IF:ZERO-ONE VS ZO   作:TAC/108

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C Part-3

「お前を止められるのはただ一人、俺だ!」

燃え上がる右腕が、ドラスマギアの鉄拳を押し返す。次いで放たれた左腕が、怪物の腹部に深く食い込んだ。

機械の身体が重苦しく軋む。炎を帯びた拳が、抉り込むような回転と共に胴を滑り、鋭い爪の斬撃と顎に向けての鉄槌めいたアッパーを同時に叩き込んだ。身に纏った火炎が渦を巻き轟々と響く音に、ドラスマギアは虎の咆哮を想起した。着地したゼロワンが腰を落として構え、両腕から噴き出す炎を球状に集束させると、黒煙を噴きながらよろめくドラスマギアに向けて撃ち放った。

ドラスマギアは火球を両腕で振り払い、炎の塊が霧散する。視界を埋め尽くした炎が消えると、別の姿へと変じたゼロワンが胸に飛び蹴りを叩き込んだ。青い仮面と追加装甲の鋭利な形状を認識したドラスマギアの頭脳が、ゼロワンがサメの力を宿す形態に変化したと結論づける。

 

『キリキリバイ! キリキリバイ! バイティングシャーク! Fangs that can chomp through concrete.』

 

激流を進むに相応しき脚力が、ドラスマギアの防御を押し退ける。仄かに赤く光ったゼロワンの双眸は、体勢を整えて着地するまでの間、一瞬たりとも標的を捉えて離さない。ヒレめいて広がる前腕部の刃を見せつけるように、ゼロワンが両腕を大きく広げた構えを取った。

 

その牙はコンクリートをも噛み砕く。

仮面ライダーゼロワン・バイティングシャーク。

 

ドラスマギアが大きく上半身を捻り、虚空を殴る。音速を超えて飛翔する鉄拳を回避し、ゼロワンが両腕を振って斬りつける。噛み砕くような粗い裂傷を幾つも胸部に刻み込むが、何らかの修復機構がその傷を塞いでいった。片腕だけのドラスマギアがゼロワンの脇腹に重いフックを叩き込み、続けて力任せに蹴倒す。仰向けに倒れたゼロワンの胸に、宙を舞っていた拳が激突し、跳ね返るように元あった場所に戻った。

「がぁ、ッぅ……!」

か細く呻く声を雨の音がかき消す。先程使っていたプログライズキーが懐から零れ落ち、ドラスマギアに拾われた。

「俺、の……キーを、返せ!」

地面を這ってゼロワンが手を伸ばすが、ドラスマギアがその手を踏みつける。バルカンのキーと同様に、フレイミングタイガーのキーを口から飲み込むと同時に、倒れ伏すゼロワンを蹴って転がした。

 

「ラーニング開始」

 

数秒の沈黙の後、無機質の声が低く唱える。ドラスマギアの体躯が、激しく軋みながら()()()()()()。頭から爪先までを覆っていた装甲が凄まじい熱量により橙色に溶け落ち、液状と化したそれが意志を持った如くに渦を巻く。力を込めた部位が筋肉の動きによって膨れ上がるように、露わになったヒューマギアの素体部分が本来の限界を超えて内側から肥大化し始める。溶鉄の渦が無数の球体へと形を変え、巨躯となったヒューマギアの新たな装甲を形成する。

全身が人間に近く、石膏彫刻の如く滑らかな流線型となり、覆う表層は漆黒の鎧となった。膝・肩・前腕部が血のような深紅に染まり、そこから全身各部を繋ぐようにして血管めいたラインが無数に走る。頭部の形状もより威圧的なものへと変化し、長く伸びた(アンテナ)曲剣(ショーテル)に似た形状となった。

 

「ラーニング完了」

 

この怪物は、もはや単なる人類滅亡の走狗ではない。

学習の末に新たな段階への進化を遂げた特異点(シンギュラリティ)の存在。水中に没した方舟(アーク)を離れ、未開の領域を征く新時代の悪魔。

ドラスマギアは今この時を以て、()()()()()()()()()()()()()()()()()新たなる(ネオ)生命体と呼ばれ、完全にして孤高の種として歴史に刻まれたモノが、かつての白辺テルゾーでもドラスマギアでもない鉄の軋むような声で歪な咆哮(うぶごえ)を上げる。

