃は、ゼロワンが発揮しうる想定上の最大威力を遥かに超えている。

何より異様だったのは、ゼロワンの全身が、黄色の光を発していた点である。装甲が自ら光を発し、ゼロワンの周囲から電光が迸る。

 

想定外。その言葉が、ドラスの自我を埋め尽くしていた。

 

装甲から光が発散され、輝きを振り払ったゼロワンがZOの手を取る。

「或人君……よく、戻ってきてくれた」

「当然ですよ。ヒューマギアと人間が一緒に笑える夢……そのために、ドラスをここで止めてみせる! 俺の夢に向かって飛ぶために!」

新時代の若き戦士が、確固たる決意を語る。歴戦の男は、この若者に応えるために、立ち上がって拳を握った。

「ああ……一緒に飛ぼう、『ライダー』。それがきっと、僕にできる最大の助けだ!」

かつて自分が守った少年が、自らを称えた名前。『ライダー』の名を贈るその言葉こそ、ZOからゼロワンへの最大の賞賛であった。

 

「お前は……お前達は、何だ?」

立ち上がったドラスが、ゼロワンに尋ねた。その後方にはイズが立っている。マギアとして逸脱し、ネオ生命体の後継を名乗る在り方故に、彼は目の前の仮面ライダーを『異物』とみなしていた。もはや彼にとって宿敵とはZOであり、自分はそれを打ち倒すドラスの後継者であった。

それでも、ゼロワンは決して忘れない。ドラス02がかつて、ヒューマギアであったことを。

だからこそ、彼は名乗り上げる。

 

「俺の名はゼロワン! 飛電インテリジェンスの社長で……令和01(イチ)番目の、仮面ライダーだ!」

 

——オレが社長で仮面ライダー、であると。

 

つづく。

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