「みんなこの中に入ってください!」
慌てた様子で部屋に戻ってきたユーリに僕たちは顔を合わせて首を傾げた。
「ここは危ないんです!時間がないから早く!」
ユーリがここまで慌ててるのは2年くらいの付き合いになる僕たちもはじめて見た。余程の事態なんだろうと僕たちは言われるまま鉄でできた籠の中に入った。
『ユーリったらどうしたんだろうね?』
『わかりません、ですがいい事態ではなさそうですね』
『走り出すようだぞ、怪我をしないようにバランスを取れよ』
『分かったよ、でも危ないって……』
僕が言葉を終える前にユーリは立ち上がった。
普段はユーリの腕の中に収まっている茶色の本は今日はユーリを守るようにユーリの近くで滞空していた。
(本当にどうしたんだろ……)
部屋の扉を開けると僕たちの敏感な嗅覚は濃い鉄の匂いを感じとった。そして、周りを見ると
『なんということだ…………この者達は……』
ディアーチェはこの光景を見てすぐに絶句した。
それはシュテルもレヴィも僕も同じだった。
眼前に広がっていたのは正に地獄と例えられてもおかしくない光景だった。見知った顔のスタッフたちがそこら中に横たわり床を赤黒い血で濡らしていた。交戦したようなあともみられ床だけならまだしも壁に飛び散っているものも無数に存在していた。
そうして僕たちは“ここは危ない”という言葉の意味をようやく理解したのだった
ユーリが向かったのはここの所長がいる司令室、僕たちも何度か向かったことのある部屋だった。
ユーリが部屋に入るなり所長であるフィル・マクスウェルに問いかける
“この惨状を起こしたのは貴方か”
“如何にも、残念ながら研究は中止になった。ここにいるスタッフも訳の分からない研究チームに飛ばされる。それなら、いっそのことこの手で送ってあげたほうが良心的だろう?”
“なんで……こんなことを!”
“私を欲しがる組織は星の数ほどある。イリスも私の研究成果の一つだ”
“……武装組織ですか。イリスがそういう目的で作られたのはなんとなく予想はできてました……けど、貴方は!”
“道具を使うのに必要なのは如何にこちらを信用させるかだ。そしてユーリ、キミもね”
マクスウェルの瞳が赤く輝き、その目に無数の数字の羅列が浮かび上がるのが見えた。そして、その瞳がユーリに向けられたことでユーリの瞳にも同様の羅列が現れる。
僕たちは直感でそれが良くないものだと理解した。
『マクスウェルを止めろ!レヴィ、入ってきたところをぶち破れ!』
『りょーかい!僕たちのユーリに手を出すなあ!』
ディアーチェの指示を受けてレヴィがケージの柵を破壊してマクスウェルに飛びかかる。それに続いてシュテルとディアーチェもマクスウェルに飛びかかり爪と牙を立ててその肉に食い込ませる。
『クロヴィス!貴方はユーリを連れて別の場所へ!』
『わかった!』
「死に損ないの猫風情が邪魔をするな!」
マクスウェルが体を大きく動かしてみんなを弾き飛ばす。
だが、負けじと再び噛みつき爪を立てる
「シュテル!レヴィ!ディアーチェ!」
『ユーリ!キミは早く逃げないと!みんなが時間を作ってくれるうちに!』
「クロヴィス!でも、みんなが!」
「逃すものかあ!」
今度はみんなを1匹づつ掴み壁に投げつける。
シュテルもレヴィもディアーチェも衝撃を受けてそのまま気を失ってしまった。
「ああ!みんな!」
「猫に時間を取られてしまったが……さあユーリ、キミも僕の子供にしてあげよう」
また、あの瞳がユーリに向けられた。
僕の後ろでユーリの苦しむ声が聞こえる。
(僕に、みんなを守れるだけの力があれば…)
壁に打ち付けられて力なく倒れ臥すみんなの姿が見えた。
(僕がヒトの姿でいられたなら)
逃げてと僕の名を呼ぶ声が聞こえた。
(僕にユーリを守れるだけの勇気があれば)
“力が欲しいのか”
コエが聞こえた。
厳密には違うと僕は答えを返す。
(力が欲しいんじゃない。守るためのチカラが欲しい)
“何故、ソレを求める”
(助けてくれた人を、暖かい日々をくれたみんなを助けたい)
“その姿では一度の奇跡。代償にお前の思い出と命を少しばかり貰い受けるがソレを望むか?”
(思い出と命を?ソレはどれくらい?)
“死にはしない。寿命を一年から二年燃やすだけだ。思い出に関しては……当たり障りのないものにしておこうか。さあ、どうする”
(答えなんて初めから決まってる。誰だかわからないけど力を貸して欲しい!)
“ならば、我等を継承せよ!”
瞬間、眩いばかりの蒼が視界を覆い尽くした。
それと同時に僕の中からナニカが抜け落ちていく感覚
「なんだこの光は……バカな!コードが無効化されるだと!」
驚くマクスウェルの顔が目に入って僕はザマミロと心の中でほくそ笑んだ。そして、そのまま僕の意識は途切れた。
「クロヴィス!」
眩いばかりの光にクロヴィスが包まれた後、私を蝕んでいたものは体からなくなった。
その瞬間、クロヴィスが気を失ったかのように倒れたところを抱き上げるが、マクスウェルが再びあの瞳で私を見た。
「最後に聞きます。貴方はイリスやここのみんなをどう思ってたんですか……」
問いかけた言葉にマクスウェルは驚いた顔をしたがそんなことかと軽く笑った
「愚問だね。この世界は私にとっての実験場だった。イリスは私の研究成果、そしてここのスタッフは私にとってはただの道具に過ぎなかった。それがどうかしたのかい?」
「マクスウェル……あなたはっ!」
夜天の魔導を使うまでもなく、私が最も嫌う生命力を奪い取る魔法をマクスウェルに向けて放った。
「ぐふっ!ユーリ、私を殺してどうする。忘れていないかな?イリスは私の研究成果だと、つまりイリスは私の支配下にずっとあるんだよ」
「イリスに……なにをしたんですか」
「ふはは……親友同士の殺し合い……実に見物じゃないか……」
そう言って事切れたマクスウェルを魔法から解放すればマクスウェルはそのまま地面に倒れ臥す
マクスウェルの言うことが本当なら私をかばって傷ついたこの子達が危ない。
「夜天の書、お願いできますか」
夜天の魔道書にお願いすれば了承したと言わんばかりにくるくるとその場で周り、みんなを本の中に収納してくれた。
「次に会えるのかいつかはわかりません。ですが、きっとまた」
人の走ってくる音が聞こえる。
きっと走ってきているのはイリスだろう
「所長!ねえ、ゆーり!なんで!」
「聞いてください!イリス!」
私の言葉は彼女には届かないまま、私は彼女の身体まで殺してしまった。