そして、あの夜から僕たちの距離は少し、いやかなり近くなった。
何しろユーリが僕との間に魔力パスを繋いだことでお互いのことがさらにわかるようになったからだ。
そして、更に数ヶ月の月日が経って僕たちはイリス達から少しの休暇をもらってミッドチルダという星に訪れていた。
「わっ!見てくださいクロヴィス!くれーぷ……ですって!美味しそうですね!」
「ほんとだね、食べてみる?」
「いいんですか!?」
「うん、まだ3時だし少しご飯の時間遅くすればいいから」
屋台のお兄さんにクレープを2つ頼んでお金を払い、テキパキと作られたクレープを受け取って近くの簡易テーブルまで移動する。
ユーリが頼んで頬張っているのはイチオシと書いてあった『バナナチョコ&生クリーム』という生クリームをふんだんに使った上にこれまた大量のバナナとその上にこれでもかというほどチョコレートソースをかけた実に甘ったるそうな品物。
ほっぺたにクリームが付いているのを気にしない程度には夢中に食べているユーリの姿を見ると相当美味しいんだろうと僕は心の中で思った。
それに僕が頼んだのは『キャラメルクリーム』という商品だった。ユーリのやつ同様にふんだんに使われた生クリームの上に結構な量のキャラメルソースをかけたものだが……
うん、甘い。
僕がなんとなく最近わかってきたのはあまり甘いものが得意ではないということだった。
別に嫌いなわけではないし食べられないわけでもないんだが……なんでか寂しい気持ちになる。
特にアイスクリームを食べている時なんか一番その寂しさというかそういうのを感じることが多い。
「ふふっ、おいしいですね!」
幸せそうな笑顔で僕をみるユーリに僕は頷く。
「僕のやつも食べてみる?」
「いいんですか?」
「うん、ユーリの好きそうな甘さかなって思うよ」
ユーリの口の前にクレープを出してやればユーリは笑顔のまま僕の持つクレープにかぶりついた。
ゆっくりと咀嚼しながら幸せそうな表情でほっぺたを持ち上げている。
「美味しい?」
「美味しいです!」
ずっと幸せそうな笑顔でクレープを食べるユーリを見て僕も自然と笑みがこぼれていた。
クレープを食べ終えてそのまま公園でゆっくりしていたところで、僕はユーリにこの星に来た目的を話すことにした。
「そういえば、なんだけど」
「はい?」
「僕がなんでこの星に来たがったかまだ話してなかったなと思って」
「ああ……そうでしたね。楽しくてすっかり忘れてました」
ユーリは少し顎に手を添えて考えたみたいだが、結局わからなかったのか首を傾げた。
「どうしてこの星にしたんですか?地球とかでも良かったと思うんですけど……」
「うん、普通にユーリと旅行なら地球でも良かったんだけど。昔に夜天の書の中で出会った子との約束を果たすのに、ね」
シュテルから事前にもらっていた僕があった時はまだ少女だった女性の写真を僕はカバンの中から出してユーリに見せる。
「これは……フェイト、ですよね?」
「そう、彼女の亡くなったお姉さんの残滓と夜天の魔導書の中で出会って、その時に成人した彼女の写真を墓前に持ってきてくれって頼まれてて……ここ最近、断片的にだけど記憶を誰かが繋いでくれてるおかげなのか思い出せることも多くなってきて、その約束を思い出したから……っていうのもあったんだ」
あの時であった小さな少女との約束を少し過ぎてしまったけど果たそうと思ってここへやってきた。
もともと、僕1人で来る予定ではあったんだけどユーリが離してくれないからこうして一緒に来ることになってしまったんだけど
「クロヴィスにとって大切な約束なら護ってあげないといけません。何より、亡くなった方との約束ならなおさらですよ」
「……ありがとう。それじゃあ、少しだけ寄らせて」
ユーリと手を繋いで少し遠くにある墓所まで向かっていく。
