IF:ZERO-ONE VS ZO   作:TAC/108

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C Part-4

「俺の名はゼロワン! 飛電インテリジェンスの社長で……令和01(イチ)番目の、仮面ライダーだ!」

 

青天の下、再び仮面ライダーと怪人の戦いが始まった。

両脚に光が灯り、ゼロワンが跳んだ。弾け飛ぶような勢いの突撃でドラス02に体当たりを喰らわせ、衝撃に仰け反ったところへ追撃の拳を放つ。

原理不明のパワーアップに、ドラスの反応が遅れる。閃光めいた速さの連続攻撃を防ぎつつ、ドラスは背中から翼を生やして空中に逃れた。胸に形成したクモの頭部から拡散レーザーを撃ちながら、敵の強さを測る。

「飛んだな? だったら——()()()で勝負だ!」

ゼロワンの言葉を遠方から聞いたイズが、黒いプログライズキーを投げ渡す。ゼアの電脳空間で或人が受け取った白紙の(ブランク)キーと瓜二つのそれを、起動も認証もなしに展開し、天へと掲げた。

次の瞬間、衛星ゼアから放たれた()()()()の光がブランクキーへと注ぎ込まれると、ゼロワンがドライバーのキーを差し替えた。

 

『プログライズ! Fly to the sky! フライングファルコン!』

 

ゼロワンが高く跳躍すると、上空から舞い降りる機械の鳥と融合し、光の羽根を散らしながら……ドラスにとって全く未知の形態へと変身を遂げた。

マゼンタの仮面に、翠玉(エメラルド)めいて煌めく眼。上半身から太腿の辺りまでを満遍なく包み込む追加装甲も、仮面と同じマゼンタカラーであった。

鋭角的かつ流線型のフォルム、翼のような肩部装甲、そして猛禽類の顔を思わせる顔面。あらゆる外見上の要素が、この形態こそがゼロワンの()()()()であることを示している。

 

『Spread your wings and prepare for a force.』

——翼を広げ、力に備えろ。

仮面ライダーゼロワン・フライングファルコン。

 

空中にいたドラスが、ゼロワンの新形態に瞠目した。その形態を、ゼロワンが使えるはずがないからだ。

フライングファルコン。ハヤブサの力を宿し、飛行能力を与えるプログライズキー。このキーは現在滅亡迅雷.netの手中にあるため、ゼロワンが同じものを持っているというのはありえない。

ならば、目の前にいるゼロワンは一体——?

 

「驚いただろ、そこだァーッ!」

風を纏った飛び蹴りがドラスの胸部に突き刺さる。ゼロワンの脚部が備える鋭い爪が、胸の可変機構を破壊していく。

ドラスを脚部の爪で捕らえたまま、ゼロワンが空中で回転し始めた。マゼンタの旋風となって空中を飛び回り、急加速と急旋回を繰り返しながら上空へと突き進む。

地上より遥か彼方、ゼロワンの蹴り下ろす一撃でドラスが地面へと叩きつけられる。飛翔と墜落は一瞬であり、土煙を上げてドラスが地面に激突した。

 

ドラスの疑問は正しい。ゼロワンはフライングファルコンキーを所持していない。滅亡迅雷.netのメンバーである迅に()()()()からだ。

それでもこの形態に変身できたのは、衛星ゼアの仕込んだ秘匿システムによるものだった。

その機能の一つが『衛星ゼアに登録されているゼロワン用形態のデータを、ゼアから直接引き出す限定的な権限』である。

要は()()()()()()()()()()()()()()衛星ゼアの承認で直接変身できるのだ。禁じ手であると同時に、今回の戦いにおいては正真正銘奥の手であった。

飛行能力があると言ってもフライングファルコンが特に強力な形態というわけではない。しかし、熟練の兵士でも初見の兵器には戸惑うように、かつてドラスに敗北を喫したゼロワンがドラスにとって未知の形態を引き出せば、一瞬程度であろうと反応は遅れる。

その一瞬を突くための、いわば或人なりの()()()()なのだ。

かくしてドラスの意表を突くための策は、見事成功を収めた。着陸すると同時にゼロワンの装甲が脱落し、ライジングホッパーへと姿が戻る。

 

