僕たちの宝物   作:今井綾菜

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第七話

『そういえば、ここに来てしばらく経つけど貴女の名前を聞いてなかったよね』

 

「私の名前?私に名前はないよ。強いて言うなら『夜天の魔導書の管制人格』が私の名前だね。別の名で呼ぶならば『闇の書の意思』とも呼ばれているが」

 

少し自虐めに話す彼女にいたたまれなくなって僕は複雑な心境になる。ここは友人としてあだ名でもつけてあげるべきだろうか。

 

「キミの呼びやすいように呼んでくれて構わないよ。なんならキミが名をくれてもいい」

 

『うーん、それはパスで。貴女にはきっと素敵な名前をくれる人が現れるはずだよ』

 

そうか、と少しシュンとした顔になる彼女に僕は少し笑った

 

『でも、いつまでも“貴女”じゃあ友達としても味気ないしね。何より距離感を感じるからあだ名でもつけようか』

 

「あだ名か、いいな。どんな名をくれるんだ?」

 

『単純ですごく大雑把な感じになるけど貴女は戦闘形態の時に黒い羽があらわれるだろう?そこからとって“クロハネ”なんてどうだろう?何より僕と同じクロって付くしね』

 

僕が3日かけて考えたあだ名を彼女に告げる。

彼女は数瞬呆然としていたがやがて破顔して笑った。

 

「クロハネ……ね。うん、いいと思うよ。私は」

 

『単純な名前だと思ったでしょ』

 

「ああ、だが不思議と不快ではない。キミと同じクロと付くからと言うのもあるかもしれないが私はそのあだ名を好ましく思うよ」

 

『そっか、それじゃあ改めてよろしく。クロハネ』

 

「ああ、こちらこそよろしく頼む。クロヴィス」

 

クロハネの細く綺麗な手と僕の右足が小さく握手をした(決してお手とかではない)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の戦闘スタイル?」

 

『うん、管制人格とはいっても必要とあれば戦うでしょ?どうやって戦うのかなって後学の為にも知っておきたいと思って』

 

クロハネはそういうことかと納得して自分の戦闘スタイルを話してくれた。それもあまりにも得意げに

 

「基本的には魔導書に記録された魔法を駆使して戦うがそれ以外だと……殴るな」

 

『殴るんだ』

 

「ああ、殴るな」

 

『…………殴るんだ』

 

僕が少しジト目で見るとクロハネは顔を真っ赤にして口を開いた

 

「……いや、普通に武器も扱えるぞ。片手剣から始まり両手剣、槍、鉄槌、戦斧、弓、なんなら二刀流でだって戦える!だからそんな可愛そうなものを見る目で私を見るな!」

 

手をワタワタさせて全力で否定に入ったクロハネは可愛らしかった。

 

あれだよね。見た目がクールな女の子が唐突にポンコツになると萌えるよね。ギャップ萌えだよね。そして少し脳筋だとか更に(ry

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウィスタリアスの起源を知りたい?」

 

『うん、僕が継承したってことになってるけどよくわからないままじゃダメでしょ?だからクロハネなら知ってるかなと思って』

 

「知らないことではないが少し長くなるぞ?」

 

『構わないよ。幸い、時間はたくさんあるからね』

 

そしてクロハネは語り始めた。

 

その剣の起源はとある厄災を封じた剣だったという。

人々を長い間苦しめ、暴虐の限りを尽くした破壊の権化。

それを封じる為に打たれたのが『碧の賢帝(シャルトス)』と『紅の暴君(キルスレス)』と呼ばれる剣だった。

 

厄災を封じ込める為に多くの犠牲を払って厄災をある神殿へと封印することに成功する。神殿と厄災を繋ぐ楔として二振りの剣は神殿の最下層に安置された。

 

月日は流れ古代ベルカ1度目の戦乱時代。

剣には厄災の意思が宿りやがて魔剣と呼ばれるものに変化したそれはあらゆる国の王が欲する力の象徴ともなった。

 

