BLIND SCHOLAR   作:コンダクタンスタンス

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 鼻を鳴らす時には、意識して周囲の空気を嗅ぎ取っている時だ。

 

「スンッ…………外、ですか?臭いがあまり変わらないような…………」

「……なんでやねん」

「……ん。秘密の通路、隠すのは当然」

 

 魔法陣に送り出されヒロ達三人を出迎えたのは久方ぶりの太陽―――――ではなく、湿っぽい嗅ぎ慣れた洞窟であった。

 ユエの指摘に、二人も納得するが、やはり心のどこかでは突っ込みを入れたくなるもの。

 何せ、数か月ぶりの外だ。燦々照りつけるとまでは言わないまでも、じんわりと体の芯から温める日光を浴びたかったというもの。

 ぶつくさ文句を言っても仕方がない。三人は前へと歩き出す。

 

 洞窟と言えども、そこまで長いものではない。彼らはすぐにでもその求めた日光を全身に浴びる事になる。

 

「外だな」

「ん、外」

「外ですね」

 

 ポカポカとした陽気と、地下世界では感じられなかった新鮮な空気が彼らを出迎えた。

 

「よっしゃぁああああああ!帰って来たぞ、この野郎ォーーーー!」

「んっーーー!」

 

 ハジメとユエが抱き合って喜びを露にする。

 そんな二人の様子を聞きながら、ヒロもまたホッと一息を吐き出していた。

 

「ふぅ…………久しぶりの外…………しかし―――――」

 

 抱き合う二人を尻目に、彼は両手を静かに合わせた。

 

「恋人同士の触れ合いを邪魔はさせませんよ―――――“縛木・招来”」

 

 三人を取り囲んだのが運の尽き。

 哀れ、魔物たちは足元より現れた大量の樹木によってその体を絡め捕られ、瞬く間にミイラへと変えられてしまう。

 だが、この光景はこの場においては少々異質だ。

 

「やっぱり、ヒロの術は魔法じゃないんだな」

「ん。ここは、魔力が散るライセン渓谷だから、私も魔法は使いにくい」

 

 そう。ユエの言うように、ここはライセン渓谷と呼ばれ、魔力が分散してしまい魔法が使えない事が基本であったのだ。

 だがしかし、今のヒロは難なく術を行使している。規模も、迷宮で鍛錬していた時と同程度だ。

 件のヒロは手を離すと、右手の人差し指を立てる。

 

「恐らく、僕の術は技能の太極が元になっているからでは?確かに、少し術を阻害するような感覚はありましたけど、気になるほどではありませんし」

「むぅ……ズルい」

「いや、ズルいと言われましても」

 

 同じく、術士タイプのユエから嫉妬を受けるヒロだが彼とて好きでこんな体質ではない。化物っぷりを加速させている事を加味すれば、好き好んで成りたい体でもあるまい。

 何せ、迷宮内での数か月、一食一飲どころか一睡もしなかった彼だ。普通ならば、発狂している。

 

 魔物を退け、しかしこの場に留まる訳にはいかないという訳で。

 

「とりあえず、目指すは樹海だな」

「……どうして?砂漠も近い」

「いや、確かに火山の迷宮も近いが、それよりも先に俺たちの装備を整える方が先だろ?」

「確かに、僕らは武装こそありますけど食料やその他旅の装備はありませんでしたね」

「だろ?樹海の近くになら街もあるだろうし、そこで色々と準備しようぜ?」

 

 ハジメの言う樹海とはハルツィナ樹海という迷宮を有した場所であり、ユエの言う砂漠はグリューエン大砂漠の事だ。

 どちらにも大迷宮があるとされており、同時にここライセン渓谷も同じく大迷宮が隠されているらしい。

 鍛錬のみならずある程度の地理は覚えた彼ら。ユエとヒロはともかくとして、ハジメは化物になろうとも寝食が必須。街に行き、迷宮内ではどうしようもない物資を集めるのは必然というもの。

 

 そうと決まれば、ハジメは宝物庫より一台のバイクを持ち出した。

 これは、所謂ところの魔導二輪であり搭乗者の魔力を流す事で走ることが出来る。

 もっとも、前提として魔力操作の技能が必須となるのだが。

 

「んじゃ、行くぜ。ヒロも、頼むぞ?」

「ええ、大丈夫ですよ」

 

 ユエを前に乗せ、覆いかぶさるようにハジメがハンドルを握り、後ろでは背中合わせとなる様にヒロが胡坐をかいて座る。

 その彼の手首にはプラグが取り付けられていた。

 魔力諸々含めたエネルギー総量で最も多いのは、ヒロだ。常に世界から自然エネルギーを流し込まれているため飽和こそしないまでも一年戦闘し続けても有り余る様な状態。

 そんなエネルギーにハジメは目を付けた。彼も魔物を食らったおかげか魔力に限らず色々とバグっており、魔力の自動回復のみならず、神結晶によって魔力自体が切れる事も殆どあり得ない。

