それから数時間後、僕たちは東京の空を飛んでいた。
作戦の決行は30分前に行われた。
作戦名『オペレーション・デイブレイク』は言って仕舞えば防衛戦だ。東京各所にある防衛ラインを守護しつつ僕たち4人がユーリとそしてキリエがイリスを各個撃破し捕縛する。
時空管理局所属の面々はそれぞれ担当区域が決められて自由行動ができるのは僕たちとエルトリアから来たフローリアン姉妹のみ。
「ごめん!お待たせ!」
「よい、向こうはもうよいのか?」
「うん!フェイトが頑張ってくれるから!」
ドームの支援に行っていたレヴィが合流して僕たちは眼下に広がる大きな橋の下、そこに佇む少女の元へ向かう。
さっき見た時よりも少し、瞳に意思がある。
僕たちを見てその瞳を見開いたのを僕は見逃さなかった。
周囲のユニット……機鎧を自身の周囲に展開して僕たちを避けるように遠ざけるようにその身を覆っていた。
「《敵性勢力四騎確認、対象の排除を開始します》」
「「「「ッ!」」」」
シュテルとレヴィが青と赤の光を纏ってユーリへと突撃する。
2人のファーストアタックは当たり前のように機鎧に防がれる。だけど、それだって僕たちは織り込み済みだ!
「ウィスタリアス!フォイアルディア!僕に力を!」
手に持つ二振りの魔剣に思い出を投下する。
あいも変わらず燃え尽きるのはクロハネの残した苛烈な戦争の記憶が燃料と化して剣に莫大な魔力を乗せた。
覚醒剣・蒼炎無窮
魔剣に乗った魔力を刃に変えて僕は機鎧に斬りかかる。
だが、それしきのことで破壊されるほど機鎧だって脆くはない。その全てを耐えきった上で機鎧は僕を弾き飛ばした。
「っ!ディアーチェ!」
「わかっておる!アロンダイトッ!」
すでに魔法の準備を終えていたディアーチェによる暗黒の砲撃が今度はユーリを弾き飛ばした。
その隙を逃すまいと僕とレヴィとシュテルは三方向からユーリに斬りかかる。
それを迎撃するように新たに腕型の機鎧が三機現れ、僕たちに襲いかかるがそれを僕とレヴィで全て切り刻んだ。
そして上空から追い討ちをかけるように闇と炎の弾幕がユーリの翼型の機鎧へと叩き込まれる
「《っ!》」
「雷光招来!」
連携をかけるようにレヴィが落雷を自分に落としてその電力をそのまま充電してユーリへと放つ。
それに合わせるようにユーリの周りに純白のスフィアを展開させてクラウソラスを全面からユーリへとぶつける
「あああああぁぁぁぁあ!」
痛みに涙をするのか、それとも僕たちと戦っていることに涙しているのかはわからない。だけど、僕たちはあの子の泣いている姿を見たくない
「ユーリを蝕んでいるのはウイルスコードによる支配。連続で攻撃し続ければその拘束は破壊される!」
「ゴメンね、痛いよね……!でも、泣かないで!キミが泣いてるとボクたちも苦しいんだ!」
「私たちが、必ず救ってみせます!だから!」
「その手を……もっと僕たちに伸ばして!」
絶え間なく砲撃を続け、ウイルスコードを弾き飛ばそうと試みる。徐々に彼女の瞳に光が戻ってきているのが僕たちにもわかる。
「シュテル、レヴィ、ディアーチェ、クロヴィス……」
微かに聞こえたその声に僕たちは砲撃をやめてユーリの様子を伺う。翼型の機鎧で自身の周りを囲み、更に魔法で自身の周囲にフィールドを張って僕たちを遠ざけるように胸と頭を抑えながら苦し紛れに声を張った
「イリスは……私がきっとなんとかしてみせます……だからあなた達は私から……離れて!」
その言葉を必死に絞り出したのはわかった。
だけど、そんな言葉で僕たちは止まれない。
泣いているこの子を見なかったことになんて出来ない!
「そのような言葉!泣いている子供のいうことか!」
怒鳴るディアーチェに対してユーリも間髪入れずに心からの言葉を叫んだ。
「あなた達まで!失いたくないんです!!!」
再び動き出したユーリを迎撃するようにディアーチェは『グリモアール』のページを散らしてユーリへと闇の波動を放つ。
その中を一直線に突っ切りながらユーリは涙を流しながら叫ぶ
「いつか故郷に帰るため……交わした誓いを守るため……!あなた達まで失ったら……私は!」
「クロヴィスっ!」
「わかってる!」
だんだんと押し負けるディアーチェの隣について僕は『紫色の表紙の魔導書』の魔導を行使してディアーチェと同じようにユーリへと光の波動を放つ
「あの惨劇の中で残せたのは……イリスの心と、あなた達だけだった!私に希望をくれたあなた達を……この手で壊したくない!」
段々と縮まる僕たちとユーリの距離はやがて零になってその拳をディアーチェが優しく触れた。
「「「「っ!?」」」」
その瞬間、僕たちの中にあった記憶の靄が一気に晴れた。
始まりは身体全体が寒かった。
次は暖かい部屋の中でこの子とイリスが僕たちを見つめていた。
僕たちに名前をくれた。
僕たちを幸せにしてくれた。
僕たちを大切にしてくれた。
僕たちを生きながらえさせてくれた。
“たくさん、お話をしましょうね!”
“今年は去年よりも花がたくさん咲いたんですよ?”
“クロヴィスも一緒に読みますか?”
“あんた達のこと嫌いなわけじゃないよ?”