あらゆる国が魔剣を奪い合い戦争を起こし、人々が死んでゆく中、ある国がその魔剣を手にして搬送している最中に事件は起こる。

 

陸路では族や他国に狙われる可能性があると一般の客船に紛れ込ませて運搬していたのがその国の仇となった。

 

嵐が船を襲い、偶然その船に居合わせた男女2人がその剣を手にした。

 

碧の賢帝(シャルトス)』を手にしたのがアティと呼ばれる女性。

紅の暴君(キルスレス)』を手にしたのがイスラと呼ばれる少年。

 

2人は力を合わせ戦争を終結まで導くがその過程で二つの剣は折れてしまった。

そこでその剣の修復を買って出たのが当時名を馳せていた擬似魔剣専門の鍛治師だった。

自分の作った剣がこれ以上人を殺すのを見たくない。

そんな願いを込めて打ち直し、継承者だった2人の平和な世界を作るという思いを込めて完成したのが『果てしなき蒼(ウィスタリアス)』と『不滅なる炎(フォイアルディア)』という剣だ。

 

『……まった。打ち直した剣には厄災の意思は?』

 

「消えたそうだよ。鍛治師と継承者の2人の思いが強すぎて瞬く間に浄化されたらしい」

 

『でも剣からいなくなってもその神殿には残ってるんだよね?』

 

「ああ、それがこの後の話なんだ」

 

二人は国をまとめ王と王妃となった。

世界は平和に満ち、国は笑顔と幸福が行き交うものになった。

緑が溢れ、川は美しく流れ、滅びかけていた生態系も瞬く間に復活していく。

 

しかし、それを神殿に封印された厄災は許さなかった。

そこで王と王妃は剣を持って討伐へと向かう。

王妃が王妃となる前に教鞭を振るっていた弟子……名はアリーゼといったかな。彼女も鍛治師が生み出した第3の魔剣『翠遠の息吹(ヴェルディグリオン)』を継承して討伐に参加した。

 

結果だけいえば成功した。

その代償として王と弟子は命を落とし、王妃が三つの魔剣を一つにするという奇跡を起こして厄災を完全に消し飛ばすことに成功した。

 

その後王妃は悲しみに暮れ国を後継者に預けて魔剣とともに消えたという。

 

「そして、その3本のうちの魔剣の一つがキミの手元にあるということだ」

 

『……なんだか悲しい物語なんだね』

 

「ああ、私も初代の夜天の主から物語として聞かされたものだからね。その時の私はその剣が存在していることすら疑っていたよ」

 

『三本の魔剣と奇跡の代償』という古代ベルカから現代まで語り継がれるほどの物語だそうだ。

ミッドチルダという星ではこの王妃を崇拝する人も少なくないそうだ。

 

「向こうの世界に行くことがあったらその剣は抜かない方がいい。よくて偶像、悪くて監禁だ。防人の少女……ユーリと過ごしたいのならば使わないほうがいい」

 

『だね。僕もなるべくこれは使わないようにしないと』

 

ただでさえ、抜くだけで思い出と命を消費するんだ。

そんな代物やすやすと抜くことなんてできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「闇の書が覚醒してしまったな」

 

『これで僕が来てから2回目だ。ナハトヴァールは随分とせっかちなんだね。本当に次元を滅ぼしかねない勢いだ』

 

「一度覚醒すればあたりにあるものを全て喰らい尽くして無に帰す。余計な防衛機構を付け加えた十二代前の主に苦言を呈したいところだね」

 

『……何度見ても笑えるものじゃないな。これは』

 

僕たちに見えるのは小さな宇宙船で単身闇の書を持ち出してそのまま母艦に狙撃させるというものだった。

話の内容を聞いたところでは小型艦に乗っていたのは母艦に乗って引き金を引いた人の旦那だったそうだ。

 

『終わらせないとね。こんな悲しい結末は』

 

「ああ、本当に。その通りだ」

 

クロハネは悲しみとやるせなさでいっぱいの顔を必死に隠すように俯いた。

 

僕はそれを見なかったことにすることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、それから十年。

闇の書……いや、夜天の魔導書は運命に出会った。

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