「お前の目的は何なんだ、ドラス!」

ゼロワンが問う。相容れないと知りながらも、かつてヒューマギアであったドラスに、或人は問わずにはいられなかった。

「人類の支配こそが僕の使命……完全な存在として生まれたんだ、ならば生態系(せかい)の頂点に立つのはこの僕……ネオ生命体の後を継ぐ、ドラス02が相応しい!」

立ち上がり、ドラスがゼロワンに殴りかかった。拳を受け止めつつ、ゼロワンが殴り返す。

「それじゃ結局、()()()()()()()()()()! たった一人でテッペンに立ったって、お前が独りぼっちになるだけじゃないか! お前はそれでいいのかよ……!?」

「頂点は一人だけだ。人類の、ヒューマギアの……いや、僕はこの地球そのものの支配者となる。その邪魔は……させない!」

反撃を受け止めたドラスが力任せにゼロワンを投げ飛ばした。大きく距離を離したゼロワンに代わって、後方に控えていたZOが仕掛ける。

「自らの意志で選んだ答えが、それか!」

ドラスに組み付き、至近距離で膝蹴りを入れるZO。しかし、返す頭突きで体勢を崩され、胸部からのレーザーを喰らう。

「そうだよ。共存も、滅亡も、全て僕が管理する。阻むことは許さないよ、『お兄ちゃん』?」

「貴様!」

仰向けに倒れたZOへと、ドラスが指を揃えての手刀を突き出す。ZOは首を動かして避けたが、顔面を掴まれ起き上がれなくなった。

一瞬の動揺がZOに隙を与えたのだ。目の前の存在は確実に、かつて戦ったネオ生命体に近づいている。もはやその残虐性と冷徹さは、ヒューマギアのラーニング能力と新たに芽生えたドラスとしての自我が渾然一体となった、新世代のネオ生命体と言っても良い。

ただのマギアに非ず。ただのネオ生命体の生き写しに非ず。彼こそが新たなドラスであり、新たなネオ生命体であった。

ZOの顔面を地面に押しつけ、引きずりながらドラスが走る。空いた片手でゼツメライザーのスイッチを押し込むと、ZOの顔面を掴んだ腕が赤い稲妻を放ち、掴まれたZOを焼き焦がす。

『ゼツメツ・ノヴァ!』

ゼロワンがいる方へとZOを投げ上げると、ドラスの胸から無数の光条が一斉に発射され、倒れ伏すゼロワンと放り投げられたZOを巻き込み大爆発を起こした。

「消し飛べ……」

吐き棄てた言葉は、しかしながら次の瞬間に否定されることとなる。

「まだ、倒れられないな……」

「お前は絶対に、俺達が止める!」

爆炎の中で、二人のライダーが立ち上がる。

まだ戦える。いや、戦わねばならない。『仮面ライダー』になった意味を……平和な世界から、痛苦に満ちた戦場へと身を投じた意味を、まだ果たせていないのだから。

「なぜ立ち上がる? 勝てるつもりでいるのか?」

「当然だろ!」

「それが僕達、仮面ライダーだからな……!」

全身を炎上させながら、ZOが殴りかかる。炎が徐々に緑色に変じていき、ZOの力へと変換されていった。大振りの拳をドラスが両腕を交差させて受け止めるも、予想外の威力に後退る。

ゼロワンはブランクキーを手に取り、何度もゼロワンドライバーの認証機構にかざす。内部システムの多重プロテクトが一つずつ外され、その度に全身に力が漲っていく感覚が或人を満たす。

『ビットライズ! バイトライズ! キロライズ! メガライズ! ギガライズ! テラライズ!』

全てのリミッターが解除され、ゼロワンの全身が輝きを放つ。更に衛星ゼアから照射される光線を受け、全身に満ちたエネルギーが黄色の稲妻となって溢れ出している。

ゼロワンがベルトに装填されたライジングホッパーキーを押し込み、次の瞬間に備えた。

 

『ライジングテラインパクト!』

 

ZOと殴り合うドラスの顔面を、突如猛烈な衝撃が襲った。電光の如き速さで、雷鳴じみた轟音を伴って飛来した一撃は、ゼロワンの飛び蹴りに他ならない。糸に引っ張られたように吹き飛んだドラスが、地面を勢いよく転がる。その一撃は、ゼロワンが再び戦場に現れた際のそれとよく似ていた。

