真夜中の大空の下、僕はなんとなくユーリのいる場所を把握できた。一直線に駆け抜けてくる1人の魔導師とその背後を追いかけるように突撃してきている1つの機動外殻に近い反応。
僕の周りに浮く6つの武器を眺めて更に『紫天の魔導書』を手元に呼び出せば直進してきた彼女と目があった。
「ユーリは僕達に任せて、キミはなのはちゃんのところへ」
「でも、クロヴィス1人じゃユーリの相手は難しいんじゃ」
「大丈夫、僕は1人じゃない。シュテルもレヴィもディアーチェも……リインフォースも僕の中にいる」
閃光の少女……フェイトちゃんへ僕は確固たる意志を持って言葉を返した。負ける気なんて初めからない。負ける理由なんてカケラもない。
「キミのお姉さんとも約束もある。まだ死ねないから安心して」
たった数十分しか会話できなかった友人のとの約束もある。
彼女はそれを聞くと目を見開いたが、やがてすぐに頷いてくれた。
「それじゃあ、任せていいかな?」
「任せて、必ずユーリを連れて帰るよ」
反転して飛び去ったフェイトちゃんを見送り、僕の前で急停止したユーリを僕は見つめる。
「その様子だと、意識は……あるみたいだね。あの時の話をしようって約束をこんな形で果たすなんて思わなかったけど」
「クロヴィス……こんなことやめてください!身体のいうことが効かなくて……このまま戦えば私はあなたのことを壊してしまう!」
先ほどよりも一回りもすた周りも大きな機鎧を纏ったユーリを見て僕は少しため息をつく。
それに答えるように僕の周りに浮いていた武器達が臨戦態勢に入った。
「それは出来ないんだ、ユーリ。僕たちは自分たちの意志でここにいる。キミが笑える世界を作る。あの日々のように幸せに笑える世界を守る。それが、僕たちができるキミへの最大の恩返しだからっ!」
「っ!恩返しなんて……私はっ!私の方があなた達にたくさんのものを貰ったのに!」
涙を流しながら叫ぶように言葉を吐き出すユーリに僕はそっと微笑む。
「キミを蝕むウイルスコード……僕が今、解き放つ!」
「ああっ!クロヴィス……っ!」
僕とユーリが駆け出したのは同時だった。
膨大な魔力を振りまく大翼をはためかせ、僕はバルニフィカスを手にとって真っ直ぐ迫りくるユーリに向かって“雷”を纏いながら突撃する。
僕たち4人の魔力を合わせたブレードは文字通り規格外の出力へと昇華している。元がSランクを超える魔導師三人をベースにしたシュテル、レヴィ、ディアーチェに単騎で国を相手できるクロハネの全てを受け継いだ僕。
一人一人の戦闘力と魔力量がおかしなことになっている僕たちの全てを1つにすればどうなるか……
それはユーリに対抗できるまでにその存在を一時的に昇華させることができる。
僕たち4人が1人に力を託して1つの存在となる一番最後の切り札……それが『クアドラプル・ハーツ』だ。
「力を貸して……レヴィ!」
“もっちろん!僕たちでユーリを救うよ!”
機鎧の周りに浮いている腕型のユニットを高出力の魔力ブレードが切り裂く。
レヴィと同じように雷を纏い、そのまま高速移動を繰り返しながら次々と機鎧を破壊していく。
「やめてくださいクロヴィス!そんなデタラメな力……何の代償もなしに使えるはずがありません!私のことは……もういいですから……!」
「しつこい!身体が言うことをまともに効かないクセに!」
形状を変化させて大剣を少し短くして二本に分けて両手に持った。バルディッシュの『ライオット・ブレード』形態。
バルニフィカスでいうなれば『スプライト・ブレード』といったところだろうか
「まずはその邪魔な機鎧……破壊させてもらうから!」
更に速度を上げて縦横無尽にユーリの周りを駆け回り目にも留まらぬ、正に雷のような速度で僕は次々と両刃で機鎧を切り刻んでいく
「これで……終わりっ!」
“いっくぞー!双刄光翼蒼覇斬!”
剣に込める魔力を増やして機鎧へ向かって剣を振るう。
剣を振るのと同時に雷の衝撃波が同時に剣から放たれて機鎧を内側から破壊していく
爆炎とともに崩れ去っていく機鎧を見つめながら僕は次にルシフェリオンを手に取る。
「行こう……シュテル」
“私の魔導……ここが見せ場です!”
爆煙が晴れないうちにパイロシューターをユーリの周囲へ展開してそのまま爆煙の中心へと次々と撃ち込んでそのままルシフェリオンを構えて魔力を集め始める。
総数にして120にも及ぶパイロシューターを撃ち込んでそのまま充填した業火の砲撃を撃ち出した。
「ルシフェリオン…………ブレイカー!」
“私たちの思いが必ず貴方を救います!”