 

傷の痛みに耐えながら立ち上がるゼロワンの真後ろに、怪物が音も無く現れる。振り向いたゼロワンの顔面を肘で打ち、無防備の胴に拳打を幾つも叩き込むと、熱量の増した光弾を胸部から放った。バイティングシャークのシステムが停止し、ゼロワンの姿が基本形態(ライジングホッパー)に戻る。取り落としたバイティングシャークのキーは掌から伸びる導線に絡め取られ、口を開けた怪物に呑み込まれる。

ゼロワンが拳を振るうが、一発とて届くことはない。反応速度が違いすぎるのだ。空を切った右腕を掴み上げ、怪物の手刀が装甲を斬り裂く。前蹴りで距離を離し、ゼツメライザーに備えられたスイッチを押した。

 

『ゼツメツ・ノヴァ!』

 

ゼロワンに向かって歩む左脚に光が灯る。内に溜め込んだ熱は、漏れ出るだけでも路面を溶解させるに足る。ゼロワンは咄嗟に一歩後ろへ退がるが、その足を掴んで離さない何かが回避を阻む。

「なっ、お前は……!」

それはバルカンによって頭部を破壊されたオニコマギアであった。破損した右脚を切り離し、誰にも気づかれることなく這い寄り、最後の役目を果たさんとしていた。

凡そ10メートルの距離で静止すると、怪物が左脚を上げて渾身の横蹴りを放つ。膨大な運動エネルギーと新たに備わった射出機構により、爆発寸前の左脚が()()()()()()()()()()()。一瞬に満たない時間で必殺の一撃が突き刺さり、左脚がゼロワンと共に爆散した。

 

爆煙が晴れると、そこにゼロワンはいない。オニコマギアは塵も残さず消滅し、地面に横たわる飛電或人の姿だけがあった。怪物は意識を失った或人を片腕で掴み上げると、無造作に放り捨てる。地面に落ちたライジングホッパープログライズキーを拾い上げ、怪物はそれすらも己の体内に呑み込んだ。

雨足が強くなり始めていた。激しい雨に打たれながら、新生した悪魔は空を見据える。

雨の音か、あるいは芽生えた自意識への陶酔であったか、どちらにせよ彼は気づかなかった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

撥ね飛ばされた怪物の身体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。起き上がった彼は、宵の闇に赤い双眸を見た。

バイクから降りた影を見た瞬間、怪物は激しい衝撃に襲われた。電子の頭脳が憎悪と恐怖を叫ぶ。それは一種のフラッシュバック現象であった。怪物の元となった存在が、眼前の騎士に対して、本能と呼ぶべき何かによって激しく反応している。

影はただ無言で構え、怪物の前に立ち塞がる。怪物の脳内に掠れた音が響き始めた。著しく劣化したオルゴールのメロディが再生されると、痛まないはずの頭が苦痛を訴える。何事か理解の及ばぬ事象に恐怖したか、怪物は何処かへと走り去っていった。

 

後に残された影は、静かに或人に歩み寄る。倒れたまま動かない身体を抱き上げて、彼は横を向く。傘をさした女性型ヒューマギアが、或人と赤い目の男を見つめている。

男の傍らで、一匹のバッタが身を震わせていた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

数時間後。

夕方から降り始めた雨はどうやら次の朝まで止まないらしい。ニュースキャスターの天気予報を聞きながら、飛電或人は目を覚ました。

「邪魔してるぞ、飛電の社長」

聞き慣れたぶっきらぼうな声。ソファから身を起こして周囲を見渡せば、そこは見紛うはずもなく飛電インテリジェンスの社長室であった。

「俺は……テルゾーに、負けたのか」

「そういうことだ。……悔しいが、俺達(A.I.M.S.)もな」

或人の向かいで、不破諫がコーヒーを啜っていた。彼の表情は明るいものではなかった。

「散々なこった。プログライズキーは奪われる、出処不明のマギアが次々と湧いてくる、滅亡迅雷の連中まで出張ってくる……」

不破がそう言うと、或人の背後に立っていた社長秘書・イズが、或人が眠っていた間の出来事を話し始めた。

 

飛電本社ビル前での戦闘から程なくして、無数のトリロバイトマギアが各地に出現。複数の群体となって行動する量産型マギアの集団を、現在A.I.M.S.が対処している最中である。