徐々に人通りが少なくなっていって緑あふれるその場所にたどり着く頃には人気は完全に亡くなっていた。
たくさんの人が眠るこの大きな墓所の中で僕は導かれるようにその墓石の前に足を運んでいた。
紫天の書を呼び出してその中に収めて持ってきていた花束を墓石の前に写真と一緒に置く。
「約束、遅くなったけど果たしに来たよ。生前のキミは僕のことを知らないと思うけれど、あの夢幻の世界で君とあった黒猫だ」
手を合わせて何十年も前に旅立ったという少女に向けてせめてもと思い、祈った。
隣ではユーリも一緒に合掌して祈ってくれている。
「実は僕も成人したフェイトちゃんには会えてないんだ。僕にもいろいろあって10年近く眠ってたからね。ここに滞在してるうちに会えれば……とは思ってるんだけど、それも難しいだろうね」
僕が暮石に話しかけている間、ユーリは一言も喋らずに僕のことを見つめていた。
その後も少しだけ現状のことを話して僕は写真を回収して暮石の前から立ち上がった
「もういいんですか?」
「うん、もともと話した時間は少ないんだ。これだけ話せれば十分だよ。それじゃあ、いこっか」
「そうなんですか……」
手を繋いで最後に暮石を見返す。
“ありがとう……約束、守ってくれて”
風に乗ってそんな声が聞こえた気がした。
僕はそっとその言葉に頷いてその場を後にする。
墓所を出た頃にはすっかり日は暮れ始めていた。
ディアーチェが予約してくれた宿泊先はここから少し離れたところにあるようで、僕たちはゆっくりとそこを目指して歩いている。
「クロヴィスにとって、一番大切なものってなんですか?」
唐突なその質問に僕は不思議に思いながら困ったように答えた。
「僕にとって一番大事なのはユーリだけど?」
「あの、そういってもらえるのは嬉しいんですけど、そうじゃなくて……その行動というか、そういうのを決める時に一番大切にしてることです」
そう言われてみて、僕は少し考えてみた。
僕が行動を起こす時に一番大切にしていること……
考えてみて、思い当たるもの、と言われれば思い浮かぶのは
「……約束、かな」
「約束、ですか?」
「うん、僕が眼を覚ます時にクロハネ……えと、リインフォースに後押しされて眼を覚ましたんだけど、その時に約束をしてきたんだ」
「…………」
「彼女の分まで生きて、この目に美しい世界の景色を焼き付けていくって。きっと、あの時イリスが僕に渡した因子……えと、クロノ……だったけ?あの子の因子をもとに形を作っていたらいまきっとここに僕はいないと思う」
少し歩を緩めながら僕はゆっくりと語る。
「ユーリといま一緒に居られるのは本当にクロハネのおかげなんだ。だから、この約束だけは絶対に守らないといけない。それに、世界を旅するっていっても1人じゃないしね。僕もユーリも性質上実質不老不死みたいなものだし、エルトリアがもう大丈夫になってイリス達がゆっくりできるようになったら一緒に旅をしたいなって思ってたくらいだから」
ついつい、話しすぎたかなと思って隣を見れば顔を真っ赤にしたユーリが俯いたまま口を開いた。
「えと、それはアレでしょうか……私とこの先も一緒に居てくれるということで……」
思ってたことをそのまま口にしたからか、いま言わなくてもいいことまでいってたみたいだと思いながらも僕は頷いた
「うん、僕はそのつもりだった。もちろん、ユーリが迷惑じゃなければの話だけどさ」
「私は……その、寧ろ大歓迎といいますか……嬉しいですけど……」
僕はその答えに頷いて少しだけ強くユーリの手を握った。
「ならよかった。ここで拒絶されてたら僕は泣いてたね」
冗談まじりに笑ってそう口にすればユーリもそれにつられて笑う。
そうして、僕たちは宿泊先のホテルまで雑談をしながら歩いて行った。
新暦75年の9月18日の出来事だった。