ゼロワンが着地し、ドラスを指差した。

「ここからが俺達の本気だ! 見せてやるぜ、ドラス!」

全身を光らせるゼロワンが駆け出す体勢から一瞬でドラスの前に現れると、ZOのいる方へドラスを蹴飛ばす。

吹き飛んできたドラスの腕をZOが掴み、回転の勢いを乗せたスイングでドラスを空中へと投げ上げる。ドラスが空中で翼を広げ、体勢を整えるも、そこに再び高速機動でゼロワンが迫る。光の尾を引きながら飛ぶゼロワンの拳が、ドラスの胸に突き刺さった。

ゼロワンの急激な攻撃力の上昇に戸惑いながらも、ドラスは自らの全力を引き出し始めた。ゼロワンに匹敵する速度で飛行し、空中で何度も互いに激突する。

 

ゼロワンがドラスとぶつかり合う度、或人の全身に微かな痛みが走る。

ドラスの反撃によるものではない。変身者の身を保護するドライバーの力でも、限界以上の稼働による負担が軽減しきれていないのだ。

秘匿システムの効果はもう一つ存在する。それは衛星ゼアによるリアルタイムでの出力サポートであり、通常時では発揮できないほどの強大な力をゼロワンに与える。これに加えて、イズが遠隔でナビゲートを行うことで或人が常に最適な攻撃方法を選択できるようにする、通信能力の強化も含まれていた。イズが提案する複数の選択肢から一つを採用し、その通りに動き、攻撃を打ち込む。これによって一時的にとはいえ、洗練された戦士と同等の動きを可能としている。

衛星ゼア、イズ、そしてゼロワン。三位一体の連携でドラスを相手に立ち回るが、戦闘機動を実行する或人の身体とゼロワンのシステムが、徐々に悲鳴を上げ始めていた。

ゼアの支援を合わせても、ドラスとパワー勝負で拮抗し始めている。やはり一人では分が悪いが、これはゼロワンにしかできない戦い方であった。振りかぶった腕が火花を散らしても、ゼロワンは止まらない。

或人の狙いは、ここでドラスを仕留めることではない。

——()()()()に繋げることだ。

 

「終わりだ、ゼロワン!」

ドラスの最大出力が発揮される。回転突撃とゼロワンの飛び蹴りが衝突し……ゼロワンが全身から小爆発を起こしながら墜落した。再び立ち上がろうとするも、右膝がスパークして膝立ちの体勢になる。

我慢比べめいた何合もの激突の末に、ドラスはゼロワンに勝利した。ドラスの全力は、ゼロワンの全力を上回ったのだ。

ドラスが地面に降りる。膝立ちのままドラスを見据えるゼロワンに、赤い手刀が振るわれた、次の瞬間。

「ば、馬鹿な……!?」

ドラスの腹から、アタッシュカリバーの刀身が生えていた。ドラスの全身に漲っていたエネルギーが暴走し、背中から生えた翼が砕け散る。

背中に手を回し、カリバーを引き抜くドラス。その背後には、イズの姿があった。

「或人様!」

自らを呼ぶ声を聞き、ゼロワンが全力で拳を突き出した。稼働限界を超えたボディが立ち上がり、ドラスの胸に光り輝く拳が突き刺さる。

衝撃と損傷に、ドラスがアタッシュカリバーを手放す。地面に転がった剣を手に取り、向こう側のイズに親指を立てるサインを送った。

「言ったろ? ()()が止める、ッてな……!」

もがき苦しみながらドラスの駆体が爆発する。隣に立ったZOの手を取り、ゼロワンは震える足を立たせた。衛星ゼアの投射する光が内部システムを修繕し、ゼロワンの身体が本調子を取り戻した。

 

「なぜだ!? お前達、一人一人の強さを……僕は上回ったハズ……! 最強の存在になった僕が、ここまで追い詰められるなど!」

「僕も一人では勝てなかったさ。君の先代……オリジナルのネオ生命体と戦った時だってそうだ。(ひろし)君や望月(もちづき)博士が、僕を助けてくれたから勝てた」

麻生勝が語るのは、かつての激闘の記憶。自らを生み出した科学者、望月博士とその息子、宏。ZOの勝利は仮面ライダーとしての力だけで勝ち取ったものではなく、信じ合える仲間の協力も得た結果である。

