IF:ZERO-ONE VS ZO   作:TAC/108

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B Part-2

午後4時、飛電インテリジェンス・社長室。

滅亡迅雷.netによる秋月植物研究所襲撃事件は、研究所に多大な被害を齎した。負傷者19人、破損ヒューマギア8体。負傷者のうち重傷者6名に加え、修理中ヒューマギアが2体、破棄及び戦闘で破壊されたものが4体、残り2体に至っては消息不明と、今回の事件で飛電インテリジェンスが被った被害も大きい。

ヒューマギアに関する事件で真っ先に疑われるのは、ヒューマギアの生産を担う飛電インテリジェンスだからだ。そのことに頭を悩ませる男が、社長室に三人いる。一人は飛電或人。残り二人は、この会社の幹部社員であった。

 

「今回こそは言い逃れもできませんよ、社長。我が社が今、どれほどの窮状に立たされているか分かっているのですか!?」

「そうですとも。最悪、今度ばかりは社長辞任どころではなく飛電の会社そのものが……!」

 

中年の男と、初老の男。飛電インテリジェンス副社長・福添准(ふくぞえじゅん)と専務取締役・山下三造(やましたさんぞう)である。長年飛電に尽くしてきた彼らは、先代社長の指名があったとしても、或人が社長の座に就いている現状を快く思ってはいない。社長の座から引き摺り下ろそうと、何かあれば或人に嫌味たらしく絡んでくるのが日常である。

或人の方も徐々に彼らのいなし方を覚えてきている。故に、社長として或人が思案していたのは滅亡迅雷.netへの対応だった。

「聞いてるんですか社長!?」

福添が叫ぶ。半ば涙声である。先代社長・飛電是之助(ひでんこれのすけ)の死後には己が次期社長であろうと踏んでいたのが、諸々あって会社そのものが危地に立たされている。或人とて彼の心情が読めぬ冷血漢ではなく、慰めるように言葉を掛ける。

「分かってますって。飛電が潰されるなんてコトにならないように、俺達はやるべきことをやるんですよ」

社長の椅子に座る或人がイズに目配せをした。イズは社長専用の机から一枚の紙を取り出し、福添に渡す。

 

「私と或人社長で設定した、明日以降のプランとなります。明日の午後に緊急記者会見の場を設けましたので、或人社長はこちらに出席し、後の対応は副社長に任せるとのことです」

福添が担当するのは雑誌関連のインタビューである。普段であれば腹に一物を抱えて受け入れるところだが、ここで下手を打てば飛電が存亡の危機に陥るのは火を見るより明らかだ。社長の責任どうこうの問題ではない。福添は一瞬のうちに目まぐるしく表情を変え、肩を落としながら紙を受け取る。

「ぐぬぅ……! 次こそは、矢面に立ってもらいますからねッ!」

不安と怒りの混ざった呻き声を上げ、懐から取り出したハンカチを噛みながら福添が去っていく。山下もその後を追って、社長室から出て行った。或人はほっと一息吐いて、社長室の白い壁に目を遣った。

 

「これで大丈夫ですよ、秋月博士」

 

白壁が複雑怪奇な変形を見せ、社長室のもう一つの顔を露にした。

未使用状態のヒューマギアが安置される専用の装置や、人工衛星ゼアの命令を受けて新装備の開発を行う機械、プログライズキーを装填し戦闘データの解析を行う機器など様々な研究用設備を持つ『秘密のラボ』。秋月研究所の所長である秋月孝三は、そのラボで或人達を待っていた。

「社長さん、話は終わりましたかな?」

「ハイ、今後の対応はバッチリって感じ……ですかね?」

後方に控えていたイズが無言で親指を立てた。何だかんだと言って、或人は決して福添のことは嫌いではない。経済のイロハも政治力学も知らぬ或人にとって、たとえ会うたび睨まれたり嫌味を言われるような間柄であったとしても、福添をはじめとする飛電の重役達は立派な先達である。一定の敬意を払えばこそ、彼はゴシップ誌への対応を福添に一任(丸投げ)できるというわけである。

 

「にしても……暇になっちゃったなァ〜」

或人が伸びをしながら言った。事件の元凶たる白辺テルゾーは研究所で見たきり行方をくらましている。他の場所で暴れたならばA.I.M.S.か飛電の社員か、誰かしらから情報が入るが、そういった報告は無い。

この一時だけは、静かで平和な時間だった。帰宅するにも、終業にはまだ早い。或人は思いついたように手を叩き、孝三の方を向いた。

「そうだ、せっかくですし博士から聞きたいんですけど」

そこまで言って或人は気づいた。テルゾーのことを今の博士から聞くのは傷心の女性に元カレのことを聞くのと同じことだ。固い意志を持って他人の心に踏み入ることはあっても、或人は失言が分からぬ人間ではなかった。

「……テルゾーのことですかな?」

或人は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。察しの良さからではない。彼が全く嫌な顔をしなかったからだった。

「い、良いんですか……? いや、暇つぶしに聞こうとしたのはちょっとマズかったかなって……」

「ハハハ、貴方はヒューマギアを作る会社の社長さんでしょう。私から聞きたいとすれば、やはり彼の話ではないかと思っておりましたよ」

或人は少しだけ気恥ずかしくなった。ラボに置かれた椅子に座り、二人が向かい合う。計器の駆動音と、イズが二人分のコーヒーを淹れる様子を背景に、孝三は己の思い出を語り始めた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

同じ頃。

一台のバイクが高速道路を駆ける様を、空から見ていた者がいる。マゼンタと銀の装甲を纏う彼こそ、滅亡迅雷.netの凶悪なるヒューマギア・迅……またの名を、仮面ライダー(ジン)。本来ならば彼の両脚からぶら下がっているべきドラスマギアは、既にいなくなっている。

理由は単純であった。いかなる理由によってか、稼働限界を超えるダメージを負っていた筈のドラスマギアは再び動き出し、彼の制御下を離れてしまったのだ。

迅としては『親』にあたる滅に怒られるのは避けたい。そういうわけで、現在彼はドラスマギアを追っている最中であった。ドラスマギアは高速道路を走行していた一台のバイクを強奪し、我が物として法定速度を超えて走行している。ゆうに時速150kmは出ているだろう。マシンの限界を無視した走り方である。

バイクの速度は徐々に上昇していく。高速道路を逆走しながら、走ってくる車に向けてケーブルを伸ばし、エネルギーを吸収しているのだ。構造を別のものに置き換えて、ドラスマギアはバイクと一体化していく。

もはや迅が追える速度ではなくなっていた。遥か彼方……街の方角へと走り去る姿を、空中に浮遊しながら呆然として見つめる。

「えー、どうしよう……滅に何て言えばいいかな……」

迅は肩を落とし、彼らの棲み家であるデイブレイクタウンの方へと飛び去っていった。

 

数分後。雨の降る高速道路を、順逆に走る影があった。

黒いレザージャケットと青いジーンズを着用した、壮年のライダー。動かない車を避けながら、黒いバイクが雨天の下を駆け抜ける。

男の表情はヘルメットに隠されて伺い知ることはできない。僅かに覗く双眸だけが、彼の心情を湛えている。

それは決意か、あるいは使命感。虎穴に入らんと覚悟を決めた、勇壮たる男の姿であった。

 

C Partにつづく。

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