遥か彼方まで一直線に撃ち抜いた灼熱の閃光。
その中から人影が真っ直ぐに突き進んできた
「っ!」
僕たちもよく見知った防御に特化した翼型の機鎧。
それを纏ったユーリが目にも留まらぬ速度で僕の目の前に現れ、その勢いのまま機鎧を叩きつけられて僕は後方へと吹き飛ばされてそのまま大きなタワーの鉄筋へと叩きつけられた。
「なかなかエゲツない事してくれる……けど……」
“我が魔導の真髄を見せるための距離は稼げた”
先の戦闘でディアーチェの使おうとしていた『ラグナロク』に匹敵する極大魔法『ジャガーノート』を即座に展開してユーリを待ち構える。
向かってくるユーリも僕の展開している魔法を見てその目を大きく見開くがもう遅い。
はじめの戦闘で使用した多重拘束の魔法
チェーンバインド
レストリック・ロック
鋼の軛
この3つを掛け合わせて確実に固定した瞬間、暗黒の極大砲撃を放った。
「あの子を繋ぐ鎖を喰らい尽くせ!」
“我等の主に働いた狼藉!決して許さん!”
轟音とともに打ち出された5つの砲撃は屈折を繰り返し、ユーリに接近した瞬間巨大な爆発を起こす。
「ああああああぁあぁああっ!」
一度ではなく複数回に分けて起こる爆発に流石のユーリに少しはダメージが入るだろう。
爆発の中聞こえるユーリの悲鳴に僕は顔をしかめる。
それと同時に三人から託されたデバイスが限界を超えたようにひび割れてその姿を待機状態に戻した。
多分、あと僕にできるのは魔剣を使うことだけ。
だけど、それぞれの剣を個別に使うことではきっと太刀打ちできない。ならば……やることは1つだ。
僕にできるかはわからない。
何せ伝承の英雄しかやったことのないたった一度の奇跡だ。
三本の魔剣を1つにして新しい魔剣を生み出す禁忌にも近い奇跡
「……頼む、僕の大切な人を救うために。僕の全てを使っていい。一撃、彼女に与える時間だけでいい。僕に救うための力を……!」
浮遊していた三本の魔剣を1つにするイメージを持つ。
頭の中に思い浮かぶのは純白の劔、全てを守護するような神聖そのものを体現したような奇跡の剣。
「ダメです!クロヴィスッ!それは……貴方に何が起きるかわからないんですよ!」
「うるさい!僕は救うって決めた!あの時、君が涙を流しながらイリスと戦ったあの日から!これだけは譲れない!これが僕にできる、キミへの最大の恩返しだ!」
3つの剣を1つにした。
魔力が暴風のように荒れ狂い、周囲のものを編んであれ吹き飛ばす。光が溢れ、やがてそこには1つの純白の剣が僕の目の前に顕現した。
それの代償として、僕の中から大きくナニカが崩れ落ちた気がした。大切なものだったかもしれないものがぽっかりと大きな違和感とともに抜け落ちた。
そしてそれと同時に僕の見た目にも変化が起きる。
この姿を与えてくれた人と同じように美しかった銀髪が色素が抜け落ちた白髪へと変わり、左右の耳の上くらいからは長い耳のようなものへ髪が変化した。
身体からは魔力がそのまま雷へと変換されて僕の周りを帯電したように駆け巡る。
目の前で泣いている少女を助けるために僕は飛び出した。
少女から放たれる魔法を身体が覚えている魔法でそのまま迎撃する。
炎、雷、闇の魔法が僕を守るように弾幕の中を一直線に進む。
純白の剣に彼女が残してくれた戦いの想い出を出来る限り燃やしてそのエネルギーを剣に乗せた
少女を救いたい。
彼女が笑える世界を作りたい。
そして、彼女の友と一緒に笑える世界を
その一心で僕は剣にエネルギーを乗せて少女への距離を詰めていく。
だが、少女を操っているウイルスだってバカではない。
弾幕がさらに激しくなり、展開されている魔法だけでは対処しきれなくなり、僕への被弾もどんどん増えていく。
服が裂け、肌は焼け、髪が焼き切れていく。
「もうやめてください!それ以上は貴方が持ちません!」
泣きじゃくり、涙を流しながら僕へと訴えかける彼女の言葉を無視して弾幕の中を突き進んだ。
「それ以上こっちにきたら……!貴方が死んでしまいます!お願いですから……もう、やめて……」
あと少し、あと少しで届くのに……
“あと一歩、届かないのか……ならば私が力を貸そう”
美しい銀髪に赤い瞳の彼女が僕へと伸ばしていた。
それを掴むように僕は手を伸ばす。
“私の残した想い出の残骸を……全て燃やし尽くせ!クロヴィス!”