「今も同じだ。僕には、信頼できる仲間がいる」

共に立ち、人類の自由を脅かす者と戦う仲間。刻まれし伝説(レジェンド)の一人として、麻生勝は飛電或人と出会った。偶然か必然かは問題ではない。そこに敵が現れたなら、手を取り合って戦う宿命であった。

 

ドラスはそれを理解しえない。頂点とは、『最強』とは孤高であると定義するが故に。

「ふざけるな……他者との協力を糧にするだと? そんな力、紛い物だ! 絶対に認めるものか!」

あるいは、それは古きネオ生命体の記憶だったのかもしれない。生まれてから滅びるまで孤独であった存在の、自らを否定する者への魂の叫びが、赤黒い奔流となって彼を中心に広がっていく。

採石場の土砂を巻き上げ、赤と灰色の竜巻が巻き起こる。跳び離れたゼロワンとZOであったが、すぐに転進して竜巻の中へと飛び込んでいった。

 

中は猛烈な暴風域であり、風に飛ばされて二人が離れ離れになる。自由に動けるのは、竜巻の発生源たるドラスだけだ。

「まだ、これほどの力が残っていたか」

「それでもやれる! 俺達なら!」

巻き上げられた岩石の一つを足場として、ゼロワンが跳躍した。アタッシュカリバーで斬り抜けつつ、竜巻の外から投げ込まれたキーで更なる変身を遂げる。イズの支援だ。

『プログライズ! ブレイキングマンモス!』

鉄巨人再臨。竜巻の中で巨体を回転させ、巻き込まれたドラスを上方へと吹き飛ばす。その後を追うのはZOだった。浮遊する岩石を飛び石にしながらドラスを大跳躍にて追い抜き、拳を叩き込む。

ZOの拳が胸部にめり込み、赤く染まった全身にヒビが入った。屈強さを体現していた追加装甲が砕け散り、赤い四肢と黒い胴体を持つ姿へと変じた。ドラス02と名乗った際の、最初の形態だった。

暴風に流されるようにして空中を回遊しながら、ZOが殴りかかった。拳が空を切り、背後に回ったドラスの剛腕がZOを叩き落とす。

かつてドラスが奪ったプログライズキーの力は、ラーニングによって未だ健在である。地上へと落ちていくZOを受け止めた鉄巨人の中から、ゼロワンが飛び出した。

四肢から炎を噴き出し、ドラスがゼロワンを撃ち落とそうとする。炎はゼロワンに直撃する寸前で凍りつき、長大な氷の柱となった。

『プログライズ! フリージングベアー!』

氷柱を滑りながらゼロワンがドラスの顔面を蹴りつける。右脚は弾かれるも、続く左脚の攻撃が直撃した。突き抜けたゼロワンの姿が、再び変わっていた。

『プログライズ! バイティングシャーク!』

螺旋状に走る光の牙を飛ばしてZOを掬い上げ、前後からの同時攻撃を叩き込む。ZOの手刀とゼロワンの斬撃が、ドラスの全身を斬り刻んだ。ZOと位置を入れ替えたゼロワンが形態を変え、両手から火球を飛ばしながら飛び上がる。

『プログライズ! フレイミングタイガー!』

ドラスは全身から雷電を纏うミサイルを射出し、数十を超える火球を防いだ。視界を塞いだ爆煙を斬り裂くは、黄色の光刃だった。

『ライジングカバンストラッシュ!』

二撃を重ね、十字を刻む斬閃を防いだドラスの腕が砕け散った。変容を経た装甲が溶けるように脱落し、ドラス02の姿が再び変わっていく。

……否、それはドラス02の姿ではない。彼がこの世に生まれ落ちた最初の姿。滅亡迅雷.netの尖兵として現れた、ドラスマギアの姿だった。

ドラスマギアへの変容と共に、採石場にて巻き起こった赤黒い竜巻が消滅した。天変地異めいた現象を起こすほどの力は、既にドラスからは失われていた。

 