 だが、出力や元手の要らない高純度にして高密度のエネルギーがそばにあるなら話は別。

 既に迷宮内での試走も終えており、平均時速百キロをマーク。因みに、その速度でも後ろに乗ったヒロは落ちなかったのだから、彼のバランス感覚や体幹はバグっているのだろう。

 

 そして走り出すバイク。排気ガスも出ない実にクリーンなものだ。

 

「ハッ!やっぱり良いな!このスピードで空気を割いて行く感じは!」

「ん。気持ちいい」

「あまり飛ばし過ぎて、事故らないでくださいよ」

「今の俺達なら、岩壁に叩きつけられても大丈夫だとは思うが、な!」

 

 岩をジャンプ台に、バイクは宙を舞う。三人の体も一瞬の浮遊感が襲うものの脱落することは無い。

 その後も、ジャックナイフやウィリー走行、果ては前方宙返り等々曲芸走行のオンパレード。

 それもこれも、燃料をどれだけ燃やしてもガス欠を起こさない事とそれだけ強力なエンジン、並びに車体のバイクである為。

 

「……ハジメ君、はしゃぐのも良いですけど僕らは道を急いでいるんですけど?」

「正直、すまんかった。つい、な」

「………目、回った」

 

 連れからの苦情を受けて、今度こそ樹海へ向けて発進。

 速度制限どころか、そもそもこの世界に存在するバイクが、これ一台である為に荒れ地を百キロで爆走している現状。時折進路上に居る魔物も、予め察知したヒロの術により等しく土に還っていく。

 というのも、胡坐をかいて座っているのは何もカッコつけているわけではない。

 これは所謂座禅なのだ。そして自然エネルギーの流入は、動いているときよりもジッと石のようにその場に留まっている方が大きい。無論、動いていても流入しているのだが、数字にすれば100と75程度の差。この二十五を大きいとみるか小さいとみるかは人それぞれだが、常に消費するならばより多くのエネルギーを得られる前者の方が良いだろう。

 

「―――――む?ハジメ君」

「どうした」

「斜め前方、何か来ますね。大きな足音と小さな足音が二つあります。片方は恐らく人型、もう片方は……大型の二足型魔物でしょうか?」

「へぇ、物好きも居たもんだな。余程強くなけりゃ、この渓谷で生き残れる奴なんていないだろ。魔法も使えないだろうしな」

「で、どうします?」

「聞いてきたってことは、ヒロに考えがあるんじゃないのか?」

「考え、と言いますか二足歩行で大型の魔物は触れたことがりませんでしたし、まあ、知的好奇心というやつですよ」

 

 背中越しに友人が肩を竦めた事を感じながら、ハジメは思考する。

 これから向かうつもりのハルツィナ樹海は、木々の他にも迷いやすい霧が立ち込めるのだ。案内には、亜人族と呼ばれる、この世界では差別される彼らに案内を頼むほかない。

 だが、奴隷にもされている彼らの警戒心は強い。ダイレクトに頼んでも上手く行く可能性は無い。

 

 彼が思考を回す中でも、バイクは前へと進んでいく。

 やがてその光景は、嫌でも目についた。

 

「…………何だアレ」

「……兎人族?」

 

 二人が首を傾げるのも無理はない。

 目の前に広がるのは、涙目で逃げ回る兎人族の少女と、その少女を追い回している二頭のティラノサウルスの様な魔物であったのだから。

 

「どうするか……アイツが、犯罪者としてこの谷底に落とされたってんなら、使えるか?」

「………ハジメに任せる」

「僕としては、後ろを走る大きな魔物が気になります」

「頼めるか、ヒロ?」

「ええ、問題ありませんよ」

 

 話はまとまった。ハジメはより一層アクセルを吹かしてバイクを加速させる。

 直ぐに、少女への距離が縮まり、

 

「だずげでぐださいー!ひーーーーっ!し、死ぬ!死んじゃいまずぅ~~~!た、助けて下さ―――――」

「―――――“磔金・招来”」

 

 少女の泣き言が聞こえる程度の距離に来たところで、ヒロは両手を合わせて飛び上がった。

 瞬間、金色の針金が地面より現れ、それらは一気に魔物へと絡みつきその動きを固定してしまう。

 

「えぇええええええッ!?はわぁーーーー!?」

 

 信じられない光景に、後ろを見ながら走っていた少女はつんのめって前へと飛び出してしまう。

 あわや顔面より大地へのヘッドスライディングを決め―――――

 

「おっと」

 

 る前に、バイクより飛び降りていたヒロが横抱きの様にキャッチし地面を滑り、止まったところでゆっくりと地面に下ろした。

 

「ッ、あ、あれ?」

「いや、すみませんね。驚かせてしまって」

 

 驚いたように周りを見渡した少女に背を向けて謝りながら、ヒロは右手に一本の金色のメスを出現させる。

 左手で杖を突きながら、右手ではペン回しの様にメスを弄ぶ姿はいろいろとヤバい。

 

「―――――さあ、ちょっと中を見せてもらいましょうか」

 

 訂正、発言もだいぶ決まっていた。

 

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