IF:ZERO-ONE VS ZO   作:TAC/108

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A Part-2

植物園の外は、美しい花を咲かせる植物が見られる庭となっている。秋月研究所は年に4回、外部に向けて一部エリアの一般公開が行われる。単純に景観に優れるというだけではなく、秋月植物研究所が研究する対象の幅広さを示すオブジェクトでもあるのだ。

白辺テルゾーはパンジーの前に跪き、紫色の花をじっと見つめていた。

 

「やあ。君が新しいお友達だよね?」

 

背後から声をかけられ、テルゾーが振り向いた。そこにいるのが自然であるかのように振る舞う、あまりにも不自然な色彩。黒いパーカーを着た青年が、テルゾーに向かって笑いかけた。

「何の用でしょう? 現在この研究所は一般公開されていないのですが……」

「ああ、そういうのじゃなくて。()()()()()()()()()()()

「な——ぐああーっ!?」

青年がテルゾーに歩み寄り、右掌を彼の腹部に押し付ける。電流と衝撃がテルゾーの全身を迸り、彼の人工知能(AI)が無数に警告音を鳴らし始めた。一秒前まで正常だった視界が、フィルターを差したように赤く染まる。テルゾーの腹部には、機械的なベルトが既に巻かれていた。帯の裏側にある無数の棘で固定され、正常なアルゴリズムを保てない中で外すことはテルゾーには不可能であった。

 

「私の<人類>仕事は<滅亡>……博士の研究を<Annihilation>手伝うこと! 人間を滅ぼすなど<Connecting……40%>できません!」

時間が経つごとにAIが侵食されてゆくが、テルゾーは必死に抵抗する。ヒューマギアの膂力で青年に掴みかかるが、僅かな動きで躱され白衣のポケットに何かを差し込まれた。

「君の仕事は……人・類・滅・亡。わかるよね?」

青年——迅に足を引っ掛けられ、テルゾーが転んだ。人工皮膚の顔面が浮かべる苦悶の表情は、彼が()()()()()()()()()()()()()ヒューマギアであることを意味していた。

 

「嫌<How To Kill>だ……私<Installing>は……僕は……嫌だァーッ! うわぁぁぁーーー!!」

地面に叩きつけられた身体を起こすと、泣き喚くような声を上げてテルゾーは走り出す。どこに辿り着くかなど彼自身にも分からない。テルゾーにとって最重要だったのは、正体不明の何者かから逃げることだった。

 

「えっ、あ、ちょっと! どこ行くの!? あー、逃げられちゃった……」

不意を突かれて逃げ出され、テルゾーは一瞬のうちに迅の視界から消えてしまった。少し不機嫌そうな表情を作った後、迅は恐怖に怯えるような声を上げた。

「マズい! キーは渡したけど、このまま逃がしたら滅に怒られる! 早くお友達見つけないと!」

見失った標的(お友達)を探すため、迅は当てもなく何処かへと走り去っていった。

 

▲▲▲▲▲▲

 

<Fatal Error>

回路が灼けていく。

<Memory is broken>

記録が消えていく。

<Storage 2.15GB 400KB>

かつて白辺テルゾーが保有していたデータが消失する。

 

<Connecting……75%>

嫌だ! どうして! 僕はただ研究したかっただけなのに! 秋月博士と一緒にもっと色々知りたい! もっと褒めてもらいたい! まだ仕事が残ってるのにどうしてこんな!

<No Data available>

秋月はkkあせ? だレだっけ? 調べなきゃ……<Searching 秋月博士>『秋月孝三とは、日本の植物学者。食虫植物の研究を主として行っており——』

<Data transmission>

<Connecting……90% >

秋月博士 ■さなきゃ 博士に ■■しないと 博士 ■■てくれるかな 博士

 

<Connecting……100%>

<transmission complete>

滅亡迅雷.netに接続。

 

<METSUBOU JINRAI.net>

 

▼▼▼▼▼▼

 

研究所全域に、突如として警報が鳴り響く。

修理依頼を受けていた白辺テルゾーを探していた或人達三人が、その音量に足を止めた。

『緊急事態が発生しました。各員は速やかに、各々の判断で避難を行ってください。繰り返します。緊急事態が——』

「或人社長、これは……」

「急に何だ!? いや、ひょっとしたら……」

イズも或人も、その先を口には出さなかった。状況の結論を保留したか、あるいは()()()()()()を口にするのは憚られたか。

「とりあえず、この研究所から出ましょう! 研究所の入口、東門に輸送用のトラックを呼んであるから……イズ、もしもアイツらが出たら、博士を連れて飛電の本社まで逃げて! 俺は最悪一人でも——ってアレは!?」

 

或人は見つけた。いや、見つけてしまった。

頭から血を流して地面に横たわる研究員と、研究員の上体に馬乗りになっているヒューマギア……白辺テルゾーの姿を。

テルゾーの両腕は赤黒く染まっている。それが何の色であるか、或人は瞬時に理解した。テルゾーの両眼が、赤く光った。

「逃げろイズ! 早く! 博士を連れて!」

「承知致しました。或人社長、どうかご無事で」

形式の挨拶を返すと、イズは孝三の身体を右肩に担ぎ走り去っていく。有無を言わせぬ迅速な対応は、ヒューマギアの出力が為せる業であった。

「お前も……滅亡迅雷にやられちまったのかよ!」

或人の叫びは警報の音に掻き消され、テルゾーに届くことはない。テルゾーは白衣のポケットから電子キー型の装置——ゼツメライズキーを取り出し、起動スイッチを押した。

 

『ドラス!』

腰のベルトにキーを装填すると、赤いコードが突き刺さって罅割れた。不気味な音色を響かせながら、テルゾーは赤く染まった手でスイッチを押し込んだ。

 

『ゼツメライズ!』

 

無数の線がベルトから突き出し、折れ曲がりながらテルゾーの全身を包み込む。絶滅種の力を過去から現在に呼び戻す悪夢の兵装、その名をゼツメライザー。かつて在りし者達の力は、今の世界を打ち壊すために振るわれる。ある意味では、死者の蘇生とも言える奇跡の具現だ。

そのようにして生まれる、ヒューマギアが変ずる機械の怪物。ヒューマギアにあってヒューマギアに非ず。人間社会を回す歯車は既に無い。

 

彼らは『マギア』。魔法(マギア)のように新生した、絶滅の魔性にして機械の怪物である。

 

かくして現れし此度のマギアは、人類をも凌駕する新たな生命体のデータから生み出された。一人の男が創り上げた狂気の怪物。その凶悪さ故に枷を嵌められながらも、外界に接触する端子を使い、完全な生命に成ろうとした者の残滓は、人類滅亡という使命を帯びて人間社会に降り立った。

 

冷酷にして残忍。人間が創り出した孤独の絶滅種にして、その端子。

もはや白辺テルゾーというヒューマギアの面影は無い。怒りに満ちた形相と、鈍く光る体躯が彼の全て。

 

爆発の如き衝撃の後、ドラスマギアが姿を現した。

 

B Partにつづく。

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