採石場に無数の岩石や土砂が降り注ぐ。落ちてくる中でも一際大きい岩に、陽光を背負って立つ影がある。

仮面ライダーゼロワン・ライジングホッパーと、仮面ライダーZOであった。

地上より天を見上げる怪人に、仮面ライダーが宣言する。

「どんなに相手が強くても、僕達は負けはしない!」

「信じ合い、支え合える仲間が俺達にはついている!」

 

「黙れ! そんな理屈に、負けられるか!」

『ゼツメツ・ノヴァ!』

ドラスマギアは全身を光らせながら飛び上がった。光が左脚に収束し、渾身の飛び蹴りが放たれる。

「僕に続け、ライダーッ!」

ZOが飛び降り、ドラスの飛び蹴りに同じく飛び蹴りで応じた。全霊の一撃が激突し、絶大な衝撃が生まれる。

「ハァァァァーーーーッ!」

乾坤一擲。緑の流星となったZOのライダーキックが、ドラスの蹴りを粉砕し、地面に叩き落とした。

「今だ、行けェッ!」

「コイツで……最後だ!」

ゼロワンがプログライズキーを押し込み、急加速で地面に降り立った。

 

『ライジングインパクト!』

 

一瞬で距離を詰めたゼロワンが、ドラスを空中へと蹴り上げる。黄色の光がゼロワンを包み込み、遙か彼方へとその身体を飛ばしていく。

空への跳躍は、やがて騎士の一撃(ライダーキック)へと変わる。

輝ける右脚が天より降る様は、空の彼方から降り注ぐ太陽の光にも似ていた。

 

打ち上げられたドラスは、その刹那に影を見たような気がした。

彼方へと消えてしまったはずの影。人類を滅亡させる怪物ではなく、人と共に生きるヒューマギアであった、自らの影。

眼鏡を掛け、白衣を着た青年の姿をしたヒューマギアが、寂しげな顔で、ドラスに微笑んだように見えた。

 

一瞬の後、ゼロワンの一撃がドラスの胴体を貫く。

地を削りながらゼロワンが着地する。背後で、胸に風穴を開けられたドラスが呻いた。

「そうか……僕は……『一人』を選んだんだ……!」

 

イ ン パ ク ト

呟いた直後、ドラスマギアは空中で爆散した。

古き怪物を模した、新時代の怪人が、滅んだ瞬間であった。

 

◆◆◆◆◆◆

 

「ようやく終わったな……或人君」

変身を解いた勝が言う。その声には、厳しい戦いを終えた後の感慨が含まれていた。

「ハイ。遂に俺達は……ドラスを倒したんですね」

或人の表情は明るいが、その一方で複雑なものを滲ませている。

ドラスを生み出す基となったヒューマギア・白辺テルゾーのことを、或人はよく知っているわけではない。しかし、テルゾーと研究仲間として付き合い続けていた秋月博士のことを思うと、或人は心に僅かばかりの無念を抱かずにはいられなかった。

 

ゼツメライザーの残骸から飛び出た、ドラスゼツメライズキー。あまりの激戦に耐えかねてか、ドラスの記憶を宿したキーは独りでに砕け散った。或人が持っていたブランクキーも役目を終えたかのように発火し、崩壊している。

この戦いを知る者は、記憶の片隅に今回の出来事を置いていくに留めるだろう。そんな結末を示唆しているかのようだった。

それでも、と或人は思う。

俺は忘れずにいよう。この戦いで得たものを、そして目の前に立つ男との出会いを。

 

「お疲れ様です、或人様」

イズが行儀良くお辞儀をした。

彼女の姿を見て、或人は気持ちを切り替える。なにせ今回の戦いで発生した被害は大きい。大変な事後処理が待っているのだ。

「ところで……ここはどこでしょうか?」

「あっ……そう、いえば……」

イズの質問に、或人の表情が固まった。勝も妙に気まずそうな表情をしている。

言われてみるとここが何処なのか、或人には全く見当がつかない。国内の採石場である、というくらいはわかるのだが……事態を察し、或人の顔が青くなった。

 

「そう言えばーーー!! ここ、何処だァーーー!?」

「今のは、『そういえば』と『ここ、何処だ』で韻を踏んだギャグ……ですか?」

「これはジョークじゃないってばァーーーッ!」

 

彼らが自らの日常に帰るまでは、まだ少し時間がかかりそうだった。

 

つづく。

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