白辺テルゾーが変異したマギアは、人工衛星ゼアのアーカイブから『ドラス』という生命体の力を持っていることが判明。以後、このマギアを『ドラスマギア』と仮称し、対策を練っていたのだが……一向にドラスマギアが直接出現する気配がない。更にマギアが大量に出現した現場の付近では滅亡迅雷.netの構成員、滅と迅が目撃されたという情報もある。

 

「博士は?」

或人が気になったのは、秋月孝三博士のことだった。この街一帯がマギア出現地帯となった今、秋月博士を自宅に帰すのは余計に危険であろう、と或人は思った。イズは白い壁に視線を遣った。壁の向こうにある秘匿ラボに、博士を匿っているのだと、或人は瞬時に理解した。

「……不破さんはなんでここに?」

「実働隊の半分は刃に預けて、俺は本社側の見張り番だ。後は……()()()()次第かもしれねえな。今ここにいる中で戦えるのは、俺と……ソイツだけだ」

「……どういうことだよ!? 俺だって、ゼロワンドライバーとプログライズキーがある以上は——」

「残念ですが彼の言う通りです、或人社長」

イズが或人の反論を遮った。

「ゼロワンシステムの中核を担うのは、ゼロワンドライバーとライジングホッパープログライズキーです。ライジングホッパーキーがあのマギアの手に落ちたため、ゼロワンシステムの起動は現状不可能となっています」

「ウソだろ!?」

信じ難い事実であった。

社長権限の一つであり、ヒューマギアと人類の未来を守るために作られながら、ドラスマギアがいつ再び現れるかも不明なこの状況でゼロワンが戦えない。或人はあまりの衝撃に膝から崩れ落ちた。

「奪われなかったプログライズキーはこちらで管理しています。また、衛星ゼアによる強制シャットダウンを試みた結果、ドラスマギアに取り込まれた中では、ライジングホッパーキーのみ機能の完全停止を確認しています」

イズの報告すら、或人の耳には届かない。彼が案じていたのは、この場で己が()()()()()()という一点だけであった。

「俺はこんな時に戦えないのかよ……ッ!」

悔しさが言葉となって零れ落ちる。無機質な白い床を殴りつける音が虚しく響いた。

重苦しい雰囲気の中、社長室の扉が静かに開く。その場に居た三人が、一斉に入り口に目を向けた。

 

入ってきたのは、壮年の大男だった。黒いレザージャケットと青いジーンズを着た、やや古めかしい服装(ファッション)の男が、ゆっくりと歩いてくる。肌は日に焼けて浅黒く、灰色の混じった黒髪や僅かに皺を刻んだ彫りの深い顔立ちは、滲み出る活力故に全く老い衰えた印象を与えない。戦場より帰還した老兵を思わせる雰囲気を、或人は一目見た瞬間から感じていた。

 

「あ、貴方は……?」

正体不明、しかし確実に只者ではないこの男。或人は先程までの怒りや悔しさすら忘れて、彼が何者であるのかを問うていた。

「ドラスマギア討伐にあたり、我々に協力を申し出た人物です。或人社長を救出していただいた方でもあります」

「えぇっ、この人が!?」

「気絶していたので、覚えていないのは当然かと。或人様に応急処置を施し、ここを出て行かれたのですが……」

イズに軽く会釈をして、男が或人の前に立つ。覗き込むように或人の目を見つめながら、男は優しげな声で言った。

 

「君が、或人君……いや、飛電或人社長か」

「は、ハイ」

「俺は……いや、僕は麻生(あそう)(まさる)。あの怪人、ドラスマギアとは因縁のある間柄だ。一つ、協力させてはもらえないかな?」

 

男……麻生勝が手を差し伸べる。呆気に取られていた或人であったが、ゆっくりと立ち上がって、勝の大きな手を固く握り締めた。

或人の瞳に、活力の炎が灯っていた。

 

次回へつづく。




次回、仮面ライダーゼロワン!

「変身できなくても、戦うことはできる」
遂に現れる、仮面ライダーZO!

「アークの意志など関係ない」
ドラスマギアは新たな領域へ——!

「きっと、分かる日が来る。俺は信じるよ」

「ブッ潰すだけだ、誰が相手だろうとな!」

第2話『オレだけの戦い方』
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