“ユーリの魔法が完成したら目一杯話すわよ?”
“いつか、あんた達と一緒に星を見に行きたいわ。ユーリといいところ見つけたの”
“いつか一緒に星を見に行きましょうね。素敵な場所を見つけたんです”
僕の思い出の中で幸せをたくさんくれたのはユーリだった、イリスだった。
力が欲しいと願った。
だけどそれは自分のためじゃなかった。
ユーリを守りたい。
イリスを守りたい。
この2人が笑っていける未来を守りたい。
遊び道具にしかならない尻尾じゃなく。
追いかけることしかできない手足じゃなく。
言葉を発せない猫の姿ではなく!
だから僕はあの時この劔達を継承したんだ!
それをわかっていたからクロハネは僕にこの魔導書……『紫天の魔導書』を託してくれたんだ!
だったら、僕が……僕たちがやることなんて決まってる!
「救いましょう!私たちの主を!」
「ユーリとイリスが笑い合う未来のために!」
「来て!
思い出がなくなろうとも構わない。
僕にとって本当に大切なものを守れるなら!
「ベルカの魔剣が3つも……!クロヴィスダメです!それは!」
「代償が何であれ構わない!僕は君が救えればなんでもいい!」
ディアーチェの大型魔法の準備ができる数瞬の間に僕はヴェルディグリオンをユーリへと向けた。
あと少しで届く、そう思った瞬間。
「飼い猫達に救われる主か、涙ぐましい話だがそれはいけないよ。ユーリ」
嫌に聞き覚えのある声が僕たちの耳に届いた。
それは橋の上から響いたと思えば次の瞬間にはレヴィの後ろへ現れて
「っ!レヴィ!」
「……え?」
ゴスッと鈍い音ともにレヴィは男に蹴られて近くのアスファルトへと叩き落とされた。
「レヴィーー!」
「よそ見をしている暇があるのかな?」
レヴィの安否を心配し叫ぶシュテルの眼の前に現れ今度は手に持った剣で斬りかかるもシュテルはとっさの判断で『プロテクション』を展開して防いだ。
筈だった。
『プロテクション』はあっさりと切り裂かれ、驚愕したシュテルの顔をそのまま掴んでレヴィを叩き落とした方へと力任せに放り投げた。
「なるほど、この力で投げ飛ばしても死なないか。さすがは魔法生命体とでもいうべきか……研究のしがいはあるだろうが……どちらにせよ私には必要ないな」
その声とやっと見えた顔に僕は怒りを抑えきれなかった。
僕の目の前で2度も2人を傷つけた。
あの日の元凶、僕たちの……ユーリとイリスの幸せを奪った張本人
「……マクスウェルっ!」
「君は……その様子で見るとあの黒猫か。一番厄介なのは君だ。ここで始末させてもらうさ」
動き出すマクスウェルに合わせて武器を構えた瞬間
“アクセラレイター・オルタ”
僕の視界から奴が消えた。
そして、次の瞬間。
「グフッ!」
奴の持った剣は僕ではなく僕を庇うように僕の目の前に出てきていたディアーチェの腹部を貫いていた。
「無事か……クロヴィス」
「ディアーチェェェェ!」
力なく僕の方へと倒れ込んでくるディアーチェを抱きとめて怒りのまま魔剣の力をそのままマクスウェルに叩きつける。
「チッ……やはり一筋縄ではいかないか。私1人ではおそらくあの剣には敵わない……ここは一度引くとしようか。行こう、ユーリ」
「『了解』」
みんながやられている間に新しくウイルスコード打ち込まれたユーリを引き連れてマクスウェルは遠くの空へと消えていく。
僕はそれを見つめることしかできなかった。
「……クロヴィス……シュテルと、レヴィ……を」
「わかってる。でも、ディアーチェも傷に触るから」
ディアーチェを抱えたままシュテルとレヴィのところへ向かえば2人もとても動けるような状態ではなかった。
遠くの空ではいまだに激戦が繰り広げられている。
ユーリはマクスウェルに奪われた。
おそらく、イリスだって今は奴の支配下にあるだろう。
僕はいかないといけない。
だけど、三人をこのままおいてはいけない。
大切な家族をこのままになんてできない。
「クロ……私たちからのお願い。聞いてくれますか?」
「ボクたちはもう戦えないから……僕たちの分まで戦って欲しいんだ。ユーリとイリスを助けるために」
シュテルとレヴィの言いたいことはわかる。
「だけど、三人をここにおいてくなんて」
「戯け、お前を1人になどさせぬわ。我等三人の力をお前に託す。“その姿”で翼がないなど笑い話にもならんからな」
三人が僕の手を繋いで、その身体から光が溢れ出す。
それと同時に僕の身体の中に三人の魔力が流れ込んでくる。
暖かく、優しい魔力が僕を包み込んでいく。
「ボク達がクロの翼になる。だから、ユーリのところまで一直線に駆け抜けて」
「私たちがクロの道を切り開く星となります。だから、イリスを悲しい束縛から連れ出してください」
「我等三人は常にお前のそばについておる。忘れるな、お前は我の臣下で我等の家族だと。堕ちることは許さん、折れることも許さん。我等が四人の渾身の恩返し、ユーリとイリスに叩き込んでこい」
やがて光が大きく溢れたところで三人は僕の腕の中で昔の姿に戻っていた。
僕の背には四色の大翼が背中と腰から溢れ出んばかりの魔力とともに顕現していた。
「待ってて、必ず2人を連れ戻す!」
バルニフィカス、ルシフェリオン、エルシニアクロイツ、そして三本の魔剣を従えて僕は翼をはためかせ大空へと飛び立った。