言われる声のまま僕は僕は残った“僕のものではない思い出”を全て燃やし尽くした。
翼に更に一色、漆黒が追加されてその翼を更に大きくはためかせた。
「『とどけえええぇぇぇえ!!!』」
──真・覚醒剣・暁の曙光──
たった一度きりの奇跡の一撃が少女へと命中した。
刀身に収束されていた思いを乗せたエネルギーは少女の体を駆け巡り、その余剰エネルギーが少女の体から溢れ出して天空へと突き出した。
やがてそのエネルギーはこの東京の街を覆い尽くすほどのドームとなり白い雪のような粒子が空から舞い降りてくる。
僕と手を貸してくれた彼女が想い出のほぼ大半と魔剣の加護にものを言わせた生命の焼却。
その結果なし得たのが『ウイルスコードに対する完全耐性』
そしてその対象は僕の目の前にいる少女と少し離れたところで戦っていた赤い髪の少女だ。
「クロヴィス…………」
「いったでしょ……必ず救うって……ぼくはもう名前も思い出せないけど……キミたちだけは必ず救うってこの命に刻み込んでいたから」
僕が僕であった証。
僕が大切にしていた想い出。
僕に生きる意味を与えてくれた人たち。
僕に戦うための力をくれた大切な親友。
僕に救うための力をくれた大切な家族。
もうほとんど忘れてしまって名前も出てこないけれど。
やることは1つだけ残ってる。
微かに残った記憶の中から少女の名前を見つけ出して最後まで僕たちを見守ってくれた本を彼女に託す。
「……ゆーり、この本をキミに。僕の友人がキミを救うために残してくれた大切なものだ」
紫色の魔導書を少女の腕の中へと託して僕は微笑んだ。
「これは……?」
「『紫天の魔導書』だ。『夜天の魔導書』と対になる君を盟主として迎えるためだけの魔導書。きっとすぐに必要なことはわかるよ。後は……キミのやりたいように突き進んで」
《盟主登録完了。ユーリ・エーベルヴァインを我らが盟主として迎え入れましょう。まずは盟主へ新たな力と装いを》
「頼んだよ。《紫天の魔導書》僕たちの大切な主を導いてやってくれ」
少女が光に包まれて新たな装いになるのを見切ることなく、僕は力を失って地へと落ちていく。
だが、いつまでたっても僕が地面へとぶつかることはなく、その代わりに先ほどいた少女とは違う少女の腕に抱かれていた。
「あんたも無茶し過ぎよ。クロヴィス……こんなにボロボロになってまであたしたちを救ってくれて……」
「あはは、ゴメン……あんまり記憶が残ってなくて。顔は覚えてるし大切な人なのも覚えてるんだけど名前が……出てこないんだ。あの金髪の子も本当はもう記憶が曖昧で……」
「それはいいの。想い出はこれからまた作っていける。あんたとした約束だってあたしはまだ覚えてる。だから」
「だから、決着をつけにいきましょう。イリス」
イリスと呼ばれた少女に語りかけた少女は先ほどとは全く違う装いに変わっていた。
先ほどの服装よりも白系統の色が増え、ヘソを出したルックに袖の長いルックと同じくらいの短さの上着に炎の紋様が入った袴の上には更に白い腰布を着けている。
更に大きく変わったのは後ろにあった機鎧が大きな紅蓮の翼に変わったことだろうか。
「ユーリのそれ、えげつないくらい似合ってるわよ」
「イリスのその格好はすこし変態さんっぽいですね」
「煩いわよ。でも、真面目な話。ユーリにもあんたにも、そしてあのチビたちにも謝りたいことがたくさんある。だけどそれは全部終わってから……あたしが始めたことだから。あたしがケリをつけなきゃダメなんだ」
「それは私も同じです。あの日、イリスにちゃんと説明できなかったから……こんなことになったんです。悪かったのは私もイリスも同じ、だから、私たち2人で決着をつけるんです」
僕を2人が見つめて頷いた。
2人は僕を地上に下ろすとそのまま未だ過激な戦闘が行われている最後の区画へと飛び去っていった。
僕はそれを見送り、そっと目を閉じる。
身体の力が抜けて、立っていられなくなった。
「僕はやったよ。クロハネ……ユーリを救うことができた」
それは無意識に口にした言葉だった。
“ああ、お前の勝利だよ。クロヴィス、だから少し休め”
光が集まって、僕の隣に僕と同じ姿の女性が現れる。
頭に手を置き、そっと撫でてくれた。
「ああ、うん。キミがそう言うなら休もう。きっと次に目が覚めた時は…………」
“ああ、素晴らしい未来がお前を待っているさ”
その言葉を聞いて、僕はヒトの姿を放棄して意識を手放した。